1.令和8年予備試験論文式憲法。設問⑶は、問題文を見ただけで大魔神案件であることが明らかです。「他方」以下の段落が設問⑶に関わることは一目瞭然なのですが、ここだけ事実が異常に詳しい。問題文全体の4割くらいを占めています。
|
(問題文より引用) 他方、宗教団体が子ども食堂を運営する場合について、要綱上、宗教団体も本件補助金の交付対象から排除されていない。例えば、宗教法人B寺が運営する子ども食堂は、次のようなものである。まず、子ども食堂は、子どもの保護者がB寺の檀家であるか否かにかかわらず、誰でも利用することができる。子ども食堂は、B寺の敷地内にある集会施設を使用しているが、当該集会施設は、本堂のような宗教施設そのものではなく、一般的な集会施設と変わるものではない。ただし、食事をする部屋の壁には、B寺の住職が仏典から引用した仏の教えや人生の導きとなるような名言や標語が掲示されている。提供される食事は、特に宗教の教義に沿ったものではなく、食事の際には、手を合わせて、「いただきます。」、「ごちそうさまでした。」という挨拶をするよう指導がなされているが、それ以上に、食事の前後にお祈り等をすることもない。子どもやその保護者に対してB寺が主催するお祭りその他の宗教行事の案内がなされることがあり、これら行事への参加は子ども食堂を利用するための条件ではないが、子ども食堂を利用する子どもやその保護者の約半数が参加している。A市内には、このようなB寺と同様のやり方で子ども食堂を運営するキリスト教の教会などの宗教法人が複数あり、A市としては、それらのいずれも本件補助金の交付対象とする予定である。 (引用終わり) |
これを答案に書き写すだけで、時間・紙幅が足りなくなってもおかしくない。だったら、政教分離の一般論なんて長々書いてる場合じゃないぞ。規範だけ端的に示そう。そう判断できたかで、まずは差が付くでしょう。参考答案は、現在の判例法理の傾向を踏まえた規範を用いています。これについては、以前の記事で説明しました(「第2次孔子廟事件判決(2)(最判令7・3・17)」、「情報提供行為と政教分離(最判令7・1・17)」)。
|
(参考答案より引用。太字強調は筆者。) 3.89条前段に反するかは、国家と宗教とのかかわり合いが社会的・文化的諸条件に照らし相当な限度を超えるかで判断する。対象の性格、行為の経緯・態様、一般人の評価などを考慮し、社会通念に照らして総合的に判断する(空知太事件、第1次・第2次孔子廟事件)。 (引用終わり) |
かつては政教分離の「趣旨」だったはずのものが、現在は判断基準そのものに昇格しています。そのうえで、性格、経緯・態様、一般人の評価が考慮要素で、「社会通念に照らして総合的に」というあんまり意味のない枕詞を付す。判例の事件名は、きちんと明示する。これが、現在の汎用的で端的な政教分離の規範の姿なのだろう。当サイトは、そう思っています。「行為(施設)の性質、経緯等には様々なものがあり得るから」という各判例共通の定型化された理由付けもあるのですが、本問では、その文字数は事実摘示・評価に配分すべきだろうと思います。
2.89条前段の政教分離に関しては、「宗教上の組織若しくは団体」について、規範を明示し、事実を摘示してきちんと当てはめるのがセオリーなのですが、本問は忙しすぎるのと、ここの当てはめ要素が乏しいことから、参考答案程度の簡略な記載にとどめるべきだろうと思います。
|
(参考答案より引用。太字強調は筆者。) 2.「宗教上の~団体」(89条前段)とは、宗教的活動を本来の目的とする団体をいい(箕面忠魂碑事件)、B寺はこれに当たる。 (引用終わり) |
3.後は、合憲方向と違憲方向に分けて、問題文を書き写しまくる。当てはめがスッカスカな人は、問題文を見返すのではなくて、何となく思い付いたことを1つ2つ書いて満足してしまいます。それでは受からない。問題文を上から見ていって、合憲・違憲の方向で位置付けられるものは全部書き写す。具体的にやってみましょう。問題文を最初から見直すと、補助金創設の経緯が書いてあります。
|
(問題文より引用) 近時、子どもの貧困が社会問題化する中、子どもが1人でも行ける無料又は低額の食堂である「子ども食堂」を運営するNPO法人やボランティア団体が増えている。一方で、物価の高騰が続いている中、子ども食堂の運営費や食材費の不足が問題となっている。そこで、A市では、子ども食堂支援事業補助金交付要綱(以下「要綱」という。)を作成して、貧困対策や子育て支援政策の一環として、子ども食堂を運営する団体に対し、毎年度、補助金(以下「本件補助金」という。)を交付することにした。 (引用終わり) |
これは、動機ないし目的が世俗的、という評価に結び付くから、合憲方向でしょう。だから、書き写す。他にないか、という感じで上から見ていくと、「他方」の段落までは、設問⑴⑵に関わる事実なので、特になさそう。それで、「他方」以下を見る。設問⑶は、対象が「B寺」に特定されているので、「B寺」固有の要素として拾っていくことになります。「宗教団体」一般の話にはしない。
|
(問題文より引用。太字強調は筆者。)) 他方、宗教団体が子ども食堂を運営する場合について、要綱上、宗教団体も本件補助金の交付対象から排除されていない。例えば、宗教法人B寺が運営する子ども食堂は、次のようなものである。まず、子ども食堂は、子どもの保護者がB寺の檀家であるか否かにかかわらず、誰でも利用することができる。子ども食堂は、B寺の敷地内にある集会施設を使用しているが、当該集会施設は、本堂のような宗教施設そのものではなく、一般的な集会施設と変わるものではない。ただし、食事をする部屋の壁には、B寺の住職が仏典から引用した仏の教えや人生の導きとなるような名言や標語が掲示されている。提供される食事は、特に宗教の教義に沿ったものではなく、食事の際には、手を合わせて、「いただきます。」、「ごちそうさまでした。」という挨拶をするよう指導がなされているが、それ以上に、食事の前後にお祈り等をすることもない。子どもやその保護者に対してB寺が主催するお祭りその他の宗教行事の案内がなされることがあり、これら行事への参加は子ども食堂を利用するための条件ではないが、子ども食堂を利用する子どもやその保護者の約半数が参加している。A市内には、このようなB寺と同様のやり方で子ども食堂を運営するキリスト教の教会などの宗教法人が複数あり、A市としては、それらのいずれも本件補助金の交付対象とする予定である。 (中略)
〔設問〕
⑴ (略) (引用終わり) |
1つ1つ、見ていきましょう。「子ども食堂は、子どもの保護者がB寺の檀家であるか否かにかかわらず、誰でも利用することができる。」は宗教との結び付きが小さいことを示すから合憲方向、「B寺の敷地内にある集会施設を使用している」は宗教性を意味するから違憲方向、「当該集会施設は、本堂のような宗教施設そのものではなく、一般的な集会施設と変わるものではない。」は宗教性を薄めるから合憲方向、「食事をする部屋の壁には、B寺の住職が仏典から引用した仏の教えや人生の導きとなるような名言や標語が掲示されている。」は宗教性を意味するから違憲方向、「提供される食事は、特に宗教の教義に沿ったものではなく、食事の際には、手を合わせて、「いただきます。」、「ごちそうさまでした。」という挨拶をするよう指導がなされているが、それ以上に、食事の前後にお祈り等をすることもない。」は世俗性を意味するから合憲方向、「子どもやその保護者に対してB寺が主催するお祭りその他の宗教行事の案内がなされることがあり……子ども食堂を利用する子どもやその保護者の約半数が参加している。」は宗教性を示すから違憲方向、「これら行事への参加は子ども食堂を利用するための条件ではない」は宗教性を薄めるから合憲方向、「A市内には、このようなB寺と同様のやり方で子ども食堂を運営するキリスト教の教会などの宗教法人が複数あり、A市としては、それらのいずれも本件補助金の交付対象とする予定である。」はB寺だけ特に援助するわけでないことを意味するから合憲方向。特に深い理解がなくても、「合憲方向」か「違憲方向」かの二択なら余裕でしょう。頭が真っ白になりがちな現場でも、無理なくやれる。こうして、まずは書き写しただけの答案を完成させましょう。以下のようになるはずです。単純なコピペでなく、意味が通じる限度で短縮化しているところも参考にするとよいでしょう。
|
【論述例】
確かに、子ども食堂は、B寺の敷地内にある集会施設を使用している。食事をする部屋の壁には、B寺の住職が仏典から引用した仏の教えや人生の導きとなるような名言や標語が掲示されている。子どもやその保護者に対してB寺が主催するお祭りその他の宗教行事の案内がなされることがあり、子ども食堂を利用する子どもやその保護者の約半数が参加している。 (引用終わり) |
本問は、直感的に多くの人が合憲にしたでしょうから、「確かに」で違憲方向を書き写し、「しかし」で合憲方向を書き写しています。違憲の結論にしたければ、これをひっくり返せばいい。こんな感じです。
|
【論述例】
確かに、本件補助金は物価高騰の中、運営費・食材費不足に対する貧困対策・子育て支援政策の一環である。子ども食堂は保護者がB寺檀家でなくても誰でも利用できる。子ども食堂に使用する集会施設は、本堂のような宗教施設そのものではなく、一般的集会施設と変わらない。提供食事は特に宗教教義に沿ったものでなく、食事の際、手を合わせて、「いただきます。」、「ごちそうさまでした。」という挨拶指導がされているが、それ以上に、食事の前後にお祈り等をすることもない。B寺主催の宗教行事への参加は子ども食堂利用条件でない。B寺と同様のやり方で子ども食堂を運営するキリスト教の教会などの宗教法人が複数あり、それらのいずれも本件補助金交付対象予定である。 (引用終わり) |
現場でどっちの結論か迷ったときは、脳内で両者を比べてみて、違和感のなさそうな方を選ぶとよいでしょう。本問は、違憲だと違和感を感じる人が多いでしょう。なので、合憲にする。
上記のような書写しを実現するには、現場で大魔神の如くものすごい勢いでタイピングする必要があります。これができたか。ここで、合否が分かれるでしょう。「政教分離の本質と全然関係ないじゃん。馬鹿じゃねーの?」などとあざ笑って、頑としてやらない人がいます。そのような人は、とても「受かりにくい人」です。実際には、これをやらないと、どんなに政教分離の一般論を正確かつ丁寧に書いていても、低い評価になるでしょう。毎年のように、「問題文を書き写しても意味ない。大事なのは本質だ。」などと言って、当てはめスッカスカの答案を書いて不合格になる。どんなに勉強量を増やして、知識・理解を深めても、「絶対に問題文なんて書き写さないぞ。」という信念を改めない限り、受かるようにはなりません。
4.さて、問題文を書き写してもなお、時間・紙幅に余裕があるなら、評価を付しましょう。CBTになって挿入が容易になったので、これは後からでも十分可能です。参考答案の太字強調部分が、その評価に当たる部分です。
|
(参考答案より引用。太字強調は筆者。)
確かに、子ども食堂は、B寺の敷地内にある集会施設を使用している。食事をする部屋の壁には、B寺の住職が仏典から引用した仏の教えや人生の導きとなるような名言や標語が掲示されている。宗教的性格がある。子どもやその保護者に対してB寺が主催するお祭りその他の宗教行事の案内がなされることがあり、子ども食堂を利用する子どもやその保護者の約半数が参加している。一般人の目から子ども食堂と宗教行事の結び付きを感じさせ得る。 (引用終わり) |
特に難しいことは書いていなくて、書き写した問題文にその場で思い付くような無難なフレーズを「添えているだけ」であることが分かるしょう。評価は、この程度でよい。時折、単に「添える」だけでは意味を伝えるのが難しい場合もありますが、それはとても例外的な場合です。まずは、「添える」ことだけを考えましょう。これは、すべての事実についてしなければならない、というものではありません。そんなことをしていたら、あっという間に時間切れになる。瞬時に、気の利いた評価文言を思い付いたところだけでいい。後は、日々の訓練で、無理なく「添える」ことのできる量を増やしていく。問題文を書き写すことは余裕で、どれだけ評価を増やせるか、というレベルになれば、優に合格レベルを超えていることが多いでしょう。そして、このようなスキルは、論証集や基本書等をグルグルしていても身に付きません。当サイトが演習を推奨するのは、そのためです。