本当は百里基地型間接適用なんだけど……
(令和8年予備試験論文式憲法)

1.令和8年予備試験論文式憲法。行政法の知識がそれなりにある人なら、「あれっ、この補助金、要綱だけが根拠なの?だったら政治的行為を禁止したり返還命令したりできなくね?」と気付いてしまったかもしれません。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

 近時、子どもの貧困が社会問題化する中、子どもが1人でも行ける無料又は低額の食堂である「子ども食堂」を運営するNPO法人やボランティア団体が増えている。一方で、物価の高騰が続いている中、子ども食堂の運営費や食材費の不足が問題となっている。そこで、A市では、子ども食堂支援事業補助金交付要綱(以下「要綱」という。)を作成して、貧困対策や子育て支援政策の一環として、子ども食堂を運営する団体に対し、毎年度、補助金(以下「本件補助金」という。)を交付することにした。

 (中略)

 ところで、子ども食堂を運営する団体の中には、選挙期間中であるか否かを問わず、その団体名を示して、子育て支援に積極的な公約を掲げている公職の候補者や政党を応援してきた団体がある。A市としては、このような団体に本件補助金を交付することは、あたかもA市が当該候補者や政党を支援しているかのような誤解を与えかねず、特に子ども食堂を利用する子どもの保護者に対し、その投票に関する意思決定に影響を与えるおそれがあると考えた。そこで、要綱上、本件補助金の交付を受ける団体には、特定の公職の候補者若しくは公職にある者又は政党を推薦するなどの行為を禁止し(要綱第8条第1号)、違反があった場合には本件補助金の交付決定の取消しと返還命令の対象となる(要綱第9条第3号)ものとした。

【資料】A市子ども食堂支援事業補助金交付要綱(抄)

 (中略)

(禁止事項)
第8条 補助団体は、次に掲げる行為をしてはならない。
 一 特定の公職の候補者若しくは公職にある者又は政党を推薦し、支持し、又はこれらに反対すること。 (第2号以下略)

(交付決定の取消し等)
第9条 市長は、補助団体が次の各号のいずれかに該当するときは、補助金の交付決定の全部又は一部を取り消し、既に交付した補助金の全部又は一部の返還を命ずることができる。
 一 虚偽その他不正な手段により補助金の交付決定を受けたとき
 二 補助金を補助対象経費以外の用途に使用したとき
 三 前条各号に掲げる行為があったとき

(引用終わり)

 国民に義務を課すには、法律(条例を含む。)の根拠を要する。行政法では基本中の基本です。金銭給付は授益処分なので法律・条例上の根拠がなくても構いませんが、義務を負担させることはできません。本問の要綱は、委任命令でも執行命令でもなく、何ら法律・条例上の根拠があるものとはされていない。なので、要綱で不作為義務を課すことはできません。要綱で金銭の返還義務を負わせる命令を根拠付けることもできません。現場で気付いてしまった人は、「なんなんこれ?」と混乱したことでしょう。

2.結論からいえば、これは私法上の契約です(※1)。補助線として、以下の事例を見てみましょう。
 ※1 興津征雄『行政法I - 行政法総論』(新世社 2023年)109頁。

【事例】

 資産家のAは、子ども食堂を運営するBに、運営資金を補助するため、1000万円を交付する契約を締結し、1000万円を支払った。同契約において、Bは、自己の名で政治的行為を行わないことを約束していた。しかし、Bは、自己の名で政治的行為を行った。Aは、支払った1000万円の返還を求めたいと思っている。

 予備試験受験レベルの受験生なら、「負担付贈与だから、負担部分の不履行を理由に解除して原状回復請求で1000万円の返還を請求すればいいんじゃね?」と思うでしょう。正解です。上記事例の「資産家のA」を「A市」に置き換えれば、そのまま今回の補助金の話になります。つまり、要綱8条1号の禁止事項は、負担付贈与における負担そのものです。ちなみに、仮に本件補助金交付が行政処分だった場合には、これは行政行為の付款としての「負担」になります(※2)。このように、民法における贈与の付款としての負担と、行政行為の付款としての負担は、対応関係にある。行政法は、民法・民訴の概念との対応を知ると、理解しやすくなるのでした。
 ※2 塩野宏『行政法Ⅰ〔第6版〕』(有斐閣 2015年)201頁。

(『司法試験定義趣旨論証集行政法【第2版】』より引用。太字強調は筆者。)

【本書の概要】

 (中略)

3.行政実体法の分野は、民事実体法の法概念を借用する部分が多く、行政法固有の概念として考えると理解が難しいと感じられるものでも、民法の理解を補助線とすることにより、理解が容易になることがあります。また、行政訴訟に適用される法理は、基本的には民事訴訟の法理です。行訴法固有の概念として考えると理解が難しいと感じられるものでも、実は民訴法の一般法理を行訴法に引き直しただけだ、ということに気が付くと、簡単に理解できることがあります。行政法学の概説書等では、飽くまで行政法学が対象であることや、著者が民法や民訴法の専門ではないこと等から、これらの点について言及が乏しく、このことが、学生の理解を難しくしていると感じます。そこで、本書では、これらの点についても、※注において積極的に説明しました。
 また、行政法は、他の科目と比較して、受験生が具体例をイメージしにくい事柄が多い法分野です。そこで、本書では、※注において、受験生が具体的なイメージを持つことができるような例を積極的に示しました。

 (中略)

・負担の定義
重要度:B
 負担とは、処分に付随する特別な義務を課す付款をいう。
 ※ 民法の学習ではあまり付款として意識されないが、負担付贈与における負担に対応するものである。
 ※ 「特別な」とは、その処分によって通常課される義務とは異なるものという意味である。
 ※ 負担によって課された義務に違反しても、当然に処分の効力が失われるわけではない。行政庁が義務違反を理由に撤回することができるときは、撤回により処分の効力が失われる。この点で、条件・期限とは異なる。このことは、民法の負担付贈与において、負担によって課された債務を履行しなかったとしても、債務不履行となるだけで、当然に無効となるわけではない(解除できるときは、解除により効力が失われる。)ことと同じである。

(引用終わり)

 それはともかく、要綱8条1号に違反した場合、要綱9条柱書は、「補助金の交付決定の全部又は一部を取り消し、既に交付した補助金の全部又は一部の返還を命ずることができる。」と、いかにも行政処分のような書き振りになっています。しかしこれは、解除して原状回復請求ができることを確認しているに過ぎません。それ以上に公法上の特別の返還義務を発生させる命令を根拠付けるには、法律・条例の根拠が必要だからです。仮に、違反した補助団体が原状回復請求に応じない場合には、A市は民事訴訟を提起して、民事の強制執行手続によって返還を実現することになります。この場合、A市は金銭債権という財産権の主体として権利行使を行っているのであって、専ら行政権の主体として国民に行政上の義務の履行を求めるわけではありませんから、宝塚市パチンコ店事件判決の射程は及ばないのでした。

(『司法試験定義趣旨論証集行政法【第2版】』より引用。太字強調は筆者。)

・行政上の義務履行確保のために行政主体がする訴えの法律上の争訟性(裁判所法3条1項)
重要度:B
 専ら行政権の主体として国民に行政上の義務の履行を求める訴訟は、法規適用の適正・一般公益の保護を目的とし、自己の権利利益の保護救済を目的としないから、「法律上の争訟」(裁判所法3条1項)に当たらない(宝塚市パチンコ店事件判例参照)。

(参照条文)裁判所法3条(裁判所の権限)
 裁判所は、日本国憲法に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有する。
2、3 (略

 ※ 最判平14・7・9。
 ※ 上記判例は、「行政事件を含む民事事件において裁判所がその固有の権限に基づいて審判することのできる対象は、裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」、すなわち当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、それが法令の適用により終局的に解決することができるものに限られる(最高裁昭和51年(オ)第749号同56年4月7日第三小法廷判決・民集35巻3号443頁参照)。国又は地方公共団体が提起した訴訟であって、財産権の主体として自己の財産上の権利利益の保護救済を求めるような場合には、法律上の争訟に当たるというべきであるが、国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は、法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的とするものであって、自己の権利利益の保護救済を目的とするものということはできないから、法律上の争訟として当然に裁判所の審判の対象となるものではなく、法律に特別の規定がある場合に限り、提起することが許されるものと解される。そして、行政代執行法は、行政上の義務の履行確保に関しては、別に法律で定めるものを除いては、同法の定めるところによるものと規定して(1条)、同法が行政上の義務の履行に関する一般法であることを明らかにした上で、その具体的な方法としては、同法2条の規定による代執行のみを認めている。また、行政事件訴訟法その他の法律にも、一般に国又は地方公共団体が国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟を提起することを認める特別の規定は存在しない。したがって、国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は、裁判所法3条1項にいう法律上の争訟に当たらず、これを認める特別の規定もないから、不適法というべきである。」、「本件訴えは、地方公共団体である上告人が本件条例8条に基づく行政上の義務の履行を求めて提起したものであり……(略)……当該義務が上告人の財産的権利に由来するものであるという事情も認められないから、法律上の争訟に当たらず、不適法というほかはない。」と判示している。
 ※ 上記判例の事案は、条例で建築中止命令を定めていたが、その違反について罰則の定めがなかったため、中止命令に応じない業者に対して民事訴訟を提起したものである。上記判例の趣旨は、端的にいえば、司法の本質である主観訴訟の要件を欠くという点にあり、そのことは訴訟物を想起するとわかりやすい。例えば、建物の建築によって隣地の建物が被害を受けそうな場合にその差止めを求める場合、訴訟物は、「建物所有権に基づく妨害予防請求としての建築差止請求」となる。ここでいう建物所有権のように、自己に帰属する主観的権利の侵害(のおそれ)が、「当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争」を基礎付ける。これに対し、上記判例の事案において、訴訟物として、「〇〇権に基づく建築差止請求」を定立できるかという観点で、地方公共団体に「〇〇権」のようなものがあるかを考えると、そのようなものはない。地方公共団体としては、当該業者が条例に違反して建築をしているので、それを是正したいというわけであるが、業者の建築行為によって、地方公共団体に帰属する何らかの主観的な権利利益が侵害されているわけではない。その意味で、業者と地方公共団体との間には、地方公共団体の方から救済を求めるべき主観的な権利利益に関する紛争は何ら生じていない。上記判例が、「法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的とするものであって、自己の権利利益の保護救済を目的とするものということはできない」とするのは、その趣旨である。このように、国又は公共団体に帰属する主観的な権利利益が侵害されたとか、そのおそれがあるというような「当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争」がないので、法律上の争訟性が否定される。これに対し、中止命令を受けた業者の側から、中止命令の取消訴訟を提起する場合、これは当然に法律上の争訟性が認められる。なぜなら、中止命令によって業者は法的に不作為義務を負うから、主観的権利(建築をなし得る地位や建築により得られる事業上の利益等に係る財産権)の侵害があることは明らかだからである。
 ※ 上記判示において、「上告人の財産的権利に由来するものであるという事情も認められない」旨を認定しているのは、行政上の義務の履行を求める訴訟であっても、主観訴訟の実質を有するため、「専ら行政権の主体として」とはいえない場合があるためである。例えば、行政財産の使用許可の取消し(撤回)をした上で、当該財産の返還請求をする場合、国又は公共団体が自らに帰属する所有権に基づいて返還請求をするときは、主観的権利の救済を求めるものであることが明らかである。では、行政財産の使用許可の取消しに基づく公法上の返還請求をする場合は、どうか。これは私人間でいえば、賃貸借終了に基づく返還請求に相当するものである。使用許可を取り消された相手方の返還義務は、それ自体としては許可取消し(撤回)を発生原因とする行政上の義務ではあるが、使用許可を取り消して相手方から当該行政財産を返還してもらう権利は、背後にある当該財産の所有権に由来するものであるから、国又は公共団体の主観的権利という余地もある。このような場合、国又は公共団体は「専ら行政権の主体として」ではなく、自己の主観的権利の救済を求める権利主体(紛争当事者)として請求をするものであるから、法律上の争訟性は否定されない。「行政主体の財産的権利に由来する」とは、上記のような場合を念頭に置いた表現である。
 ※ なお、本判例の事案において、地方公共団体はどうすべきであったか。「条例で罰金刑の定めを置くことが考えられる。」という趣旨の説明をするにとどまる概説書が多いが、罰金を支払う覚悟の業者に対して実効性がない。このような場合には、原状回復命令の規定を置くべきである。建築の中止は不作為義務であるから行政代執行の対象とならないが、原状回復義務は代替的作為義務であるから、建築された建物を除却してその費用を業者に請求するという行政代執行を行うことができる。

(引用終わり)

 現場で本問を解く段階では、こんなの1秒も考える必要はありませんが、復習の際には、こうした問題の前提となる法律関係も考えてみる。「憲法の問題を行政法の視点から考えてみる。」というのは、有益なことです。実際に自分の頭を使って解いた問題をベースに考えると、理解が頭に定着しやすいということもある。基本書等を漫然と読んでいても、10分で忘れてしまうことがあるのと対照的です。

3.さて、本件補助金の性質が私法上の負担付贈与契約である、ということが分かると、「あれっ、憲法直接適用できないじゃん。」というのが、判例法理を前提にした場合の論理の帰結です。

(最判平元・6・20(百里基地訴訟)より引用。太字強調及び※注は筆者)

 国が行政の主体としてでなく私人と対等の立場に立つて、私人との間で個々的に締結する私法上の契約は、当該契約がその成立の経緯及び内容において実質的にみて公権力の発動たる行為となんら変わりがないといえるような特段の事情のない限り、憲法9条の直接適用を受けず、私人間の利害関係の公平な調整を目的とする私法の適用を受けるにすぎないものと解するのが相当である。以上のように解すべきことは、最高裁昭和43年(オ)第932号同48年12月12日大法廷判決・民集27巻11号1536頁(※注:三菱樹脂事件を指す。)の趣旨に徴して明らかである。

(引用終わり)

(『司法試験定義趣旨論証集(憲法)』より引用。太字強調は筆者。)

国又は公共団体の私法上の行為に憲法が直接適用されるか
重要度:B
 実質的にみて公権力の発動と何ら変わりがないといえる特段の事情のない限り、私法の適用を受けるにすぎず、憲法は直接適用されない(百里基地訴訟判例参照)。
 ※ 最判平元・6・20。
 ※ ただし、政教分離原則については、この限りでない(「政教分離原則は国又は公共団体の私法上又は事実上の行為にも直接適用されるか」の項目を参照)。

国又は公共団体の私法上の行為に憲法が直接適用されない理由
重要度:C
 憲法は、公権力が優越的地位に基づいて一方的に行使される点に着目して規律するものであり、私的自治の原則が妥当する私法上の行為は、たとえ国・公共団体が一方当事者となるとしても、直接には規律の対象としていないからである。

(引用終わり)

 本件補助金の交付をもって、「実質的にみて公権力の発動と何ら変わりがない」とはいえないでしょうから、設問⑵で憲法は直接適用されない。せいぜい、政治的行為の禁止という負担部分が公序良俗違反(民法90条)になるか、という問題でしかありません(民法の解釈論としては、負担部分だけ無効となるか、契約全体が無効となるか、という論点もありますね。)。理論的には、これが「正解」のはずです。でも、こんな筋で書いた人なんて1人もいるはずない。なので、実戦的には、前回の記事(「制約の肯否がメイン(令和8年予備試験論文式憲法)」)で説明したとおり、違憲な条件の法理や事実上の支障を制約とみることができるか、という観点から、解答すべきだったのだろうと思います。

戻る