1.令和8年予備試験論文式憲法。一般に、法人(団体)の人権が出てきても、人権享有主体性に関する配点はとても小さいので、書かないというのがセオリーです。でも、今年の設問⑵に関しては、そこそこメインで問われているので、法人その他の団体の人権享有主体性を書く。それを見抜くことができたかで、ちょっと差が付くでしょう。
|
(問題文より引用。太字強調は筆者。) 本件補助金の交付対象となるのは、A市内で子ども食堂を運営している法人その他の団体である。……(略)……。 (中略)
〔設問〕
⑴ (略) (引用終わり) |
問題文にわざわざ「法人その他の団体」と書いてある。これは、法人だけでなく、法人以外の団体も含みますよ、という趣旨です。ここは、普通はそんなに丁寧に示す必要がない。特に人権享有主体性を問う趣旨でないなら、単に「団体」とすればよいわけですね。法人の人権享有主体性だけでなく、法人格を有しない団体についても人権享有主体性が認められるか。これを問いたいのだな、と感じさせます。それから、「その団体名を示して」の部分も、要綱で禁止される政治的行為の主体が団体であることの意味を理解するヒントになっています。すなわち、団体の名で政治的行為を行った場合だけが対象で、構成員が自己の名で政治的行為を行うことまでは禁止の対象になっていないわけですね。この点で、団体の人権なのか、その構成員の人権なのかが意味を持つ。ここに、団体固有の人権享有主体性を問題にする実益があるのです。
しかも、問題になるのは、政治的行為の自由です。ここはバリバリ判例がある。
|
(問題文より引用。太字強調は筆者。)
〔設問〕 (引用終わり) (最大判昭45・6・24(八幡製鉄事件)より引用。太字強調は筆者。) 憲法第3章に定める国民の権利および義務の各条項は、性質上可能なかぎり、内国の法人にも適用されるものと解すべきであるから、会社は、自然人たる国民と同様、国や政党の特定の政策を支持、推進しまたは反対するなどの政治的行為をなす自由を有するのである。 (引用終わり) (『司法試験定義趣旨論証集(憲法)』より引用。太字強調は筆者。) 法人は政治的行為の自由を享有できるか (引用終わり) |
法人だけでなく権利能力のない社団、財団についても、判例は、人権享有主体であることを前提とする判示(※)を行っています(サンケイ新聞事件)。
※ 人権享有主体性の文脈で引用するものとして、曽我部真裕ほか『憲法論点教室[第2版]』(日本評論社 2020年)86頁注1[上田健介]。
|
(最大判昭62・4・24(サンケイ新聞事件)より引用。太字強調は筆者。) 言論、出版等の表現行為により名誉が侵害された場合には、人格権としての個人の名誉の保護(憲法13条)と表現の自由の保障(同21条)とが衝突し、その調整を要することとなるのであり、この点については被害者が個人である場合と法人ないし権利能力のない社団、財団である場合とによつて特に差異を設けるべきものではない (引用終わり) (『司法試験定義趣旨論証集(憲法)』より引用。太字強調は筆者。) 法人の人権に関する八幡製鉄事件判例の趣旨は団体一般に妥当するか (中略) 法人の人権に関する八幡製鉄事件判例の趣旨が団体一般に妥当する理由 (引用終わり) |
2.こうしたことを考えれば、さすがにこれは人権享有主体性も書くだろ、と判断できる。設問⑵は違憲審査の当てはめに使えそうな事実が少ないことも、人権享有主体性に紙幅を割いてよいという判断を後押しします。設問⑶で使いそうな部分と比較すると、当てはめ要素の少なさがよく分かるでしょう。
|
(問題文より引用。太字強調は筆者。)
ところで、子ども食堂を運営する団体の中には、選挙期間中であるか否かを問わず、その団体名を示して、子育て支援に積極的な公約を掲げている公職の候補者や政党を応援してきた団体がある。A市としては、このような団体に本件補助金を交付することは、あたかもA市が当該候補者や政党を支援しているかのような誤解を与えかねず、特に子ども食堂を利用する子どもの保護者に対し、その投票に関する意思決定に影響を与えるおそれがあると考えた。そこで、要綱上、本件補助金の交付を受ける団体には、特定の公職の候補者若しくは公職にある者又は政党を推薦するなどの行為を禁止し(要綱第8条第1号)、違反があった場合には本件補助金の交付決定の取消しと返還命令の対象となる(要綱第9条第3号)ものとした。
(引用終わり) |
設問⑵は、規制の必要性を示す部分くらいしか当てはめ要素がない。「他方」以下の段落が当てはめ要素てんこ盛りなのと比較すれば、その差は歴然です。
3.こうして、人権享有主体性は、法人と権利能力のない社団とを分けて、後者の補助団体については当てはめをして書くべきだ、と判断できます。具体的には、参考答案のような感じです。
|
(参考答案より引用。太字強調は筆者。) 3.法人も、性質上可能な限り人権を享有し、自然人である国民と同様に政治的行為を行いうるから、性質上その自由を享有する(八幡製鉄事件)。このことは、独立の主体として人権を行使するに足りる社会的実体を有する団体、すなわち、権利能力なき社団・財団にも当てはまる(サンケイ新聞事件)。 (引用終わり) (問題文より引用。太字強調は筆者。) 【資料】A市子ども食堂支援事業補助金交付要綱(抄) (補助金の交付の申請) (引用終わり) |
要綱4条は、補助団体が事業計画書・収支予算書を提出し得る団体であることを想定しているので、補助団体は独自に事業・収支を決定できる団体だ、だから、独立した社会的実体があり、人権享有主体性の認められる権利能力のない社団といえるだろう。そういうことですね。ここは、「子ども食堂を運営し得る以上」のような感じで簡単に当てはめてもよさそうです。
4.本問は、どちらかというと例外で、普段は法人(団体)の人権享有主体性なんて、当然の前提として書かないものだ、と思っておくべきです。本問は特別な要素があるから、敢えて書く。この感覚が大事です。