人権享有主体性が問われていると見抜く
(令和8年予備試験論文式憲法)

1.令和8年予備試験論文式憲法。一般に、法人(団体)の人権が出てきても、人権享有主体性に関する配点はとても小さいので、書かないというのがセオリーです。でも、今年の設問⑵に関しては、そこそこメインで問われているので、法人その他の団体の人権享有主体性を書く。それを見抜くことができたかで、ちょっと差が付くでしょう。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

 本件補助金の交付対象となるのは、A市内で子ども食堂を運営している法人その他の団体である。……(略)……。
 ところで、子ども食堂を運営する団体の中には、選挙期間中であるか否かを問わず、その団体名を示して、子育て支援に積極的な公約を掲げている公職の候補者や政党を応援してきた団体がある。A市としては、このような団体に本件補助金を交付することは、あたかもA市が当該候補者や政党を支援しているかのような誤解を与えかねず、特に子ども食堂を利用する子どもの保護者に対し、その投票に関する意思決定に影響を与えるおそれがあると考えた。そこで、要綱上、本件補助金の交付を受ける団体には、特定の公職の候補者若しくは公職にある者又は政党を推薦するなどの行為を禁止し(要綱第8条第1号)、違反があった場合には本件補助金の交付決定の取消しと返還命令の対象となる(要綱第9条第3号)ものとした。

 (中略)

〔設問〕
 あなたが意見を求められた法律家であるとして、以下の⑴から⑶までについて、あなた自身の見解を述べなさい。その際、必要に応じて参考とすべき判例に言及しつつ論じること。

⑴ (略)
⑵ 本件補助金の交付を受ける団体に対し、要綱第8条第1号に定める行為を禁止することの合憲性

 (引用終わり)

 問題文にわざわざ「法人その他の団体」と書いてある。これは、法人だけでなく、法人以外の団体も含みますよ、という趣旨です。ここは、普通はそんなに丁寧に示す必要がない。特に人権享有主体性を問う趣旨でないなら、単に「団体」とすればよいわけですね。法人の人権享有主体性だけでなく、法人格を有しない団体についても人権享有主体性が認められるか。これを問いたいのだな、と感じさせます。それから、「その団体名を示して」の部分も、要綱で禁止される政治的行為の主体が団体であることの意味を理解するヒントになっています。すなわち、団体の名で政治的行為を行った場合だけが対象で、構成員が自己の名で政治的行為を行うことまでは禁止の対象になっていないわけですね。この点で、団体の人権なのか、その構成員の人権なのかが意味を持つ。ここに、団体固有の人権享有主体性を問題にする実益があるのです。
 しかも、問題になるのは、政治的行為の自由です。ここはバリバリ判例がある。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

〔設問〕
 あなたが意見を求められた法律家であるとして、以下の⑴から⑶までについて、あなた自身の見解を述べなさい。その際、必要に応じて参考とすべき判例に言及しつつ論じること。

 (引用終わり)

(最大判昭45・6・24(八幡製鉄事件)より引用。太字強調は筆者。)

 憲法第3章に定める国民の権利および義務の各条項は、性質上可能なかぎり、内国の法人にも適用されるものと解すべきであるから、会社は、自然人たる国民と同様、国や政党の特定の政策を支持、推進しまたは反対するなどの政治的行為をなす自由を有するのである。

(引用終わり)

(『司法試験定義趣旨論証集(憲法)』より引用。太字強調は筆者。)

法人は政治的行為の自由を享有できるか
重要度:C
 法人も自然人である国民と同様に政治的行為を行いうるから、性質上享有できる(八幡製鉄事件判例参照)。

(引用終わり)

 法人だけでなく権利能力のない社団、財団についても、判例は、人権享有主体であることを前提とする判示(※)を行っています(サンケイ新聞事件)。
 ※ 人権享有主体性の文脈で引用するものとして、曽我部真裕ほか『憲法論点教室[第2版]』(日本評論社 2020年)86頁注1[上田健介]。

(最大判昭62・4・24(サンケイ新聞事件)より引用。太字強調は筆者。)

 言論、出版等の表現行為により名誉が侵害された場合には、人格権としての個人の名誉の保護(憲法13条)と表現の自由の保障(同21条)とが衝突し、その調整を要することとなるのであり、この点については被害者が個人である場合と法人ないし権利能力のない社団、財団である場合とによつて特に差異を設けるべきものではない

(引用終わり)

(『司法試験定義趣旨論証集(憲法)』より引用。太字強調は筆者。)

法人の人権に関する八幡製鉄事件判例の趣旨は団体一般に妥当するか
重要度:B
 独立の主体として人権を行使するに足りる社会的実体を有する団体、すなわち、権利能力なき社団・財団にも当てはまる(サンケイ新聞事件判例参照)。

 (中略)

法人の人権に関する八幡製鉄事件判例の趣旨が団体一般に妥当する理由
重要度:C
 法人格の有無は憲法より下位の法律によって規律される以上、憲法上の保障を左右するのは法人格の有無ではなく、公権力に対抗しうる実体の有無と考えられるからである。

(引用終わり)

2.こうしたことを考えれば、さすがにこれは人権享有主体性も書くだろ、と判断できる。設問⑵は違憲審査の当てはめに使えそうな事実が少ないことも、人権享有主体性に紙幅を割いてよいという判断を後押しします。設問⑶で使いそうな部分と比較すると、当てはめ要素の少なさがよく分かるでしょう。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

 ところで、子ども食堂を運営する団体の中には、選挙期間中であるか否かを問わず、その団体名を示して、子育て支援に積極的な公約を掲げている公職の候補者や政党を応援してきた団体がある。A市としては、このような団体に本件補助金を交付することは、あたかもA市が当該候補者や政党を支援しているかのような誤解を与えかねず、特に子ども食堂を利用する子どもの保護者に対し、その投票に関する意思決定に影響を与えるおそれがあると考えた。そこで、要綱上、本件補助金の交付を受ける団体には、特定の公職の候補者若しくは公職にある者又は政党を推薦するなどの行為を禁止し(要綱第8条第1号)、違反があった場合には本件補助金の交付決定の取消しと返還命令の対象となる(要綱第9条第3号)ものとした。
 他方、宗教団体が子ども食堂を運営する場合について、要綱上、宗教団体も本件補助金の交付対象から排除されていない。例えば、宗教法人B寺が運営する子ども食堂は、次のようなものである。まず、子ども食堂は、子どもの保護者がB寺の檀家であるか否かにかかわらず、誰でも利用することができる。子ども食堂は、B寺の敷地内にある集会施設を使用しているが、当該集会施設は、本堂のような宗教施設そのものではなく、一般的な集会施設と変わるものではない。ただし、食事をする部屋の壁には、B寺の住職が仏典から引用した仏の教えや人生の導きとなるような名言や標語が掲示されている。提供される食事は、特に宗教の教義に沿ったものではなく、食事の際には、手を合わせて、「いただきます。」、「ごちそうさまでした。」という挨拶をするよう指導がなされているが、それ以上に、食事の前後にお祈り等をすることもない。子どもやその保護者に対してB寺が主催するお祭りその他の宗教行事の案内がなされることがあり、これら行事への参加は子ども食堂を利用するための条件ではないが、子ども食堂を利用する子どもやその保護者の約半数が参加している。A市内には、このようなB寺と同様のやり方で子ども食堂を運営するキリスト教の教会などの宗教法人が複数あり、A市としては、それらのいずれも本件補助金の交付対象とする予定である。

 (引用終わり)

 設問⑵は、規制の必要性を示す部分くらいしか当てはめ要素がない。「他方」以下の段落が当てはめ要素てんこ盛りなのと比較すれば、その差は歴然です。

3.こうして、人権享有主体性は、法人と権利能力のない社団とを分けて、後者の補助団体については当てはめをして書くべきだ、と判断できます。具体的には、参考答案のような感じです。

(参考答案より引用。太字強調は筆者。)

3.法人も、性質上可能な限り人権を享有し、自然人である国民と同様に政治的行為を行いうるから、性質上その自由を享有する(八幡製鉄事件)。このことは、独立の主体として人権を行使するに足りる社会的実体を有する団体、すなわち、権利能力なき社団・財団にも当てはまる(サンケイ新聞事件)。
 法人でない補助団体も独立して事業・収支を決定し(要綱4条)、独立の主体として人権を行使するに足りる社会的実体を有する権利能力なき社団であるから、政治的行為の自由を享有する。

(引用終わり)

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

【資料】A市子ども食堂支援事業補助金交付要綱(抄)

(補助金の交付の申請)
第4条 補助金の交付を受けようとする団体は、補助金交付申請書に次に掲げる書類を添えて、別に定める日までに市長に申請するものとする。
 一 事業計画書
 二 収支予算書

(引用終わり)

 要綱4条は、補助団体が事業計画書・収支予算書を提出し得る団体であることを想定しているので、補助団体は独自に事業・収支を決定できる団体だ、だから、独立した社会的実体があり、人権享有主体性の認められる権利能力のない社団といえるだろう。そういうことですね。ここは、「子ども食堂を運営し得る以上」のような感じで簡単に当てはめてもよさそうです。

4.本問は、どちらかというと例外で、普段は法人(団体)の人権享有主体性なんて、当然の前提として書かないものだ、と思っておくべきです。本問は特別な要素があるから、敢えて書く。この感覚が大事です。

戻る