規範を明示して要綱9条を指摘できたか
(令和8年予備試験論文式憲法)

1.令和8年予備試験論文式憲法。設問⑴は、本件補助金について、89条後段適合性を問う趣旨であることが明らかです。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

〔設問〕
 あなたが意見を求められた法律家であるとして、以下の⑴から⑶までについて、あなた自身の見解を述べなさい。その際、必要に応じて参考とすべき判例に言及しつつ論じること。

⑴ 私的団体に対して本件補助金を交付することの合憲性

(引用終わり)

 「本件」補助金なのだから、一般論ではなくて、本問で「本件補助金」と定義される補助金交付について解答すべきことは当然です。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

 近時、子どもの貧困が社会問題化する中、子どもが1人でも行ける無料又は低額の食堂である「子ども食堂」を運営するNPO法人やボランティア団体が増えている。一方で、物価の高騰が続いている中、子ども食堂の運営費や食材費の不足が問題となっている。そこで、A市では、子ども食堂支援事業補助金交付要綱(以下「要綱」という。)を作成して、貧困対策や子育て支援政策の一環として、子ども食堂を運営する団体に対し、毎年度、補助金(以下「本件補助金」という。)を交付することにした。

(引用終わり)

 一般論しか書かなかった人は、憲法の知識・理解と関係なく、問題文の読み方を誤ったというだけで、低く評価されることになる。こうしたケアレスミスを防ぐ方法論を確立しているか、「たまたまうっかりしただけじゃん。対策なんてしなくていい。」と考えて毎年のように同じようなケアレスミスをするかで、「受かりやすい人」か、「受かりにくい人」かが分かれます。

2.決定的に差が付くのは、89条後段の規範を明示できたかでしょう。

(『司法試験定義趣旨論証集(憲法)』より引用。太字強調は筆者。)

「公の支配」(89条後段)に属するかの判断基準
重要度:A
 濫費を防止しうるかで判断する(幼児教室事件高裁判例参照)。
 ※ 東京高判平2・1・29。

「公の支配」(89条後段)に属するというために人事、予算等への直接的関与を要するか
重要度:C
 公権力が事業の運営、存立にある程度の影響を及ぼすことにより濫費を防止できれば足りるから、必ずしも人事、予算等への直接的関与を要しない(幼児教室事件高裁判例参照)。
 ※ 東京高判平2・1・29。

(引用終わり)

(東京高判平2・1・29(幼児教室事件)より引用。太字強調は筆者。)

 憲法89条は、「公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。」と規定する。そして、同条前段については、国家と宗教の分離を財政面からも確保することを目途とするものであるから、その規制は厳格に解すべきであるが、同条後段の教育の事業に対する支出、利用の規制については、もともと教育は、国家の任務の中でも最も重要なものの一つであり、国ないし地方公共団体も自ら営みうるものであって、私的な教育事業に対して公的な援助をすることも、一般的には公の利益に沿うものであるから、同条前段のような厳格な規制を要するものではない。同条後段の教育の事業に対する支出、利用の規制の趣旨は、公の支配に属しない教育事業に公の財産が支出又は利用された場合には、教育の事業はそれを営む者の教育についての信念、主義、思想の実現であるから、教育の名の下に、公教育の趣旨、目的に合致しない教育活動に公の財産が支出されたり、利用されたりする虞れがあり、ひいては公の財産が濫費される可能性があることに基づくものである。このような法の趣旨を考慮すると、教育の事業に対して公の財産を支出し、又は利用させるためには、その教育事業が公の支配に服することを要するが、その程度は、国又は地方公共団体等の公の権力が当該教育事業の運営、存立に影響を及ぼすことにより、右事業が公の利益に沿わない場合にはこれを是正しうる途が確保され、公の財産が濫費されることを防止しうることをもって足りるものというべきである。右の支配の具体的な方法は、当該事業の目的、事業内容、運営形態等諸般の事情によって異なり、必ずしも、当該事業の人事、予算等に公権力が直接的に関与することを要するものではないと解される。

(引用終わり)

 ここは、統治の中で数少ないAランクなのだから、覚えておいてしかるべき。でも、実際には、「統治なんて出るわけない。」と考えて、全然知らなかった人も結構いたことでしょう。なので、これを答案で明示できただけで、相応のアドバンテージになったのではないかと思います。理由付けや他説批判なんてやってる余裕はないので、仮に知っていても、書くべきではないでしょう。

3.当てはめで差が付くのは、要綱を丁寧に摘示したかです。本問では、具体的な要綱が掲載されており、問題文の事例部分にも、それが明示に摘示されています。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

 本件補助金の交付対象となるのは、A市内で子ども食堂を運営している法人その他の団体である。A市は、従前から子ども食堂を運営してきた団体が市内に複数あるため、本件補助金の交付対象として、それらの団体を念頭に置いていた。本件補助金の交付を受ける団体は、市長に対し、本件補助金の交付申請に当たり事業計画書及び収支予算書を提出する必要があるほか(要綱第4条)、補助対象事業が完了したときは事業報告書、事業収支決算書等を提出する必要がある(要綱第6条)。また、市長は、本件補助金の交付を受ける団体に対し、必要な報告を求め、又は書類、帳簿等の検査を行うことがある(要綱第7条)。しかし、それらの団体は、A市の行政組織の一部ではなく、自主的に組織・運営されている私的団体であり、A市がその活動に対して指示をしたり、その人事に関与したりすることはない。

 (中略)

【資料】A市子ども食堂支援事業補助金交付要綱(抄)

(補助金の交付の申請)
第4条 補助金の交付を受けようとする団体は、補助金交付申請書に次に掲げる書類を添えて、別に定める日までに市長に申請するものとする。
 一 事業計画書
 二 収支予算書

(補助金の交付の決定)
第5条 市長は、前条の書類を受理した場合において適当と認めるときは、補助金の交付を決定し、当該申請団体に対し書面により通知する。

(実績報告)
第6条 補助金の交付を受ける団体(以下「補助団体」という。)は、補助対象事業が完了したときは、次の各号に掲げる書類を市長に提出するものとする。
 一 事業報告書
 二 事業収支決算書
 三 その他市長が必要と認めたもの

(報告徴収及び検査)
第7条 市長は、補助団体に対し、随時、必要な報告を求め、又は書類、帳簿等の検査を行うことができる。

(禁止事項)
第8条 補助団体は、次に掲げる行為をしてはならない。
 一 特定の公職の候補者若しくは公職にある者又は政党を推薦し、支持し、又はこれらに反対すること。 (第2号以下略)

(交付決定の取消し等)
第9条 市長は、補助団体が次の各号のいずれかに該当するときは、補助金の交付決定の全部又は一部を取り消し、既に交付した補助金の全部又は一部の返還を命ずることができる。
 一 虚偽その他不正な手段により補助金の交付決定を受けたとき
 二 補助金を補助対象経費以外の用途に使用したとき
 三 前条各号に掲げる行為があったとき

(引用終わり)

 当然ながら、これらを答案に書き写して解答すべきです。これをしない人は、憲法の知識・理解とは関係なく、「問題文を書き写さなかった。」というだけの理由で、低い評価になるでしょう。馬鹿丸出しで問題文を書き写す人、「問題文を書き写すなんて本質的でない。」と考えて問題文を書き写さない人。前者は「受かりやすい人」で、後者は「受かりにくい人」です。
 とりわけ、差が付くのは、要綱9条1号、2号を摘示できたかどうかです。同各号は、問題文の事例部分には記載がないので、事例部分だけを見て書き写していた人は、見落とすようになっています。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

 本件補助金の交付対象となるのは、A市内で子ども食堂を運営している法人その他の団体である。A市は、従前から子ども食堂を運営してきた団体が市内に複数あるため、本件補助金の交付対象として、それらの団体を念頭に置いていた。本件補助金の交付を受ける団体は、市長に対し、本件補助金の交付申請に当たり事業計画書及び収支予算書を提出する必要があるほか(要綱第4条)、補助対象事業が完了したときは事業報告書、事業収支決算書等を提出する必要がある(要綱第6条)。また、市長は、本件補助金の交付を受ける団体に対し、必要な報告を求め、又は書類、帳簿等の検査を行うことがある(要綱第7条)。しかし、それらの団体は、A市の行政組織の一部ではなく、自主的に組織・運営されている私的団体であり、A市がその活動に対して指示をしたり、その人事に関与したりすることはない。

 (中略)

【資料】A市子ども食堂支援事業補助金交付要綱(抄)

 (中略)

(交付決定の取消し等)
第9条 市長は、補助団体が次の各号のいずれかに該当するときは、補助金の交付決定の全部又は一部を取り消し、既に交付した補助金の全部又は一部の返還を命ずることができる。
 一 虚偽その他不正な手段により補助金の交付決定を受けたとき
 二 補助金を補助対象経費以外の用途に使用したとき
 三 前条各号に掲げる行為があったとき

(引用終わり)

 9条1号、2号は、不正や無駄遣いしていたら取り消して返還請求できる、という意味で、濫費防止を実現するのにとても有効な権限です。だから、これを指摘したかどうかは大きい。これらを摘示していたら、文字数がパンパンになるはずなので、評価する余裕などないのが普通でしょう。参考答案は、「これらの権能を行使すれば、濫費を防止しうる」とするにとどめています。

(参考答案より引用。太字強調は筆者。)

3.「公の支配」に属するかは、濫費を防止しうるかで判断する(幼児教室事件)。
 確かに、補助団体はA市の行政組織の一部でなく、自主的に組織・運営されている私的団体で、A市がその活動に対して指示をしたり、その人事に関与したりすることはない。
 しかし、補助団体は、本件補助金交付申請に当たり事業計画書・収支予算書を提出する必要があり(要綱4条)、補助対象事業が完了したときは事業報告書、事業収支決算書等を提出する必要がある(同6条)。市長は、補助団体に対する報告徴求、書類帳簿等検査権がある(同7条)。虚偽等により補助金交付決定を受け、又は補助金を補助対象経費以外の用途に使用したときは、補助金交付決定を取り消して、返還を命令できる(同9条1号、2号)。これらの権能を行使すれば、濫費を防止しうる。
 以上から、「公の支配」に属する。

(引用終わり)

 後から言われたら「簡単じゃん。」と思うかもしれませんが、現場でこれができない人も、それなりにいるのです。

4.「慈善」「博愛」の事業に当たるかについては、規範があるにはあるものの、こんなのは知らなくいい。問題文を書き写して単純に当てはめれば足ります。

(『司法試験定義趣旨論証集(憲法)』より引用。太字強調は筆者。)

慈善・博愛の事業(89条後段)の意義
重要度:C
 慈善・博愛の事業(89条後段)とは、道徳上の理念に基づき人の精神的、肉体的、物質的な欠乏を自己の負担により直接充足することを目的とする組織的、継続的な活動をいう(政府見解)。
 ※ 自治庁次長鈴木俊一あて法制局次長林修三回答(昭28・2・21法制局1発第18号)。
 ※ 正確には、「憲法八九条にいう慈善又は博愛の事業とは、一般に仁慈の名で呼ばれる道徳上の理念に基き人の精神的、肉体的ないし物質的な欠乏を自己の負担により直接充足することを目的として行う事業を中心とする観念と解せられ、その事業は、これを行う者とその事業によつて欠乏の充足が得られる者の存在なくしては、これを考えることはできない。」というものである。教育の事業と同様、与える者と受ける者の存在が前提とされている。
 ※ 上記のとおり、政府見解は、「慈善」と「博愛」を区別していない。理論的にも、両者を厳密に区別する実益はないと考えられるから、論文式試験の当てはめにおいても、「慈善・博愛の事業に当たる。」のように当てはめれば足りる。

(引用終わり)

(参考答案より引用。太字強調は筆者。)

2.子ども食堂は子どもが1人でも行ける無料・低額の食堂であり、「慈善」「博愛」の事業に当たる。

(引用終わり)

 上記引用のとおり、「慈善」「博愛」は分けないのが政府見解です。ここだけでも知っておくと、「慈善」と「博愛」のどっちなんだ、などと現場で無駄に悩まなくて済んだでしょう。

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