令和8年予備試験論文式憲法参考答案

【答案のコンセプト等について】

1.現在の論文式試験においては、基本論点についての規範の明示と事実の摘示に極めて大きな配点があります。①基本論点について、②規範を明示し、③事実を摘示すること。これが、合格するための基本要件であり、合格答案の骨格をなす構成要素といえます。従来、当サイトでは、この①~③に特化した「参考答案(その1)」と、規範の理由付け、事実の評価、応用論点等の肉付けを行うとともに、より正確かつ緻密な論述をした「参考答案(その2)」を示してきました。両者を示すことにより、「規範と事実」で書く答案がどのようなものか、規範の理由付け、事実の評価、応用論点等を書くとすればどうなるか、というイメージが具体化されるとともに、理想を追い求めて、規範の理由付け、事実の評価、応用論点等を書きに行くと、現実には絶対に書けない答案になる、ということも、実感できたのではないかと思います。 当サイトとしては、上記のいわば両極ともいえる答案のイメージを具体化することについては、もう十分に達成できたと考えています。次の段階は、両者の中間に位置する現実的でリーズナブルな合格答案として、どのようなものをイメージすればよいのか。これを具体化することにある。そこで、上記①~③をベースとしつつ、無理なく書ける範囲の現実的でリーズナブルな合格答案を示すこととしました。このことは、今年からCBT方式による実施となることで、文字数の制限をより意識しなければならなくなることからも、意味のあることだろうと思っています。

2.参考答案中の太字強調部分は、『司法試験定義趣旨論証集(憲法)』に準拠した部分です。政教分離については、現在の判例法理の傾向を踏まえた規範を用いています。これについては、以前の記事で説明しました(「第2次孔子廟事件判決(2)(最判令7・3・17)」、「情報提供行為と政教分離(最判令7・1・17)」)。なお、CBT方式の実施に伴い、判例の事件名の記載を簡略なものにしています(『刑法各論【第2版】(司法試験定義趣旨論証集)』「本書の概要」7項を参照)。

【参考答案】

第1.設問⑴

1.89条後段に反するか。

2.子ども食堂は子どもが1人でも行ける無料・低額の食堂であり、「慈善」「博愛」の事業に当たる。

3.「公の支配」に属するかは、濫費を防止しうるかで判断する(幼児教室事件)。
 確かに、補助団体はA市の行政組織の一部でなく、自主的に組織・運営されている私的団体で、A市がその活動に対して指示をしたり、その人事に関与したりすることはない。
 しかし、補助団体は、本件補助金交付申請に当たり事業計画書・収支予算書を提出する必要があり(要綱4条)、補助対象事業が完了したときは事業報告書、事業収支決算書等を提出する必要がある(同6条)。市長は、補助団体に対する報告徴求、書類帳簿等検査権がある(同7条)。虚偽等により補助金交付決定を受け、又は補助金を補助対象経費以外の用途に使用したときは、補助金交付決定を取り消して、返還を命令できる(同9条1号、2号)。これらの権能を行使すれば、濫費を防止しうる。
 以上から、「公の支配」に属する。

4.よって、89条後段に反しない。

第2.設問⑵

1.補助団体の表現の自由を侵害し21条1項に反するか。

2.要綱8条1号の政治的行為は行動の面だけでなく、政治的意見表明の面もあるから、21条1項で保障される(猿払事件)。

3.法人も、性質上可能な限り人権を享有し、自然人である国民と同様に政治的行為を行いうるから、性質上その自由を享有する(八幡製鉄事件)。このことは、独立の主体として人権を行使するに足りる社会的実体を有する団体、すなわち、権利能力なき社団・財団にも当てはまる(サンケイ新聞事件)。
 法人でない補助団体も独立して事業・収支を決定し(要綱4条)、独立の主体として人権を行使するに足りる社会的実体を有する権利能力なき社団であるから、政治的行為の自由を享有する。

4.政治的行為の禁止は本件補助金交付の条件に過ぎず、交付を受けずに政治的行為をすることはなんら禁止されない。

⑴ 自由の制約に対する承諾が給付等の条件とされ、その給付等が重要な法的利益に関わる場合には、その条件が自由の制約となると評価できる(性同一性障害者特例法事件、同事件における鬼丸・三浦補足意見参照)。
 子ども食堂運営に人格的存在と結び付く重要性はなく、本件補助金が運営に不可欠といえる事情もないから、重要な法的利益に関わるとはいえない。法的な制約はなく、事実上の支障にとどまる。

⑵ 精神的自由権については、事実上の支障にとどまる場合でも、制約と評価して違憲審査をすべきである(オウム真理教解散命令事件、府中市政治倫理条例事件、大阪市ヘイトスピーチ対処条例事件)。制約の必要性と、人権の性質、制約の態様などを考量し、必要かつ合理的かで判断する(よど号事件、成田新法事件、薬事法事件等、堀越・宇治橋事件における千葉勝美補足意見も参照。)。
 確かに、自由な意見表明と情報の相互受領により多数意見が形成されて国政が決定されることが民主制国家の存立の基礎である(北方ジャーナル事件)。
 しかし、団体名を示して、子育て支援に積極的な公約を掲げている公職の候補者や政党を応援する等した団体に本件補助金を交付することは、あたかもA市が当該候補者や政党を支援しているかのような誤解を与えかねず、特に子ども食堂を利用する子どもの保護者に対し、その投票に関する意思決定に影響を与えるおそれがある。禁止目的は上記弊害防止にあり、意見表明そのものの禁止を目的としない間接的で事実上の制約に過ぎない。必要かつ合理的な制約にとどまる。

5.よって、21条1項に反しない。

第3.設問⑶

1.89条前段に反するか。

2.「宗教上の~団体」(89条前段)とは、宗教的活動を本来の目的とする団体をいい(箕面忠魂碑事件)、B寺はこれに当たる。

3.89条前段に反するかは、国家と宗教とのかかわり合いが社会的・文化的諸条件に照らし相当な限度を超えるかで判断する。対象の性格、行為の経緯・態様、一般人の評価などを考慮し、社会通念に照らして総合的に判断する(空知太事件、第1次・第2次孔子廟事件)。
 確かに、子ども食堂は、B寺の敷地内にある集会施設を使用している。食事をする部屋の壁には、B寺の住職が仏典から引用した仏の教えや人生の導きとなるような名言や標語が掲示されている。宗教的性格がある。子どもやその保護者に対してB寺が主催するお祭りその他の宗教行事の案内がなされることがあり、子ども食堂を利用する子どもやその保護者の約半数が参加している。一般人の目から子ども食堂と宗教行事の結び付きを感じさせ得る。
 しかし、本件補助金導入経緯は物価高騰の中、運営費・食材費不足に対する貧困対策・子育て支援政策の一環で世俗的である。子ども食堂は保護者がB寺檀家でなくても誰でも利用でき、上記集会施設は宗教施設そのものでなく、一般的集会施設と変わらないから、宗教的性格は強くない。提供食事は、特に宗教教義に沿ったものではなく、食事の際、手を合わせ、「いただきます」「ごちそうさまでした」という世俗的挨拶指導がされるにとどまり、それ以上に、食事前後にお祈り等をすることもなく、世俗的態様である。B寺主催の宗教行事参加は子ども食堂利用条件でなく、B寺と同様のやり方で子ども食堂を運営するキリスト教の教会などの宗教法人が複数あり、それらのいずれも本件補助金交付対象予定で一般人の目からみてB寺を特別に援助するとは評価されない。
 以上を考慮して社会通念に照らして総合的に判断すると、国家と宗教とのかかわり合いが社会的・文化的諸条件に照らし相当な限度を超えるとはいえない。

4.よって、89条前段に反しない。

以上

戻る