1.令和8年司法試験論文式刑事系第2問。設問2小問1は、電磁的記録媒体に「書面」の規律が適用されるか、という細かい話はあるものの、全然気付かないで普通に320条以下を適用しても解答筋に何の影響もありませんから、基本的には再伝聞証拠として淡々と処理していければ、合格レベルを超えるでしょう。
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(参考答案より引用。太字強調は筆者。) 第3.設問2小問1 1.供述を記録した記録媒体は、専らその記録内容が証拠となる点で証拠書類と同様であるから、証拠書類に関する規定を準用すべきである(290条の3第1項柱書第1括弧書参照)。 2.本件部分はW供述中の乙供述の内容を証拠とするもので、再伝聞証拠である。再伝聞証拠については、通常の伝聞例外要件に加えて、別の伝聞供述部分について324条の要件を満たせば、証拠能力を認めることができる(福原村放火未遂事件)。 ⑴ W供述部分は被告人以外の者の供述録取書(321条1項3号準用)の性質を有する。 ア.供述が機械的に記録された場合には、記録の正確性が確保されているから、署名押印は不要である(犯行被害再現実況見分調書事件、290条の3第1項柱書第1括弧書参照)。本件部分はスマートフォンで機械的に記録されているから、署名押印は不要である。 イ.Wは、令和8年2月に死亡したから、供述不能事由がある。 ウ.乙の体内から発見されたマイクロSDカードの内容を確認できなかった。資料2は甲との共謀を直接推認させるものでない。乙は本件譲渡しについて一貫黙秘した。甲との共謀の立証には本件部分によるほかなく、不可欠性を満たす。
エ.特信情況(321条1項3号ただし書準用)は、供述がなされた外部的事情を基準として判断すべきであるが、外部的事情を推認させる資料として、供述内容を考慮することができる(判例)。 オ.以上から、W供述部分は321条1項3号の要件を満たす。 ⑵ 乙供述部分は被告人の供述録取書の性質を有し、伝聞供述に署名押印は問題とならず、甲との共謀を推認させる不利益事実の承認で、前記⑴エのとおり任意性に疑いはないから、324条1項、322条1項の要件を満たす。 3.よって、本件部分の証拠能力は認められる。 (引用終わり) |
ここは、何の問題もない。逆にいえば、合格レベルの受験生なら普通に解けるところなので、ここは合否を分けるでしょう。旧司法試験時代は伝聞法則の趣旨に大きな配点があり、それさえ書いていれば当てはめが雑でも何とかなるようなところがありましたが、現在は逆で、伝聞法則の趣旨を厚く書いて当てはめがスカスカだと非常に低い点数になる傾向にあります。結果が出た時点で、予想外に低い評価だった人は、その点を確認するとよいでしょう。
2.小問2のうち、【資料2】全体は実況見分調書なんだから321条3項、写真部分は非供述証拠なんだから伝聞法則適用外で余裕。ということを書けばよい。全体と各部分を分ける、というのは、過去問をやっていれば当然に気付くところでしょう。注意点としては、実況見分調書に321条3項の適用があることは判例上確立しているので、他に書くことがたくさんある本問ではあっさり書けばよく、真顔で論証しない、ということ。それから、写真部分については、小問1のような前提が書かれていないので、関連性(※1)についても触れておく、ということ。それくらいでしょう。ここまでは、それほど問題はありません。
※1 かつては、法律的関連性と区別する趣旨で、「自然的関連性」と表記されることが多かったのですが、法律的関連性という概念の有用性が疑問視されるようになったことに伴って、最近では実務の表現に合わせる形で単に「関連性」と呼ばれることも多くなっています。なお、自然的関連性・法律的関連性・証拠禁止を証拠能力の要件とする書き方が消極に評価されるようになってきている点については、以前の記事(「証拠法の書き出し(令和6年予備試験刑訴法)」)で説明しました。
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(参考答案より引用。太字強調は筆者。) 第4.設問2小問2 1.全体 資料2はスマートフォン内の動画データを任意に検証(実況見分)した結果を記載したものであるから、作成者Pの真正作成供述を要する(321条3項・判例)。 2.写真部分 写真は、撮影者の供述を証拠とするものではなく、機械的に撮影された画像の存在又は状態が証拠となるから、非供述証拠(証拠物)である(新宿騒乱事件)。資料2の写真部分は供述を内容としないから、「書面」に当たらず、320条1項の適用を受けない。 (引用終わり) (問題文より引用。太字強調は筆者。) 〔設問2〕
1.本件DVD内の動画データのうち、【資料1】の下線部④の発言が記録されている部分の証拠能力について、具体的事実を摘示しつつ論じなさい。ただし、同動画データの内容が乙方において差し押さえたスマートフォン内の動画データの内容と同一であることは証拠上認定できるものとする。 (引用終わり) |
3.問題は、「この写真の注射器は、覚醒剤の密売人が客に交付することが多い未使用の注射器である。」という説明部分です。伝聞証拠について、「内容の真実性が問題になる」のような覚え方をしていると、「写真の注射器が、本当に『覚醒剤の密売人が客に交付することが多い未使用の注射器』なのかどうか、という真実性が問題になるから」という理由で伝聞証拠に当たる、という誤った判断をしてしまいます。このことは、以前の記事でも詳しく説明しています(「「供述」の意味を理解する(その1)(令和5年司法試験刑事系第2問)」)。
そもそも、伝聞証拠は、供述証拠でなければなりません。「供述」とは、体験した事実を言語等によって再現することをいいます(※2)。例えば、「おはよう。」という発言は、体験した事実の再現ではないので、そもそも供述ではない。「今から、甲さんと一緒にファミレスで御飯を食べます。」という発言も、過去に体験した事実の再現ではないから、供述ではない。このことから分かることは、「過去に体験した事実が発言中に含まれないものは、そもそも『供述』とはいえないので、その時点で伝聞証拠になりようがない。」ということです。「供述」に当たらないということは、過去に体験した事実の再現ではないということだから、「再現されたとおりの事実」を観念できないわけで、それが要証事実になるなんてこともない。したがって、そもそも「供述」に当たらないものは、要証事実がどうのこうのと考える以前に、伝聞証拠ではないと判断できるのでした。
※2 「事実の存否という情報を伝えようとする言語的な表現」とされることもあります(後藤昭『伝聞法則に強くなる』(日本評論社 2019年)3頁)が、概ね同じ意味です。
そのことを理解した上で、改めて、「この写真の注射器は、覚醒剤の密売人が客に交付することが多い未使用の注射器である。」という説明部分をみると、これは作成者Pが過去に体験した事実を再現したものではなく、写真に映っているものが何かについて述べているに過ぎないことに気が付くでしょう。過去に知覚・記憶した事実が正確に再現されているかなんて、問題にならない。そもそも、P自身がこの誕生パーティの現場にいて見てたわけじゃないんだから、当然です。このように、説明部分はそもそも「供述」ではないので、伝聞法則が適用されようがないのでした。
4.では、なんでこんな説明文があるのか。それは、Pがどうしてこの写真を捜査報告書に添付したのか、ということに関わります。
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(問題文より引用。太字強調は筆者。) 被疑者乙に対する頭書被疑事件につき、本日、当職が令和8年3月7日に乙方において差し押さえたスマートフォンを見分したところ、同スマートフォン本体のデータ保存領域内に存在する動画データのうち、令和8年1月22日に撮影されたものの中に、本件に関連すると思料する場面が存在したことから、同場面を捜査用パソコンを用いて静止画として保存し、同静止画を出力した写真1枚を添付して報告する。 (引用終わり) |
Pは、延々とスマホの動画を見ていたことでしょう。視覚で動画を確認しているから、作用としては実況見分をやってるわけです。しかし、大半の部分は関係ない誕生日の動画なので、「彼女とお誕生日会とかリア充かよ。」などと思いながらダラダラ見る。そしたら、急に注射器が映ったわけですね。Pは身を乗り出して一気に仕事モードに戻り、慌てて一時停止を押したことでしょう。そして、「あっこれは覚醒剤の密売人が客に交付することが多い未使用の注射器じゃん!本件に関連するぞ!」と思った。だから、そこだけ静止画に保存して報告書に添付したわけですね。なんで、本件に関連すると思ったのか。それは、問題文の甲の供述を見れば分かるでしょう。
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(問題文より引用。太字強調は筆者。) 4 Pらは、甲に対する捜査と並行して、甲の供述を踏まえ、本件譲渡しへの乙の関与についても捜査を進めた。甲は、取調べにおいて、「令和7年11月頃から乙と一緒に覚醒剤の密売をしていた。私は、客から注文を受けて客に覚醒剤を渡す役割、乙は、客に売る覚醒剤と客にサービスで渡す注射器を用意する役割だった。私は、客から覚醒剤の注文が入ると乙に伝え、客に渡す日の昼頃に乙とI市内のJ公園で会い、乙から覚醒剤等を受け取り、その後、客と会って覚醒剤等を渡していた。代金は私がその場で客から受け取り、後日乙と分けていた。常連と常連から直接紹介された人だけを客にすると決めていたので、乙が顧客リストのデータを自宅のノートパソコンで作成し、記録媒体のマイクロSDカードに保存しているはずである。令和8年1月20日にXに覚醒剤を売った際も、昼頃にJ公園で乙と会って覚醒剤と注射器を受け取り、夕方に私がXと会って覚醒剤と注射器を譲り渡した。」と供述した。 (引用終わり) |
「サービスで渡す注射器じゃね?」とPは思ったから、本件と関連すると判断したのでしょう。だから、そこだけ切り取って報告書に添付した。写真を添付するときは、何の写真なのか、なんで添付したのか、説明を付すのが常識です。ときどき、年賀状に何の説明もなく赤ちゃんの写真を添付する人がいますが、結婚したこと等の報告すらないときは不気味なのでやめましょう(本人は報告済みと思っているようですが、こっちは聞いてない。)。それはともかく、【資料2】の添付写真に付された説明文は、被写体の対象を明示・特定するとともに、その写真を添付した動機を示すものだ(※3)、ということになるのです。
※3 この点に着目して、「一種の指示説明だから伝聞証拠に当たらない。」という説明も可能ですが、理論的には的確とはいえない点については、以前の記事(「指示説明・現場供述概念の有用性(令和5年司法試験刑事系第2問)」)で説明しました。
5.さて、ここまで理解すれば、検察官の立証趣旨の意味も分かってくるというものです。
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(問題文より引用。太字強調は筆者。) 検察官は、同公判期日において、各公訴事実を立証するため、本件DVD及び捜査報告書【資料2】等を証拠として請求した。検察官は、本件DVDの立証趣旨を「乙が令和8年1月20日昼頃にJ公園で甲と会ったこと」、捜査報告書【資料2】の立証趣旨を「覚醒剤の密売人が客に交付することの多い未使用の注射器12本を乙が所持していたこと」としていた。 (引用終わり) |
立証趣旨のうち、「覚醒剤の密売人が客に交付することの多い未使用の」の部分は、添付写真の関連性をいうものだ、ということが分かります。伝聞法則で証拠能力が否定されることがなくても、関連性なしとして証拠能力が否定されることはあり得る。でも、本問の事実関係で、写真に映っている注射器が「覚醒剤の密売人が客に交付することの多い未使用の」ものであるかは、写真それ自体から自ずから明らかでしょう。もちろん、写真の画質が悪すぎて何が映ってるか分からないとか、よく見るとオモチャの注射器だとか、ペットの犬猫が病気のときにお薬を与える用のシリンジじゃん、というときは、関連性が否定されるでしょうが、本問ではそのような事情は見当たりません(※4)。仮に、そのような事情があるとしても、そのような場合に、「確かに写真だけからは判別が付かないが、Pの説明文部分から、『覚醒剤の密売人が客に交付することの多い未使用のものであること』が立証できる。」なんてことはあるわけない。だって、Pもその写真しか見てないんだから。いずれにしても、Pの説明文それ自体から、被写体の注射器が「覚醒剤の密売人が客に交付することの多い未使用のものであること」を立証しようとする趣旨でないことは明らかです。つまり、この部分は、そもそも独立の「証拠」としての意義すら有しないといえるでしょう。証拠の本体は写真部分であって、説明文は「刺身のツマ」でしかないわけですね。
※4 「これは甲が犯行当時に用いた〇〇である。」のように、そのまま犯人性の証拠とされかねない不適切な説明文になっている場合には、その部分を削除して証拠採用すべきではないか、という問題が生じますが、本問はそのような場合でもないでしょう。
6.以上のことを見抜くことができれば、答案には、端的にその旨を書けばよい。参考答案は、その一例です。
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(参考答案より引用。太字強調は筆者。) 3.説明文部分
説明文は、被写体の特定及び添付の動機を明らかにするに過ぎず、作成者Pが体験した事実を再現するものでなく、独立した証拠としての意義もない。したがって、供述証拠でないから、「書面」に当たらず、320条1項の適用を受けない。 (引用終わり) |
7.以上のことは、分かってしまえば簡単なのだけれど、予備校等でも適切な説明がされていないところなので、ほとんどの受験生が正解にはたどり着かなかったでしょう。なので、ここで合否が分かれることはない。今回はできなくても、それほど気にしなくてよいでしょう。とはいえ、そもそも「供述」じゃないパターンは過去にも出題されていて、今後も出題されるでしょうから、今後は適切に判断できるようになっておきたいところです。