1.令和8年司法試験論文式刑事系第2問。設問1小問2は、令状の種類が問われています。令状の要否や適法性は問われていないので、強制処分該当性や適法性を書いても、余事記載と扱われるでしょう。
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(問題文より引用。太字強調は筆者。) 〔設問1〕 1.(略) (引用終わり) |
2.令状の種類は、基本的にやろうとする作用の種類に対応します。捜索差押えなら捜索差押許可状、鑑定処分なら鑑定処分許可状、検証なら検証許可状、という具合です。当たり前といえば当たり前ですね。まずは、そこから考える。ここで注意しておきたいのは、「身体検査令状」による場合の「身体検査」は、検証だ、ということです。つまり、身体の検証であれば、「身体検査令状」という名称の検証許可状を要するわけですね。
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(参照条文)刑事訴訟法
218条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、記録命令付差押え、捜索又は検証をすることができる。この場合において、身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。 |
そのような目で、下線部③のCT検査が、どのような作用に当たるのか、考えてみる。
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(問題文より引用。太字強調は筆者。) Pらは、前記ノートパソコンに保存されていたデータを確認したが、顧客リスト等の覚醒剤密売に関するデータは何ら発見されなかった。Pは、甲の前記供述、捜索時の乙の行動及び乙の居室からマイクロSDカードが発見されなかったことを踏まえると、顧客リストのデータが保存されているマイクロSDカードを乙が飲み込んだ可能性が高く、これを押収したいと考えた。そこで、Pは、まずマイクロSDカードが乙の体内にあるか否か及び同マイクロSDカードが自然に排出されるか否かを確認する必要があると考え、I病院の消化器病専門医であるT医師に相談したところ、これらを確認するためには、体内をX線を用いて断層撮影するCT検査により、その位置を確認する必要があるとの意見を得た。Pは、T医師の意見を踏まえ、CT検査を実施することとし、同月10日、③CT検査を実施するための令状の発付を受けた。Pは、同令状に基づき、I病院において、T医師により、乙に対するCT検査を実施させたところ、乙の大腸内にマイクロSDカード様の異物が認められたため、その状況を撮影した。T医師は、CT検査により撮影した画像を確認し、同異物は遅くとも数日内には体外に自然排出されるとの意見を述べた。 (引用終わり) |
問題文では、2つのことを確認するためのものだ、ということが示されています。1つは、「マイクロSDカードが乙の体内にあるか否か」。もう1つは、「マイクロSDカードが自然に排出されるか否か」です。まず、前者の「マイクロSDカードが乙の体内にあるか否か」は、物の発見を目的とするものなので、捜索ですね。乙の体内の性状を観察するだけなら検証です(※1)が、そうではない。通常、捜索には差押えがくっついてくるのが普通です。「証拠品を見付けたからヨシ!そのまま帰る!」ということはあり得ないからですね。見付けたら差し押さえるに決まってる。けれど、今回は、マイクロSDカードを発見するまでが目的で、乙の体内から強引に取り出そうとはしていません(※2)。なので、捜索だけで、差押えはくっついてこないのです。
※1 「外部からエックス線を照射して内容物の射影を観察する行為」は検証です(最決平21・9・28)。
※2 内視鏡で取り出そうとする場合に関する裁判例として、東京高判令3・10・29があります。
3.もう1つの、「マイクロSDカードが自然に排出されるか否か」は、どうか。「自然排出されるかどうかを視覚で確認するわけだから検証じゃね?」と思ったなら、「その判断は素人にできることなのか。」と考えるべきでしょう。そして、問題文をよく読めば、その答えは明らかです。
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(問題文より引用。太字強調は筆者。) Pは、T医師の意見を踏まえ、CT検査を実施することとし、同月10日、③CT検査を実施するための令状の発付を受けた。Pは、同令状に基づき、I病院において、T医師により、乙に対するCT検査を実施させたところ、乙の大腸内にマイクロSDカード様の異物が認められたため、その状況を撮影した。T医師は、CT検査により撮影した画像を確認し、同異物は遅くとも数日内には体外に自然排出されるとの意見を述べた。 (引用終わり) |
T医師の意見は、専門的な知見に基づくものでしょう。特別な学識、経験に基づく法則を具体的事実に適用してする判断を報告する作用を、鑑定といったのでした。注意すべきは、鑑定自体には令状は必要ない、ということです。令状を要するのは、鑑定に必要な処分、すなわち、鑑定処分をする場合です。これは、捜索差押えの場合における「必要な処分」(222条1項本文、111条1項前段)に対応します。鑑定自体は通常権利侵害を伴わないので、権利侵害を伴う処分を行う場合にのみ、令状が必要となるわけですね。
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(参照条文)刑事訴訟法 168条 鑑定人は、鑑定について必要がある場合には、裁判所の許可を受けて、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内に入り、身体を検査し、死体を解剖し、墳墓を発掘し、又は物を破壊することができる。
223条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者以外の者の出頭を求め、これを取り調べ、又はこれに鑑定、通訳若しくは翻訳を嘱託することができる。 225条 第223条第1項の規定による鑑定の嘱託を受けた者は、裁判官の許可を受けて、第168条第1項に規定する処分をすることができる。 |
本問のCT検査は、「マイクロSDカードが自然に排出されるか否か」を、医学に基づく法則を適用して判断するという鑑定のために行う身体検査ですから、鑑定処分です。だから、鑑定処分許可状が必要だ。こういうことになるわけですね。
4.こうして、必要な令状は、捜索許可状と、鑑定処分許可状の2つである、ということが分かりました。強制採血の論点で、直接強制のために身体検査令状を併用する、という話が出てきますが、捜索許可状が当然に直接強制を予定しているので、そのような考慮は不要です。また、身体検査に適当な条件を付することは鑑定処分許可状で普通にできる(225条4項、168条3項。なお、「乃至」は、「から~まで」を意味する古い法令用語です。「第2項乃至第4項」は、「第2項から第4項まで」という意味になるので、3項が含まれます。)ので、強制採尿のときの218条6項準用のような話も出てきません。なお、218条6項は、来年受験する際の法文では9項になっており、その後さらに10項になる予定なので、気を付けましょう。
5.CT検査に関しては、基本書等で、鑑定処分許可状だけでよいとか、鑑定処分許可状と身体検査令状を併用すべき、というような説明がされることがあります。これは、本問とは想定している事案が違う。例えば、脳に損傷がないかを調べるために行うCT検査は、証拠物の発見という要素がありませんから、捜索作用という余地はありません。単に、映像から脳損傷の有無を医学的に判断するだけです。なので、作用としては鑑定のための身体検査として鑑定処分になる。したがって、必要な令状は鑑定処分許可状となるのが筋です。これが、鑑定処分許可状だけでよい、とする場合に想定される事案です。ただ、鑑定処分許可状だけでは直接強制ができません(225条4項による172条の不準用)。直接強制を要する場合には、直接強制を実現するために身体検査令状を併用する(222条1項、139条) 。これは強制採血の場合と同じ論理です。ここでの身体検査令状は、直接強制を根拠付けるための便法として併用するだけなので、本来の作用とは直接関係がありません。鑑定処分許可状と身体検査令状を併用すべきと説明する文献は、このような場合を想定しているのです。いずれにせよ、証拠物の発見を目的とする本問とは想定する事案が異なるのです。本問について、「CT検査は鑑定処分許可状と身体検査令状の併用です。基本書で調べたから間違いありません。」という解説があるとすれば、それは上記の点を誤解したものであると思います。
6.細かい話をしましょう。今回必要な令状は、捜索許可状と鑑定処分許可状だ、という話をしました。そのうち、「鑑定処分許可状」の呼称は普段から馴染みがあるし、条文上も「許可状」とされているので、違和感はないでしょう。他方、捜索許可状の方は、「捜索状」、「捜索令状」、「捜索許可状」のどれが正しいんだ、と迷うかもしれない。まず、法制的に誤りといえるのは、「捜索状」です。それはなぜかというと、刑訴法は、裁判所の命令状として発付される場合にのみ、特に「捜索状」の呼称を用いているからです。
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(参照条文)刑事訴訟法 102条 裁判所は、必要があるときは、被告人の身体、物又は住居その他の場所に就き、捜索をすることができる。 106条 公判廷外における差押え、記録命令付差押え又は捜索は、差押状、記録命令付差押状又は捜索状を発してこれをしなければならない。 108条 差押状、記録命令付差押状又は捜索状は、検察官の指揮によつて、検察事務官又は司法警察職員がこれを執行する。ただし、裁判所が被告人の保護のため必要があると認めるときは、裁判長は、裁判所書記官又は司法警察職員にその執行を命ずることができる。 |
この場合、処分の主体は裁判所であり、検察事務官、司法警察職員等はその執行機関にすぎません。なので、検察事務官、司法警察職員等が独自の判断で執行をとりやめることはできない。「やれ。」と言われたらやらないとダメ。「捜索状」が命令状である所以です。これに対し、捜査機関が行う捜索は、捜査機関が主体となって行うもので、裁判所はそれを許可するだけです。なので、その性質は許可状である。捜査機関は、許可状の発付を受けても、独自の判断で捜索をしないことができる。「やってもいいよ。」と言われた場合は、やらなくてもいい。そういうことですね。捜索差押えについて、「捜索差押許可状」の呼称が用いられるのは、その性質を素直に呼称として反映させたものです。このことからすれば、「捜索許可状」の呼称を用いるのが素直。参考答案が「捜索許可状」の呼称を用いているのも、そのためです。
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(参考答案より引用。太字強調は筆者。) 1.通常体内に存在しない異物であるマイクロSDカードの発見を目的として行う作用であるから捜索の性質を有する。したがって、捜索許可状(218条1項前段)を要する。 2.マイクロSDカードが自然に排出されるかの判断は、特別な学識、経験に基づく法則を具体的事実に適用してするから、鑑定の性質を有する。T医師がするCT検査はそのための身体検査であるから、鑑定受託者による鑑定処分(223条1項、168条1項)の性質を有する。したがって、鑑定処分許可状(225条3項)を要する。 3.鑑定処分としての身体検査は直接強制できない(225条4項による172条の不準用)が、捜索許可状に基づく捜索作用としての性質から、当然に直接強制できる。裁判官は適当と認める条件を付することができる(225条4項、168条3項)。 4.よって、下線部③のCT検査を実施するための令状の種類は、捜索許可状及び鑑定処分許可状である。 (引用終わり) |
では、「捜索令状」はどうか。「令状主義」というくらいだから、「令状」の呼称が間違いなはずはない。なので、「捜索令状」も正しい。そもそも、憲法も「令状」の文言を用いています。
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(参照条文)日本国憲法
35条 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第33条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。 |
でも、「令状」の文言からも推測できるとおり、これ、本来は命令状の意味です。「えっ?どういうこと?」と思ったなら、ここから先はとっても面倒なので、気にしない方がよいと申し上げる。どうしても気になっちゃった人は、古江賴隆「令状の呼称についての若干の考察」同志社法学69巻2号407~441頁(2017年)を読みましょう。「捜索差押許可状」、「検証許可状」、「鑑定処分許可状」とかは「許可状」なのに「身体検査令状」だけは「令状」になっている理由とか、「逮捕状」が「逮捕許可状」でない理由とかも分かります。ただし、受験にはほとんど役に立たないので、趣味と割り切って読みましょう。法制史が好きな人は、興味深く読めるでしょう。