発付要件と執行要件を分ける
(令和8年司法試験論文式刑事系第2問)

1.令和8年司法試験論文式刑事系第2問。設問1小問1は、最決昭55・10・23(江南警察署採尿事件)の判旨を論証化して覚えていたかどうか。まずは、それで差が付くでしょう。

(問題文より引用。太字強調及び※注は筆者。)

〔設問1〕

1.下線部①の強制採尿を実施するための令状の種類について論じなさい。その上で、下線部①の令状の発付の要件が満たされていたか否か及び下線部②の行為が適法であったか否かについて、具体的事実を摘示しつつ論じなさい。

(引用終わり)

(最決昭55・10・23(江南警察署採尿事件)より引用。太字強調は筆者。)

 尿を任意に提出しない被疑者に対し、強制力を用いてその身体から尿を採取することは、身体に対する侵入行為であるとともに屈辱感等の精神的打撃を与える行為であるが、右採尿につき通常用いられるカテーテルを尿道に挿入して尿を採取する方法は、被採取者に対しある程度の肉体的不快感ないし抵抗感を与えるとはいえ、医師等これに習熟した技能者によつて適切に行われる限り、身体上ないし健康上格別の障害をもたらす危険性は比較的乏しく、仮に障害を起こすことがあつても軽微なものにすぎないと考えられるし、また、右強制採尿が被疑者に与える屈辱感等の精神的打撃は、検証の方法としての身体検査においても同程度の場合がありうるのであるから、被疑者に対する右のような方法による強制採尿が捜査手続上の強制処分として絶対に許されないとすべき理由はなく、被疑事件の重大性、嫌疑の存在、当該証拠の重要性とその取得の必要性、適当な代替手段の不存在等の事情に照らし、犯罪の捜査上真にやむをえないと認められる場合には、最終的手段として、適切な法律上の手続を経てこれを行うことも許されてしかるべきであり、ただ、その実施にあたつては、被疑者の身体の安全とその人格の保護のため十分な配慮が施されるべきものと解するのが相当である。
 そこで、右の適切な法律上の手続について考えるのに、体内に存在する尿を犯罪の証拠物として強制的に採取する行為は捜索・差押の性質を有するものとみるべきであるから、捜査機関がこれを実施するには捜索差押令状を必要とすると解すべきである。ただし、右行為は人権の侵害にわたるおそれがある点では、一般の捜索・差押と異なり、検証の方法としての身体検査と共通の性質を有しているので、身体検査令状に関する刑訴法218条5項(※注:試験当日の法文では同条6項)が右捜索差押令状に準用されるべきであつて、令状の記載要件として強制採尿は医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせなければならない旨の条件の記載が不可欠であると解さなければならない。

(引用終わり)

 前段の令状の種類については、論証を貼り付ければそれで終わりです。

(参考答案より引用。太字強調は筆者。)

1.体内に存在する尿を犯罪の証拠物として強制的に採取する行為は、捜索差押えの性質を有するから、捜査機関がこれを実施するには捜索差押許可状を必要とする。ただし、人権の侵害にわたるおそれがある点において、検証の方法としての身体検査と共通の性質を有しているので、身体検査令状に関する218条6項の準用により、医師に医学的に相当と認められる方法により行わせなければならない旨の条件を付することが不可欠である(江南警察署採尿事件)。

(引用終わり)

2.後段については、判例がまとめて規範にしているものを、2つに分ける必要がある。判例は、「被疑事件の重大性、嫌疑の存在、当該証拠の重要性とその取得の必要性、適当な代替手段の不存在等の事情に照らし、犯罪の捜査上真にやむをえないと認められる場合には、最終的手段として、適切な法律上の手続を経てこれを行うことも許されてしかるべきであり、ただ、その実施にあたつては、被疑者の身体の安全とその人格の保護のため十分な配慮が施されるべきものと解するのが相当である。」と一気にまくしたてていますが、そのうち、「被疑事件の重大性、嫌疑の存在、当該証拠の重要性とその取得の必要性、適当な代替手段の不存在等の事情に照らし、犯罪の捜査上真にやむをえないと認められる場合」の部分は事前の事実に係るものであることから、令状発付要件、「最終的手段として、適切な法律上の手続を経てこれを行うことも許されてしかるべきであり、ただ、その実施にあたつては、被疑者の身体の安全とその人格の保護のため十分な配慮が施されるべきもの」の部分は実施段階の事実に係るものであることから、令状執行要件に対応します。そして、本問では、下線部①が令状発付要件、下線部②が令状執行要件に対応しています。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

 Pは、同日午後2時頃、甲に対し、再度尿の任意提出を求めたところ、甲は、「しつこいな。出ないんだから仕方がないだろう。」と答えた。また、Pは、この時も、甲に水を飲むよう勧めたが、甲はこれに応じなかった。そこで、Pは、令状を取得し、強制力を用いて甲から尿を採取すること(以下「強制採尿」という。)もやむを得ないと考え、その準備を進め、同日午後4時頃、①強制採尿を実施するための令状の発付を受けた。
 Pは、同日午後4時30分頃、I警察署において、甲に対し、前記令状を示し、採尿のためにI病院への同行を求めたところ、甲は、「分かった。」と言ってこれに応じ、警察車両に乗ってI病院まで移動した。Pは、同日午後5時以降、I病院において、約30分間にわたり、繰り返し、甲に対し、「令状は出ているが、自分で尿を出す気はないか。」などと言って尿を自ら提出するよう求めたが、甲は、「出したくても出ない。」などと答えた。同日午後5時30分頃、Pが「では強制採尿するしかないな。」と言うと、甲は、「出ないと言っているだけで、出さないとは一度も言っていない。待ってくれよ。ひどいじゃないか。」と答えたが、尿を自ら提出することはなかった。
 そこで、Pは、前記令状に基づき、甲に対する強制採尿を実施しようと考え、同病院のY医師に採尿を開始するよう言った。Y医師は、10年間の泌尿器科勤務経験を有する泌尿器科専門医であり、令和2年以降、I警察署からの依頼により、毎年5件程度の強制採尿の実施経験を有していた。甲はY医師の指示に従ってベッドに横たわり、抵抗することはなかったが、Pら警察官8名は、Y医師から、甲が痛みで暴れ、甲の尿道が傷つくこともあり得るため、甲の手足を押さえるよう言われ、甲の両手両足を押さえた。そして、②Pは、前記令状に基づき、Y医師により甲の尿道にカテーテル(導尿管)を挿入させ、膀胱からカテーテルを経由して甲の尿を体外に排出させるなど、合理的かつ安全な方法で甲の尿を採取し、これを押収した。

 (中略)

〔設問1〕

1.下線部①の強制採尿を実施するための令状の種類について論じなさい。その上で、下線部①の令状の発付の要件が満たされていたか否か及び下線部②の行為が適法であったか否かについて、具体的事実を摘示しつつ論じなさい。

(引用終わり)

 なので、いつもはまとめて書いている論証も、分けて書く。

(参考答案より引用。太字強調は筆者。)

2.上記1の令状の発付要件は、被疑事件の重大性、嫌疑の存在、当該証拠の重要性とその取得の必要性、適当な代替手段の不存在等の事情に照らし、犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められることである(前記判例)。

 (中略)

3.強制採尿は、最終的手段として、適切な法律上の手続を経て行うこと、被疑者の身体の安全とその人格の保護のため十分な配慮が施されることが必要である(前記判例)。

(引用終わり)

 ここに気が付けば、下線部②は「必要な処分」(222条1項本文、111条1項前段)の話ではないことも分かるでしょう。このことは、前記判例の当てはめ部分を見れば、よく分かります。本問では甲が暴れていない点が判例の事案と異なることも分かるでしょう。そこは、消極方向として拾うことになります。

(最決昭55・10・23(江南警察署採尿事件)より引用。太字強調は筆者。)

 被疑事件の重大性、嫌疑の存在、当該証拠の重要性とその取得の必要性、適当な代替手段の不存在等の事情に照らし、犯罪の捜査上真にやむをえないと認められる場合には、最終的手段として、適切な法律上の手続を経てこれを行うことも許されてしかるべきであり、ただ、その実施にあたつては、被疑者の身体の安全とその人格の保護のため十分な配慮が施されるべきものと解するのが相当である。

 (中略)

 これを本件についてみるのに、覚せい剤取締法41条の2第1項3号、19条に該当する覚せい剤自己使用の罪は10年以下の懲役刑に処せられる相当重大な犯罪であること、被告人には覚せい剤の自己使用の嫌疑が認められたこと、被告人は犯行を徹底的に否認していたため証拠として被告人の尿を取得する必要性があつたこと、被告人は逮捕後尿の任意提出を頑強に拒み続けていたこと、捜査機関は、従来の捜査実務の例に従い、強制採尿のため、裁判官から身体検査令状及び鑑定処分許可状の発付を受けたこと、被告人は逮捕後33時間経過してもなお尿の任意提出を拒み、他に強制採尿に代わる適当な手段は存在しなかつたこと、捜査機関はやむなく右身体検査令状及び鑑定処分許可状に基づき、医師に採尿を嘱託し、同医師により適切な医学上の配慮の下に合理的かつ安全な方法によつて採尿が実施されたこと、右医師による採尿に対し被告人が激しく抵抗したので数人の警察官が被告人の身体を押えつけたが、右有形力の行使は採尿を安全に実施するにつき必要最小限度のものであつたことが認められ、本件強制採尿の過程は、令状の種類及び形式の点については問題があるけれども、それ以外の点では、法の要求する前記の要件をすべて充足していることが明らかである。

(引用終わり)

 ちなみに、令状発付要件の考慮要素について、仮に全部覚えられなくても、「緊急逮捕と似てる。」くらいは覚えておくべきでした。そうすれば、現場で210条を見て似たようなことを書けたはずです。

(参照条文)刑事訴訟法

210条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、死刑又は無期若しくは長期3年以上の拘禁刑に当たる罪を犯したことを疑うに足りる十分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができる。この場合には、直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならない。逮捕状が発せられないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
2 (略)

(最決昭55・10・23(江南警察署採尿事件)より引用。太字強調は筆者。)

 被疑事件の重大性、嫌疑の存在、当該証拠の重要性とその取得の必要性、適当な代替手段の不存在等の事情に照らし、犯罪の捜査上真にやむをえないと認められる場合には、最終的手段として、適切な法律上の手続を経てこれを行うことも許されてしかるべきであり、ただ、その実施にあたつては、被疑者の身体の安全とその人格の保護のため十分な配慮が施されるべきものと解するのが相当である。

(引用終わり)

3.あとは、猛烈大魔神案件。今年の司法試験の論文で、全科目中一番の大魔神だと思います。ここで事実を書き写すのを怠った人は、法律構成が完全に正しくても、とても低い評価になる。ここを頑張ったかどうかで、はっきり差が付くでしょう。参考答案の太字強調部分はほぼ問題文を書き写しただけの部分です。ここを書き写すことすらできなかった人は、演習を繰り返して、制限時間内に問題文をタイピングしまくる訓練をすべきでしょう。時間に余裕ができたら、気の利いた評価文言を添えていけばよい。前提となる問題文のタイピングすら時間内にできないようでは、評価を付すこともできません。考査委員は、自分でもよく分からないまま、素早いタイピングを法曹に必須の能力として要求しているのでした。

(参考答案より引用。太字強調は筆者。)

2.上記1の令状の発付要件は、被疑事件の重大性、嫌疑の存在、当該証拠の重要性とその取得の必要性、適当な代替手段の不存在等の事情に照らし、犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められる場合であることである(前記判例)。

⑴ 被疑事件は覚醒剤使用で10年以下の拘禁刑(覚醒剤取締法41条の3第1号、19条)の重大犯罪(210条1項前段参照)である。

⑵ Pらは、H県I市内で覚醒剤密売情報に接し、覚醒剤所持で逮捕したXから「私が持っていたこの覚醒剤は~甲から~購入したものの残りだ」との供述を得た。Pは、必要な捜査を行い本件譲渡しにつき覚醒剤譲渡しの被疑事実で甲に対する逮捕状の発付を受けた。甲には覚醒剤所持の前科1犯があった。覚醒剤を入手し得る立場にあると考えて矛盾がない。
 Pらが甲方で甲を上記逮捕状に基づき逮捕した際、Pは、甲の左肘内側に真新しい注射痕様のものがあったこと、頬がこけ、目を見開き、手足が小刻みに震えているなど、甲に覚醒剤常用者特有の様子が見られたことなどから、覚醒剤使用の嫌疑を抱いた。覚醒剤使用を強く推認させる事実があり、Pはこれを現認した。
 午前8時頃から午後0時頃までに、5回にわたり、甲に尿の任意提出を求めたが、甲は応じなかった。この間、Pは、甲に水を飲むよう勧めたが応じず、提供された昼食を食べた際も水を飲まなかった。Pは、午後2時頃、甲に対し、再度尿の任意提出を求めたところ、甲は、「しつこいな。出ないんだから仕方がないだろう」と答えた。また、Pは、この時も、甲に水を飲むよう勧めたが応じなかった(「本件排尿拒否」)。6時間程度にわたり尿が出ないこと、昼食時も含めて一切水を飲まないのは不自然であり、自然排出された尿を採取されると、覚醒剤陽性反応が出てしまうことをおそれたと考えるのが自然である。
 以上から、覚醒剤使用の高度の嫌疑が存在する。

⑶ 覚醒剤使用の立証には尿鑑定が重要である。甲は、「やっていない。何も知らない。覚醒剤とは縁を切っている」と否認した。Pは約6時間もの長時間にわたり自然排出による尿の任意提出を説得した。本件排尿拒否は、一切水を飲まない点などから甲の一貫した意思によるものと考えられ、任意提出はおよそ期待できない。取得の必要性は大きく、適当な代替手段もない。

⑷ 以上から、犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められる。

⑸ よって、下線部①の令状の発付要件は満たされていた。

3.強制採尿は、最終的手段として、適切な法律上の手続を経て行うこと、被疑者の身体の安全とその人格の保護のため十分な配慮が施されることが必要である(前記判例)。

⑴ Pは、午後5時以降、約30分間にわたり、繰り返し、甲に尿を自ら提出するよう求めたが、甲は、「出したくても出ない。」などと答えた。午後5時30分頃、Pが「では強制採尿するしかないな。」と言うと、甲は、「出ないと言っているだけで、出さないとは一度も言っていない。待ってくれよ。ひどいじゃないか。」と答えたが、尿を自ら提出することはなかった。令状発付後の説得はわずか30分程度であり、甲も任意提出の可能性をほのめかす発言をしているが、本件排尿拒否から任意提出しない一貫した意思が認められる以上、甲の上記発言は強制採尿を引き延ばす動機によるものといえ、最終的手段として実施されたと評価できる。

⑵ Pは、下線部①の令状の発付を受け、甲に令状を示し、採尿のための同行を求めたところ、甲は、「分かった」と言って素直に応じた。執行開始までの手続の適法性及び同行の任意性に疑いの余地はない。適切な法律上の手続を経て行われた。

⑶  採取は、合理的かつ安全な方法で行われた。
 確かに、甲はY医師の指示に従ってベッドに横たわり、抵抗することはなかった。それにもかかわらず、Pら警察官8名は、甲の両手両足を押さえた。十分な配慮がないともみえる。
 しかし、抵抗がなくても急に暴れることはあり得る。Pらは、Y医師から、甲が痛みで暴れ、甲の尿道が傷つくこともあり得るため、甲の手足を押さえるよう言われた。Y医師は、10年間の泌尿器科勤務経験を有する泌尿器科専門医であり、令和2年以降、毎年5件程度の強制採尿の実施経験を有していた。急に暴れることで甲の尿道が傷つくのを防ぐための予防的保護措置であり、十分な専門知識・経験ある医師の指示に基づくから、被疑者の身体の安全とその人格の保護のため十分な配慮が施されたと評価できる。

⑷ よって、下線部②の行為は適法であった。

(引用終わり)

 受かりにくい人は、「問題文の書き写しなんて無意味。そんな高校生でもできるような低レベルなことに点が付くはずがない。」などと思って、頑としてやろうとしない。なので、毎年のように、大筋の法律構成は正しいのに、合格点に届かない。そして、高校生でもできるようなことをやれば受かるからこそ、実際に高校生が受かっているのでした。

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