【答案のコンセプト等について】
1.現在の論文式試験においては、基本論点についての規範の明示と事実の摘示に極めて大きな配点があります。①基本論点について、②規範を明示し、③事実を摘示すること。これが、合格するための基本要件であり、合格答案の骨格をなす構成要素といえます。従来、当サイトでは、この①~③に特化した「参考答案(その1)」と、規範の理由付け、事実の評価、応用論点等の肉付けを行うとともに、より正確かつ緻密な論述をした「参考答案(その2)」を示してきました。両者を示すことにより、「規範と事実」で書く答案がどのようなものか、規範の理由付け、事実の評価、応用論点等を書くとすればどうなるか、というイメージが具体化されるとともに、理想を追い求めて、規範の理由付け、事実の評価、応用論点等を書きに行くと、現実には絶対に書けない答案になる、ということも、実感できたのではないかと思います。 当サイトとしては、上記のいわば両極ともいえる答案のイメージを具体化することについては、もう十分に達成できたと考えています。次の段階は、両者の中間に位置する現実的でリーズナブルな合格答案として、どのようなものをイメージすればよいのか。これを具体化することにある。そこで、上記①~③をベースとしつつ、無理なく書ける範囲の現実的でリーズナブルな合格答案を示すこととしました。このことは、今年からCBT方式による実施となることで、文字数の制限をより意識しなければならなくなることからも、意味のあることだろうと思っています。
2.参考答案中の太字強調部分は、『司法試験定義趣旨論証集刑訴法』に準拠した部分です。なお、CBT方式の実施に伴い、判例の事件名の記載を簡略なものにしています(『刑法各論【第2版】(司法試験定義趣旨論証集)』「本書の概要」7項を参照)。
|
【参考答案】 第1.設問1小問1 1.体内に存在する尿を犯罪の証拠物として強制的に採取する行為は、捜索差押えの性質を有するから、捜査機関がこれを実施するには捜索差押許可状を必要とする。ただし、人権の侵害にわたるおそれがある点において、検証の方法としての身体検査と共通の性質を有しているので、身体検査令状に関する218条6項の準用により、医師に医学的に相当と認められる方法により行わせなければならない旨の条件を付することが不可欠である(江南警察署採尿事件)。 2.上記1の令状の発付要件は、被疑事件の重大性、嫌疑の存在、当該証拠の重要性とその取得の必要性、適当な代替手段の不存在等の事情に照らし、犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められることである(前記判例)。 ⑴ 被疑事件は覚醒剤使用で10年以下の拘禁刑(覚醒剤取締法41条の3第1号、19条)の重大犯罪(210条1項前段参照)である。
⑵ Pらは、H県I市内で覚醒剤密売情報に接し、覚醒剤所持で逮捕したXから「私が持っていたこの覚醒剤は~甲から~購入したものの残りだ」との供述を得た。Pは、必要な捜査を行い本件譲渡しにつき覚醒剤譲渡しの被疑事実で甲に対する逮捕状の発付を受けた。甲には覚醒剤所持の前科1犯があった。覚醒剤を入手し得る立場にあると考えて矛盾がない。 ⑶ 覚醒剤使用の立証には尿鑑定が重要である。甲は、「やっていない。何も知らない。覚醒剤とは縁を切っている」と否認した。Pは約6時間もの長時間にわたり自然排出による尿の任意提出を説得した。本件排尿拒否は、一切水を飲まない点などから甲の一貫した意思によるものと考えられ、任意提出はおよそ期待できない。取得の必要性は大きく、適当な代替手段もない。 ⑷ 以上から、犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められる。 ⑸ よって、下線部①の令状の発付要件は満たされていた。 3.強制採尿は、最終的手段として、適切な法律上の手続を経て行うこと、被疑者の身体の安全とその人格の保護のため十分な配慮が施されることが必要である(前記判例)。 ⑴ Pは、午後5時以降、約30分間にわたり、繰り返し、甲に尿を自ら提出するよう求めたが、甲は、「出したくても出ない。」などと答えた。午後5時30分頃、Pが「では強制採尿するしかないな。」と言うと、甲は、「出ないと言っているだけで、出さないとは一度も言っていない。待ってくれよ。ひどいじゃないか。」と答えたが、尿を自ら提出することはなかった。令状発付後の説得はわずか30分程度であり、甲も任意提出の可能性をほのめかす発言をしているが、本件排尿拒否から任意提出しない一貫した意思が認められる以上、甲の上記発言は強制採尿を引き延ばす動機によるものといえ、最終的手段として実施されたと評価できる。 ⑵ Pは、下線部①の令状の発付を受け、甲に令状を示し、採尿のための同行を求めたところ、甲は、「分かった」と言って素直に応じた。執行開始までの手続の適法性及び同行の任意性に疑いの余地はない。適切な法律上の手続を経て行われた。 ⑶ 採取は、合理的かつ安全な方法で行われた。 ⑷ よって、下線部②の行為は適法であった。 第2.設問1小問2 1.通常体内に存在しない異物であるマイクロSDカードの発見を目的として行う作用であるから捜索の性質を有する。したがって、捜索許可状(218条1項前段)を要する。 2.マイクロSDカードが自然に排出されるかの判断は、特別な学識、経験に基づく法則を具体的事実に適用してするから、鑑定の性質を有する。T医師がするCT検査はそのための身体検査であるから、鑑定受託者による鑑定処分(223条1項、168条1項)の性質を有する。したがって、鑑定処分許可状(225条3項)を要する。 3.鑑定処分としての身体検査は直接強制できない(225条4項による172条の不準用)が、捜索許可状に基づく捜索作用としての性質から、当然に直接強制できる。裁判官は適当と認める条件を付することができる(225条4項、168条3項)。 4.よって、下線部③のCT検査を実施するための令状の種類は、捜索許可状及び鑑定処分許可状である。 第3.設問2小問1 1.供述を記録した記録媒体は、専らその記録内容が証拠となる点で証拠書類と同様であるから、証拠書類に関する規定を準用すべきである(290条の3第1項柱書第1括弧書参照)。 2.本件部分はW供述中の乙供述の内容を証拠とするもので、再伝聞証拠である。再伝聞証拠については、通常の伝聞例外要件に加えて、別の伝聞供述部分について324条の要件を満たせば、証拠能力を認めることができる(福原村放火未遂事件)。 ⑴ W供述部分は被告人以外の者の供述録取書(321条1項3号準用)の性質を有する。 ア.供述が機械的に記録された場合には、記録の正確性が確保されているから、署名押印は不要である(犯行被害再現実況見分調書事件、290条の3第1項柱書第1括弧書参照)。本件部分はスマートフォンで機械的に記録されているから、署名押印は不要である。 イ.Wは、令和8年2月に死亡したから、供述不能事由がある。 ウ.乙の体内から発見されたマイクロSDカードの内容を確認できなかった。資料2は甲との共謀を直接推認させるものでない。乙は本件譲渡しについて一貫黙秘した。甲との共謀の立証には本件部分によるほかなく、不可欠性を満たす。 エ.特信情況(321条1項3号ただし書準用)は、供述がなされた外部的事情を基準として判断すべきであるが、外部的事情を推認させる資料として、供述内容を考慮することができる(判例)。 オ.以上から、W供述部分は321条1項3号の要件を満たす。 ⑵ 乙供述部分は被告人の供述録取書の性質を有し、伝聞供述に署名押印は問題とならず、甲との共謀を推認させる不利益事実の承認で、前記⑴エのとおり任意性に疑いはないから、324条1項、322条1項の要件を満たす。 3.よって、本件部分の証拠能力は認められる。 第4.設問2小問2 1.全体 資料2はスマートフォン内の動画データを任意に検証(実況見分)した結果を記載したものであるから、作成者Pの真正作成供述を要する(321条3項・判例)。 2.写真部分 写真は、撮影者の供述を証拠とするものではなく、機械的に撮影された画像の存在又は状態が証拠となるから、非供述証拠(証拠物)である(新宿騒乱事件)。資料2の写真部分は供述を内容としないから、「書面」に当たらず、320条1項の適用を受けない。 3.説明文部分
説明文は、被写体の特定及び添付の動機を明らかにするに過ぎず、作成者Pが体験した事実を再現するものでなく、独立した証拠としての意義もない。したがって、供述証拠でないから、「書面」に当たらず、320条1項の適用を受けない。 以上 |