窃盗は書くけどコンパクトに
(令和8年司法試験論文式刑事系第1問)

1.令和8年司法試験論文式刑事系第1問。設問1は、②行為についての原自行為が最大のメイン論点である。このことは、前回の記事で説明しました(「行為①と行為②は分ける(令和8年司法試験論文式刑事系第1問)」)。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

〔設問1〕 【事例1】における甲及び乙の罪責について論じなさい(刑法第104条の罪、同法第190条の罪及び特別法違反の点は除く。)。なお、論述に際しては、以下の点についても言及すること。

・ ①行為と②行為の関係をどのように把握するか
・ 「行為と責任の同時存在の原則」の意義とその根拠

(引用終わり)

 それに加えて、Aが普通のタイミングで死んでいないので、遅すぎた構成要件の実現も問われていることは明らか。もっとも、死体遺棄罪(190条)が排除されているので、ものすごくメインで問いたいという感じではありません。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

4 ……(略)……Aは、②行為により、頭部及び背部打撲による皮下出血並びに肋骨骨折による胸腔内出血の傷害を負ったほか、脳挫傷の傷害を負い、意識を失ったものの、この時点ではまだ生きていた。また、Aが②行為により負った脳挫傷は、そのまま放置すれば死に至る程度のものであった。……(略)……。

5 ……(略)……Aは、前記スーツケースごとA車に積み込まれた時点では生きていたが、同スーツケースの密閉性が高かったため、前記港に向かう途中の同日午後11時30分頃、同スーツケース内で窒息死した。③行為の際、甲及び乙は、いずれもAが生きていることに気が付くことはなかった。

〔設問1〕 【事例1】における甲及び乙の罪責について論じなさい(刑法第104条の罪、同法第190条の罪及び特別法違反の点は除く。)。なお、論述に際しては、以下の点についても言及すること。

(引用終わり)

 通常、遅すぎた構成要件の実現が問われた場合、死体遺棄罪との錯誤を書きます。これは、後行行為に死体遺棄罪が成立するか、という文脈においてです。本問では死体遺棄罪の成否が問われていない以上、これは書かない。②行為における殺人罪の故意は当然に認められるので、殺人罪との関係で、死体遺棄罪との錯誤を書く余地はありません。

2.ここまでは、誰もが気付くところ。現場では、これに加えて、「A車ってA所有なんだけど、窃盗にならないの?」と気付いた人がそれなりにいたことでしょう。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

1 甲(50歳)、乙(50歳)及びA(49歳)は、B社の同僚であったところ、某年12月20日午後4時頃、忘年会をするため、甲方に集まった。その際、Aは、自らが所有する自動車(以下「A車」という。)を運転して甲方のあるアパートまで行き、同アパートの来客用駐車場にA車を駐車した。

 (中略)

5 乙は、Aが意識を失って動かなくなった様子を見て、Aが死んだものと思い、A車ごとAの死体を燃やして証拠を隠滅しようと考え、甲に対し、「A、死んじまったな。A車でAの死体を港まで運んで、そこでAが焼身自殺したことに見せかけて、A車ごとAの死体を燃やしてしまおう。」と持ち掛けたところ、甲は「分かった。そうしよう。」と言ってこれに応じた。その時点においても、甲は心神耗弱状態であったが、乙は完全責任能力を有していた。
 その後、甲及び乙は、Aを港に運ぶまでの間にその様子を誰かに見られないようにするため、Aを甲所有のスーツケース内に押し込んだ上……(略)……。
 乙は、甲がかなり酔っている様子だったため、自分がA車を運転することとし、甲をA車の助手席に乗せ、同日午後11時20分頃、A車を運転し、甲方から約50キロメートル離れた港まで向かった(以下、Aを前記スーツケース内に押し込み、それをA車に積み込んだ上、A車を運転して走行した行為を「③行為」という。)。前記港までの道中、甲は、酩酊のためA車内で寝ていた。

(引用終わり)

 ここは、Aが徒歩で来て、乙の車で港に向かう設定でも何も問題はなさそう。なのに、わざわざ、A所有の車で移動したことになっています。スーツケースが甲所有とされていることとの対比からも、これは際立つ。この点に関しては、設問2の放火の方で、「ああ、Aが死んだから自己所有になるってことを問いたいのかな。」という感じもする(※1)ところです。
 ※1 多分、考査委員はこれを問うつもりだったのでしょうが、厳密にはAの相続人、特別縁故者(民法958条の2)又は国(同法959条)の所有になりそう(相続財産法人帰属(同法951条)の余地もある。)で、どんな事情でも無主物にはならないような気がします。でも、多分そこは気にしたら負けです。相続人等の有無について問題文に何も書いていないのは、考査委員がその点の意識を欠いていたからだろうと思います。

(『刑法各論【第2版】(司法試験定義趣旨論証集)』より引用。太字強調は筆者。)

・無主物又は所有者の同意のある場合における109条、110条の適用
重要度:B
 目的物の財産権侵害が生じないから、「自己の所有に係るとき」に準じて2項が適用される。

(参照条文)刑法
(非現住建造物等放火)
109条 放火して、現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない建造物、艦船又は鉱坑を焼損した者は、2年以上の有期拘禁刑に処する。
2 前項の物が自己の所有に係るときは、6月以上7年以下の拘禁刑に処する。ただし、公共の危険を生じなかったときは、罰しない。

(建造物等以外放火)
110条 放火して、前2条に規定する物以外の物を焼損し、よって公共の危険を生じさせた者は、1年以上10年以下の拘禁刑に処する。
2 前項の物が自己の所有に係るときは、1年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金に処する。

(引用終わり)

 とはいえ、それだけなのか。遅すぎた構成要件の実現との関係では、現在の通説によれば③行為は介在事情でしかないので、甲が心神耗弱だったのか、道中で寝ていたのか等の事情はあんまり関係なさそう。それなのに、わざわざ書いてあります。仮に、かつてのように、②行為と③行為を1個の行為とみるなら、③行為の行為性や責任能力が問題になり得るので、これらの事情が意味を持ちますが、それを問う感じでもない。しかも、設問では、窃盗罪(235条)は除外されていません。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

〔設問1〕 【事例1】における甲及び乙の罪責について論じなさい(刑法第104条の罪、同法第190条の罪及び特別法違反の点は除く。)。なお、論述に際しては、以下の点についても言及すること。

(引用終わり)

 窃盗罪も解答対象だ、ということは間違いない。けれど、考査委員は窃盗罪を全然想定していなくて、だからわざわざ除外しなかった、という可能性もある。現場では、この辺りで悩んだ人が多かったでしょう。

3.問題文の事実や設問の文言から簡単に判断できないなら、もう少し実質に踏み込んで考えてみる。仮に、窃盗罪が成立し得るとしても、何の問題もなく、単に「窃取」とかを当てはめて終わり、というだけの話なら、敢えて書くほどでもない。落としても、失う配点はたかが知れているでしょう。本問では他に重要なことがたくさんあるのだから、それを優先すべきです。敢えて書くほどでもない犯罪の例として、トイレへの監禁罪や過失の原自行為による過失致死罪があります。Aは甲乙のせいでトイレから出られない状態になったので、Aがトイレに入って出てこれない状態になったことを認識・認容(※2)して以降は、Aの行為を道具にした監禁罪の間接正犯、ないし、その場を離れない不作為による監禁罪が成立し得るでしょう。そして、監禁罪を行為の継続する継続犯とみるなら、甲乙が居眠りしている間は行為性が失われるので監禁罪が中断するのではないか、という話も一応あります。しかし、さすがにこれは重要性が低そう。最後まで書き終わって、時間が余って仕方がないよ、というなら書き足してもよいですが、そんな余裕は普通ないはずです。また、意思実現(故意連続)や二重の故意を否定して故意犯の原自行為を認めなかった場合、それでも3合を超えて焼酎を飲んだのは注意義務違反だから過失の原自行為論に基づいて過失致死罪は成立する、という話も一応あるでしょう。でも、故意の殺人罪を心神耗弱減軽しても過失致死罪より重いのだから、検討する実益はありません。これも、他に優先すべきものを全部書いて、それでも時間が余ったから、昼寝するかどうか迷う、というレベルの状態で初めて書くことを考えるものでしょう。論文は、「理論的に問題になることを思い付いた順に全部書く。」などと考えていると、簡単に時間切れになってしまいます。「時間・紙幅の範囲内で、優先順位の高いものから順に書いていく。」という発想がとても大事です。
 ※2 甲乙はAがトイレから出てきてほしいので、認容はないともみえますが、ここでの認容とは、「Aはトイレから出られないだろうが、それでも構わない。」という意識状態なので、それは認められるでしょう。

 そのような発想で考えてみると、窃盗罪は、意外と重要な論点があることに気が付くでしょう。まず、甲乙はAが死んだと誤信していることから、「主観面で死者の占有を書く。」という平成29年司法試験でも問われたやつがいます。演習慣れしている人なら、「例のアレがまた出たな。」という感じでしょう。遅すぎた構成要件の実現とセットで問われるパターンは、令和5年予備試験と同じです。死んだと誤信した、というシチュエーションが両者で共通するので、セットで出しやすいのですね。

(『刑法各論【第2版】(司法試験定義趣旨論証集)』より引用。太字強調は筆者。)

・☆死者の占有(生前の占有保護の判断基準)
重要度:A
 生前の占有が保護されるかは、被害者から財物の占有を離脱させた自己の行為を利用して財物を奪取したかで判断する(判例)。
 ※ 最判昭41・4・8。
 ※ 上記判例は、「披告人は、当初から財物を領得する意思は有していなかつたが、野外において、人を殺害した後、領得の意思を生じ、右犯行直後、その現場において、被害者が身につけていた時計を奪取したのであつて、このような場合には、被害者が生前有していた財物の所持はその死亡直後においてもなお継続して保護するのが法の目的にかなうものというべきである。そうすると、被害者からその財物の占有を離脱させた自己の行為を利用して右財物を奪取した一連の被告人の行為は、これを全体的に考察して、他人の財物に対する所持を侵害したものというべきであるから、右奪取行為は、占有離脱物横領ではなく、窃盗罪を構成するものと解するのが相当である」と判示している。
 ※ 死者の占有は、錯誤との関係で問われることがある。平成29年司法試験論文式試験出題の趣旨では、「甲と乙がAから財布を奪った時点で、甲と乙はAが死亡したものと認識していたため、窃盗罪の故意に関してAの占有を侵害する認識が認められるかが問題となる。死者の占有について、判例の立場(最判昭和41年4月8日刑集20巻4号207頁(※注:上記最判昭41・4・8を指す。)等)による場合には、「被害者からその財物の占有を離脱させた自己の行為を利用して財物を奪取した」と認められるかを検討しなければならない。そして、Aの占有を侵害する認識を肯定する場合、客観的に窃盗罪の構成要件に該当するのみならず、窃盗罪の故意が認められる。Aの占有を侵害する認識を否定する場合は、Aの財布を占有離脱物と認識していたことになり、客観的には窃盗罪の構成要件に当たるとしても、主観的には占有離脱物横領罪の認識を有しているにすぎないこととなるので、抽象的事実の錯誤であることを指摘し、「構成要件の重なり合い」の有無を論じる必要がある。」と指摘されている。同年の採点実感では、「死者の占有については、多くの答案が判例の立場で論じていた。」、「Aの占有を侵害する認識を否定する場合は、Aの財布を占有離脱物と認識していたことになり、客観的には窃盗罪の構成要件に当たるとしても、主観的には占有離脱物横領罪の認識を有しているにすぎないこととなるので、抽象的事実の錯誤について論じる必要があったが、この点に関しては、問題の所在を指摘した上、窃盗罪と占有離脱物横領罪との構成要件の重なり合いについて簡潔に論じられている答案が多かった。」と指摘されている。
 ※ 死者には占有の意思も事実もないから、「死者の占有」それ自体は認める余地がないことを当然の前提としている。

(引用終わり)

(令和5年司法試験予備試験論文式試験問題と出題趣旨より引用。太字強調は筆者。)

 ⑵では、甲が現金を抜き取ってポケットに入れた行為は窃盗罪の客観的構成要件を充足するが、Xが死亡していると誤信していることから、甲に窃盗罪の故意が認められるかについて、死者の占有を認めるか否かとの関係を明らかにしつつ検討する必要がある。
 また、⑵の殺意をもって行われた第1行為から死亡結果が発生せず、⑶の殺意なく行われた第2行為によって死亡結果が発生した場合(いわゆる遅すぎた構成要件の実現)の殺人既遂罪の成否に関し、問責対象となる行為を特定して各行為の擬律判断(第1行為と死亡結果との因果関係及び因果関係の錯誤並びに第2行為の処理等)を検討する必要がある。

(引用終わり)

 それからもう1つ、甲乙はA車を燃やすつもりだから毀棄罪っぽいけど、証拠隠滅や移動の用途があるので、支払督促正本廃棄事件決定からすれば利用意思がある、という話がありそう(※3)。ちなみに、死者の占有を主観で問い、同時に利用意思を問う、というパターンは、旧司法試験で出題されています。
 ※3 Aを死亡させて奪取しているので、排除意思は問題になりません。

(『刑法各論【第2版】(司法試験定義趣旨論証集)』より引用。太字強調は筆者。)

・☆経済的用法とはいい難い場合の利用意思の肯否
重要度:A
 判例が利用意思を要求する趣旨は、毀棄罪より重い処罰の根拠が利欲犯的性格に求められる点にある。そうだとすると、厳密な意味での経済的用法でなくとも、効用を享受し得る何らかの用途に用いる意思があれば、利用意思を認め得る(支払督促正本廃棄事件)。
 ※ 最決平16・11・30。
 ※ 上記判例は、「本件において、被告人は……(略)……郵便配達員から正規の受送達者を装って債務者あての支払督促正本等を受領することにより、送達が適式にされたものとして支払督促の効力を生じさせ、債務者から督促異議申立ての機会を奪ったまま支払督促の効力を確定させて、債務名義を取得して債務者の財産を差し押さえようとしたものであって、受領した支払督促正本等はそのまま廃棄する意図であった。このように、郵便配達員を欺いて交付を受けた支払督促正本等について、廃棄するだけで外に何らかの用途に利用、処分する意思がなかった場合には、支払督促正本等に対する不法領得の意思を認めることはできないというべきであり、このことは、郵便配達員からの受領行為を財産的利得を得るための手段の一つとして行ったときであっても異ならないと解するのが相当である。」と判示しており、効用を享受し得る何らかの用途に用いる意思があれば利用意思を認める趣旨と理解されている。
 ※ 宝石を盗んで換金する場合のように、経済的用法による利用・処分の意思があるといえる場合には、端的に利用意思を肯定すればよく、敢えて上記論証を書く必要はない。上記論証を書くのは、経済的用法とはいい難く、利用意思の一般論(「不法領得意思の要否」の項目を参照)からは肯定できないとみえる場合である。平成27年司法試験論文式試験問題出題趣旨では、「丙には、甲のかばんをその本来の用法に使用する意思はおろか、何らかの用途に使用する意思もなかった。窃盗罪については、判例上、故意とは別個の書かれざる主観的構成要件要素として、不法領得の意思が必要とされている。そして、判例(大判大4・5・21刑録21輯663頁)は、不法領得の意思の内容につき、「権利者を排除して、他人の物を自己の所有物として、その経済的用法に従い、利用し処分する意思」と解しているところ(近時の判例として最決平16・11・30刑集58巻8号1005頁(※注:支払督促正本廃棄事件を指す。)がある。)、この不法領得の意思の内容をどのように解するのかによって丙の窃盗罪あるいは占有離脱物横領罪の成否が異なることとなるから、不法領得の意思について、その概念を述べるだけでなく、その内容にも踏み込んで論述し、これに丙の意思を当てはめて、丙に不法領得の意思を認めることができるのかを論ずることが肝要である。」と指摘されている。同年の採点実感等に関する意見では、「本問のような事案の場合、不法領得の意思をどのように考えるのかが問題となり得るところであるが、いずれの結論を採るにせよ、近時の判例(最決平16・11・30刑集58巻8号1005頁(※注:支払督促正本廃棄事件を指す。))を踏まえて、説得的に論じることができた答案は評価が高かった。」と指摘されている。
 ※ 利用意思不要説を採用すれば、利用意思の当てはめをせずに結論を出すことができるが、その場合には、判例と異なる説を採る理由を的確に示さなければ、判例の立場から検討した答案と同等には評価されないことがある。平成29年司法試験論文式試験出題の趣旨では、「不法領得の意思について、権利者排除意思と利用処分意思のいずれも必要とする判例の立場……(略)……では……(略)……犯跡隠滅目的に利用処分意思を認める理由が的確に説明されなければならない。他方、不法領得の意思について、不要説又は権利者排除意思のみで足りるとする立場によれば、乙も窃盗罪又は占有離脱物横領罪の構成要件に該当することになるが、その場合は、判例と異なる立場に立つ理由を的確に示す必要がある。」と指摘されている。

(引用終わり)

(昭和63年旧司法試験論文式試験刑法第2問より引用。太字強調は筆者。)

 甲は日頃恨みを抱いていたA女を痛めつけようと考え、夜間路上で待ち伏せした上、手拳で同女の顔面を強打したところ、同女は転倒し、後頭部を路面に打ちつけて失神した。これを見た甲は、同女が死んでしまったものと誤信し、強盗による犯行に見せかけるため、同女のハンドバックを持ち去り、付近の河中に投棄した。甲の罪責を論ぜよ。

(引用終わり)

 死者の占有も利用意思の肯否も、Aランクの重要論点です。これらの論点が正面から問われていたなら、ほとんどの受験生が書いてくる。でも、本問は、ちょっと気付きにくい。しかも、設問の書き振りをみる限り、正面から問う気マンマンという感じもしません。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

〔設問1〕 【事例1】における甲及び乙の罪責について論じなさい(刑法第104条の罪、同法第190条の罪及び特別法違反の点は除く。)。なお、論述に際しては、以下の点についても言及すること。

・ ①行為と②行為の関係をどのように把握するか
・ 「行為と責任の同時存在の原則」の意義とその根拠

(引用終わり)

 ここで、どう考えるか。自分が気付いたなら、他の人も気付いているだろう。他の人も気が付いているのに、書かないのか。「書かないと怖い。」というのが、自然な感覚であろうと思います。自分がそう感じたなら、他の人もそう感じているはず。ならば、他の人もそれなりに書きに来るだろう。ならば、自分も書く。とはいえ、メインという感じはしないのだから、書くけどコンパクトに。そんな結論になるのでしょう。参考答案は、その方針で書いています。

(参考答案より引用。太字強調は筆者。)

4.③行為のうちA車運転走行行為につき甲乙に窃盗罪(235条)の共同正犯は成立するか。

⑴ A車はA所有で「他人の財物」であり、Aの意思に反し事実上の支配を甲乙に移転させたから「窃取」した。

⑵ 甲乙はAが既に死んだと誤信していたが、その誤信を前提としても、甲乙との関係ではAの生前の占有が保護に値する(判例)から、占有侵害の認識があり故意が認められる。
 Aは死亡しており排除意思は問題にならない。証拠隠滅のため燃やすのは経済的用法とはいい難いが、港までの移動手段の用途に用いる意思がある以上(支払督促正本廃棄事件)、利用意思もある。

⑶ 以上から、窃盗罪の共同正犯が成立する。運転開始時に既遂となるから、その後道中で甲が寝ていたことは上記を妨げないが、心神耗弱であったから39条2項の適用がある。

(引用終わり)

 「他人の財物」を書いているときに、「ここの誤信は問題にしなくていいの?」という疑問が浮かんだ人がいたかもしれません。仮に、放火の文脈で、「Aが死んだら無主物になるから自己所有と同じ」という論理が成り立つなら、窃盗の文脈でも甲乙には「他人の物」の認識がないってことになるんじゃねーの?という気がする。けれど、一般に、ここは問題にされていないので、華麗にスルーしておいて構わないでしょう(刑法上の占有は相続を観念しないので、死ぬと占有は消えるけど、所有は相続人とかに移るという想定があるので、普通は問題にしないのでしょうが、それを書いたら放火の方と矛盾しかねません。)。共同正犯の成立には何の疑いもないので、一々当てはめないで、当然の前提にしてしまう(参考答案は、放火の方でも同様の書き方をしています。)。一方で、道中で甲が寝ていたことは、わざわざ書いてあるので軽く触れる。それから、甲は心神耗弱状態なので、それも忘れず軽く書く。ここ、実は「原自行為の射程」とでもいうべきマイナー論点があるところです。すなわち、仮に殺人罪について原自行為の理論によって39条2項の適用を排除したとしても、飲酒時には想定していなかった犯罪である窃盗罪についてまで39条2項の適用が排除されるのか、という、共謀の射程にちょっと似た論点です。間接正犯類似説からは、道具となった被利用者が想定しない犯罪を実現した場合と同じに考えればよく(このように応用が効くところが間接正犯類似説のいいところです。)、例外(責任)モデルからは、因果関係や錯誤の問題として処理するのでしょう(学説の表現で、「因果連関・責任連関の有無を問う。」と言われるものに対応します。)。とはいえ、こんなの多分誰も書かないので、気付いても触れない方がよいでしょう。参考答案は②行為について原自行為の適用を否定していることもあって、全く触れていません。

4.以上の思考を、数分で処理できるか。できないと、時間切れになってしまいやすい。何の訓練もしなくても、先天的に現場で素早く判断できる人は、演習が少なくても早く受かります。そうでない人は、演習を繰り返して、時間内に素早く判断するスキルを身に付けるしかありません。

戻る