昭和51年判例・昭和40年判例相互の理論構造
(令和8年司法試験論文式民事系第3問)

1.令和8年司法試験論文式民事系第3問。設問3の課題1は、書くべき内容をきちんと把握したかどうかで、差が付きそうです。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

11.本件後訴において、Y2は、自分が前訴である本件訴訟において口頭弁論の期日に出頭せず、何らの攻撃防御方法も提出しなかったのは、Y1から「本件訴えについては当方で対処するからY2は何もしなくてよい。」と言われたためであると主張した。そして、「⑴XのY1に対する本件契約の請負代金請求権についてはY1訴訟において請求棄却判決が確定しているから、本件後訴においてY1訴訟の確定判決を援用する。⑵仮に、Y1訴訟の確定判決の援用が認められないとしても、Y1の相殺権の行使により、本件保証契約に基づく保証債務は付従性により消滅するのであるから、そのような相殺による消滅を本件後訴で主張立証することは、Y2訴訟の確定判決の既判力に抵触せず許容される。」と主張した。

 以下は、本件後訴の担当裁判官Jと司法修習生Rとの会話である。

J:確定判決に対する請求異議の訴えは、当該確定判決の内容となっている給付請求権について、同判決の既判力の基準時(事実審の口頭弁論終結時をいう。以下同じ。)後の消滅原因等を主張して、強制執行の不許を求める訴えですが、まず、前記11⑴の主張(以下「主張 ⑴」という。)が認められるかを検討しましょう。Rさん、本件後訴に類似した事案の判例として、何かありますか。

(引用終わり)

 「主張(1)が認められるかを検討しましょう。」と言っているのだから、課題1は主張(1)の当否を答えるのだろう。そう思うのが普通です。しかし、「課題1」の内容を確認すると、そうでないことが分かります。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

J:そうですね。Y2の主張⑴の当否を検討する際には、昭和51年判例を意識する必要があると思います。そこでRさん、既判力による遮断が必要とされる根拠及び正当化される根拠について簡潔に説明した上で、昭和51年判例のような事案において保証人敗訴の判決確定後に主債務者勝訴の判決が確定した場合に、仮に反射効を一般には認めたとしても、保証人が主債務者勝訴の確定判決を援用できないとされる理由を説明してください。これを「課題1」とします。なお、反射効を肯定する場合の法律構成については議論がありますが、昭和51年判例のような事案に関する限り、結論としては、保証人による主債務者勝訴の確定判決の援用を否定する見解が有力だと思いますので、仮に反射効を肯定する場合にどのような法律構成を前提とするかについては、検討する必要はありません。

(引用終わり)

 「事例全然関係ないじゃん。」と思ったなら、筆者もそう思う。前半の「既判力による遮断が必要とされる根拠及び正当化される根拠」は、あまりにも一般論だし、「昭和51年判例のような事案において保証人敗訴の判決確定後に主債務者勝訴の判決が確定した場合に、仮に反射効を一般には認めたとしても、保証人が主債務者勝訴の確定判決を援用できないとされる理由」は、「昭和51年判例のような事案」の話でしかありません。本問の事例関係ない。中身を考えても、要するに前者の既判力の根拠論から考えて保証人敗訴判決の既判力で遮断されるって話だろう。それで終わり。主張(1)は、昭和51年判例と全く同じではないので、昭和51年判例との違いを意識して当否を判断させるのかと思いきや、そうではないのです。ここに気が付いて問われたことにだけ答えたか。ここで、差が付くでしょう。どんなに頑張って主張(1)の当否を答えても、それは余事記載にしかなりません。

2.なぜ、主張(1)の当否を答えさせなかったのか。それは、検討する内容が課題2と重なってしまうからです。そのことは、昭和51年判例を見れば分かります。

(最判昭51・10・21より引用。太字強調は筆者。)

 一般に保証人が、債権者からの保証債務履行請求訴訟において、主債務者勝訴の確定判決を援用することにより保証人勝訴の判決を導きうると解せられるにしても、保証人がすでに保証人敗訴の確定判決を受けているときは、保証人敗訴の判決確定後に主債務者勝訴の判決が確定しても、同判決が保証人敗訴の確定判決の基礎となつた事実審口頭弁論終結の時までに生じた事実を理由としてされている以上、保証人は右主債務者勝訴の確定判決を保証人敗訴の確定判決に対する請求異議の事由にする余地はないものと解すべきである。けだし、保証人が主債務者勝訴の確定判決を援用することが許されるにしても、これは、右確定判決の既判力が保証人に拡張されることに基づくものではないと解すべきであり、また、保証人は、保証人敗訴の確定判決の効力として、その判決の基礎となつた事実審口頭弁論終結の時までに提出できたにもかかわらず提出しなかつた事実に基づいてはもはや債権者の権利を争うことは許されないと解すべきところ、保証人敗訴判決の確定後において主債務者勝訴の確定判決があつても、その勝訴の理由が保証人敗訴判決の基礎となつた事実審口頭弁論の終結後に生じた事由に基づくものでない限り、この主債務者勝訴判決を援用して、保証人敗訴の確定判決に対する請求異議事由とするのを認めることは、実質的には前記保証人敗訴の確定判決の効力により保証人が主張することのできない事実に基づいて再び債権者の権利を争うことを容認するのとなんら異なるところがないといえるからである。

(引用終わり)

 昭和51年判例は、「勝訴の理由が保証人敗訴判決の基礎となつた事実審口頭弁論の終結後に生じた事由に基づくもの」であれば援用を許容する余地を認めていると読める。そうすると、結局のところ、本問において、主張(1)の当否、すなわち、Y1勝訴判決援用の可否は、相殺の主張がY2訴訟の基準時前のものとして既判力と抵触するかどうかで決まりそう。これは、主張(2)の当否の検討とほぼ同じです。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

11.本件後訴において、Y2は、自分が前訴である本件訴訟において口頭弁論の期日に出頭せず、何らの攻撃防御方法も提出しなかったのは、Y1から「本件訴えについては当方で対処するからY2は何もしなくてよい。」と言われたためであると主張した。そして、「⑴XのY1に対する本件契約の請負代金請求権についてはY1訴訟において請求棄却判決が確定しているから、本件後訴においてY1訴訟の確定判決を援用する。⑵仮に、Y1訴訟の確定判決の援用が認められないとしても、Y1の相殺権の行使により、本件保証契約に基づく保証債務は付従性により消滅するのであるから、そのような相殺による消滅を本件後訴で主張立証することは、Y2訴訟の確定判決の既判力に抵触せず許容される。」と主張した。

(引用終わり)

 昭和51年判例は、主債務者勝訴判決の援用について、その判決が基礎とした事実を再度主張して争うのと同じだ、と(勝手に)考えた上で、既判力の一般論を適用して結論を出したものといえます。しかし、判決の「援用」と、そこで理由とされていた事実を後訴で主張することとは、同じではない。この不整合について、百選解説では、「本判決が述べる確定判決の効力とは既判力の遮断効を意味するが、遮断効の対象は攻撃防御方法であるところ、本件の論点は、前訴の攻撃防御方法の再提出の可否ではなく、主債務者勝訴判決確定の事実を請求異議事由とすることの可否であるから、論点と議論が整合していない。」と指摘されています(三木浩一「判批」民事訴訟法判例百選〔第6版〕178頁)。考査委員は、判決の「援用」をいう主張(1)の当否を問うことなく、後訴での事実主張として主張(2)の当否を問うという問い方にすることで、この不整合が顕在化しないように工夫したのでしょう。しかし、受験生が現場でそんなことに気付くはずもない。解いていて違和感がすごかったのではないかと思います。

3.さて、以上のことを理解すると、課題2の意味も理解できます。昭和51年判例によれば、主張(2)の当否は、前訴であるY2訴訟の基準時後の事由か否かによって決まる。そして、主張(2)は、相殺による主債務消滅そのものとみれば基準時後の事由だけれども、民法457条3項の抗弁主張とみれば基準時前に主張する可能性のあった事由といえたのでした。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

J:そうですね。Y2の主張⑵の当否を検討する際には、昭和51年判例とともに、この昭和40年判例との関係も問題となりそうです。そこでRさん、昭和40年判例と本件後訴の事案の異同、及び昭和51年判例と本件後訴の事案の異同を簡潔に整理した上で、主張⑵の当否について検討し、結論を示してください。その際には、訴訟上の相殺の意思表示をしただけでは、実体法上の相殺の効果はまだ生じておらず、Y2としては、相殺による主債務の消滅そのものをY2訴訟の基準時前に主張することはできなかったこと、そのため、Y2は、本件訴訟において、相殺による主債務の消滅を主張することができたわけではないものの、主債務者の有する相殺権を理由として保証債務の履行を拒む可能性(民法第457条第3項)があったことを前提としてください。

(引用終わり)

(参照条文)民法

(主たる債務者について生じた事由の効力)
457条 主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の完成猶予及び更新は、保証人に対しても、その効力を生ずる。
2 (略)
3 主たる債務者が債権者に対して相殺権、取消権又は解除権を有するときは、これらの権利の行使によって主たる債務者がその債務を免れるべき限度において、保証人は、債権者に対して債務の履行を拒むことができる。

 このような「基準時前に主張する可能性はあった」といえる場合について、「でも、実際には期待できないよね。」ということで既判力によって遮断されないとしたのが、昭和40年判例でした(※1)。
 ※1 抗弁の付着に着目する見方もありますが、本問の論理構造の下では副次的要素です。参考答案では、副次的に触れています。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

R:これについては、前訴基準時前にすでに相殺適状にあったにもかかわらず相殺権を行使せずに敗訴した被告が請求異議の訴えを提起した場合に、異議の事由として相殺権の行使の主張を認めた判例(最高裁判所昭和40年4月2日第二小法廷判決・民集19巻3号539頁。以下「昭和40年判例」という。)があります。

(引用終わり)

 ここまで来れば、設問で考慮せよとされていた①の意味が理解できるでしょう。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

J:……(略)……その上で、①本件訴訟においてY2が損害賠償債権の要件を主張立証することが実際上期待できたか……(略)……といった点も考慮するようにしてください。これを「課題2」とします。

(引用終わり)

 「昭和51年判例→Y2訴訟の基準時の前か後か→基準時前に主張する可能性あり→昭和40年判例→主張が期待できたか」という論理の流れ。これが答案上で明示できているかで、差が付くでしょう。参考答案は、その一例です。

(参考答案より引用。太字強調は筆者。)

2 主張⑵の当否

⑴ 訴訟上の相殺の意思表示をしただけでは、実体法上の相殺の効果はまだ生じておらず、Y2としては、相殺による主債務消滅そのものをY2訴訟基準時前に主張することはできなかった。したがって、昭和51年判例のように直ちに前訴既判力と抵触するとはいえない。
 もっとも、本件訴訟において、Y2はY1の相殺権を理由として保証債務の履行を拒む可能性があった。相殺を争う十分な手続保障があったのだから、Y2訴訟確定判決の既判力と抵触するのではないか。
 昭和40年判例は、前訴基準時前に既に相殺適状にあったにもかかわらず相殺権を行使せずに敗訴した被告が請求異議の訴えを提起した場合に、異議事由として相殺権行使の主張を認めた。前訴で相殺する可能性はあったが、自働債権を失い敗訴と同様の結果となるため実際上期待できないこと、相殺は訴訟物とされた請求権に付着する瑕疵とはいえないことが重視されたと考えられる。

ア.本件訴訟において、Y2は自ら相殺するわけではないから、Y2が自働債権を失うことはなく、敗訴と同様の結果とはならない。請負契約不適合に基づく損害賠償請求権を自働債権とする相殺は、請負代金請求権に付着する瑕疵に基づく抗弁である。

イ.確かに、Y2は本件契約の当事者でなく甲の欠陥の有無・原因について容易に知り得ない地位にあったから、本件訴訟においてY2が自ら損害賠償債権の要件を主張立証することは実際上期待できない。
 しかし、本件訴訟において、Y2は、第1回口頭弁論期日に出席した上で、Y1がした相殺主張を援用することができた。相殺主張の援用があれば、裁判所はY2訴訟を分離しなかったと考えられる。通常共同訴訟においても自由心証主義の観点から証拠共通が働くから、Y1の立証活動の結果によって、Y2も勝訴できたはずである。したがって、本件訴訟において、Y1の相殺権を理由とする保証債務履行拒絶の主張立証が実際上期待できなかったとはいえない。

ウ.以上から、Y1の相殺による消滅を本件後訴で主張立証することは、Y2訴訟確定判決の既判力に抵触し、許されない。

(引用終わり)

 多くの人が、「本件訴訟においてY2が損害賠償債権の要件を主張立証することは実際上期待できないから、既判力に抵触しない。」と解答したのではないかと思います。しかし、ここは設問1が伏線になっている。Y2は、自ら損害賠償請求の要件を主張立証しなくても、Y1の主張を援用した上で、Y1の立証活動の結果を証拠共通という形で享受できたのです(※2)。それができなかったのは、Y2が家で寝てたからだろう。だったら、実際上期待できなかったなんて全然いえない。もっとも、ここは、せいぜい上位になるか否かの差でしかないと思います。大きく差が付くのは、上記の昭和51年判例と昭和40年判例相互の理論構造。両者の理論的な位置付けが、答案でどの程度明確になっているかです。参考答案ほど明確でなくても、その片鱗が読み取れるようになっていれば、その程度に応じて評価されるでしょう。
 ※2 主張共通否定説からも、他の共同訴訟人の主張を援用することは広く認めます。ちなみに、主張共通肯定説によれば、Y2は欠席していても主張共通で勝訴できたはずなので、裁判所による弁論の分離こそがY2の手続保障を奪い、敗訴に至らせた諸悪の根源だったことになります。ここの評価は考慮要素③に影響しますが、設問1を蒸し返すようになるので、否定説を前提に、当否に影響しない旨(分離で手続保障を喪失したのでなく、Y2が手続保障を放棄するような態度を示したから分離された。)をあっさり書けばよいのだろうと思います。

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