秘密保護か信頼保護か
(令和8年司法試験論文式民事系第3問)

1.令和8年司法試験論文式民事系第3問。設問2の課題1は、比較考量の判断枠組みを示せたかどうかで、はっきりと差が付くでしょう。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

L3:法第197条第1項第3号の「技術又は職業の秘密」の意義については、「その事項が公開されると、当該技術の有する社会的価値が下落しこれによる活動が困難になるもの又は当該職業に深刻な影響を与え以降その遂行が困難になるものをいう」(最高裁判所平成12年3月10日第一小法廷決定・民集54巻3号1073頁。以下「平成12年判例」という。)とされています。これらの秘密のうち、職業の秘密については、報道関係者の取材源について、上記の意味での職業の秘密に当たる場合でも、そのうち保護に値する秘密についてのみ証言拒絶が認められるとした最高裁判所の決定(最高裁判所平成18年10月3日第三小法廷決定・民集60巻8号2647頁。以下「平成18年判例」という。)があり、また、金融機関が顧客の財務状況、業務状況等について分析、評価した情報について、保護に値する職業の秘密に当たる場合に限り、それが記載された文書の提出を拒絶することができるとした最高裁判所の決定(最高裁判所平成20年11月25日第三小法廷決定・民集62巻10号2507頁。以下「平成20年判例」という。)もあります。そこでQさん、職業の秘密が保護に値する秘密に該当するかどうかについて、平成18年判例及び平成20年判例が示した判断基準を説明してもらえますか。そして、そのような職業の秘密についての判断基準を踏まえて、技術の秘密が問題となっている本件図面等について、保護に値する秘密が記載されていることを理由に、Zが提出を拒むことができるとする方向で立論してみてください。以上を「課題1」とします。

(引用終わり)

(最決平18・10・3より引用。太字強調は筆者。)

 民訴法は,公正な民事裁判の実現を目的として,何人も,証人として証言をすべき義務を負い(同法190条),一定の事由がある場合に限って例外的に証言を拒絶することができる旨定めている(同法196条,197条)。そして,同法197条1項3号は,「職業の秘密に関する事項について尋問を受ける場合」には,証人は,証言を拒むことができると規定している。ここにいう「職業の秘密」とは,その事項が公開されると,当該職業に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になるものをいうと解される(最高裁平成11年(許)第20号同12年3月10日第一小法廷決定・民集54巻3号1073頁参照)。もっとも,ある秘密が上記の意味での職業の秘密に当たる場合においても,そのことから直ちに証言拒絶が認められるものではなく,そのうち保護に値する秘密についてのみ証言拒絶が認められると解すべきである。そして,保護に値する秘密であるかどうかは,秘密の公表によって生ずる不利益と証言の拒絶によって犠牲になる真実発見及び裁判の公正との比較衡量により決せられるというべきである。

(引用終わり)

(最決平20・11・25より引用。太字強調及び※注は筆者。)

 文書提出命令の対象文書に職業の秘密に当たる情報が記載されていても,所持者が民訴法220条4号ハ,197条1項3号に基づき文書の提出を拒絶することができるのは,対象文書に記載された職業の秘密が保護に値する秘密に当たる場合に限られ,当該情報が保護に値する秘密であるかどうかは,その情報の内容,性質,その情報が開示されることにより所持者に与える不利益の内容,程度等と,当該民事事件の内容,性質,当該民事事件の証拠として当該文書を必要とする程度等の諸事情を比較衡量して決すべきものである(最高裁平成18年(許)第19号同年10月3日第三小法廷決定・民集60巻8号2647頁(※注:上記最決平18・10・3を指す。)参照)。

(引用終わり)

 秘密の保護が問題となる場合には、開示の必要性と天秤にかけて決するのでした。これが実は、課題2の方の伏線になっています(後記2参照)。細かい考慮要素はともかくとして、とにかく比較考量の枠組みだけは知っておけよ、というのは、令和5年予備試験憲法でも発せられていた考査委員からのメッセージだったのでした(「考査委員激おこ答案(令和5年予備試験憲法)」。同年の出題趣旨でも、比較考量に係る判示部分のみが引用されています。)。上記の判例を知らなくても、憲法の博多駅事件を想起して、比較考量だろうと気付いた人もいたことでしょう。
 当てはめはちょっとした大魔神案件ですが、書き写すべきポイントは少ない。以前の記事(「入所措置要件の敗者復活戦(令和8年司法試験論文式公法系第2問)」)で説明した方法論を用いれば、以下のような論述例が出力されるでしょう。最低限、この程度は書けないといけません。

【論述例】

 確かに、争点は、甲の修理費用500万円の損害賠償債権の存否に絞られ、同争点に関し、引渡時における甲の欠陥の有無及びその原因が問題となり、Y1は、修理業者とのやり取りから、甲の欠陥の原因は、Zが担う製造工程又はXが担う製造工程のいずれかにある可能性が高いが、そのどちらであるかがまだ判然とはしないと主張した。Y1は、修理業者に欠陥の原因の特定を求めたが、直ちには分からないとして回答を得られなかった。Xに対して、Xが担う製造工程の作業工程表を任意に提出するよう求めたが、Xは提出を拒んだ。本件図面等に記載された情報は、専らXから請け負った甲の製造のためのものである。
 しかし、Zは独自の技術を持つ。Zが担当する製造工程は、部外秘とされているZの他の主力製品の製造工程と共通する部分が多くあるため、同じく部外秘とされていた。
 以上から、開示による所持者の不利益が開示の必要性に優越する。

 とりわけ、Zの他の主力製品と共通するから、これが開示されたら主力製品もダメになる、ということを指摘しているかどうかは、はっきりと差が付くところでしょう。ここは大事なところなので、できれば評価を付したい。参考答案は、その一例です。

(参考答案より引用)

イ.確かに、本件図面等に記載された情報は、専らXから請け負った甲の製造のためのものである。
 しかし、Zの製造工程は、部外秘とされているZの他の主力製品の製造工程と共通する部分が多くあるため、同じく部外秘とされていた。本件図面等が開示されると、他の主力製品に係る技術の有する社会的価値が下落しこれによる活動までも困難になる。他の主力商品の製造が困難になれば、Zの経営基盤そのものを揺るがしかねない。開示による不利益は極めて大きい。

ウ.以上から、開示による所持者の不利益が開示の必要性に優越する。

(引用終わり)

 ここ、問題文の判例は「職業の秘密」に関するものだけど、本件図面等は「技術の秘密」だ、というのがちょっとした注意点で、ここに気付かないで、本件図面等を「職業の秘密」に当たるとしてしまった人は、問題文をきちんと読んでいないとして、評価を落としやすいでしょう。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

L3:……(略)……そこでQさん、職業の秘密が保護に値する秘密に該当するかどうかについて、平成18年判例及び平成20年判例が示した判断基準を説明してもらえますか。そして、そのような職業の秘密についての判断基準を踏まえて、技術の秘密が問題となっている本件図面等について、保護に値する秘密が記載されていることを理由に、Zが提出を拒むことができるとする方向で立論してみてください。以上を「課題1」とします。

(引用終わり)

 この点に気付いていれば、本件図面等は、問題文に記載された平成12年判例の規範のうち、「当該職業に深刻な影響を与え以降その遂行が困難になるもの」の方ではなく、「当該技術の有する社会的価値が下落しこれによる活動が困難になるもの」の方だよね、ということが分かるでしょうし、「職業の秘密」に関する判例の判断枠組みが「技術の秘密」にも妥当する旨を、一言説明した方がいい、と気付くことができる。参考答案は、その一例です。

(参考答案より引用)

1.職業の秘密が保護に値する秘密に該当するかについて平成18年判例・平成20年判例が示した判断基準は、開示による所持者の不利益と開示の必要性の比較考量である。

2⑴ Zの技術は独自のものであるから、本件図面等が公開されると当該技術の有する社会的価値が下落しこれによる活動が困難になるから、本件図面等は技術の秘密に当たる。

⑵ 公開されると活動・遂行が困難になるという共通性から、職業の秘密に関する上記1の判断基準は、技術の秘密にも当てはまる。

(引用終わり)

 それから、本問の事実関係からすれば、甲の欠陥の原因について主張・立証責任を負うのはXになるはずなので、Y1側が開示請求する必要性に乏しい点も指摘すべきだったのだろうと思います。

(参考答案より引用)

ア.確かに、争点は、甲の修理費用500万円の損害賠償債権の存否に絞られ、同争点に関し、引渡時の欠陥の有無・原因が問題となり、Y1は欠陥原因はZの製造工程又はXの製造工程のいずれかにある可能性が高いが、そのどちらであるかが判然としないと主張した。本件図面等からZの製造工程に原因があると分かれば、Zは履行補助者であるから、Xが負担すべきリスクとしてXに免責事由(民法415条1項ただし書)がないことを基礎付ける。Y1は修理業者に欠陥原因の特定を求めたが、直ちには分からないとして回答を得られなかった。Xに対して、Xが担う製造工程の作業工程表を任意に提出するよう求めたが、Xは提出を拒んだ。代替証拠に乏しく、開示の必要性がないとはいえない。
 しかし、甲は、Y1が引渡しを受けた直後から度々不具合を起こしたから、引渡時に甲に欠陥があり、Xに本旨不履行がある(同項本文)ことは容易に認められる。免責事由についてはXが主張・立証責任を負うから、Y1は積極に免責事由不存在の立証活動を行う必要はなく、Y1が本件図面等の開示を求めるべき必要性は低い。

(引用終わり)

 もっとも、ここは気付いた人がほとんどいなかっただろうと思いますから、合否を分けたりするものではないでしょう。結果的に、合否は問題文の重要な事実を書き写したかで決まってしまうのでした。

2.課題2の方は、「法第197条第1項第2号の趣旨と整合しないのではないかという問題もありそうですね。」という部分が最大のヒントになっていました。ここに着目して現場で違いを見出すことができたかで、決定的に差が付くでしょう。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

L3:本件でL1に依頼したのはXですが、弁護士が職務上知り得た事実には依頼者以外の秘密も含まれるという解釈を前提とすると、Qさんが言うとおりですね。ところで法第197条第1項第2号の「黙秘すべきもの」の意義について、最高裁判所の決定ではどのように述べられていますか。

Q:「黙秘すべきもの」とは、「一般に知られていない事実のうち、弁護士等に事務を行うこと等を依頼した本人が、これを秘匿することについて、単に主観的利益だけではなく、客観的にみて保護に値するような利益を有するものをいう」とされています(最高裁判所平成16年11月26日第二小法廷決定・民集58巻8号2393頁。以下「平成16年判例」という。)。

L3:そうですね。この点に関して、平成16年判例がいう保護に値するような利益を有するものへの該当性判断に当たって、本件図面等に記載された情報そのものは技術の秘密に該当することを考慮すると、課題1で検討した保護に値する秘密の該当性判断の基準と同一の基準で判断すべき、という考え方もありそうですね。

Q:確かにそうですね。しかし、そのような考え方によることについては、法第197条第1項第2号の趣旨と整合しないのではないかという問題もありそうですね。

L3:そうですね。そこでQさん、課題1で説明してもらった保護に値する秘密の該当性の判断基準と、平成16年判例の保護に値するような利益を有するものの該当性の判断基準は同一と解すべきか、それとも異なると解すべきかについて、検討してください。その際、法第197条第1項第2号及び同項第3号の趣旨並びにその異同を踏まえてください。これを「課題2」とします。なお、本件図面等の記載が平成16年判例の保護に値するような利益を有するものに該当するかに関する当てはめは不要です。

(引用終わり)

 197条1項の2号と3号を、現場で見比べてみる。

(参照条文)民事訴訟法

(証言拒絶権)
196条 (略)

197条 次に掲げる場合には、証人は、証言を拒むことができる。
 一 (略)
 二 医師、歯科医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、弁理士、弁護人、公証人、宗教、祈祷若しくは祭祀の職にある者又はこれらの職にあった者が職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて尋問を受ける場合
 三 技術又は職業の秘密に関する事項について尋問を受ける場合
2 前項の規定は、証人が黙秘の義務を免除された場合には、適用しない。

 現場で何も気付かなかったのであれば、「どっちも秘密に関するものなんだから、同じ基準でよかろうが。」と開き直るしかない。でも、3号と同じに考えるのは、2号の趣旨に整合しないのでは?と問題文にわざわざ書いてある。ならば、何か違いがあるんだろう。そのような目で両者を比較対照すれば、3号の方は自分の秘密だけど、2号の方は依頼者の秘密だよね、と気付くことができたでしょう。そこに気付いたら、自分の秘密を漏らすのと、他人から預かった秘密を漏らすのとでは、意味が違うよな、ということにも気付きたい。そこまで気付けば、2号は秘密そのものを保護するというよりも、秘密を開示されないという信頼が保護されているんだな、そっか、「例外的に開示されるかも」って思ったら、信頼できないよね、だから開示の必要性と天秤にかけて例外を認める比較考量の枠組みは採れないってことか、と思い付くはず。ここに気付けば、それを端的に言語化すれば、それが解答になります。

(参考答案より引用)

 197条1項3号の趣旨は、証人本人の秘密それ自体の保護にある。これに対し、同項2号の趣旨は、秘密自体の保護でなく、秘密が決して開示されないという依頼者の信頼、ひいては、そのような信頼がなければ存立し得ない同号所定の専門職の存立基盤の保護にある。開示の必要性が高いからといって開示を許容する余地を認めるなら、依頼者の信頼は崩れる。一度崩れた信頼は戻らない。信頼喪失の影響は、当該秘密の関係者だけでなく、当該専門職全体に及ぶ。結果として、当該専門職は存立し得なくなる。このような同号の趣旨を踏まえると、開示の必要性との利益考量ではなく、客観的・類型的に依頼者が開示されないと信頼する秘密であるかによって判断すべきである。
 よって、判断基準は異なる。

(引用終わり)

 「こんなん気付かねーよ。」と思う人もいるでしょうが、短期で受かる人は、「えー現場で考えたら常識で分かるでしょ。」などとヘラヘラ笑いながら答えてくる。短期合格者の強みはここにあるのであって、知識や理解が特に深いわけではありません(※)。この種の現場思考は、先天的にスラスラできるなら問題ありませんが、そうでない人は、普段の演習で意識的に鍛えるしかありません。そのためには、解きっぱなしにするのではなく、現場でどう考えたら気付けるか、着眼点はどこか等を毎回きちんと考えて復習する。これは相応に時間の掛かる作業ですし、やってる最中はなかなか前に進んだ感覚が持てないので、ストレスが溜まるでしょう。それでも、地道に繰り返していくうちに、できなかったことが自然にできるようになっていきます。
 ※ 短期合格者が作成した教材を使っても短期合格できるわけではないのは、ここに理由があるのです。

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