肯定説を知らなくても粘る思考方法
(令和8年司法試験論文式民事系第3問)

1.令和8年司法試験論文式民事系第3問。設問1は、共同訴訟人間の主張共通に関する肯定説と否定説の理解を、共同訴訟人独立の原則の側面から問う。ただそれだけの問題でした。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

 以下は、第 1 回口頭弁論期日終了後にされた、L1と司法修習生Pとの会話である。

P:裁判所が、Y2訴訟につき、第1回口頭弁論期日において、直ちに口頭弁論を分離して、口頭弁論を終結しなかったのは、なぜでしょうか。

L1:Y1訴訟とY2訴訟について実体的に統一した判断をしたかったのかもしれません。ところで、Y2が続行の期日にも欠席した場合においても、Y1とY2について統一的判断をするための理論構成として、どのようなものが考えられますか。

P:本件訴訟の共同訴訟形態は、民事訴訟法(以下「法」という。)第40条の適用を受けない通常共同訴訟であると思いますが、Y1とY2との間で主張共通を肯定する考え方(以下「肯定説」という。)があります。しかし、これを認めることは、弁論主義に反し、許されないのではないでしょうか。

L1:私も、肯定説に立つことには問題があると考えていますが、ここでの中心的な問題点は、弁論主義との関係というよりは、むしろ共同訴訟人独立の原則(法第39条)との関係であると思いますので、この点に焦点を当てて検討しましょう。まず、本件訴訟の共同訴訟形態は通常共同訴訟であるとします。そして、一般的に、肯定説において、主張共通が認められるのがどのような主張であるかを明らかにした上、肯定説を前提とした場合に、前記4(ア)及び(イ)のY1の各主張につき主張共通が認められるかについて検討してください。これを「課題1」とします。次に、主張共通を否定する考え方(以下「否定説」という。)の根拠及び肯定説の問題点について説明してください。その際には、まず、否定説の根拠について、否定説が共同訴訟人独立の原則の趣旨をどのように考えているのかを踏まえつつ、明らかにしてください。さらに、肯定説の問題点について、前記【事例】の事実関係も踏まえつつ、指摘してください。以上を「課題2」とします。なお、課題1及び課題2について、Y1がY2に当然に補助参加したとする構成は採用しないことを前提に検討してください。

P:承知しました。

〔設問1〕

 あなたが司法修習生Pであるとして、L1から与えられた課題1及び課題2について答えなさい。なお、以下に掲げる【事例(続き・その1)】及び【事例(続き・その2)】に記載されている事実関係は考慮しなくてよい。

(引用終わり)

 問題文の事例が関係あるのは、「肯定説を前提とした場合に、前記4(ア)及び(イ)のY1の各主張につき主張共通が認められるか」の部分と、「肯定説の問題点について、前記【事例】の事実関係も踏まえつつ」の部分だけ。いずれも、「当てはめ頑張るます。」という感じではない。なので、知識があれば、それを端的に書いて終わりです。

(参考答案より引用)

第1.設問1課題1

1.肯定説において主張共通が認められるのは、他の共同訴訟人に有利であって、同人が積極に否定しない主張である。

2.肯定説を前提とした場合、(ア)はY2訴訟でも請求原因の自白となるからY2に有利でなく主張共通は認められない。(イ)はY2訴訟においても抗弁となり得るからY2に有利で、Y2は積極に否定しないから、主張共通が認められる。

第2.設問1課題2

1.否定説は、共同訴訟人独立の原則の趣旨を自己に有利な主張を敢えてしない独立性をも含むものと考えるから、たとえ他の共同訴訟人に有利であって、同人が積極に否定しない主張であっても、主張共通は認められない。

2.肯定説を採ると、Y2に擬制自白(159条1項本文、3項本文)が成立すると考えていたXに不意打ちとなる。このように、肯定説には、相手方当事者に不意打ちとなるという問題がある。

(引用終わり)

 肯定説の問題点については、有利か不利かが不明確、というのも定番の批判です(長谷部『民事訴訟法(第4版)』(岩波書店 2024)348頁)。ただ、本問の場合、(ア)は請求原因の自白だからY2にも不利、(イ)はY2との関係でも抗弁となり得るから有利ということが明確です。「前記【事例】の事実関係も踏まえつつ」とされている出題意図からすれば、この点を強調するのは得策ではないでしょう。参考答案でも、この点は触れていません。

2.一般に、論文式試験では、「判例・通説で書くのが基本だから、とりあえず判例・通説だけ覚えておけばヨシ!」というのがセオリーです(※1)。しかし、民事訴訟法だけは違う。敢えて、判例・通説とは異なる立場から検討させようとする問題が、むしろ頻出だったのでした。なので、肯定説を全然知らなかった、という人は、過去問の傾向を踏まえていなかったよね、ということで、学習の姿勢を反省すべきでしょう。
 ※1 刑法については近時、学説の対立を正面から問う設問が出題されるなどの傾向変化の兆しがみられることから、当サイトの『司法試験定義趣旨論証集刑法総論【第2版】』、『刑法各論【第2版】(司法試験定義趣旨論証集)』では、他説の理解や批判を論証化しています。

 とはいえ、本試験の現場で肯定説を知らなかったのなら仕方がない。現状では、予備校等の論証が過去問の傾向を踏まえない自説一辺倒のものになっているためか、大多数の受験生が、「肯定説なんて知らんがな。」という状態だったようです。なので、肯定説を知っていたかどうか、それだけでは、合否は分かれない。合否を分けるのは、ここで一粘りできたかどうかでしょう。あきめたらそこで試合終了です。

3.では、粘るためには、どのように思考すればよかったのか。その方法論を説明しましょう。本問のように事例で出題されている場合は、事例がヒントになる。まずは、馴染みのある否定説を本問の事例に当てはめた場合の帰結を確認してみましょう。そうすると、Y2は準備書面を提出せずに欠席しているので、請求原因全部について擬制自白(159条1項本文、3項本文)が成立して、Xは何もしなくても勝訴できそうだ、ということが確認できます。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

5.他方、XのY2に対する訴え(以下、この訴えに係る訴訟を「Y2訴訟」という。)につき、Y2は訴状、呼出状等の書類の交付送達を受けていたものの、訴訟代理人に委任することなく本件訴訟の第1回口頭弁論期日に出頭せず、答弁書等の準備書面も提出しなかった。

(引用終わり)

(参照条文)民事訴訟法

(自白の擬制)
159条 当事者が口頭弁論において相手方の主張した事実を争うことを明らかにしない場合には、その事実を自白したものとみなす。ただし、弁論の全趣旨により、その事実を争ったものと認めるべきときは、この限りでない。
2 (略)
3 第1項の規定は、当事者が口頭弁論の期日に出頭しない場合について準用する。ただし、その当事者が公示送達による呼出しを受けたものであるときは、この限りでない。

 ちなみに、問題文には、Y1訴訟における請求原因の主張しか記載されていなくて、保証契約の締結などY2に対する請求原因を主張した旨の記載がありません。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

3.Xは、本件契約に基づき、甲を製造してY1に引き渡した。ところが、Y1は、支払期限を経過しても本件契約の請負代金を支払わなかったことから、Xは、弁護士L1に訴訟委任をし、Y1及びY2を共同被告として、Y1に対し本件契約に基づき、Y2に対し本件保証契約に基づき、連帯して500万円を支払うことを求める訴え(以下「本件訴え」という。)を提起し、Y1は、弁護士L2に訴訟委任をした。なお、本件訴えのうち、XのY1に対する訴え(以下、この訴えに係る訴訟を「Y1訴訟」という。)の訴訟物は、請負契約に基づく代金支払請求権であり、Xは訴状において、請求原因として、①XとY1は、本件契約を締結したこと、②Xは、甲を完成したことを主張した。

(引用終わり)

 よく、「問題文に記載されていない事実は常に存在しないと考えるべきだ。」と言う人がいます。その考え方によれば、本問では、「XはY2に対して請求原因を主張していないので、Y2の擬制自白以前に、請求原因の主張立証がないものとして請求を棄却すべきである。」ということになる。そんなのはダメに決まっています。仮に、問題文に記載されていない事実がすべて存在しないとするなら、刑法の問題のほとんどにおいて、「問題文には甲が衣服を着ていたという事実が記載されていないので、甲は全裸であり、公然わいせつ罪が成立する。」ということになってしまうでしょう。問題文に記載されていない事実であっても、存在するものとして解答すべき場合には、存在するものとして解かなければならないのです。本問のように文脈上明らかな場合はよいのですが、そうでない場合は、慎重に判断する必要があるのです。
 そんなわけで、普通に否定説で考えると、Xが主張していたであろう請求原因について全部擬制自白が成立して、Xは何もせずに勝訴するよね、ということになるのでした。

4.否定説の帰結を確認したら、次は、肯定説ではどうなりそうか、考えてみる。普段、肯定説で考えたことがなくても、Y1の主張をそのままY2も主張していたとするとどうか、というように考えれば、想像がつくことでしょう。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

4.本件訴えに係る訴訟(以下「本件訴訟」という。)の第1回口頭弁論期日において、L1は、訴状を陳述し、L2は、「訴状記載の事実のうち、(ア)XとY1が本件契約を締結したこと、Xが甲を完成したことはいずれも認める。しかし、甲は、Y1が引渡しを受けた直後から度々不具合を起こしたため、Y1は、その旨Xに速やかに通知した上、見本市に間に合わせるためにある修理業者に甲の修理等を依頼したところ、甲には、本件契約で合意した性能が備わっておらず、欠陥があることが判明した。そして、(イ)Y1は、甲の修理費用として500万円を支出したので、Xに対して本件契約の不適合責任に基づく同額の損害賠償債権を有しており、これを自働債権として、本件契約に基づく請負代金債権と対当額で相殺する。」と記載された答弁書を陳述し、請求棄却判決を求めた。

(引用終わり)

 Y2が(ア)の主張をそのまましていたら……、と考えたところで、「否定説とおんなしじゃん。」とすぐ気付くでしょう。(ア)は、どうせ自白になるんだから、主張共通を認めても意味ない。では、(イ)の方は、どうか。(イ)は相殺による主債務消滅をいうものですから、それが付従性による保証債務消滅をいうものか、民法457条3項の抗弁をいうものか、という点はともかくとして(※2)、Y2が(イ)をそのまま主張すれば、Y2にとっても抗弁となり得ることは明らかでしょう。
 ※2 このことは設問3で問題文上説明があるので、設問1の解答では触れないのが得策でしょう。

(参照条文)民法

(主たる債務者について生じた事由の効力)
457条 主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の完成猶予及び更新は、保証人に対しても、その効力を生ずる。
2 (略)
3 主たる債務者が債権者に対して相殺権、取消権又は解除権を有するときは、これらの権利の行使によって主たる債務者がその債務を免れるべき限度において、保証人は、債権者に対して債務の履行を拒むことができる。

 ここが否定説と違う。なるほど、肯定説を採れば、Y2は家で寝ていても(イ)を抗弁として主張したことになる、ということか。ここまで理解した上で改めて問題文を見ると、課題1の題意がはっきりするでしょう。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

 以下は、第 1 回口頭弁論期日終了後にされた、L1と司法修習生Pとの会話である。

P:裁判所が、Y2訴訟につき、第1回口頭弁論期日において、直ちに口頭弁論を分離して、口頭弁論を終結しなかったのは、なぜでしょうか。

L1:Y1訴訟とY2訴訟について実体的に統一した判断をしたかったのかもしれません。ところで、Y2が続行の期日にも欠席した場合においても、Y1とY2について統一的判断をするための理論構成として、どのようなものが考えられますか。

P:本件訴訟の共同訴訟形態は、民事訴訟法(以下「法」という。)第40条の適用を受けない通常共同訴訟であると思いますが、Y1とY2との間で主張共通を肯定する考え方(以下「肯定説」という。)があります。しかし、これを認めることは、弁論主義に反し、許されないのではないでしょうか。

L1:私も、肯定説に立つことには問題があると考えていますが、ここでの中心的な問題点は、弁論主義との関係というよりは、むしろ共同訴訟人独立の原則(法第39条)との関係であると思いますので、この点に焦点を当てて検討しましょう。まず、本件訴訟の共同訴訟形態は通常共同訴訟であるとします。そして、一般的に、肯定説において、主張共通が認められるのがどのような主張であるかを明らかにした上、肯定説を前提とした場合に、前記4(ア)及び(イ)のY1の各主張につき主張共通が認められるかについて検討してください。これを「課題1」とします。

(引用終わり)

 「Y1とY2について統一的判断をする」ためには、(イ)について主張共通を認めればよい。「肯定説において、主張共通が認められるのがどのような主張であるか」という問い方から、主張共通が認められる場合と認められない場合があるのだろう。本問では(ア)は主張共通を認める意味ないから、(ア)は主張共通が認められないと考えてもよさそう。こうして、「肯定説を前提とした場合に、前記4(ア)及び(イ)のY1の各主張につき主張共通が認められるか」については、(ア)は認められないが、(イ)は認められる、が正解っぽいぞ、と判断できるでしょう。現場でパニックになって、(ア)に主張共通を認め、(イ)に主張共通を認めなかった答案がそれなりにありそうです。そのような答案は、「それじゃ否定説と変わんないでしょ……」と考査委員から厳しい評価を受けるでしょう。現場で考えてそれを回避できただけでも、考える価値があるというものです。そして、ここまで来れば、「肯定説において、主張共通が認められるのがどのような主張であるか」についても、端的に「他の共同訴訟人にも有利になる場合」というフレーズが浮かんだ人もいたでしょうし、そこまでいかなくても、「本問のように他の共同訴訟人との関係でも抗弁になるような場合」(「ような」を入れることによって汎用性を出すのがポイントです。)とか、「他の共同訴訟人と統一的解決が図られる場合」のような表現は思い付いたでしょう。完全に正しい表現でなくても、パニックになって的外れなことを書いた答案と比較すれば、はっきりと差が付く。このような現場の頑張りは、合否を分けます。

5.さて、課題1がなんとかなれば、課題2もなんとかなる。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

L1:……(略)……次に、主張共通を否定する考え方(以下「否定説」という。)の根拠及び肯定説の問題点について説明してください。その際には、まず、否定説の根拠について、否定説が共同訴訟人独立の原則の趣旨をどのように考えているのかを踏まえつつ、明らかにしてください。さらに、肯定説の問題点について、前記【事例】の事実関係も踏まえつつ、指摘してください。以上を「課題2」とします。なお、課題1及び課題2について、Y1がY2に当然に補助参加したとする構成は採用しないことを前提に検討してください。

P:承知しました。

(引用終わり)

 「否定説が共同訴訟人独立の原則の趣旨をどのように考えているのか」については、肯定説が主張共通を認める場合について、「他の共同訴訟人にも有利になる場合」とか、「本問のように他の共同訴訟人との関係でも抗弁になるような場合」とか、「他の共同訴訟人と統一的解決が図られる場合」のような表現を思い付いていれば、その逆に考えればいい。すなわち、「否定説は、共同訴訟人独立の原則の趣旨を、たとえ有利な場合であっても独立性を維持するものとして考えている。」、「否定説は、共同訴訟人独立の原則の趣旨を、たとえ他の共同訴訟人との関係で抗弁になるような場合であっても独立性を維持するものとして考えている。」、「否定説は、共同訴訟人独立の原則の趣旨を、たとえ他の共同訴訟人と統一的解決が図られる場合であっても独立性を維持するものとして考えている。」とすればいい。パニックになって問いに答えることを忘れて、「否定説が共同訴訟人独立の原則の趣旨をどのように考えているのか」について全く言及しない答案が一定数出るでしょうから、これだけでも、そのような答案には差を付けることができます。
 それから、肯定説の問題点については、さっき確認したこと、すなわち、否定説からはXは何もしなくても勝つる、ということと、肯定説を採ればY2は家で寝ていても(イ)を抗弁として主張したことになる、ということから、「Xからしたら、たまったもんじゃないぞ。」と感じ取れれば、それを民訴用語でなんというか。「あっ不意打ちじゃね?」と気付くでしょう。ここは、否定説の論証の理由付けにされることもあるので、ここだけはすぐ分かった、という人もいたかもしれません。

6.以上のように、設問1は、肯定説を知らなくても、案外なんとかなるところでした。ただ、注意すべきことがある。設問1は、配点が25点しかありません。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

〔第3問〕(配点:100[〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は、25:35:40])
 次の文章を読んで、後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。

(引用終わり)

 設問1で頑張りすぎて、他の設問が時間切れ、なんてことになってはいけない。とりわけ、設問3の配点が40点もあるので、こっちを優先すべきでしょう。なので、設問1で「あっ肯定説知らんわ。」となった時点で、他にサクサク解けるところから先に解く。その上で、余った時間で粘る。この優先順位が重要です。紙媒体だったときは、答案用紙に書く段階で、設問2→設問3→設問1のように書く、という方法論もありましたが、CBT方式になって、そのような変則的な書き方をしなくてよくなりました。設問1は見出しだけ書いておいて、先に設問2、設問3の解答を入力し、それから、設問1を挿入して入力すればいい。このような臨機応変な対応も、演習を通して体得していきたいものです。

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