マイナー論点祭り
(令和8年司法試験論文式民事系第2問)

1.令和8年司法試験論文式民事系第2問。設問2小問2は、209条3項ただし書を指摘できれば概ね合格レベル。設問3は、長期病気療養が解任の正当理由になること(最判昭57・1・21)、招集通知が全然ないのでさすがに決議不存在になる(※)こと(最判昭33・10・3)を書いていれば、概ね合格レベルでしょう。では、それだけかというと、そうではない。
 ※ 知識レベルで不存在の自信がなくても、Fはいきなり500万円の支払を請求していますし、取消訴訟の出訴期間も過ぎているので、これは不存在を前提に給付請求してるってことだな、と気付くべきでしょう。

2.設問2小問2では、主に、丁社が本件定時株主総会で議決権を行使できたのかが問われていました。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

14.令和7年6月30日、甲社の定時株主総会が開催された。この定時株主総会では、丁社を含む、基準日時点の甲社の株主名簿上の株主全員に招集通知が送付され、全員が出席の上、Dを含む甲社の現任の取締役全員を再任する議案が総議決権(15万議決権)の60%(9万議決権)の賛成により可決された(以下「本件定時株主総会決議」という。)。なお、本件定時株主総会決議においては丁社も賛成の議決権を行使していた。

 (中略)

〔設問2〕

 令和元年から甲社の株式を保有する株主であるEは、令和7年7月1日、上記10から14までの事実を知った。
 下記の小問に答えなさい。

〔小問1〕

 (略)

〔小問2〕

 Eは、本件定時株主総会決議の効力を否定するために、どのような訴えを提起し、どのような主張をすることが考えられるか。また、その主張の当否について、論じなさい。

(引用終わり)

 多くの人が、現場で209条3項を発見して、「丁社は悪意だから、議決権を行使できないってことね。」と気が付いたことでしょう。ここははっきり差が付くところで、同項ただし書を指摘できたかどうかは、合否を分けるでしょう。

(参照条文)会社法

(株主となる時期等)
209条 募集株式の引受人は、次の各号に掲げる場合には、当該各号に定める日に、出資の履行をした募集株式の株主となる。
 一 第199条第1項第4号の期日を定めた場合 当該期日
 二 (略)
2 募集株式の引受人は、第213条の2第1項各号に掲げる場合には、当該各号に定める支払……(略)……がされた後でなければ、出資の履行を仮装した募集株式について、株主の権利を行使することができない。
3 前項の募集株式を譲り受けた者は、当該募集株式についての株主の権利を行使することができる。ただし、その者に悪意又は重大な過失があるときは、この限りでない。
4 (略)

(出資の履行を仮装した募集株式の引受人の責任)
213条の2 募集株式の引受人は、次の各号に掲げる場合には、株式会社に対し、当該各号に定める行為をする義務を負う。
 一 第208条第1項の規定による払込みを仮装した場合 払込みを仮装した払込金額の全額の支払
 二 (略)
2 前項の規定により募集株式の引受人の負う義務は、総株主の同意がなければ、免除することができない。

 では、それで終わりかというと、実はそうではない。209条2項、3項の「株主の権利」には議決権のような共益権が含まれるか、というマイナー論点があるのです。
 当サイト作成の『司法試験定義趣旨論証集会社法【第2版】』では、仮装出資に関する規律について、仮装出資が無効原因となる場合であっても無効判決があるまでは新株発行は有効と扱われることから、「無効だけど有効」という不明確な法律関係を明確にする趣旨と捉える立案担当者に近い立場から、一貫した論証を用意していました。他方、学説では、最近、完全有効説の立場も有力になってきていますが、その立場からは、完全に有効なはずなのに、どうして株主権行使が制限されるのか、という観点から、自益権だけでなく共益権も制限される理由を説明すべきでしょう。ちなみに、不存在の場合には209条2項、3項は適用されないとされているので、本件募集株式発行を不存在としながら209条3項ただし書を摘示する答案は、消極に評価されるでしょう。

(『司法試験定義趣旨論証集会社法【第2版】』より引用。太字強調は筆者。)

・新株発行等不存在の場合に仮装出資に係る規律(52条の2、102条3項、4項、102条の2、103条2項、3項、209条2項3項、213条の2、213条の3)は適用されるか
重要度:B
 仮装出資に係る規律の趣旨は、新株発行等に無効原因があっても、無効判決確定時までは有効と扱われる(828条1項2号、3号、839条)ため、その間の法律関係を明確にする点にあるから、不存在の場合には適用がない。
 ※ 法制審議会会社法制部会第21回会議議事録では、「募集株式の不存在の話は全く別で、このルールによって何か新たなものが作り出される話ではないと理解してよろしいですね。」(藤田友敬(東大教授)幹事発言)という質問に対し、立案担当者は、「正に、藤田幹事の御指摘のとおりでございまして、不存在の場合は、それはまた別ということになるという理解でおります。」(坂本三郎(法務省民事局参事官)幹事発言)との回答がなされている。

 (中略)

・仮装出資者の支払・給付義務(52条の2第1項、102条の2第1項、213条の2第1項)の趣旨
重要度:B
 仮装出資者の支払・給付義務の趣旨は、仮装出資が無効でも新株発行等無効判決確定時までは有効と扱われ(828条1項2号、3号、839条)、既存株主から引受人への価値移転が生じることから、本来拠出すべき支払・給付を行わせる点にある。

 (中略)

・仮装出資者の株主権行使制限(52条の2第4項、102条3項、209条2項)の趣旨
重要度:C
 仮装出資者の株主権行使制限の趣旨は、無効判決確定時まで新株発行等が有効と扱われる(828条1項2号、3号、839条)としても、本来拠出すべき支払・給付がないのに株主権の行使を認めるのは相当でない点にある。

 (中略)

・「権利」(52条の2第4項、102条3項、209条2項)には共益権も含むか
重要度:C
 本来拠出すべき支払・給付がないのに会社の経営に参画することは相当でない以上、「権利」(52条の2第4項、102条3項、209条2項)には共益権も含まれる。

 (中略)

・仮装出資者からの譲受人の規律(52条の2第5項、102条4項、209条3項)の趣旨
重要度:C
 仮装出資者からの譲受人の規律の趣旨は、無効原因があっても有効と扱われる(828条1項2号、3号、839条)ため、その間も善意取得できることを明確にして取引安全を保護する点にある。

(引用終わり)

 ここは、「株主の権利」という文言を見て、議決権が含まれるに決まってんじゃん、と考えるのが普通です。現場思考で思い付くようなものではない。普通の予備校等の論証集には多分載っていないので、論証集グルグル派の人も無理だったでしょう。また、普通の基本書にもここまで書いていないので、基本書グルグル派の人も無理だったでしょう。要するに、ここはどうせ誰も書けないので、最高にどうでもいいのです。

3.設問3の決議追認のところは、インスタイル事件祭り。知っていれば、それまでの問題でした。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

18.その後、本件臨時株主総会①については、甲社の総務部の担当者のミスにより、株主に対する招集通知が一切発出されていなかったことが判明した。Gらは、本件臨時株主総会①の開催を決定した取締役会に出席していたことから、Aは長男であるGから本件臨時株主総会①の開催を知らされていたことから、それぞれ招集通知が発出されずとも本件臨時株主総会①に出席することができたが、招集通知について意識しておらず、それが送付されていなかったことにも気付いていなかった。

19.甲社は、改めて臨時株主総会(以下「本件臨時株主総会②」という。)を開催し、Fの解任を追認する決議をすることとした。本件臨時株主総会②は、令和7年4月30日に適法に開催され、本件臨時株主総会①におけるFの取締役解任決議を追認する旨の議案が、定足数を満たした上で賛成多数により可決された。なお、その後、同年6月30日には甲社の定時株主総会が適法に開催されたが、Fを取締役に選任する決議はされていない。

〔設問3〕

 Fは、令和7年7月になって上記 18 及び 19 の事実を知り、甲社に対し、同年2月分以後任期満了までの取締役報酬額に相当する500万円の支払を請求した。Fの立場において考えられる主張及びその主張の当否について、論じなさい。

(引用終わり)

(『司法試験定義趣旨論証集会社法【第2版】』より引用。太字強調は筆者。)

・不存在の決議を追認する株主総会決議の遡及効
重要度:B
 不存在の決議を追認する株主総会決議は、第三者を害さない特段の事情がある場合に限り遡及効を有する(インスタイル事件地裁裁判例参照)。
 ※ 東京地判平23・1・26。
 ※ 上記裁判例は、「本件決議は、法的には不存在であっておよそ株主総会決議とは認められないのであるから、本件追認決議の効力を遡及させることは、これによって第三者の法律関係を害さない等の特段の事情がない限り認めることはできないと解すべきである。」と判示している。

・不存在の決議を追認する株主総会決議の遡及効の理由
重要度:C
 不存在決議の追認は、新たな決議とみなされるにとどまる(民法119条ただし書)からである。

(参照条文)民法119条(無効な行為の追認)
 無効な行為は、追認によっても、その効力を生じない。ただし、当事者がその行為の無効であることを知って追認をしたときは、新たな行為をしたものとみなす。

 ※ 民法119条ただし書の「新たな行為」は原則として将来効しか有しないが、当事者間の合意があれば遡及効を付与することもできる、逆にいえば、不利益を受ける第三者の意思に反して遡及効を認めることはできない、というのが、民法の解釈である。意思無能力無効(民法3条の2)のように、無効とする趣旨が専ら表意者保護にあるとき(取消的無効)は、追認の遡及効を認めても第三者の利益を害することがないので、遡及効が認められるとされる。また、民法119条の「無効な行為」には、不成立の法律行為を含むとされる。不存在決議の追認も、上記法理の延長線上のものとして理解できる。

・不存在とされた取締役解任決議を追認する株主総会決議の遡及効
重要度:C
 不存在とされた取締役解任決議を追認する株主総会決議に遡及効を認めると、不存在とされた決議から追認決議までの間の報酬請求権を一方的に奪うことになり、解任取締役を害することになるから、追認決議の遡及効は認められない(インスタイル事件地裁裁判例参照)。
 ※ 東京地判平23・1・26。
 ※ 上記裁判例は、「本件追認決議に遡及効を認めることは、Xの取締役兼代表取締役の地位の喪失時期に影響を与え、本件追認決議によってXのY会社に対する本件追認決議までの報酬請求権を一方的に奪うことになる。そうだとすれば、本件追認決議に遡及効を認めることはできない」と判示している。

(引用終わり)

 これも、知らないのが普通でしょう(今からでも知りたい人は、ネットですぐ読める文献として、来住野究「判批」法学研究85巻7号(2012年)25~38頁があります。)。ただ、ここに関しては、民法の一般的な理解から、「第三者を害さない場合に限り遡及効が認められる。」という法理を現場で思い付くのは不可能ではなかったでしょう。ここは、現場での頑張りで差が付く。とはいえ、「不存在なんだから追認なんかできるわけなかろうが。」と簡単に切り捨てても、合格レベルには達するだろうと思います。なので、合否というレベルでは、ここも割とどうでもいい。当サイトとしては、そう思っています。

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