会社資金による払込みにフィットさせる
(令和8年司法試験論文式民事系第2問)

1.令和8年司法試験論文式民事系第2問。設問2小問1は、誰もが仮装払込みの論点だ、と気が付いたことでしょう。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

10.甲社は、令和6年 8 月頃、新たに乙株式会社(以下「乙社」という。)と取引を開始しようとしたが、乙社は最低でも資本金が5000万円ある会社とでないと新規の取引をしないとの噂があった。甲社の代表取締役であるDは、乙社に取引を申し込む前に甲社の増資をしようと考え、取引先である丙株式会社(以下「丙社」という。)に5000万円の増資を引き受けてくれるよう申し入れたが、丙社は、財務状況が芳しくなく、5000万円を用意することは難しいと回答した。

11.Dは、乙社との取引を開始するため、何としても増資が成功したことにしたいと考え、丙社及びDの友人が経営する丁株式会社(以下「丁社」という。)に懇請し、次の①から③までについて甲社、丙社及び丁社で合意した上で、甲社が丙社に対して第三者割当ての方法によって募集株式の発行(以下「本件募集株式発行」という。)をすることで5000万円の増資を行うことを計画した。

 ① 甲社は丁社に対して5000万円の融資(以下「本件融資①」という。)をし、丁社はこれによって得た5000万円を丙社に対して融資(以下「本件融資②」という。)をする。
 ② 丙社は、本件融資②によって得た5000万円で、本件募集株式発行における払込みを行う。
 ③ 丁社が丙社から本件融資②による貸付金の返済を受けない限り、甲社は丁社に対して本件融資①による貸付金の返済を求めない。

12.甲社は、本件融資①及び本件募集株式発行について取締役会で承認した上で、令和6年10月1日に開催された甲社の臨時株主総会において、募集株式の数を5万株、募集株式の払込金額を1株1000円、払込期日を同月15日、払込金額全額(5000万円)を資本金とすることなど、本件募集株式発行に係る募集事項を特別決議によって決議した。なお、1株当たりの払込金額1000円は、特に有利な金額ではない。
 本件融資①及び本件融資②は、それぞれ上記 11 のスキームに沿って実行され、丙社は、払込期日である令和6年10月15日、甲社に5000万円を払い込んだ。
 その後、丙社の財務状況には変化はなく、本件融資②の返済はされておらず、当面その見込みもない。また、丁社は、本件融資②についての返済を丙社に求めていない。

(引用終わり)

 「何としても増資が成功したことにしたい」って、実際は増資に成功していないってことじゃないか。①から③までの計画や、「上記11のスキーム」が仮装払込みの手口を意味することは、文脈上明らかです。

2.仮装払込みといえば、例の判例の規範。多くの人が、それを書いたことでしょう。平成22年に出題された際には、この規範を書けるかどうかで大きく差が付いていたのでした。

(『司法試験定義趣旨論証集会社法【第2版】』より引用。太字強調は筆者。)

・仮装払込み該当性の判断基準
重要度:AA
 借入金返済までの期間の長短、払戻金が会社資金として運用された事実の有無、借入金の返済が会社の資金関係に及ぼす影響の有無等を考慮し、実質的に会社資金とする意図がなく、単に払込みの外形を装ったにすぎないかで判断する(判例)。
 ※ 最判昭38・12・6。
 ※ 上記判例は、「訴外D株式会社は資本金200万円全額払込ずみの株式会社として昭和24年11月5日その設立登記を経由したものであるが、被上告人Bは、発起人総代として同じく発起人たるその余の被上告人らから、設立事務一切を委任されて担当し、株式払込については、被上告人Bが主債務者としてその余の被上告人らのため一括して訴外E銀行Gから金200万円を借り受け、その後右金200万円を払込取扱銀行である右銀行支店に株式払込金として一括払い込み、同支店から払込金保管証明書の発行を得て設立登記手続を進め、右手続を終えて会社成立後、同会社は右銀行支店から株金200万円の払戻を受けた上、被上告人Bに右金200万円を貸し付け、同被上告人はこれを同銀行支店に対する前記借入金200万円の債務の弁済にあてたというのであつて、会社成立後前記借入金を返済するまでの期間の長短、右払戻金が会社資金として運用された事実の有無、或は右借入金の返済が会社の資金関係に及ぼす影響の有無等、その如何によつては本件株式の払込が実質的には会社の資金とするの意図なく単に払込の外形を装つたに過ぎないものであり、従つて株式の払込としての効力を有しないものではないかとの疑いがある」と判示している。
 ※ 平成22年新司法試験採点実感等に関する意見では、「最高裁昭和38年12月6日第2小法廷判決(民集17巻12号1633頁)は、払込み後、当該借入金を返済するまでの期間の長短、払込金が会社資金として運用された事実の有無、当該借入金の返済が会社の資金関係に及ぼす影響という三要件により、見せ金に該当するか否かを判断し、見せ金による払込みは効力を有しない旨を判示しており、この判例を引用して解答すべきであるが、この判例に言及している答案はほとんどなかった。もっとも、この判例を引用しないが、三要件に従って見せ金に該当し払込みとしての効力がない旨を論じている答案は相当数存在した。」と指摘されている。市販されている論証等では、同じ判断基準を採用しているものの判例である旨を明示しないものが多い。しかし、上記採点実感からも伺われるとおり、答案上に判例である旨の明示があるか否かは採点に影響すると考えられる。上記論証に限らないことであるが、論証中の「(判例)」の記載は、判例である旨を明示する意味がある。
 ※ 上記採点実感では、「三要件」とされている。しかし、厳密には、各要素が絶対的な要件というわけではなく、各要素を相関的に考慮した上で、実質的に会社資金とする意図がなく、単に払込みの外形を装ったにすぎないと評価できるかによって判断されると考えられることから、上記論証では、それぞれを考慮要素として位置付けている。
 ※ 上記採点実感のように、一般に、上記判示は見せ金該当性の判断基準として紹介されることが多い。もっとも、上記判例は、典型的な見せ金ではなく、預合いと見せ金の中間形態の仮装払込みの事案に関するものである。したがって、典型的な見せ金に限らず、仮装払込み該当性一般について、判断基準として用いることができる。
 ※ 「出資の履行」には、金銭の「払込み」と、現物出資財産の「給付」がある(35条、208条3項)。本論証の判断基準は、直接には金銭の仮装払込みに関するものである。項目の表題を「仮装出資該当性の判断基準」ではなく、「仮装払込み該当性の判断基準」としているのは、そのためである。もっとも、例えば、第三者からの金銭を借り入れて現物出資すべき財産を購入し、その財産を現物出資の給付に充て、給付の効力が生じた後に現物出資財産の価額に相当する金銭を引き出して上記借入金を返済した、というような事案であれば、概ね同じ判断基準が妥当すると考えられる。また、法制審議会会社法制部会第21回会議議事録では、「例えば、現物として振替株式が出資される場合、口座管理機関への振替申請によることになるかと思いますが、振り替えられた株式を更にどこかに振り替えることで引受人に還流させるという形でその給付が仮装されるという場合も、理屈としてはあり得るのではないか」(内田関係官発言)と指摘されている。この場合も、借入金を振替株式に置き換えれば、概ね同じ判断基準が妥当すると考えられる。

(引用終わり)

 上記引用でも触れているとおり、この判例の規範は見せ金に限らず、仮装払込み一般に妥当するものと理解されています(※)。なので、これを答案に書き写すこと自体は間違っていない。ただし、当てはめに入る前に一工夫する必要がありました。
 ※ 菅原貴与志『会社法入門20講』(勁草書房 2021年)31、32頁、岡伸浩『会社法(第2版)』(弘文堂 2023年)113頁。久保田安彦『会社法の学び方』(日本評論社 2018年)175、176頁は、「いわゆる見せ金」の事例とするが、預合いではないことから消去法的に見せ金になると説明しており(注19)、預合い以外の仮装払込み一般に妥当する規範として整理している。弥永真生『リーガルマインド会社法〔第15版〕』(有斐閣 2021年)304、305頁も、「預合い以外の仮装払込み」の項目において、上記判例を一般的な判断基準として引用している。なお、伊藤靖史ほか『会社法〔第5版〕(LEGAL QUEST)』37頁は、「この①から③は,見せ金該当性や払込みの仮装性の判断基準というよりも,当該事案における着眼要素を示したものと捉えられよう」とするが、平成22年出題趣旨・採点実感とは整合しない。

3.設問2小問1で一番差が付くのは、覚えた規範に強引に当てはめにいったか、途中でおかしいと気付いて修正したか、という点でしょう。上記規範のうち、「借入金」や「払戻金」に相当するのは、本問ではどれに当たるのか、それをきちんと考えた人は、「あれあれ?何かおかしいぞ。」と気が付いたはずでした。

(『司法試験定義趣旨論証集会社法【第2版】』より引用。太字強調は筆者。)

・仮装払込み該当性の判断基準
重要度:AA
 借入金返済までの期間の長短、払戻金が会社資金として運用された事実の有無、借入金の返済が会社の資金関係に及ぼす影響の有無等を考慮し、実質的に会社資金とする意図がなく、単に払込みの外形を装ったにすぎないかで判断する(判例)。

(引用終わり)

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

11.Dは、乙社との取引を開始するため、何としても増資が成功したことにしたいと考え、丙社及びDの友人が経営する丁株式会社(以下「丁社」という。)に懇請し、次の①から③までについて甲社、丙社及び丁社で合意した上で、甲社が丙社に対して第三者割当ての方法によって募集株式の発行(以下「本件募集株式発行」という。)をすることで5000万円の増資を行うことを計画した。

 ① 甲社は丁社に対して5000万円の融資(以下「本件融資①」という。)をし、丁社はこれによって得た5000万円を丙社に対して融資(以下「本件融資②」という。)をする。
 ② 丙社は、本件融資②によって得た5000万円で、本件募集株式発行における払込みを行う。
 ③ 丁社が丙社から本件融資②による貸付金の返済を受けない限り、甲社は丁社に対して本件融資①による貸付金の返済を求めない。

12.甲社は、本件融資①及び本件募集株式発行について取締役会で承認した上で、令和6年10月1日に開催された甲社の臨時株主総会において、募集株式の数を5万株、募集株式の払込金額を1株1000円、払込期日を同月15日、払込金額全額(5000万円)を資本金とすることなど、本件募集株式発行に係る募集事項を特別決議によって決議した。なお、1株当たりの払込金額1000円は、特に有利な金額ではない。
 本件融資①及び本件融資②は、それぞれ上記 11 のスキームに沿って実行され、丙社は、払込期日である令和6年10月15日、甲社に5000万円を払い込んだ。

(引用終わり)

 「借入金」は、5000万円のことかなーと思えなくはない。でも、「払戻金」はどこだ。そんなのはどこにもない。そもそも、本問では、丙社の払い込んだ資金は払い戻されていないのです。ここで、さすがに気付かないとマズい。本問は、判例の規範をそのまま強引に当てはめてはいけなかったのでした。

4.判例の規範が素直に当てはまるような典型的な仮装払込みの事案では、増資する会社側の発起人や代表取締役が借入れをして、それを払い込み、その後に会社が払い戻して借入金を返済する、という流れが想定されています。会社側が借りるわけですね。これに対し、本問では、増資する会社の側が貸しています。ここが、全然違う。現場で、このことに気が付いたかどうか。ここに気が付いたなら、覚えている規範の意味を考えて、本問にフィットするように読み替えなければいけません。「借入金返済までの期間の長短」、「払戻金が会社資金として運用された事実の有無」というのは、せっかく払い込まれたお金を、すぐ払い戻して返済に充ててしまったら会社のお金として使えないじゃない、という意味だったよな。会社がお金を貸す場合は、どうか。会社が5000万円貸して、5000万円払い込まれたとしても、会社のお金は全然増えてないってことだよな。ということは、典型的な仮装払込みの場合とはむしろ逆で、早く返済してくれないと、会社資金が増えないということではないか。すなわち、「借入金返済までの期間の長短」、「払戻金が会社資金として運用された事実の有無」という要素は、会社の貸し付けた資金が返済されて会社資金として使えるようになるか否かという要素に対応するのではないか。そこで、改めて問題文を見ると、「返済の見込み」のような表現がフィットしそうなことに気付くでしょう。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

12.甲社は、本件融資①及び本件募集株式発行について取締役会で承認した上で、令和6年10月1日に開催された甲社の臨時株主総会において、募集株式の数を5万株、募集株式の払込金額を1株1000円、払込期日を同月15日、払込金額全額(5000万円)を資本金とすることなど、本件募集株式発行に係る募集事項を特別決議によって決議した。なお、1株当たりの払込金額1000円は、特に有利な金額ではない。
 本件融資①及び本件融資②は、それぞれ上記 11 のスキームに沿って実行され、丙社は、払込期日である令和6年10月15日、甲社に5000万円を払い込んだ。
 その後、丙社の財務状況には変化はなく、本件融資②の返済はされておらず、当面その見込みもない。また、丁社は、本件融資②についての返済を丙社に求めていない。

(引用終わり)

 残りの「借入金の返済が会社の資金関係に及ぼす影響」については、「借入金」の意味がちょっと違うけれど、5000万円が甲社に返済されなかった場合の甲社の資金関係に及ぼす影響のことだと考えれば、そのままで辻褄が合う。なので、ここはこのままでよさそうだ。このような思考過程を経て、参考答案のように書くことができれば、ここは十分な配点を得ることができるでしょう。

(参考答案より引用。太字強調は筆者。)

2.主張の当否

⑴ 仮装払込みかは、借入金返済までの期間の長短、払戻金が会社資金として運用された事実の有無、借入金の返済が会社の資金関係に及ぼす影響の有無等を考慮し、実質的に会社資金とする意図がなく、単に払込みの外形を装ったにすぎないかで判断する(判例)。

ア.判例は会社側借入事案であるが、本件は会社貸付事案であるから、返済期間や払戻金運用に代えて、貸付金の返済見込みを考慮する。
 甲丙丁の合意では、丁社が丙社から本件融資②による貸付金の返済を受けない限り、甲社は丁社に対して本件融資①による貸付金の返済を求めないとされ、その後も丙社は5000万円の用意が難しい財務状況に変化なく、本件融資②の返済はされておらず、当面その見込みもない。また、丁社は、本件融資②についての返済を丙社に求めていない。以上から、本件融資①の返済見込みはない。

(引用終わり)

 上記の点に気付くことなく、ありもしない「払戻金」を強引にあったことにして当てはめるような答案は、考査委員から、「こやつめハハハ」と厳しい評価を受けることになりそうです。参考答案ほどうまくできなくても、上記の点に気が付いて何らかの対処をしていれば、合格レベルに達するでしょう。

5.知識的なことをいえば、本問は、「会社資金による払込み」という類型に属する事例で、最決平17・12・13があるところでした。

(最決平17・12・13より引用。太字強調は筆者。)

 F,L株式会社及びMが払い込んだ分だけE銀において資本が増えて新たに利用できる資産が増加したかのようであるが,その実質をみると,E銀が……(略)……各消費者金融業者又はその関連会社を通じて,F等に対し間接的に融資したものであり,E銀の資金が回り回ってF等に移動しただけであって,本件各払込みは,E銀の資金によりされたものにほかならない。しかも,本件各払込みに際し,E銀は,各消費者金融業者等に対し貸金債権を有することになったとはいえ,その債権は……(略)……F等が各消費者金融業者等に返済しなければ,E銀が各消費者金融業者等に返済を求められないものであり,かつ,F等において各消費者金融業者等に対する債務を弁済する能力がなかったと認められるから,E銀が取得した上記各貸金債権は,実質的な資産と評価することはできない。そうすると,本件各払込みは,いずれも株式の払込みとしての効力を有しないものといわざるを得ず,電磁的公正証書原本不実記録,同供用罪の成立を認めた原判断は正当である。

(引用終わり)

 こんなの、普通の受験生が知っているはずはない。それでも、現場で気が付いて対応できる受験生はいる。何もしていないのに先天的にできる人と、訓練しないとできない人がいます。前者であれば論証グルグルだけでもよいかもしれませんが、後者であれば、事例問題を解きまくって、典型事例と異なる場合の対処法を体得するしかありません。後者の人が、前者の人の合格体験記を読んで真似をしても、同じ結果を得ることはできないのです。論証グルグルだけで受かる人と、そうでない人がいるカラクリは、このようなところにある。当サイトは、そう考えています。

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