みなし承認に気付かなくても粘る
(令和8年司法試験論文式民事系第2問)

1.令和8年司法試験論文式民事系第2問。設問1小問2では、みなし承認、すなわち、145条2号に気が付いたかどうかが、最大のポイントでした。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

5.5年後、Bは転職することにし、甲社を退職した直後、Cとの間で、本件株式を1株1000円でCに譲渡すること(以下「本件譲渡」という。)を合意した。Bは、令和2年8月3日、甲社に対し、本件譲渡を承認すること、及び本件譲渡を承認しない場合には甲社又は甲社の指定する買取人が本件株式を買い取ることを請求した。甲社の取締役会は、同月10日、本件譲渡を承認しないことを決議し、甲社は、同日、Bに対してその旨の通知をしたが、甲社又は甲社の指定する買取人が本件株式を買い取るかについては、Bに対して何らの通知もしなかった。

(引用終わり)

(参照条文)会社法

(株主からの承認の請求)
136条 譲渡制限株式の株主は、その有する譲渡制限株式を他人(当該譲渡制限株式を発行した株式会社を除く。)に譲り渡そうとするときは、当該株式会社に対し、当該他人が当該譲渡制限株式を取得することについて承認をするか否かの決定をすることを請求することができる。

(譲渡等承認請求の方法)
138条 次の各号に掲げる請求(以下この款において「譲渡等承認請求」という。)は、当該各号に定める事項を明らかにしてしなければならない。
 一 第136条の規定による請求 次に掲げる事項
  イ 当該請求をする株主が譲り渡そうとする譲渡制限株式の数(種類株式発行会社にあっては、譲渡制限株式の種類及び種類ごとの数)
  ロ イの譲渡制限株式を譲り受ける者の氏名又は名称
  ハ 株式会社が第136条の承認をしない旨の決定をする場合において、当該株式会社又は第140条第4項に規定する指定買取人がイの譲渡制限株式を買い取ることを請求するときは、その旨
 二 (略)

(譲渡等の承認の決定等)
139条 株式会社が第136条……(略)……の承認をするか否かの決定をするには、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。
2 株式会社は、前項の決定をしたときは、譲渡等承認請求をした者(以下この款において「譲渡等承認請求者」という。)に対し、当該決定の内容を通知しなければならない。

(株式会社又は指定買取人による買取り)
140条 株式会社は、第138条第1号ハ……(略)……の請求を受けた場合において、第136条……(略)……の承認をしない旨の決定をしたときは、当該譲渡等承認請求に係る譲渡制限株式(以下この款において「対象株式」という。)を買い取らなければならない。この場合においては、次に掲げる事項を定めなければならない。
 一、二 (略)
2 前項各号に掲げる事項の決定は、株主総会の決議によらなければならない。
3 (略)
4 第1項の規定にかかわらず、同項に規定する場合には、株式会社は、対象株式の全部又は一部を買い取る者(以下この款において「指定買取人」という。)を指定することができる。
5 前項の規定による指定は、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。

(株式会社による買取りの通知)
141条 株式会社は、前条第1項各号に掲げる事項を決定したときは、譲渡等承認請求者に対し、これらの事項を通知しなければならない。
2~4 (略)

(指定買取人による買取りの通知)
142条 指定買取人は、第140条第4項の規定による指定を受けたときは、譲渡等承認請求者に対し、次に掲げる事項を通知しなければならない。
 一、二 (略)
2~4 (略)

(株式会社が承認をしたとみなされる場合)
145条 次に掲げる場合には、株式会社は、第136条……(略)……の承認をする旨の決定をしたものとみなす。ただし、株式会社と譲渡等承認請求者との合意により別段の定めをしたときは、この限りでない。
 一 株式会社が第136条……(略)……の規定による請求の日から2週間……(略)……以内に第139条第2項の規定による通知をしなかった場合
 二 株式会社が第139条第2項の規定による通知の日から40日……(略)……以内に第141条第1項の規定による通知をしなかった場合(指定買取人が第139条第2項の規定による通知の日から10日……(略)……以内に第142条第1項の規定による通知をした場合を除く。)
 三 (略)

 現場で145条に気が付きさえすれば、1週間後に承認しない旨の通知をしているから同条1号には当たらないけれど、買取りの通知はしなかったのだから、同条2号には該当するよね、というところまでは行き着くでしょう。とはいえ、136条→138条1号ハ→139条→140条1項→141条1項→145条2号と順を追って条文を読んでいかないと、確信を持って判断できないようになっているので、限られた時間の中で手際よく判断するのは、そう簡単ではありません。
 145条は、演習を繰り返していれば、譲渡制限株式関連の事例問題を解いて、その復習をする過程で一度は触れる条文です(※)。仮に、145条自体に触れたことがなくても、演習慣れしていれば、「甲社又は甲社の指定する買取人が本件株式を買い取るかについては、Bに対して何らの通知もしなかった。」という問題文の記載から、「その場合について条文あるんじゃないの?」という発想に至るでしょうから、136条辺りから順番に条文を洗っている過程で、145条に気が付いたことでしょう。
 ※ 平成23年予備試験論文式試験商法でも、145条は直接問われています。事例問題で直接問われていなくても、解説等では言及があることが多いでしょうから、その過程で目にすることになるでしょう。

2.145条2号で譲渡承認したことになる、ということになれば、甲社はCへの名義書換をしなければいけなかったはずで、それを拒んだのは不当拒絶だよね、ということで、後は論証を書いて当てはめれば終わりです。本件訴えではAも被告とされているので、軽くAとの関係にも触れることができれば、加点になるでしょう。参考答案の「甲社が名義書換未了を対抗できない以上、適式な名簿上株主はCとなる。その結果、Aは反射的に株主の地位を失い、Aとの関係でもCが株主となる。」の部分が、これに相当します。ここは、細かいことをいうと色々あるのですが(土田亮「判批」会社法判例百選〔第4版〕31頁)、実戦的にはこれだけでも十分過ぎるくらいでしょう。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

8.甲社は、令和2年10月6日、Bからの名義書換手続の進捗についての問合せに対して、本件株式の株主はAであり、既に株主名簿の名義書換をしていることを理由に、本件請求に応じることはできないと回答した。その回答を知ったCは、甲社及びAを被告として、自らが本件株式の株主であることの確認を求める訴え(以下「本件訴え」という。)を提起した。

(引用終わり)

(参考答案より引用。太字強調は筆者。)

2.Bは、令和2年8月3日、甲社に譲渡承認請求(136条、138条1号)をしたが、甲社は40日以内に甲社又は指定買取人による買取通知(141条1項)をしなかったから、承認したとみなされる(145条2号)。
 したがって、甲社は、BC共同でされた本件請求(133条2項)に応じなければならない(同条1項、134条1号)。

3.130条1項の趣旨は会社の事務処理の便宜にあり、正当な理由なく名義書換に応じない会社が譲受人の名義書換未了を主張することは信義則に反するから、会社は譲受人を株主として扱うことを要する(判例)。
 甲社は、Aへの名義書換を理由に本件請求を拒絶している。しかし、本件請求は令和2年10月1日にされており、同月6日にされた本件取得に係る名義書換請求に先立つから、甲社は本件請求に係る名義書換をしなければならなかった。したがって、本件請求の拒絶に正当な理由はない。甲社は、Cを株主と扱うことを要する。

4.甲社が名義書換未了を対抗できない以上、適式な名簿上株主はCとなる。その結果、Aは反射的に株主の地位を失い、Aとの関係でもCが株主となる。

5.よって、本件訴えに係る請求は認められる。

(引用終わり)

3.さて、145条に気が付かなかった人は、どうなるか。合否は、ここで粘りを見せたかで分かれます。ここ、何の粘りもなく淡白に処理すると、普通に名義書換の先後で結論が出るので、Aが勝って終わりです。こうなってしまっては、土俵を割ってしまう。合格水準には達しないでしょう。この場合、連動して不当拒絶の論点まで落としてしまうからです。
 では、どうすべきか。145条に気が付かなくても、「甲社又は甲社の指定する買取人が本件株式を買い取るかについては、Bに対して何らの通知もしなかった。」という問題文の記載から、「甲社のやってることおかしい。」ということには気が付いたはず。ならば、ここから強引に、「承認しない場合には買取りしないといけないはずなのに、それをしないで名義書換を拒否したから、それは不当拒絶だ。」と言い放って不当拒絶の論点になだれ込むべきでした。これなら、不当拒絶の配点は拾うことができる。この場合、かろうじて俵に足を掛けた状態、合格水準に踏みとどまることができたでしょう。

4.上記のような粘りは、基本書や論証集をグルグルしていても身に付きません。事例問題を解きまくり、解けなかった場合に、復習の過程で、「これはもう少し粘れたな。」と反省をする。これを繰り返すことで、非常事態に陥っても粘る力が身に付いていくのです。問題を解いていても、「あー解けなかった。まあいいや。」と解きっぱなしにしていては、そのような力は身に付きません。演習で犯した過ちを明日の糧にする。それが、とても重要です。

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