同意手続は地味に加点事由
(令和8年司法試験論文式民事系第2問)

1.令和8年司法試験論文式民事系第2問。設問1小問1では、問題文でAB間の個別の合意手続が妙に丁寧に書いてあります。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

3.甲社の従業員であるBは、社内報で本件制度の存在を知り、Aに対して甲社の株式1000株を譲り受けたいと申し出た。Aは、Bに次の①から⑥までの事項が記載された書面(以下「本件書面」という。)を交付し、甲社の株式を譲り受けるためには本件書面の内容についてAと合意し、本件書面の定める手続に従わなければならないと説明した。

 (中略)

4.Bが、本件書面の内容についてAと合意(以下「本件合意」という。)をした上で、署名済みの本件書面及び本件請求書をAに提出したため、Aは、Bに甲社の株式1000株(以下「本件株式」という。)を譲り渡した。BがAからの譲渡により本件株式を取得することは甲社の取締役会により承認され、Bを株主として株主名簿の名義書換がされた。

(引用終わり)

 これを見て、「妙に丁寧だな。じゃあ書き写すか。」、「従業員全員一律の強制じゃないし、Bの真意をきちんと個別に書面で確認しているという意味だから有効方向の要素でしょ。」と考えて答案に書き写した大魔神は、それに応じた加点を得ることができたでしょう。書き写すだけでなく、「適式な合意の手続」のような評価文言を添えることができれば、さらによろしいです。

(大隅健一郎、今井宏『会社法論 上巻〔第3版〕』(有斐閣 1991年)434、435頁より引用。太字強調は筆者。)

 契約内容が株主の投下資本の回収を不当に妨げない合理的なものであるときは、その効力を認めるべきものと考える。……(略)……。しかし、かような有効な契約があるといいうるためには、会社と個々の株主との間に現実に合意がなされることを要するのであって、株式申込証または株券に株式譲渡の制限に関する記載をなし、これに基づき当然に……(略)……株式譲渡の制限に関する契約が成立したものとみなすことはできない。

(引用終わり)

(最判平21・2・17(日経新聞事件)より引用。太字強調は筆者。)

 上告人X2は,本件株式譲渡ルールの存在及び内容を認識した上,昭和39年から同63年にかけて6回にわたり,被上告人Y2から本件株式を含むY1株式合計2740株を1株100円で買い受け,上記各売買に際し,被上告人Y2との間で,本件株式譲渡ルールに従う旨の合意(以下「本件合意」という。)をした。

 (中略)

 被上告会社は,日刊新聞の発行を目的とする株式会社であって,定款で株式の譲渡制限を規定するとともに,日刊新聞法1条に基づき,Y1株式の譲受人を同社の事業に関係ある者に限ると規定し,Y1株式の保有資格を原則として現役の従業員等に限定する社員株主制度を採用しているものである。被上告人Y2における本件株式譲渡ルールは,被上告会社が上記社員株主制度を維持することを前提に,これにより譲渡制限を受けるY1株式を被上告人Y2を通じて円滑に現役の従業員等に承継させるため,株主が個人的理由によりY1株式を売却する必要が生じたときなどには被上告人Y2が額面額でこれを買い戻すこととしたものであって,その内容に合理性がないとはいえない。また,被上告会社は非公開会社であるから,もともとY1株式には市場性がなく,本件株式譲渡ルールは,株主である従業員等が被上告人Y2にY1株式を譲渡する際の価格のみならず,従業員等が被上告人Y2からY1株式を取得する際の価格も額面額とするものであったから,本件株式譲渡ルールに従いY1株式を取得しようとする者としては,将来の譲渡価格が取得価格を下回ることによる損失を被るおそれもない反面,およそ将来の譲渡益を期待し得る状況にもなかったということができる。そして,上告人X2は,上記のような本件株式譲渡ルールの内容を認識した上,自由意思により被上告人Y2から額面額で本件株式を買い受け,本件株式譲渡ルールに従う旨の本件合意をしたものであって,被上告会社の従業員等がY1株式を取得することを事実上強制されていたというような事情はうかがわれない。さらに,被上告会社が,多額の利益を計上しながら特段の事情もないのに一切配当を行うことなくこれをすべて会社内部に留保していたというような事情も見当たらない。
 以上によれば,本件株式譲渡ルールに従う旨の本件合意は,会社法107条及び127条の規定に反するものではなく,公序良俗にも反しないから有効というべきである。

(引用終わり)

(参考答案より引用。太字強調は筆者。)

 本件制度は従業員に一律・強制適用されるのでなく、希望者との個別合意によるもので、Aは、Bに本件書面を交付して本件合意の内容を説明し、Bは署名済みの本件書面及び本件請求書をAに提出しており、適式な合意の手続がとられている。

(引用終わり)

 このような点について、事前知識があった受験生はほとんどいなかったでしょう。それでも、書く人は書く。何もしなくても当然のように気付く人もいれば、そうでない人もいます。訓練しないと気付かない人は、演習を繰り返して体得するしかありません。論証グルグルだけでは、身に付かない能力です。
 気付いただけでは足りない。時間内に書き切るためには、激しくタイピングする必要があります。今年の商法は設問の数が多く、時間内に書き切るのは大変だったでしょう。そんな中でも、激しくタイピングして書き切れる人はいる。そのような大魔神は、上位になりやすいのでした。とはいえ、ここはマイナー要素ですから、合否を分けるようなところではありません。仮に思い付いても、時間内に書き切る自信がなければ、ひとまず見送るべきでしょう。最後まで答案を入力し終わって、時間が余ったなら、書き足せばよい。CBT方式になって、そのような手段をとりやすくなっています。

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