1.令和8年司法試験論文式民事系第2問。設問1小問1は、契約による譲渡制限の論証を覚えていれば、基本的にはそれを書いて当てはめたら終わりです。
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(『司法試験定義趣旨論証集会社法【第2版】』より引用。太字強調は筆者。) ・会社との契約による譲渡制限の有効性 (参照条文) (引用終わり) |
少し注意すべきは、論証をそのまま貼り付けて大丈夫か、という点です。論証を貼り付ける際には、その問題にきちんとフィットしているか、確認する必要がある。本問に関しては、上記論証が会社との契約を念頭に置いている点に注意を要します。本問は、甲社ではなく、Aが契約の相手方になっている。
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(問題文より引用。太字強調は筆者。) 2.創業以来、甲社の代表取締役を務めていたAは、取締役を退任して経営の一線から退く際、従業員に甲社の株式の保有を認めることが甲社への帰属意識を高めることにつながり、かつ、剰余金の配当により勤労意欲の維持・向上も期待できると考え、次の①及び②を内容とする制度(以下「本件制度」という。)を設けることにした。 ① 甲社の従業員は、1株100円で、Aから甲社の株式を譲り受けることができる。 ② 甲社の従業員が退職する際には、①に基づき譲り受けた甲社の株式をAが1株100円で買い戻す。 甲社の取締役を退任したAから本件制度の構想を示された甲社の取締役会は、本件制度に賛同し、甲社は、社内報を通じて本件制度を甲社の従業員に周知すること、Aと甲社の従業員の間で行われる甲社の株式の譲渡及び買戻しに際して必要となる手続を迅速に行うことをAに約束した。 3.甲社の従業員であるBは、社内報で本件制度の存在を知り、Aに対して甲社の株式1000株を譲り受けたいと申し出た。Aは、Bに次の①から⑥までの事項が記載された書面(以下「本件書面」という。)を交付し、甲社の株式を譲り受けるためには本件書面の内容についてAと合意し、本件書面の定める手続に従わなければならないと説明した。 (中略) 4.Bが、本件書面の内容についてAと合意(以下「本件合意」という。)をした上で、署名済みの本件書面及び本件請求書をAに提出したため、Aは、Bに甲社の株式1000株(以下「本件株式」という。)を譲り渡した。BがAからの譲渡により本件株式を取得することは甲社の取締役会により承認され、Bを株主として株主名簿の名義書換がされた。 (引用終わり) |
相手方が会社の場合と、Aの場合とで、論証の内容に変更は必要ないか。会社が相手方になっている場合には、会社が譲渡制限の主体になるから、107条2項、108条2項、127条違反の問題がよりダイレクトに出やすいだろう。でも、会社が相手方でない場合も、自由な譲渡が制約を受けるという余地はあるのだから、同じ問題は生じ得る。異なるのは、公序良俗違反になりやすいか否かというところだろう。だとすれば、それは当てはめの問題だ。このような思考過程を経て、基本的には上記論証そのままの規範で大丈夫だ、と判断することになるわけです(※1)。ただ、出だしの「会社と株主との間で」の部分は、「契約による譲渡制限は」に変えておく。参考答案は、そのように書いています。
※1 実際にも、会社が直接当事者であるか否かは裁判例において特に意識されていないとされます(前田雅弘「判批」会社法判例百選〔第4版〕40頁)。
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(参考答案より引用) 契約による譲渡制限は債権的な効力を有するにすぎないから、107条2項、108条2項、127条には反しないが、公序良俗に反するときは無効(民法90条)である(判例)。 (引用終わり) |
ここは、覚えていなくても、「契約なんだから、公序良俗で行けばよくね?」という発想で、同様の規範を思い付くことは不可能ではなかったでしょう。とはいえ、ちょっと不安が残るところ。できれば、ここは覚えていたかったかな、と思います。上記論証がBランクになっているのも、頻出とまではいえないし、現場でなんとかできないこともないけれど、覚えておいたら心強いよね、という考慮が基礎になっています。
2.当てはめで、最も重要なポイントは、判例はキャピタルゲインが得られない場合でも、投下資本回収の機会が制約されていなければ無効にはしていなかったよね、という点を踏まえているかです。
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(『司法試験定義趣旨論証集会社法【第2版】』より引用。太字強調は筆者。) ・会社との契約による譲渡制限の有効性 (中略) ※ 最判平7・4・25。最判平21・2・17。 (引用終わり) |
本問では、取得価格と譲渡価格がいずれも100円なのでキャピタルゲインは得られませんが、株式を手放したければいつでもAに100円で買い取ってもらえるので、投下した1株100円はきちんと返ってくるようになっています。
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(問題文より引用。太字強調は筆者。) 3.甲社の従業員であるBは、社内報で本件制度の存在を知り、Aに対して甲社の株式1000株を譲り受けたいと申し出た。Aは、Bに次の①から⑥までの事項が記載された書面(以下「本件書面」という。)を交付し、甲社の株式を譲り受けるためには本件書面の内容についてAと合意し、本件書面の定める手続に従わなければならないと説明した。 ① 本件制度の目的は、従業員の甲社への帰属意識を高め、かつ、その勤労意欲の維持・向上を図ることである。 ② Bが本件制度に基づき1株100円で甲社の株式を譲り受けるためには、本件書面の内容に同意し、「本件書面の内容に同意します。」と自署して署名をした上で、本件書面をAに提出しなければならない。 ③ Bは、甲社からの退職を停止条件として、本件制度に基づき譲り受けた甲社の株式をAに1株100円で譲り渡す。 ④ Bは、本件制度に基づき譲り受けた甲社の株式の譲渡を希望する場合には、Aに1株100円で譲り渡し、A以外の者に譲り渡すことはしない。 ⑤ Bは、本件書面に付属している様式を利用して、「Bは、Aと共同して、AがBから甲社の株式を譲り受けることを甲社は承認すること、AがBから譲渡により取得した甲社の株式について株主名簿の名義をBからAに書き換えることを甲社に請求する。」旨が記載された「譲渡承認・株主名簿名義書換請求書」(以下「本件請求書」という。)を作成し、署名をした上で、本件書面と同時にAに提出しなければならない。 ⑥ Bは、Aが、Bの署名済みの本件書面及び本件請求書を甲社に提示して、③又は④に基づきAがBから買い戻す甲社の株式について、甲社に譲渡承認請求及び株主名簿の名義書換請求をすることに同意する。 (引用終わり) |
他に本問固有のヤバそうな条項は特に見当たらないので、判例をベースにすれば適法っぽい、と判断すべきでした。キャピタルゲインが得られないから即公序良俗違反、というような当てはめをした人は、判例を踏まえていないものとして、低く評価されやすいでしょう。ちなみに、基本書等には、「キャピタルゲインが得られない場合には、配当性向が100%でないと違法の疑いがある。」などと余計なことが書いてあるものがあります(例えば、前田雅弘「判批」会社法判例百選〔第4版〕41頁)。それをなんとなく覚えていて、「本問は配当性向が100%でないから公序良俗違反だ。」と書いてしまった人もいるかもしれません。でも、本問では配当性向を確定できる要素が問題文にありません。
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(問題文より引用。太字強調は筆者。) 2.創業以来、甲社の代表取締役を務めていたAは、取締役を退任して経営の一線から退く際、従業員に甲社の株式の保有を認めることが甲社への帰属意識を高めることにつながり、かつ、剰余金の配当により勤労意欲の維持・向上も期待できると考え、次の①及び②を内容とする制度(以下「本件制度」という。)を設けることにした。 (中略) 9.……(略)……また、甲社は、毎年、1株当たり10円の剰余金の配当をしていた。さらに、Aは、この間、甲社の従業員が本件制度に基づき譲り受けた甲社の株式の売却を希望する場合には、1株100円で買い戻していた。 (引用終わり) |
「1株100円で取得して1株10円の剰余金だから、配当性向10%でしょ。」と思った人は、配当性向の意味を誤解しています。配当性向とは、ざっくり言えば、企業の利益の何%を配当として株主に還元したか、という指標です。株式の時価や取得価格の何%か、ではない。本問では、甲社の当期純利益などの指標が問題文に記載されていないので、配当性向を確定することはできません。剰余金配当は本件合意時に既に予定されていた事実ですから(※2)、これを有効方向の要素として使うのは適切ですが、配当性向の問題とするのは誤りなのです。
※2 これに対し、1株1000円の払込金額で募集株式発行を行ったことは、本件合意時には全く予定されていない事実ですから、正面から考慮するのは適切とはいえないでしょう。
3.そもそも、「キャピタルゲインが得られない場合には、配当性向が100%でないと違法の疑いがある。」というのは、どのような意味なのか。例えば、ある企業が、1億円の利益をあげたとしましょう。その企業の発行済株式総数は、1億株である。この場合、1株1円の配当をすれば、1億円の利益全部を株主に還元しているので、配当性向100%です。この場合、企業の資産は1円も増えないので、理論上、企業の資産価値は変動しない。株価は1株当たりの会社資産を反映するものであると考えるなら、理論上は、配当性向100%である限り、どんなに利益をあげても株価は上がらない。なので、キャピタルゲインが全く得られなくても問題ない。すなわち、配当性向100%なら、キャピタルゲインを得るのと同視できるのです。「キャピタルゲインが得られない場合には、配当性向が100%でないと違法の疑いがある。」などという学説は、基本的には「キャピタルゲインを得られないとアウト」という判例と異なる見解に立ちつつ、「配当性向100%の場合には、キャピタルゲインを得るのと同視できるからセーフ」と考えているわけですね。ここまで考えれば分かるとおり、これは判例を踏まえた考え方ではない。判例の立場に立つといいながら、配当性向を問題にするような答案は、論理の一貫性という意味でも、低く評価されやすいでしょう。