【答案のコンセプト等について】
1.現在の論文式試験においては、基本論点についての規範の明示と事実の摘示に極めて大きな配点があります。①基本論点について、②規範を明示し、③事実を摘示すること。これが、合格するための基本要件であり、合格答案の骨格をなす構成要素といえます。従来、当サイトでは、この①~③に特化した「参考答案(その1)」と、規範の理由付け、事実の評価、応用論点等の肉付けを行うとともに、より正確かつ緻密な論述をした「参考答案(その2)」を示してきました。両者を示すことにより、「規範と事実」で書く答案がどのようなものか、規範の理由付け、事実の評価、応用論点等を書くとすればどうなるか、というイメージが具体化されるとともに、理想を追い求めて、規範の理由付け、事実の評価、応用論点等を書きに行くと、現実には絶対に書けない答案になる、ということも、実感できたのではないかと思います。 当サイトとしては、上記のいわば両極ともいえる答案のイメージを具体化することについては、もう十分に達成できたと考えています。次の段階は、両者の中間に位置する現実的でリーズナブルな合格答案として、どのようなものをイメージすればよいのか。これを具体化することにある。そこで、上記①~③をベースとしつつ、無理なく書ける範囲の現実的でリーズナブルな合格答案を示すこととしました。このことは、今年からCBT方式による実施となることで、文字数の制限をより意識しなければならなくなることからも、意味のあることだろうと思っています。
2.参考答案中の太字強調部分は、『司法試験定義趣旨論証集会社法【第2版】』に準拠した部分です。なお、CBT方式の実施に伴い、判例の事件名の記載を簡略なものにしています(『刑法各論【第2版】(司法試験定義趣旨論証集)』「本書の概要」7項を参照)。
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【参考答案】 第1.設問1小問1 1.Cの主張 本件合意は無効であるから、これに基づく本件取得は無効である。 2.当否 契約による譲渡制限は債権的な効力を有するにすぎないから、107条2項、108条2項、127条には反しないが、公序良俗に反するときは無効(民法90条)である(判例)。 ⑴ 確かに、取得価格と譲渡価格が100円と同一で(本件書面②③④)、Bはキャピタルゲインを取得できない。 ⑵ しかし、取得価格と同額の買取りが保障されており、キャピタルロスも生じないから、一方的に不利なわけではない。そもそも、本件制度の目的は、従業員の甲社への帰属意識を高め、かつ、その勤労意欲の維持・向上を図ることにあり(同①)、投資目的でない。甲社は非公開会社で株式流通は予定されていない。退職前であってもAに譲渡でき(同④)、投下資本を回収できる。本件制度の構想において、勤労意欲の維持・向上のため剰余金配当が予定されており、現に、甲社は、毎年、1株当たり10円の剰余金の配当をしていたから、Bは年利10%の高利を得た。本件制度は従業員に一律・強制適用されるのでなく、希望者との個別合意によるもので、Aは、Bに本件書面を交付して本件合意の内容を説明し、Bは署名済みの本件書面及び本件請求書をAに提出しており、適式な合意の手続がとられている。 ⑶ 以上から、公序良俗に反するとはいえない。本件合意は有効である。 ⑷ よって、Cの主張は正当でない。 第2.設問1小問2 1.本件譲渡は本件合意に反するが、本件合意は債権的効力を有するにすぎないから、本件譲渡は有効である。
2.Bは、令和2年8月3日、甲社に譲渡承認請求(136条、138条1号ハ)をしたが、甲社は不承認通知から40日以内に甲社又は指定買取人による買取通知(141条1項)をしなかったから、承認したとみなされる(145条2号)。 3.130条1項の趣旨は会社の事務処理の便宜にあり、正当な理由なく名義書換に応じない会社が譲受人の名義書換未了を主張することは信義則に反するから、会社は譲受人を株主として扱うことを要する(判例)。 4.甲社が名義書換未了を対抗できない以上、適式な名簿上株主はCとなる。その結果、Aは反射的に株主の地位を失い、Aとの関係でもCが株主となる。 5.よって、本件訴えに係る請求は認められる。 第3.設問2小問1 1.訴え・主張 令和7年7月1日現在、本件募集株式発行の効力発生日(209条1項1号)である令和6年10月15日から1年以内(828条1項2号括弧書)である。Eは甲社株主であり「株主等」(同条2項1号括弧書)に当たる(同項2号)。Eは、新株発行無効の訴えを提起し、丙社の払込みは仮装払込みとして無効であるから、本件募集株式発行には無効原因があると主張することが考えられる。 2.主張の当否 ⑴ 仮装払込みかは、借入金返済までの期間の長短、払戻金が会社資金として運用された事実の有無、借入金の返済が会社の資金関係に及ぼす影響の有無等を考慮し、実質的に会社資金とする意図がなく、単に払込みの外形を装ったにすぎないかで判断する(判例)。 ア.判例は会社側借入事案であるが、本件は会社貸付事案であるから、返済期間や払戻金運用に代えて、貸付金の返済見込みを考慮する。 イ.甲社の当初資本金は1000万円で本件融資①の額は5000万円で、その5倍である。会社の資金関係に及ぼす影響は大きい。 ウ.上記アイを考慮すると、丙社の払込みは、本件融資①②を経由して甲社資金を循環させただけで、実質的に会社資金とする意図がなく、単に払込みの外形を装ったにすぎないといえる。 エ.以上から、丙社の払込みは仮装払込みであり、会社の事業資金は何ら確保されない以上、無効である(判例)。 ⑵ 仮装払込みによる新株発行につき、引受担保責任を根拠に有効とする旧商法下の判例があるが、会社法では引受担保責任が廃止されており、先例とはいえない。出資は株式の本質要素である(208条5項)から、無効原因(828条1項2号)となる。ただし、発行等の実体すらないときは、不存在である。 ⑶ よって、Eの主張は正当である。 第4.設問2小問2 1.訴え・主張 令和7年7月1日現在、本件定時株主総会決議の日(同年6月30日)から3か月以内で、Eは甲社株主で「株主等」である(831条1項前段)。Eは、株主総会決議取消しの訴えを提起し、丁社の議決権行使は決議方法の法令違反(同項1号)に当たると主張することが考えられる。 2.主張の当否 ⑴ 仮装出資者の支払・給付義務(213条の2第1項)の趣旨は仮装出資が無効でも新株発行等無効判決確定時までは有効と扱われ(828条1項2号、3号、839条)、既存株主から引受人への価値移転が生じることから、本来拠出すべき支払・給付を行わせる点にあり、株主権行使制限(209条2項)の趣旨は本来拠出すべき支払・給付がないのに株主権の行使を認めるのは相当でない点にある。本来拠出すべき支払・給付がないのに会社の経営に参画することは相当でない以上、「権利」(同項)には共益権も含まれる。善意取得(同条3項本文)しない譲受人は上記仮装出資者の地位を承継する(同項ただし書)から、同項の「権利」も同様である。 ⑵ 丁社の議決権行使がなければ、出席株主議決権10万中賛成4万で過半数(341条)に達しない。「決議に影響を及ぼさない」といえず、裁量棄却(831条2項)の余地はない。 ⑶ よって、Eの主張は正当である。 第5.設問3 1.Fの主張 ⑴ 解任に「正当な理由」(339条2項)がない。 ⑵ 本件臨時株主総会①決議は不存在で、不存在決議の追認はできないから本件臨時株主総会②決議は無効(830条2項)である。 2.当否 ⑴ 解任理由は病気長期療養で客観的で明確な業務遂行障害事由であり、経営判断失敗のような評価を要する事由でないから、「正当な理由」に当たる。前記1⑴の主張は正当でない。 ⑵ア.決議不存在(830条1項)とは、手続的瑕疵が著しいために、決議が法律上存在するとは認められないことをいう。 イ.不存在決議を追認する株主総会決議は、第三者を害さない特段の事情がある場合に限り遡及効を有するところ、不存在とされた取締役解任決議を追認する株主総会決議に遡及効を認めると、不存在とされた決議から追認決議までの間の報酬請求権を一方的に奪うことになり、解任取締役を害することになるから、追認決議の遡及効は認められない(インスタイル事件)。 ウ.そうすると、Fは令和7年4月30日まで取締役の地位にあったから、Fは、甲社に対し、同年2月から4月まで3か月分300万円の報酬を請求できる。 エ.以上から、前記1⑵の主張は、上記ウの限度で正当である。 以上 |