成立要件は書かない
(令和8年司法試験論文式民事系第1問)

1.令和8年司法試験論文式民事系第1問。設問1、設問2にそれぞれ2つの小問があり、いずれも、小問⑴は論点主義丸出しの知識問題。小問⑵は現場思考型の問題という感じでした。設問2⑵については、まず、解答すべき対象を正しく認識することができたかで、差が付きそうです。

2.設問2⑵で問われているのは、「下線部㋐のAの請求がどのような範囲で認められるか」です。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

〔設問2⑵〕

 【事実Ⅲ-1】及び【事実Ⅲ-2】を前提として、次の問いに答えなさい。
 下線部㋐のAの請求がどのような範囲で認められるかについて、下線部㋑のBの反論の当否も検討しつつ、金額を示して論じなさい。なお、Aによる損害賠償請求に関して、遅延賠償については論じなくてよい。

(引用終わり)

 「下線部㋐のAの請求は認められるか。認められるとすれば、どのような範囲で認められるか。」ではない。
 しかも、「金額を示して」とわざわざ書いてあります。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

〔設問2⑵〕

 【事実Ⅲ-1】及び【事実Ⅲ-2】を前提として、次の問いに答えなさい。
 下線部㋐のAの請求がどのような範囲で認められるかについて、下線部㋑のBの反論の当否も検討しつつ、金額を示して論じなさい。なお、Aによる損害賠償請求に関して、遅延賠償については論じなくてよい。

(引用終わり)

 「下線部㋑のBの反論の当否も検討しつつ」とあるので、念のため下線部㋑を見ておきます。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

9.令和8年12月2日、㋐Aは、Bに対し、Bの債務不履行による損害の賠償を請求した。これに対して、㋑Bは、「令和8年10月1日の時点において本件工事①の一部が完成しており、Bは、その報酬の支払をAに請求することができるので、その限りにおいて相殺をする。」と反論した。

(引用終わり)

 下線部㋑は、下線部㋐の損害賠償請求権が発生することを前提に、相殺で金額を減らすぞ、というものです。これも、範囲・金額の話であって、損害賠償請求の成立の問題ではないことが分かります。

3.以上のことから、設問2⑵は、「損害賠償請求の成立は当然の前提にして、賠償範囲、とりわけ、賠償の額について論じてよね。」という趣旨であることを読み取るべきでした。参考答案が成立要件に全く触れていないのは、そのためです。下線部㋐のAの請求は追完に代わる損害賠償請求なので、解除権発生が成立要件になるか、等の論点もありますが(『司法試験定義趣旨論証集債権総論・契約総論』「追完に代わる損害賠償に415条2項の要件を要するか」の項目を参照)、そんなの書いてはいけません。

4.成立要件に全然配点がないかといえば、多少はあるかもしれない、と思います。なぜかというと、メインである損害範囲論が結構難しいからです。ここが的外れで、全然点が付かない答案が続出する可能性がある。そのような答案について、救済的に、前提である415条1項の要件の当てはめに点を与える、ということもなくはなさそうです。なので、損害範囲で何を書いていいか全然分からない、という人は、敗者復活戦的に成立要件を書く、という戦略があり得るでしょう(「設問1の敗者復活戦(令和8年司法試験論文式公法系第2問)」)。また、メインの損害範囲を書いても、まだ時間と解答スペースが余ったよ、という猛者なら、後から成立要件の当てはめを追記するというのもアリかもしれません。CBT方式になって、それが容易になりました。とはいえ、まずはメインの損害範囲だけを書く。この見極めが大切です。

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