1.令和8年司法試験論文式民事系第1問。設問1、設問2にそれぞれ2つの小問があり、いずれも、小問⑴は論点主義丸出しの知識問題。小問⑵は現場思考型の問題という感じでした。設問2⑴については、請負人帰属説を前提に、注文者・元請人間の出来形注文者帰属合意が下請人との関係でも効力を有するか、という論点さえ書ければ終わり。基本的には、それだけの問題でした。
2.【事実Ⅲ-1】は、注文者・元請人間における出来形注文者帰属合意の下請人に対する効力が問題となる典型事例で、設問2⑴は、出来形所有権の帰属しか聞いていません。
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(問題文より引用。太字強調は筆者。) 【事実Ⅲ-1】 1.令和8年3月3日、Aは、建築業者Bとの間で、A所有の土地の上にAの自宅用建物を建築する工事(以下「本件工事①」という。)を報酬1000万円でBに請け負わせる契約(以下「本件契約①」という。)を締結した。本件契約①では、報酬について、契約締結日に400万円を、引渡日に残額の600万円をそれぞれ支払うこと、引渡日を同年9月1日とすること、及び本件契約①が解除された場合に出来形部分の所有権をAに帰属させることが合意された。同年3月3日、Aは、Bに対し、本件契約①に従い、400万円を支払った。 2.令和8年3月3日、Bは、工務店を営むCとの間で、本件工事①の全てを報酬800万円でCに請け負わせる契約(以下「本件契約②」という。)を締結した。本件契約②の締結に先立ち、Bは、本件工事①の全てをCに請け負わせることについて、Aから書面による承諾を得ていた。また、Cは、本件契約②の内容が、Bの請け負った本件工事①を一括して請け負うものであることを知っていた。本件契約②では、報酬について、契約締結日に200万円を、同年6月15日に200万円を、引渡日に残額の400万円をそれぞれ支払うこと、及び引渡日を同年9月1日とすることが合意された。他方において、本件契約②が解除された場合における出来形部分の所有権の帰属に関する特段の合意はされなかった。同年3月3日、Bは、Cに対し、本件契約②に従い、200万円を支払い、Cは、本件工事①に着手した。 3.Cは、本件工事①に必要な材料の全部を自ら調達し、計画通りに工事を進めた。しかし、令和8年5月末頃、Bの資金繰りが悪化し、同年6月15日に行われるはずであったBのCに対する200万円の支払が行われなかったため、Cは、同年7月1日、工事を停止した。結局、同年9月1日までに本件工事①は完成せず、同日が経過した。 4.令和8年9月2日、Aは、Bに対し、同月末日までに本件工事①を完成させて、完成した建物をAに引き渡すよう求めた。しかし、同月2日以降も本件工事①が進むことはなく、同月末日までに本件工事①は完成しなかった。同年10月1日、Aは、Bに対し、本件契約① を解除する旨の意思表示をした。 5.令和8年10月1日の時点において、Cが築造した出来形部分(以下「本件出来形」という。)は、独立の不動産となっており、Aに引き渡されていない。 6.本件出来形の引渡しによってAが受けるべき利益は、本件工事①が完成したとすればAが受けたであろう利益の6割に相当するものであった。 〔設問2⑴〕 【事実Ⅲ-1】を前提として、次の問いに答えなさい。 (引用終わり) |
留置権とか、先取特権とか、償金請求とか、敷地利用権とか、面倒なことは何一つ聞くつもりがない。これはもう、見るからに出来形注文者帰属合意の下請人に対する効力を問うだけの単一論点問題です。
3.なので、後はもう、最判平5・10・19を論証化して覚えていましたか、という話になります。ちなみに、下記判示中において、履行補助者「的立場」という表現が用いられているのは、履行補助者概念が本来は債務不履行における帰責事由の判断において用いられる概念だからだろうとされています( 曽野裕夫「判批」民法判例百選Ⅱ〔第9版〕122頁)。
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(最判平5・10・19より引用。太字強調は筆者。) 建物建築工事請負契約において、注文者と元請負人との間に、契約が中途で解除された際の出来形部分の所有権は注文者に帰属する旨の約定がある場合に、当該契約が中途で解除されたときは、元請負人から一括して当該工事を請け負った下請負人が自ら材料を提供して出来形部分を築造したとしても、注文者と下請負人との間に格別の合意があるなど特段の事情のない限り、当該出来形部分の所有権は注文者に帰属すると解するのが相当である。けだし、建物建築工事を元請負人から一括下請負の形で請け負う下請契約は、その性質上元請契約の存在及び内容を前提とし、元請負人の債務を履行することを目的とするものであるから、下請負人は、注文者との関係では、元請負人のいわば履行補助者的立場に立つものにすぎず、注文者のためにする建物建築工事に関して、元請負人と異なる権利関係を主張し得る立場にはないからである。 (引用終わり) |
多くの人が、以下のような論証を用意していたことでしょう。
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【論証例】 契約は当事者以外の者を拘束しないのが原則であるが、一括下請において、下請人は履行補助者的立場に立つにすぎず、独立の権利主張をなし得る地位にないから、注文者・元請人間に出来形所有権注文者帰属の合意がある場合には、注文者・下請負人間に特約があるなど特段の事情のない限り、出来形所有権は注文者に帰属する(判例)。 |
本問は、当てはめで頑張るような要素があまりないので、ここは理由も書いた方がいい。ただ、1つ、留意すべきことがあります。それは、設問で、「反対の立場の論拠にも触れつつ」とされている点です。
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(問題文より引用。太字強調は筆者。) 〔設問2⑴〕 【事実Ⅲ-1】を前提として、次の問いに答えなさい。 (引用終わり) |
このような場合は、従来の論証に一工夫すればよかったのでした(「いつもの論証に一工夫する(令和8年司法試験論文式公法系第1問)」)。ここでは、「契約は当事者以外の者を拘束しないのが原則であるが」の部分を、反対の立場の論拠にしてしまえばいい。当サイトの参考答案は、そのように一工夫加えた論述の一例です。
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(参考答案より引用。太字強調は筆者。) 契約は当事者以外の者を拘束しないのが原則であるとして、注文者・元請人間の合意があっても、下請人に対して効力を生じないとの立場があり得る。 (引用終わり) |
4.上記の論点は、請負人帰属説を当然の前提としています。請負人帰属説と注文者帰属説の対立は有名論点なので、理由付けを含めて覚えていた論証を答案に書いた人もいたことだろうと思います。また、設問の「反対の立場」として注文者帰属説を挙げた人もいたことでしょう。しかし、それは得策とはいえなかったのではないか、と思います。なぜかというと、請負人帰属説と注文者帰属説の対立は、所有権帰属について特約がない場合の問題だからです。令和元年司法試験では、まさにその点が問われたのでした。
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(令和元年司法試験論文式試験出題趣旨より引用。太字強調は筆者。) 建物新築請負契約の当事者間に所有権の帰属についての合意があれば,契約自由の原則により,その合意に従って所有権の帰属が決定されることとなる。これに対し,その合意がない場合における新築建物の引渡し前の所有権の帰属については,いわゆる請負人帰属説と注文者帰属説とがあり,これについて論ずる必要がある。前記の判例は請負人帰属説に立っていると理解されているが,その規律内容を知識として有しているだけではなく,根拠を正確に理解していることが求められる。請負人帰属説と注文者帰属説のいずれの立場によっても構わないが,自己の採用した立場から一貫性のある法律構成をすることが必要である。 (引用終わり) (令和元年司法試験採点実感より引用。太字強調は筆者。) 設問1において論ずべき事項は,大別して,①建物の敷地からの独立性と建物新築請負契約の当事者間に建物所有権の帰属についての合意があればその合意に従って帰属が決定されること,②①の合意がない場合における新築建物の引渡し前の所有権の帰属,③請負人が建物を占有している中での所有者(注文者)の土地工作物責任の成否であり,②においては,請負人帰属説に立つ場合における原則と例外則,注文者帰属説に立つ場合のその理由と判例批判が内容となる。 (引用終わり) |
本問は注文者と請負人(元請人)の間に注文者帰属合意があることは明らかで、その効力が下請人にも及ぶかという点だけが問題になっているわけですから、請負人帰属説と注文者帰属説を対立する見解として掲げるのは不適切なのです。請負人帰属説の理由付けに触れるのであれば、それはメイン論点である下請人との関係の理由付けにおいてです。その例として、最判平5・10・19における可部恒雄補足意見を紹介しましょう。
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(最判平5・10・19における可部恒雄補足意見より引用。太字強調は筆者。) 一 本件は、注文者甲と元請負人乙及び下請負人丙とがある場合に、乙が倒産したときは甲丙間の法律関係はどのようなものとして理解さるべきか、との論点が中心となる事案で、請負関係について実務上しばしば遭遇する典型的事例の一つであり、本件において下請負人丙(被上告人)の請求を排斥した第一審判決を取り消した上これを認容すべきものとした原判決の理由中に、右甲乙丙三者間の法律関係につき特段の言及をした説示が見られるので、法廷意見に補足して、私の考えるところを述べておくこととしたい。 二 原判決は、その理由の三の1において、上告人甲と乙との間の元請契約には、甲は工事途中で右契約を解除することができ、その場合乙が施工した出来形部分の所有権は甲に帰属する旨の条項が設けられ、その後、右契約は解除されたが、右特約条項は注文者甲と元請負人乙との間の約定であって、下請負人たる被上告人丙を拘束するものではなく、乙丙間の下請契約には、丙が施工した出来形部分の所有権の帰属に関する特約はなされていなかったから、右元請契約の解除により直ちに本件建前の所有権が甲に移転する理はないと解される旨を判示した。
三 本件事案の概要は、注文者甲がその所有地上に家屋を築造しようとして乙に請け負わせたところ、乙は注文者甲と関りなくこれを一括して丙に下請させ、丙が乙との間の契約に従って施工中に元請負人乙が倒産した、甲は工事請負代金中の相当部分を乙に支払済みであったが、乙から丙への下請代金は支払われていなかった、というものである。 四 しかし、此処で特段の指摘を要するのは、工事途中の出来形部分に対する請負人(下請負人を含む)の所有権が肯定されるのは、請負人乙の注文者甲に対する請負代金債権、下請についていえば丙の元請負人乙に対する下請代金債権確保のための手段としてである(注)という基本的な構成についての理解が、従前の実務上とかく看過されがちであったことである。 (中略) 六 ……(略)……下請の関係についていえば、下請負人丙の請負代金債権は、元請負人乙に対するものであって、甲とは関りがない。一般に、出来形部分に対する所有権の請負人への帰属は、請負代金債権確保のための技巧的手段であるが……(略)……元請負人乙の資力を見誤った丙の保護を、下請契約に関りのない、しかも乙に対しては支払済みの注文者甲の負担において図るのは、理に合わないことである……(略)……。 (引用終わり) |
請負人帰属説の論拠は下請人との関係で妥当しないでしょう、ということですね。これなら、請負人帰属説の論拠に触れる意味があります。そのような意味もなく、当然の前提とすべき請負人帰属説の一般的な理由付けとして論証を貼っても、「ああ、覚えたヤツを何も考えずに貼ったんだな。」と思われるだけで、得点には結び付かないでしょう。当サイトの参考答案がこの点をとてもあっさり書いているのは、そのためです。
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(参考答案より引用。太字強調は筆者。) 出来形の所有権は、特約がない限り、主要な材料を提供した者に帰属する(判例)。 (引用終わり) |
5.以上のように、理由付けを書く場所は、問題文や設問をきちんと読んで、見極める必要があるのです。この辺りの大局観は、基本書や論証集をグルグルしているだけでは、身に付きません。先天的にできてしまう一部の人を除いて、普段の演習の中で体得していくよりありません。