現場思考型条文解釈問題の思考方法(1)
(令和8年司法試験論文式民事系第1問)

1.令和8年司法試験論文式民事系第1問。設問1、設問2にそれぞれ2つの小問があり、いずれも、小問⑴は論点主義丸出しの知識問題。小問⑵は現場思考型の問題という感じでした。設問1⑵については、現場で1013条を発見し、その解釈論を創造できたか。ただそれだけと言ってもよい問題でした。

2.設問1⑵は、単なる遺贈と登記の問題と考えれば、先に登記したKが勝つに決まっています。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

【事実Ⅱ】

1.令和7年6月2日、Eは、公正証書遺言の方式により、E所有の丙土地を友人Fに遺贈し、弁護士Gを遺言執行者に指定する旨の遺言(以下「本件遺言」という。)をして、本件遺言に係る遺言書の謄本を自宅に保管し、その正本をFに預けた。なお、本件遺言は適法にされたものである。

2.令和8年1月10日、Eは、死亡した。Eの相続人は、その子であるHとJのみであった。その翌日、Hは、本件遺言に係る遺言書の謄本を発見し、その内容を認識した。

3.令和8年1月20日、Hは、丙土地について、HとJとで法定相続分の割合で共有する旨の、相続を原因とする所有権移転登記を備えた。その翌日、Hは、Kとの間で、丙土地のHの持分をKに売る契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。そして、Kは、当該持分について、売買を原因とする所有権移転登記(以下「本件登記③」という。)を備えた。
 なお、本件売買契約を締結する際、Kは、本件遺言の存在を知らず、また、Hに対してEが遺言を残していたか否かを尋ねることもしなかった。

4.令和8年2月1日、Fは、Eの死亡の事実を知り、その事実と本件遺言の存在をGに伝えた。同月10日、Gは、H及びJに対し、遺言執行者への就職を承諾する旨の意思表示をするとともに、本件遺言の内容を通知した。

5.令和8年2月16日、Gは、本件登記③の存在を知り、その旨をFに伝えた。

6.令和8年3月2日、㋑Fは、Kに対し、本件登記③の抹消登記手続を請求した。

(引用終わり)

 ちなみに、遺贈については、899条の2は関係ありません(「相続による権利の承継」ではない。)。単純に177条の問題です。

(参照条文)民法
(共同相続における権利の承継の対抗要件)
899条の2 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
2 (略)

(「遺言制度に関する見直し」民法(相続関係)部会資料17より引用。太字強調及び※注は筆者。)

イ 本規律(※注:899条の2に相当する。)の適用範囲について

 中間試案では,本規律に遺贈を含めることとしていたが,前記アのとおり,本規律は,包括承継であるが故に民法第177条,第178条及び第467条の適用対象外となる場合についても,権利変動の過程に意思表示が介在する場合には,民法第177条等と同様の規律(対抗要件主義)を適用することに存在意義があるものと考えられる。そうすると,本規律については,相続を原因とする権利変動のうち,意思表示が介在するものについて民法第177条等の特則を設けるものという位置づけをするのが最も適切であるように思われ,遺贈のように特定承継であることが明らかなものについては,現行法と同様,民法第177条等の適用範囲に含めるのが相当であると考えられる。

(引用終わり)

3.とはいえ、「Kが先に登記を備えたので、Kが勝ちます。」とだけ書いて正解になるはずがない。仮にそれでよいのだとしたら、わざわざGが出てきた意味がありません。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

【事実Ⅱ】

1.令和7年6月2日、Eは、公正証書遺言の方式により、E所有の丙土地を友人Fに遺贈し、弁護士Gを遺言執行者に指定する旨の遺言(以下「本件遺言」という。)をして、本件遺言に係る遺言書の謄本を自宅に保管し、その正本をFに預けた。なお、本件遺言は適法にされたものである。

 (中略)

4.令和8年2月1日、Fは、Eの死亡の事実を知り、その事実と本件遺言の存在をGに伝えた。同月10日、Gは、H及びJに対し、遺言執行者への就職を承諾する旨の意思表示をするとともに、本件遺言の内容を通知した。

(引用終わり)

 ここまで来れば、「遺言執行者が何か関係ありそう。」と気付くでしょう。そこで、遺言執行者関係の条文がないか、現場で条文を検索する作業にかからなければなりません。紙媒体の試験であれば、ここで民法の目次を見て、「第四編 親族」「第七章 遺言」「第四節 遺言の執行(第千四条―第千二十一条)」という記載を見つけて、1004条から順番に見ていく、という方法論をとることになりました。しかしCBT方式になった現在は、方法論が変わる。CBTシステムの画面に表示される法文エリアから、条文のキーワード検索ができるようになっています。検索窓は2つあり、左側は法令名の検索で、右側が法令内容の検索。なので、右側の検索窓を使う。検索窓に「遺言執行者」と入力すると、41件ヒットするはずです。これを順に見ていけば、1013条に容易に到達できたはずです。ちなみに、同条の2項及び3項は、いわゆる相続法改正(平成30年法律第72号)によって新設された規定です。

(参照条文)民法

(遺言の執行の妨害行為の禁止)
1013条 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
2 前項の規定に違反してした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
3 前2項の規定は、相続人の債権者(相続債権者を含む。)が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。

 1013条が見つかったなら、同条2項本文で本件売買契約が無効→Kは単なる無権利者→177条の「第三者」に当たらない→Fは登記なくしてKに所有権を対抗でき、抹消登記請求が立つ、という筋道が見えてきます。これを、現場でできたかどうか。まずは、ここで合否が分かれるでしょう。

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