覚えてないと無理な論証は事前準備する
(令和8年司法試験論文式民事系第1問)

1.令和8年司法試験論文式民事系第1問。設問1、設問2にそれぞれ2つの小問があり、いずれも、小問⑴は論点主義丸出しの知識問題。小問⑵は現場思考型の問題という感じでした。設問1⑴については、抵当権との関係での再度の時効取得の論点を知ってるか。ただそれだけと言ってもよい問題でした。

2.設問1⑴は、下線部㋐をみれば、誰の目から見ても、取得時効による抵当権の消滅の肯否だけを書けばよいことが明らかです。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

5.令和35年10月15日、㋐Aは、甲土地について取得時効を援用し、甲土地の所有権を自らが取得したこと、それによりC及びDの抵当権は消滅したことを主張して、Cに対し本件登記①の、Dに対し本件登記②の各抹消登記手続を請求した。なお、これ以前に、Aは、甲土地についての時効を援用したことはなかった。

〔設問1⑴〕

 【事実Ⅰ】を前提として、下線部㋐のAの各請求が認められるかどうかを論じなさい。

(引用終わり)

 「いやーまさか取得時効とは思わなかったよ!」なんて人はいるわけない。しかも、取得時効の要件の当てはめも、頑張る要素が全く見当たりません。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

【事実Ⅰ】

1.令和2年1月10日、Aは、更地である甲土地が、これに隣接するA所有の乙土地に含まれると過失なく信じて、甲土地の占有を開始し、両土地を資材置場として利用し始めた。しかし、実際には、甲土地はBが所有しており、その所有権の登記名義人もBであった。

2.令和22年4月20日、Bは、貸金業者Cから、令和37年4月20日を弁済期として、5000万円を借り受けた。Bは、この貸金債務を担保するため、令和22年4月20日、甲土地にCを抵当権者とする抵当権を設定し、その旨の登記(以下「本件登記①」という。)がされた。

3.令和33年2月15日、Bは、貸金業者Dから、令和36年2月15日を弁済期として、1000万円を借り受けた。Bは、この貸金債務を担保するため、令和33年2月15日、甲土地にDを抵当権者とする第二順位の抵当権を設定し、その旨の登記(以下「本件登記②」という。)がされた。

4.令和35年9月3日、Aは、甲土地が乙土地に含まれず、甲土地につき本件登記①及び本件登記②が存在することを知った。この日まで、Aは甲土地を自己の所有地であると信じてその占有を継続しており、そのように信じることについてAに過失はなかった。

5.令和35年10月15日、㋐Aは、甲土地について取得時効を援用し、甲土地の所有権を自らが取得したこと、それによりC及びDの抵当権は消滅したことを主張して、Cに対し本件登記①の、Dに対し本件登記②の各抹消登記手続を請求した。なお、これ以前に、Aは、甲土地についての時効を援用したことはなかった。

(引用終わり)

 大魔神案件でないことは明らかです。なので、取得時効の要件は関西風うどんのごとくあっさりでいい。参考答案は、そのように書いています。

(参考答案より引用)

 Aは、令和2年1月10日から甲土地を資材置場として利用することで占有し、「所有の意思」・「平穏」・「公然」・「善意」(162条2項)の推定(186条1項)を覆す事情はなく、甲土地がA所有の乙土地に含まれると過失なく信じたから「過失がなかった」といえる。したがって、同12年1月10日に取得時効が完成する(162条2項)。

(引用終わり)

 問題文に詳細な事実が記載されていて、大魔神案件の匂いがするときは、「所有の意思」・「平穏」・「公然」・「善意」は積極に当てはめるべきですが、本問はそうでないので、186条1項の推定を覆す事情がないと書く。ここの推定を使うか、使わないかの判断も、臨機応変にできるようになっておくべきです。

3.さて、そうすると、後は、抵当権者との優劣の話しかない。ここで、単純な譲受人との優劣・再度の取得時効の話だけを書く人と、抵当権の場合の判例の規範・論理を示せる人とで、決定的に差が付く。というか、そこでしか差が付きようがない気がします。なので、合否はここで分かれ得るでしょう。
 本問は、CもDも抵当権の設定を受けた者で、Aはそれまで援用していない事案です。なので、最判平24・3・16(サトウキビ畑事件)の法理が妥当する場面なのでした。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

5.令和35年10月15日、㋐Aは、甲土地について取得時効を援用し、甲土地の所有権を自らが取得したこと、それによりC及びDの抵当権は消滅したことを主張して、Cに対し本件登記①の、Dに対し本件登記②の各抹消登記手続を請求した。なお、これ以前に、Aは、甲土地についての時効を援用したことはなかった。

(引用終わり)

(最判平24・3・16より引用。太字強調は筆者。)

1.本件は,第1審判決別紙物件目録記載1及び2の各土地(以下「本件各土地」という。)につき抵当権の設定を受けていた上告人が,抵当権の実行としての競売を申し立てたところ,本件各土地を時効取得したと主張する被上告人が,この競売の不許を求めて第三者異議訴訟を提起した事案である。

2.原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

(1) Aは,昭和45年3月当時,平成17年3月に本件各土地に換地がされる前の従前の土地(以下「本件旧土地」という。)を所有していた。同人は,昭和45年3月,被上告人に対し,本件旧土地を売却したが,所有権移転登記はされなかった。
 被上告人は,遅くとも同月31日から,本件旧土地につき占有を開始し,サトウキビ畑として耕作していた。

(2) Aの子であるBは,昭和57年1月13日,本件旧土地につき,昭和47年10月8日相続を原因として,Aからの所有権移転登記を了した。
 また,Bは,昭和59年4月19日,本件旧土地につき,上告人のために,第1審判決別紙登記目録記載1の抵当権(以下「本件抵当権」という。)を設定し,同日付けでその旨の抵当権設定登記がされた。
 しかし,被上告人は,これらの事実を知らないまま,上記換地の前後を通じて, 本件旧土地又は本件各土地をサトウキビ畑として耕作し,その占有を継続した。また,被上告人は,本件抵当権の設定登記時において,本件旧土地を所有すると信ずるにつき善意かつ無過失であった。

(3) 上告人は,鹿児島地方裁判所名瀬支部に対し,本件各土地を目的とする本件抵当権の実行としての競売(以下「本件競売」という。)を申し立て,平成18年9月29日,競売開始決定を得た。これに対し,被上告人は,本件競売の不許を求めて本件訴訟を提起した。なお,本件競売手続については,被上告人の申立てにより,平成20年7月31日,停止決定がされた。

(4) 被上告人は,平成20年8月9日,Bに対し,本件各土地につき,所有権の取得時効を援用する旨の意思表示をした。

3.所論は,時効取得者と取得時効の完成後に抵当権の設定を受けてその設定登記をした者との関係は対抗問題となり,時効取得者は,抵当権の負担のある不動産を取得するにすぎないのに,これと異なり,被上告人の取得時効の援用により本件抵当権は消滅するとした原審の判断には,法令の解釈を誤る違法があるというのである。

4(1) 時効取得者と取得時効の完成後に抵当権の設定を受けてその設定登記をした者との関係が対抗問題となることは,所論のとおりである。しかし,不動産の取得時効の完成後,所有権移転登記がされることのないまま,第三者が原所有者から抵当権の設定を受けて抵当権設定登記を了した場合において,上記不動産の時効取得者である占有者が,その後引き続き時効取得に必要な期間占有を継続したときは,上記占有者が上記抵当権の存在を容認していたなど抵当権の消滅を妨げる特段の事情がない限り,上記占有者は,上記不動産を時効取得し,その結果,上記抵当権は消滅すると解するのが相当である。その理由は,以下のとおりである。

ア.取得時効の完成後,所有権移転登記がされないうちに,第三者が原所有者から抵当権の設定を受けて抵当権設定登記を了したならば,占有者がその後にいかに長期間占有を継続しても抵当権の負担のない所有権を取得することができないと解することは,長期間にわたる継続的な占有を占有の態様に応じて保護すべきものとする時効制度の趣旨に鑑みれば,是認し難いというべきである。

イ.そして,不動産の取得時効の完成後所有権移転登記を了する前に,第三者に上記不動産が譲渡され,その旨の登記がされた場合において,占有者が,上記登記後に,なお引き続き時効取得に要する期間占有を継続したときは,占有者は,上記第三者に対し,登記なくして時効取得を対抗し得るものと解されるところ(最高裁昭和34年(オ)第779号同36年7月20日第一小法廷判決・民集15巻7号1903頁),不動産の取得時効の完成後所有権移転登記を了する前に,第三者が上記不動産につき抵当権の設定を受け,その登記がされた場合には, 占有者は,自らが時効取得した不動産につき抵当権による制限を受け,これが実行されると自らの所有権の取得自体を買受人に対抗することができない地位に立たされるのであって,上記登記がされた時から占有者と抵当権者との間に上記のような権利の対立関係が生ずるものと解され,かかる事態は,上記不動産が第三者に譲渡され,その旨の登記がされた場合に比肩するということができる。また,上記判例によれば,取得時効の完成後に所有権を得た第三者は,占有者が引き続き占有を継続した場合に,所有権を失うことがあり,それと比べて,取得時効の完成後に抵当権の設定を受けた第三者が上記の場合に保護されることとなるのは,不均衡である。

(2) これを本件についてみると,前記事実関係によれば,昭和55年3月31日の経過により,被上告人のために本件旧土地につき取得時効が完成したが,被上告人は,上記取得時効の完成後にされた本件抵当権の設定登記時において,本件旧土地を所有すると信ずるにつき善意かつ無過失であり,同登記後引き続き時効取得に要する10年間本件旧土地の占有を継続し,その後に取得時効を援用したというのである。そして,本件においては,前記のとおり,被上告人は,本件抵当権が設定されその旨の抵当権設定登記がされたことを知らないまま,本件旧土地又は本件各土地の占有を継続したというのであり,被上告人が本件抵当権の存在を容認していたなどの特段の事情はうかがわれない。
 そうすると,被上告人は,本件抵当権の設定登記の日を起算点として,本件旧土地を時効取得し,その結果,本件抵当権は消滅したというべきである。

(引用終わり)

 これに対し、既に時効を援用して登記をしてしまった事案の場合には、確定的に所有権を取得した以上、再度の取得時効による抵当権の消滅は認められないのでした。

(最判平15・10・31より引用。太字強調は筆者。)

 被上告人は……(略)……時効の援用により,占有開始時の昭和37年2月17日にさかのぼって本件土地を原始取得し,その旨の登記を有している。被上告人は,上記時効の援用により確定的に本件土地の所有権を取得したのであるから,このような場合に,起算点を後の時点にずらせて,再度,取得時効の完成を主張し,これを援用することはできないものというべきである。そうすると,被上告人は,上記時効の完成後に設定された本件抵当権を譲り受けた上告人に対し,本件抵当権の設定登記の抹消登記手続を請求することはできない。

(引用終わり)

 以上の判例法理を、現場思考で思い付いて書けるのか。普通は、無理というものでしょう。仮に、上記判例法理を結論だけ知っていたとしても、「抵当権の存在を容認していたなど抵当権の消滅を妨げる特段の事情」のような規範や、第三者に譲渡された場合と同様に考える理由等について、現場で答案にスラスラ書けるのか。無理だと思うなら、これは論証として覚えておくしかない。時効と抵当権というテーマは出題可能性が相当程度あり、覚えておかないとどうしようもないのだから、これは重要度Aだろう。当サイト作成の『司法試験定義趣旨論証集(民法総則)【第2版】』では、そのような取扱いになっています。これすら掲載していない論証集は、どうしようもない論証集といって過言ではありません。

(『司法試験定義趣旨論証集(民法総則)【第2版】』より引用。太字強調は筆者。)

時効援用により確定的に権利を取得した者による再度の時効取得の可否
重要度:A
 時効を援用して登記を具備した者は、確定的に所有権を取得した以上、起算点を後の時点にずらすことにより再度の時効取得を主張することは許されない(判例)。

 (中略)

時効取得完成後、その援用及び登記前に抵当権設定及びその登記がなされた場合の再度の時効取得により抵当権は消滅するか
重要度:A
 不動産の取得時効完成後、その援用及び登記前に、第三者が原所有者から抵当権の設定を受けて抵当権設定登記を了した場合には、抵当権が実行されると時効取得を買受人に対抗できない点で、時効完成後登記前に第三者取得者が登記を具備した場合と同様であるから、その時点を起算点とする再度の時効取得が認められる。この場合において、上記不動産の時効取得者である占有者が再度の取得時効を援用したときは、上記占有者が上記抵当権の存在を容認していたなど抵当権の消滅を妨げる特段の事情がない限り、上記占有者が上記不動産を時効取得する結果、上記抵当権は消滅する(397条、サトウキビ畑耕作事件判例参照)。

(引用終わり)

 仮に、手元にある論証集に論証が掲載されていなかったとしても、「これはガチ暗記対象だろ。」と判断して、論証化してガチ暗記リストに入れておくべきものでしょう(「ガチ暗記する方法」)。上記の判例法理は、時効関係の事例問題を解いている過程で目にすることの多い(※)ものなので、一度目にした段階で、ガチ暗記リスト行きにしておくべきでした。論文は、現場での頑張りで差が付くこともありますが、事前準備で決定的に差が付くこともある。設問1⑴は、後者の典型例といえるでしょう。
 ※ 上記判例法理を直接問う問題でなくても、解説で関連判例として紹介されることが多いので、問題を解きまくっていればどこかで出会うはずのものです。

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