令和8年司法試験論文式民事系第1問参考答案

【答案のコンセプト等について】

1.現在の論文式試験においては、基本論点についての規範の明示と事実の摘示に極めて大きな配点があります。①基本論点について、②規範を明示し、③事実を摘示すること。これが、合格するための基本要件であり、合格答案の骨格をなす構成要素といえます。従来、当サイトでは、この①~③に特化した「参考答案(その1)」と、規範の理由付け、事実の評価、応用論点等の肉付けを行うとともに、より正確かつ緻密な論述をした「参考答案(その2)」を示してきました。両者を示すことにより、「規範と事実」で書く答案がどのようなものか、規範の理由付け、事実の評価、応用論点等を書くとすればどうなるか、というイメージが具体化されるとともに、理想を追い求めて、規範の理由付け、事実の評価、応用論点等を書きに行くと、現実には絶対に書けない答案になる、ということも、実感できたのではないかと思います。 当サイトとしては、上記のいわば両極ともいえる答案のイメージを具体化することについては、もう十分に達成できたと考えています。次の段階は、両者の中間に位置する現実的でリーズナブルな合格答案として、どのようなものをイメージすればよいのか。これを具体化することにある。そこで、上記①~③をベースとしつつ、無理なく書ける範囲の現実的でリーズナブルな合格答案を示すこととしました。このことは、今年からCBT方式による実施となることで、文字数の制限をより意識しなければならなくなることからも、意味のあることだろうと思っています。

2.参考答案中の太字強調部分は、『司法試験定義趣旨論証集(民法総則)【第2版】』、『司法試験定義趣旨論証集物権【第2版補訂版】』、『司法試験定義趣旨論証集債権総論・契約総論』に準拠した部分です。なお、CBT方式の実施に伴い、判例の事件名の記載を簡略なものにしています(『刑法各論【第2版】(司法試験定義趣旨論証集)』「本書の概要」7項を参照)。

【参考答案】

第1.設問1⑴

1.Aは、令和2年1月10日から甲土地を資材置場として利用することで占有し、「所有の意思」・「平穏」・「公然」・「善意」(162条2項)の推定(186条1項)を覆す事情はなく、甲土地がA所有の乙土地に含まれると過失なく信じたから「過失がなかった」といえる。したがって、同12年1月10日に取得時効が完成する(162条2項)。

2.時効取得者が対抗要件を具備し得るのは時効完成時以降であるから、時効完成時に物権変動があったのと同様に考えるべきである。そうすると、時効取得者と時効完成後の譲受人は、時効完成時の原所有者を起点とする二重譲渡類似の対抗関係に立つ。したがって、時効取得者が時効完成後の譲受人に時効取得を対抗するには、対抗要件を具備することを要する(判例)。時効完成の前後で第三者との対抗関係の有無が変化することから、時効の基礎となる事実の開始時以外の時点を起算点として任意に選択することは許されない(判例)。このことは、時効完成後に抵当権設定を受けた者との関係でも当てはまる。
 令和22年4月20日、Cは、Bから甲土地に抵当権設定を受け、本件登記①がされた。上記1の時効取得との関係で、先に対抗要件を備えたCが、Aに抵当権を対抗できる。

3.時効完成後の譲受人が先に登記を具備した場合には、劣後する時効取得者はいまだ確定的に所有権を取得しておらず、その後さらに継続した事実状態も尊重に値するから、再度その時点から取得時効の成立に必要な期間の占有を継続したときは、再度の時効取得が認められる(判例)。不動産の取得時効完成後、その援用及び登記前に、第三者が原所有者から抵当権の設定を受けて抵当権設定登記を了した場合には、抵当権が実行されると時効取得を買受人に対抗できない点で、時効完成後登記前に第三取得者が登記を具備した場合と同様であるから、その時点を起算点とする再度の時効取得が認められる。この場合において、上記不動産の時効取得者である占有者が再度の取得時効を援用したときは、上記占有者が上記抵当権の存在を容認していたなど抵当権の消滅を妨げる特段の事情がない限り、上記占有者が上記不動産を時効取得する結果、上記抵当権は消滅する(397条、サトウキビ畑事件)。
 Aは、令和35年10月15日の援用以前に甲土地についての時効を援用したことはなかった。本件登記①がされた令和22年4月20日においてAは甲土地を自己所有地と信じて占有を継続し、そう信じるにつき過失はなかった。AがCの抵当権を容認していたなど抵当権の消滅を妨げる特段の事情はない。したがって、同32年4月20日に再度の取得時効が完成する(162条2項)。
 令和35年10月15日のAの時効援用は、上記再度の取得時効の援用を含む趣旨といえるから、これによって、Cの抵当権は同22年4月20日に遡って消滅する(停止条件説・144条、145条)。

4.令和33年2月15日、Dは、Bから甲土地に第2順位抵当権設定を受け、本件登記②がされた。上記3の時効取得との関係で、先に対抗要件を備えたDが、Aに抵当権を対抗できる。Aが時効援用した令和35年10月15日において、再度の取得時効は完成していない。

5.よって、下線部㋐のAの各請求のうち、Cに対するものは認められるが、Dに対するものは認められない。

第2.設問1⑵

1.下線部㋑の請求は所有権に基づく妨害排除請求であるから、FがKに丙土地所有権取得を対抗できることを要する。
 Eが死亡した令和8年1月10日に、本件遺言によるFへの丙土地遺贈の効力が発生する(964条、985条1項)。しかし、Fはその旨の登記を備えていない。

2.「第三者」(177条)というには、登記がないことを主張する正当な利益を要する(判例)。

⑴ Hは同日、相続により、Hの相続分に相当する丙土地2分の1の持分を一般承継した(896条本文、898条、900条4号、985条1項)。

⑵ 令和8年1月21日、KHは本件売買契約を締結した。同契約は丙土地のH持分をKに移転するから、本件遺言執行の妨害行為(1013条1項)である。

ア.同契約時にはGは遺言執行者就職承諾の意思表示をしていない。「遺言執行者がある場合」か。
 1007条、1008条は就職承諾前であっても「遺言執行者」とし、「遺言執行者となるべき者」としていない(892条括弧書対照)。1013条2項の趣旨は遺言執行の実効性確保にあり、就職承諾前の妨害行為を有効とすれば、その趣旨を没却する。したがって、遺言で指名された遺言執行者は遺言者死亡により直ちに遺言執行者となる。
 GはE死亡時に遺言執行者となるから、本件売買契約は、「遺言執行者がある場合」にされた。

イ.本件売買契約締結の際、Kは、本件遺言の存在を知らなかったから「善意」であるが、Hに対してEが遺言を残していたか尋ねなかったから、過失がある。
 1013条2項ただし書は単に「善意」とし、第三者に遺言執行の内部事情を調査させるのは酷であるから、無過失を要しない。
 したがって、Kは「善意の第三者」に当たる。

ウ.以上から、本件売買契約は有効である(同項ただし書)。Kは本件売買契約によって丙土地H持分を取得したから、登記がないことを主張する正当な利益を有し、「第三者」(177条)に当たる。対抗要件のないFは、遺贈による丙土地所有権取得をKに対抗できない。

3.よって、下線部㋑のFの請求は認められない。

第3.設問2⑴

1.出来形の所有権は、特約がない限り、主要な材料を提供した者に帰属する(判例)。

⑴ Cは、本件工事①に必要な材料の全部を自ら調達した。

⑵ もっとも、AB間で締結された本件契約①では、解除された場合に出来形所有権をAに帰属させることが合意された。
 契約は当事者以外の者を拘束しないのが原則であるとして、注文者・元請人間の合意があっても、下請人に対して効力を生じないとの立場があり得る。
 しかし、一括下請において、下請人は履行補助者的立場に立つにすぎず、独立の権利主張をなし得る地位にないから、注文者・元請人間に出来形所有権注文者帰属の合意がある場合には、注文者・下請負人間に特約があるなど特段の事情のない限り、出来形所有権は注文者に帰属する(判例)。

ア.本件契約②は、本件工事①の全てをCに請け負わせるもので、一括下請である。

イ.AC間に特約はなく、特段の事情は認められない。

2.よって、本件出来形所有権はAに帰属する。

第4.設問2⑵

1⑴ 通常損害(416条1項)とは、契約上当然予見すべき定型損害をいう。
 工事が未完成なら追加工事を要するのは当然であり、Dに支払った650万円は同日時点の市場適正価格であるから、全額が契約上当然予見すべき定型損害として通常損害に当たる。

⑵ もっとも、不履行と同一の原因により債権者が得た利益は、賠償額から控除される(損益相殺)。本件契約①解除によりAが免れたBに対する報酬債務は、不履行と同一の原因によりAが得た利益といえるから、損益相殺の対象となる。

ア.本件契約①は仕事完成前に解除された。本件出来形は独立した不動産となっており、Cから引渡しを受けたから「可分な部分の給付」があり、これによってAは利益を受けるから、「注文者が利益を受ける」といえる。
 したがって、本件出来形は仕事の完成とみなされる(634条前段、2号)。その結果、解除の効力は本件出来形以外の部分にのみ生じる(一部解除・判例)。Aが受けるべき利益は、本件工事①が完成したとすればAが受けたであろう利益の6割に相当するから、Bは、Aに対し、約定報酬1000万円全体の6割に相当する600万円の報酬を請求できる(同条後段)。

イ.そうすると、Aが本件契約①解除で免れる報酬債務は、本件出来形以外の部分に対応する400万円である。

⑶ 以上から、下線部㋐に係る損害賠償請求権は、上記⑴の650万円から上記⑵の400万円を控除した250万円の額のものとして発生する。

2.前記1⑵アのとおり、本件契約①に基づき、BのAに対する600万円の報酬債権が発生しているが、Aは、令和8年3月3日に400万円を支払っているから、残額は200万円である。
 上記報酬債権と下線部㋐に係る損害賠償請求権は同時履行の関係にある(533条本文)が、相互に現実の履行をさせなければならない特別の利益はないし、相殺による抗弁喪失等の不利益も生じず、むしろ、相殺による清算的調整を図ることが当事者双方の便宜・公平にかない、法律関係を簡明にするから、相殺(505条1項)できる(判例)。
 そうすると、下線部㋑のBの相殺の意思表示(506条1項前段)により、Bは対当額である200万円の限度で債務を免れるから、残額は50万円となる。下線部㋑のBの反論は正当である。

3.よって、下線部㋐のAの請求は、50万円の範囲で認められる。

以上

戻る