困難性と補充性の関係性を見抜く
(令和8年司法試験論文式公法系第2問)

1.令和8年司法試験論文式公法系第2問。全体的に、問題文の量は多いものの、解答のポイントに気付いてしまえば、答案に書くべき量は少ない、という作りになっています。設問3前半の入所措置要件については、虐待に該当することによって困難性・補充性がどのような論理で満たされることになるのか、その関係性が解答のポイントでした。

2.設問3は、「【時点②】において本件入所措置の要件が充足されていたか」と、「【時点③】において本件入所措置の解除の要件が充足されているか」の2つが解答事項でした。

(問題文より引用。太字強調は筆者)

〔設問3〕

 【時点②】において本件入所措置の要件が充足されていたか、及び、【時点③】において本件入所措置の解除の要件が充足されているかについて、本件訴訟において、Bはどのような主張をし、C市はどのように反論することが考えられるか、検討しなさい。

(引用終わり)

 今回は、前半の入所措置要件について説明します。

3.会議録を見ると、職員Gの発言から、入所措置要件については困難性と補充性を検討すればよく、両者は別個独立の関係にあるとみえます。

(問題文より引用。太字強調は筆者)

職 員G:そういう事情もあって、令和8年7月6日の時点(【時点③】)で、Bは、本件入所措置を前提とした負担金額決定に基づいて支払った負担金相当額の財産的損害の賠償を求める本件訴訟を提起したのでしょうね。Bは、そもそも本件入所措置の時点(【時点②】)において、措置の要件が満たされていなかったと考えているようです。措置の要件としては、「居宅においてこれを受けることが困難なもの」という要件(困難性要件)のほか、「やむを得ない事由により介護保険法に規定する地域密着型介護老人福祉施設又は介護老人福祉施設に入所することが著しく困難であると認めるとき」という要件(補充性要件)が問題になるのではないかと思います。

(引用終わり)

 ただ、その直後の弁護士Hの発言を見ると、虐待があれば両方同時に満たされるので、バラバラに検討するのではなくて、虐待があるかないか、それだけを検討すれば足りるようにも感じられるところです。

(問題文より引用。太字強調は筆者)

弁護士H:前者の困難性要件については、少なくとも居宅において高齢者虐待がある場合には、この要件が満たされるといえます。後者の補充性要件については、実務においては、自ら介護老人福祉施設等と入所契約を締結することが困難である場合等を指すと考えられています。高齢者虐待の事例では、こちらの要件も同時に満たされると判断される場合もあるでしょう。ただし、高齢者虐待の事実やそのおそれがなかったとすると、この要件が満たされない可能性もあります。

(引用終わり)

 どうして、そうなるのか。このようなときは、ちょっと自分の頭で考えてみる。家で虐待されてるということは、家にいる限り虐待されまくるのだから、在宅介護なんて無理だよね、という評価になる。だから、「居宅においてこれ(=介護)を受けることが困難なもの」という 困難性要件を満たすのだろう。虐待するような奴が施設入所契約の手助けなんてしてくれるわけないから、それは同時に施設と入所契約を締結することが困難ともいえるわけであって、同時に補充性も満たすということだろう。脳内でそこを整理した上で、本問の事実関係を確認してみる。

(問題文より引用。太字強調は筆者)

 Aは、令和8年1月6日の時点で75歳であり、同日まで子のBとC市内で同居していた。当時Aは、判断能力には問題がないものの、両腕の機能に障害があり、要介護状態区分につき要介護3の認定を受け、Bの手助けの下で介護サービス契約を締結し、介護保険法に基づく居宅サービスを利用していた。Bは、約10年間にわたってAを介護していた。
 令和7年11月20日、Aは、意識障害の症状が出たため、D病院に緊急搬送された。D病院において、Aに低ナトリウム血症(血液中のナトリウム濃度(血中ナトリウム値)が低下し、重症の場合には意識障害が生じ得る状態)が認められたため、AはそのままD病院に入院した。入院後、Aの血中ナトリウム値は、点滴によって正常値に戻った。同年12月10日、D病院の担当医は、A及びBに対して、Aには尿に塩分が出やすい症状があるものの、普通の食事を摂取していれば問題はなく、Aの低ナトリウム血症は自宅での食事が原因と思われる旨説明した。その際、Bは、Aの健康のために塩分控え目のものを十分食べさせていると発言した。これに対して、上記担当医は、塩分を控えすぎた食事では低ナトリウム血症が生じやすいこと、低栄養の予防が必要であることについて改めて説明した。同月12日、AはD病院を退院して自宅に戻り、同月15日以降、介護保険法に基づく居宅サービスが再開された。
 令和7年12月25日、Aを担当する介護支援専門員(ケアマネージャー)がAの自宅を訪問し、Aの様子を確認した。その際、Aは、入院前と変わらず塩分が少ない食事で、時々めまいがすると話していたため、介護支援専門員は、C市高齢者緊急一時保護事業実施要綱(以下「本件要綱」という。)に基づく緊急一時保護事業の利用をAに勧めた。同日、Aは、介護支援専門員の手助けを得て、本件要綱に基づいて一時保護を申請したものの、C市福祉事務所長からは、同申請に対する応答がなかった【時点①】。
 令和8年1月5日、Aは、往診を担当する医師(以下「往診医」という。)による血液検査を受けた。翌日、往診医は、Aの血液検査の結果をBに説明し、Aの血中ナトリウム値は昨年11月の緊急搬送時よりは高くなっており、直ちに意識障害が生じる程度ではないものの、正常値よりも低い値となっていること、この傾向が続けば意識障害が再発するおそれがあることを指摘した。そこで、令和8年1月6日、BはAをD病院に連れて行き、AはそのままD病院に入院した。
 令和8年1月7日、C市に対して、Aが養護者から十分な食事を与えられない虐待(ネグレクト)を受けていると思われる旨、高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(以下「高齢者虐待防止法」という。)第7条第1項の規定による通報がされた。同日、C市福祉事務所の高齢者福祉担当職員は、往診医から前記令和8年1月5日に実施したAの血液検査の結果の報告を受けた。同担当職員は、Aの自宅での療養が継続した場合には、血中ナトリウム値が低下して意識障害が生じ、Aの生命に重大な危険が発生するおそれがある旨の報告書をC市福祉事務所長に提出した。
 令和8年1月8日、C市福祉事務所長は、Aに生命の危険が迫っているとの認識の下で、Aが居宅において常時の介護を受けることが困難であり、自ら介護老人福祉施設等と契約することも困難であると判断して、老人福祉法第11条第1項第2号に基づき、AをD病院から、C市の設置する特別養護老人ホームE園に入所させる措置(以下「本件入所措置」という。)をした。同日、Bは、本件入所措置が採られたことを知った【時点②】。

(引用終わり)

 Bは、「Aの健康のため」と言っていて、悪気がなさそう。「虐待」の語感からして、虐待の意思がなければ「虐待」とはいえないのだ。だから、Bが虐待したとはいえないぞ。いやいや、Bは自分の食事が原因で低ナトリウム血症になってると言われているのに、「いや塩分控えめを十分食べさせてます。」と答えていて、全然意味を理解していない。改めて、「塩分控えめはダメ」と説明されたのに、相変わらず塩分控えめを食べさせていて、まるで改善がない。Aが家にいる限りその状態は続くのだから、在宅介護は無理でしょ。そういう意味で、やっぱり困難性を基礎付ける虐待はあるだろう。こんな感じで、ここが争点になりそうだ、ということが分かるでしょう。困難性については、虐待の有無を検討すればよい、と判断できます。末尾の関係法令に高齢者虐待防止法4条1項1号がわざわざ挙がっているので、答案では、同号ロの「高齢者を衰弱させるような著しい減食」に当たるぞ、ということにも触れておくとよさそうです。

(問題文より引用。太字強調は筆者)

○ 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(平成17年法律第124号)
(抜粋)

 (中略)

(定義等)
第2条 この法律において「高齢者」とは、65歳以上の者をいう。
2 この法律において「養護者」とは、高齢者を現に養護する者であって養介護施設従事者等(中略)以外のものをいう。
3 この法律において「高齢者虐待」とは、養護者による高齢者虐待及び養介護施設従事者等による高齢者虐待をいう。
4 この法律において「養護者による高齢者虐待」とは、次のいずれかに該当する行為をいう。
 一 養護者がその養護する高齢者について行う次に掲げる行為
  イ 高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
  ロ 高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置、養護者以外の同居人によるイ、ハ又はニに掲げる行為と同様の行為の放置等養護を著しく怠ること。
  ハ 高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
  ニ (略)
 二 (略)
5、6 (略)

(引用終わり)

 他方、補充性については、典型的な虐待事例とは違う要素がありそう、と気付きたい。「虐待するような奴が施設入所契約の手助けなんてしてくれるわけない。」というのが、虐待があれば同時に補充性も満たされるという理解の基礎となっていたのでした。でも、本問では、「Bの手助けの下で介護サービス契約を締結し、介護保険法に基づく居宅サービスを利用していた。」、「BはAをD病院に連れて行き、AはそのままD病院に入院した。」という事実がある。典型的な虐待事例と違って、Bに悪気はないので、「こんな奴が手助けするはずない。」という理屈が単純には成立しないのですね。これに対しては、Bは担当医の説明を理解していない感じだし、改善もみられないから、Bが自発的に在宅介護を諦めてAを施設に入所させようとすることは期待できないぞ、というのが反論になるでしょう。ちなみに、Aは、設問1の一時保護申請をする際に、介護支援専門員(ケアマネ)の手助けを得ています。これは、「Bの手助けはなくてもケアマネの手助けで入所契約できるんじゃね?」という補充性を否定する要素として使えなくはありません。これに対しては、息子であるBの意思に反して入所契約をする権限はケアマネにないから、それは現実的ではない、というのが反論になり得るでしょう(だったらなんで一時保護申請はできたんだよ、というのは、気付いてはいけないやつです。設問1を出したかったんです。)。でも、これは設問1を成立させるための事情という意味合いが強く、設問3の解答として期待された本質要素ではないと思います。なので、ポイントを捉えた解答をする際には触れない。これに対し、敗者復活戦で大魔神案件として解答する際には、そんな深いこと考えてられないので、当然に拾うべき要素となります。

4.以上のように理解してから、改めて会議録のやり取りを見ると、弁護士Hが補充性について微妙な言い回しをしていた意味が分かるでしょう。

(問題文より引用。太字強調は筆者)

弁護士H:前者の困難性要件については、少なくとも居宅において高齢者虐待がある場合には、この要件が満たされるといえます。後者の補充性要件については、実務においては、自ら介護老人福祉施設等と入所契約を締結することが困難である場合等を指すと考えられています。高齢者虐待の事例では、こちらの要件も同時に満たされると判断される場合もあるでしょう。ただし、高齢者虐待の事実やそのおそれがなかったとすると、この要件が満たされない可能性もあります。

(引用終わり)

 困難性については、虐待があれば満たされる、と簡単かつ断定的に書いてあります。それに対し、補充性の方は、「判断される場合もある」と書いてあって、「判断されない場合」がありそうな表現になっています。先ほどの検討を踏まえると、これは、虐待があれば類型的に「こんな奴が施設入所の手助けするはずない。」といえるので通常は補充性も満たすが、例外的に虐待の意思がないなどの場合には、直ちに補充性を満たすとはいえない。そのような例外がある、という意味で合点がいくことでしょう。

5.ここまで的確に問題文を読み解けたなら、後は、コンパクトに言語化して答案に書けばよい。参考答案は、その一例です。

(参考答案より引用。太字強調は筆者。)

1.時点②の本件入所措置要件

⑴ Bの主張

ア.Bが塩分控え目のものを食べさせたのは、Aの健康のためで、虐待の意思はない。したがって、虐待といえず、困難性を満たさない。

イ.仮に、困難性を満たすとしても、虐待事例で補充性が同時に満たされるのは、類型的に虐待者に施設入所契約締結の手助けをすることが期待できないからである。Bには虐待の意思がなく、Aのために介護サービス契約締結の手助けやD病院入院の手助けをしてきたから、上記のことは妥当しない。したがって、補充性を満たさない。

⑵ Cの反論

ア.法11条1項2号の趣旨は老人保護にあるから、虐待の意思がなくても、老人に生命の危険が迫っているときは虐待と評価できる。
 Bは、低ナトリウム血症は自宅での食事が原因と説明されたのに、塩分控え目のものを十分食べさせていると発言しており、説明の意味を理解していない。塩分を控えすぎた食事では低ナトリウム血症が生じやすいことを改めて説明されたのに、入院前と変わらず塩分が少ない食事を与えており、改善がみられない。Aの生命に危険が迫っており、「高齢者を衰弱させるような著しい減食」(高齢者虐待防止法4条1項1号ロ)といえるから、虐待と認められ、困難性を満たす。

イ.Aに与える食事を改善しないBの態度から、居宅介護を断念して自発的に介護老人福祉施設等入所契約締結の手助けをすることは期待できないから、補充性を満たす。

(引用終わり)

 虐待の意思を不要とする点については、老人福祉法11条1項2号の趣旨が老人保護にある、というだけで簡単に言い切っています。実戦的には、これだけでも十分でしょう。より理論的に説明しておくと、虐待の意思は、Bに対する制裁を課す、という場面であれば、刑法でいう非難可能性=責任と同様の発想で、虐待の意思を必要とする解釈が成立するでしょう。しかし、老人福祉法11条1項2号の措置は、生命等の危険に着目して、ともかくも居宅から切り離して保護しよう、という趣旨のものなのだから、虐待の意思の有無は重要でない。Aの生命等の危険の有無に着目すべきだ、という解釈が妥当する、ということです(より厳密には、養護者がその原因となっていることも必要でしょう。)。とはいえ、ここまで現場で思い付くのはなかなか難しいでしょうし、思い付いても制限時間内に答案に言語化するのは現実的とはいえないでしょう。

6.以上のようなことを現場でスラスラできる人は、4頁程度でも上位が狙えます。しかし、「いやいやこんなの無理だよ。」と思った人の方が多いでしょう。現場であれだけの資料を読み込んで、意味を正しく理解するのは、至難の業といっていい。本試験の現場では、想像以上に時間がなく、かつ、頭が回らないのです。ほとんどの人達が、敗者復活戦に回る。敗者復活戦は、全く別のゲーム、すなわち、肯定・否定の要素をどれだけ拾えたか、という大魔神案件と化します。こうして、本質を見抜いてコンパクトに上位を取る答案と、物量で何とかした答案の2種類の上位答案が生じるのでした。次回は、敗者復活戦に回った場合の方法論を説明します。

戻る