要綱が応答義務を定めていない件
(令和8年司法試験論文式公法系第2問)

1.令和8年司法試験論文式公法系第2問。全体的に、問題文の量は多いものの、解答のポイントに気付いてしまえば、答案に書くべき量は少ない、という作りになっています。設問1では、「そもそも本件要綱すら応答義務を定めてないじゃん。」というのが、解答のポイントでした。

2.設問1は、一見すると、「げえっ、行審法。」と思うところです。

(問題文より引用。太字強調は筆者)

〔設問1〕

 【時点①】以降、仮にC市福祉事務所長の不応答が続き、AがC市長に対して行政不服審査法に基づく不作為についての審査請求をしたとすると、この審査請求は適法か。「行政庁の不作為」(行政不服審査法第3条)の該当性に絞って検討しなさい。

(引用終わり)

 もっとも、冷静に行審法3条を読むと、括弧書で「行政庁の不作為」の定義規定があって、検討すべきことは、「法令に基づく申請」、すなわち、申請権と、「処分」、すなわち、処分性の話だけだろう、ということが分かる。ここまで確認して、落ち着きを取り戻した人が多かったことでしょう。

(参照条文)行政不服審査法

(不作為についての審査請求)
3条 法令に基づき行政庁に対して処分についての申請をした者は、当該申請から相当の期間が経過したにもかかわらず、行政庁の不作為(法令に基づく申請に対して何らの処分をもしないことをいう。以下同じ。)がある場合には、次条の定めるところにより、当該不作為についての審査請求をすることができる。

3.さらに、会議録のやり取りを読めば、「ああ、処分性はあるのが前提なのね。」ということも、読み取れたことでしょう。

(問題文より引用。太字強調は筆者)

【法律事務所の会議録】

職 員G:C市のような高齢者虐待をめぐる事案は、本市でも増え始めています。本件訴訟は高齢者の養護者が原告で、C市を被告とする国家賠償請求訴訟ですが、他の紛争形態もあり得るところなので、詳細な検討をお願いしたいと思います。高齢者虐待は、児童虐待の場合と法制度が異なっており、どのように対応すべきか判断に迷うことがあります。児童虐待の場合には、児童福祉法の規定に基づき、入所措置とは別に一時保護を行うことができますが、高齢者虐待防止法はそのような仕組みにはなっていませんね。

弁護士H:そうですね。高齢者虐待防止法第9条第2項は、高齢者を一時的に保護するために、老人福祉法第11条等の、いわゆる福祉の措置を講じるように求めています。老人福祉法第11条等の福祉の措置が、行政上の不服申立てや取消訴訟の対象であることに、実務上の争いはありません。具体的には、措置解除の規定の存在に着目して、措置決定には施設でサービスを受ける地位を設定する法的効果があると考えることが一般的だと思います。

(引用終わり)

 ここまでは、PC操作の時間を除けば、数秒で対処したいところです。

4.そうすると、メインは申請権ということになる。会議録のやり取りを読んでいくと、どうやら労災就学援護費事件型の仕組み解釈をするやつだな、と直感するところ。

(問題文より引用。太字強調は筆者)

弁護士I:Aは、令和7年12月25日の時点(【時点①】)で、本件要綱に基づく緊急一時保護を申請しているようです。この事業は、高齢者虐待があった場合に、一時的に高齢者と家族を分離し、高齢者を特別養護老人ホーム等で保護するもので、多くの市町村では要綱を制定して、一時的に特別養護老人ホーム等に入所できる枠を確保しています。ただ、要綱は法令の委任に基づくものではなく、法的にいえば緊急一時保護も老人福祉法第11条に基づく入所措置の一つです。

職 員G:そうすると、Aが申請を行ったとして、これにC市側が応答しなかったとしたら、不作為についての審査請求、さらには不作為の違法確認訴訟や申請型の義務付け訴訟をAが提起することはできないことになるのでしょうか。

弁護士H:入所措置の老人福祉法上の根拠規定である同法第11条が、申請の仕組みを設定していると解釈できるのかが問題となります。要綱の法的性格と、本件要綱にいう「申請」が法令に基づく申請といえるかに注意して、検討してみてください。

弁護士I:分かりました。

(引用終わり)

 本件要綱は行政規則だから、それだけでは「法令に基づく申請」とはいえなくて、でも、老人福祉法11条が申請の仕組みを設定しているから、同条に基づく申請と位置付けることが可能になるんじゃないのか。そんな筋が、おぼろげながら頭に浮かんできたことでしょう。これが思い浮かばないのは、知識不足です。

(『司法試験定義趣旨論証集行政法【第2版】』「申請権は法律で明示されることを要するか」の項目より引用。太字強調は筆者。)

・申請権は法律で明示されることを要するか
重要度:A
 申請権は、法律の明示がなくても、制度の仕組み等から解釈上認めることができる(労災就学援護費事件、スモークマグロ事件各判例参照)。
 ※ 最判平15・9・4。最判平16・4・26。
 ※ 労災就学援護費事件判例は、「法(※注:労働者災害補償保険法を指す。)23条(※注:現行の29条を指す。)1項2号は、政府は、労働福祉事業(※注:現行の29条では、「社会復帰促進等事業」とされている。)として、遺族の就学の援護等、被災労働者及びその遺族の援護を図るために必要な事業を行うことができると規定し、同条2項は、労働福祉事業の実施に関して必要な基準は労働省令(※注:現行では厚生労働省令)で定めると規定している。これを受けて、労働省令である労働者災害補償保険法施行規則(平成12年労働省令第2号による改正前のもの)1条3項は、労災就学援護費の支給に関する事務は、事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長が行うと規定している。そして、「労災就学援護費の支給について」と題する労働省労働基準局長通達(昭和45年10月27日基発第774号)は、労災就学援護費は法23条の労働福祉事業として設けられたものであることを明らかにした上、その別添「労災就学等援護費支給要綱」において、労災就学援護費の支給対象者、支給額、支給期間、欠格事由、支給手続等を定めており、所定の要件を具備する者に対し、所定額の労災就学援護費を支給すること、労災就学援護費の支給を受けようとする者は、労災就学等援護費支給申請書を業務災害に係る事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長に提出しなければならず、同署長は、同申請書を受け取ったときは、支給、不支給等を決定し、その旨を申請者に通知しなければならないこととされている。」、「労災就学援護費に関する制度の仕組みにかんがみれば、法は、労働者が業務災害等を被った場合に、政府が、法第3章の規定に基づいて行う保険給付を補完するために、労働福祉事業として、保険給付と同様の手続により、被災労働者又はその遺族に対して労災就学援護費を支給することができる旨を規定しているものと解するのが相当である。」と判示している。保険給付については申請権が認められることが明文上明らかである(法12条の8第2項、38条、40条。施行規則19条1項。)。他方で、行政規則である要綱で規定された労災就学援護費についても同様に扱う趣旨であるかは、労働者災害補償保険法の文言上は明確でない。上記判例は、制度の仕組み全体から解釈して、同法は労災就学援護費についても保険給付と同様に扱う趣旨であることを認め、申請権を認めたものと理解できる。なお、現在の労働者災害補償保険法施行規則には、労災就学援護費の支給対象者、支給額及び労働基準局長への委任の定めがある(33条)。

 (後略)

(引用終わり)

 ここも、PC操作の時間を除けば、数秒で対処したいところでしょう。

5.それで、「とりあえず要綱で応答義務が定められていることを確認しておくか。」という目で本件要綱を見ると、「Oh...」と声が漏れそうになる。

(問題文より引用。太字強調は筆者)

(保護の要否等)
第9条 市長は、保護の申請があったときは、その内容について審査し、保護する必要があると認めた場合は、施設の長と受入れの協議を行った上で保護の決定を行い、高齢者緊急一時保護決定通知書により申請者に通知するものとする。

(引用終わり)

応答義務定めてないじゃん!

 まず、落ち着きましょう。本件要綱9条は、保護の決定をするときは、申請者に通知すると定めています。これをもって、「応答義務あるじゃん。」と思った人もいたかもしれない。そこで、応答義務とは、どのようなものか、確認しておきましょう。参照すべきは、行手法2条1項3号です。

(参照条文)行政手続法

(定義)
第2条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
 一、二 (略)
 三 申請 法令に基づき、行政庁の許可、認可、免許その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分(以下「許認可等」という。)を求める行為であって、当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいう。
 四~十六 (略)
2、3 (略)

 ポイントは、「諾否」の部分。とりわけ、「否」の方が重要です。「諾」、すなわち、許認可等の処分をする場合には、応答義務なんてなくても、通知するのが当たり前。このことは、処分の効力発生時が処分の了知可能時(通常は処分通知の到達時)だったよね、ということを想起すれば、容易に理解できるでしょう。

(『司法試験定義趣旨論証集行政法【第2版】』「処分の効力発生時」の項目より引用。太字強調は筆者。)

・処分の効力発生時
重要度:B
 処分の効力は、相手方が現実に了知し、又は了知しうべき状態におかれた時に発生する(判例)。
 ※ 最判昭29・8・24。
 ※ 上記判例は、「依願免官による退職の効果の発生時期について考えてみると、特定の公務員の任免の如き行政庁の処分については、特別の規定のない限り……(略)……辞令書の交付その他公の通知によつて、相手方が現実にこれを了知し、または相手方の了知し得べき状態におかれた時と解すべきである」と判示している。
 ※ 上記判示にもあるとおり、特別の規定がある場合は、それに従う。

(引用終わり)

 不服申立てとの兼ね合いで考えても、「諾」の場合は別に問題なくて、「否」のときに直ちに不服申立ての手段をとれるよう、通知することが重要なのですね。そういうわけで、諾「否」をすべき旨を定めていないと、「応答義務を定めた」とはいえないのです。その目で改めて本件要綱9条を見れば、同条が応答義務を定めたものでないことは明らかです。

(問題文より引用。太字強調は筆者)

(保護の要否等)
第9条 市長は、保護の申請があったときは、その内容について審査し、保護する必要があると認めた場合は、施設の長と受入れの協議を行った上で保護の決定を行い、高齢者緊急一時保護決定通知書により申請者に通知するものとする。

(引用終わり)

 「保護する必要があると認めた場合」に保護の決定を行って通知する、というだけで、保護の必要があるとは認めず、保護を決定しない場合については、その旨を申請者に通知すべき旨を定めていないことが分かるでしょう。そして、保護を決定するなら、申請者にそれを伝えるのは当たり前。本件で、「Aに知らせないで保護を実施する。」という状況なんてあり得るか。ちょっと想像してみれば、容易に理解できるでしょう。

6.本件要綱ですら応答義務を定めていないのだから、「本件要綱の定めは老人福祉法11条の趣旨を具体化したものと解釈できるから、同条は申請の仕組みを設定しているのだ。」という解釈なんて成立するわけがない。この点が、労災就学援護費事件との根本的な違いだったのでした。

(『司法試験定義趣旨論証集行政法【第2版】』「申請権は法律で明示されることを要するか」の項目より引用。太字強調は筆者。)

・申請権は法律で明示されることを要するか
重要度:A
 申請権は、法律の明示がなくても、制度の仕組み等から解釈上認めることができる(労災就学援護費事件、スモークマグロ事件各判例参照)。
 ※ 最判平15・9・4。最判平16・4・26。
 ※ 労災就学援護費事件判例は、「法(※注:労働者災害補償保険法を指す。)23条(※注:現行の29条を指す。)1項2号は、政府は、労働福祉事業(※注:現行の29条では、「社会復帰促進等事業」とされている。)として、遺族の就学の援護等、被災労働者及びその遺族の援護を図るために必要な事業を行うことができると規定し、同条2項は、労働福祉事業の実施に関して必要な基準は労働省令(※注:現行では厚生労働省令)で定めると規定している。これを受けて、労働省令である労働者災害補償保険法施行規則(平成12年労働省令第2号による改正前のもの)1条3項は、労災就学援護費の支給に関する事務は、事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長が行うと規定している。そして、「労災就学援護費の支給について」と題する労働省労働基準局長通達(昭和45年10月27日基発第774号)は、労災就学援護費は法23条の労働福祉事業として設けられたものであることを明らかにした上、その別添「労災就学等援護費支給要綱」において、労災就学援護費の支給対象者、支給額、支給期間、欠格事由、支給手続等を定めており、所定の要件を具備する者に対し、所定額の労災就学援護費を支給すること、労災就学援護費の支給を受けようとする者は、労災就学等援護費支給申請書を業務災害に係る事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長に提出しなければならず、同署長は、同申請書を受け取ったときは、支給、不支給等を決定し、その旨を申請者に通知しなければならないこととされている。」、「労災就学援護費に関する制度の仕組みにかんがみれば、法は、労働者が業務災害等を被った場合に、政府が、法第3章の規定に基づいて行う保険給付を補完するために、労働福祉事業として、保険給付と同様の手続により、被災労働者又はその遺族に対して労災就学援護費を支給することができる旨を規定しているものと解するのが相当である。」と判示している。保険給付については申請権が認められることが明文上明らかである(法12条の8第2項、38条、40条。施行規則19条1項。)。他方で、行政規則である要綱で規定された労災就学援護費についても同様に扱う趣旨であるかは、労働者災害補償保険法の文言上は明確でない。上記判例は、制度の仕組み全体から解釈して、同法は労災就学援護費についても保険給付と同様に扱う趣旨であることを認め、申請権を認めたものと理解できる。なお、現在の労働者災害補償保険法施行規則には、労災就学援護費の支給対象者、支給額及び労働基準局長への委任の定めがある(33条)。

 (後略)

(引用終わり)

 老人福祉法11条の仕組み解釈なんて踏み込んで行う必要もない。ここまで気付けば、後は、会議録で誘導されたとおり、老人福祉法11条が申請の仕組みを設定していると解釈できるのかについて、要綱の法的性格、本件要綱にいう「申請」が法令に基づく申請といえるか、という順番で書いていけば終わりです。

(問題文より引用。太字強調は筆者)

弁護士H:入所措置の老人福祉法上の根拠規定である同法第11条が、申請の仕組みを設定していると解釈できるのかが問題となります。要綱の法的性格と、本件要綱にいう「申請」が法令に基づく申請といえるかに注意して、検討してみてください。

(引用終わり)

(参考答案より引用。太字強調は筆者。)

1.本件要綱は行政規則にすぎず、「法令」(行手法2条1項1号参照)でないから、同要綱8条の「申請」は「法令に基づく申請」(行審法3条括弧書)でない。同要綱9条は保護決定通知の定めにすぎず、保護決定しない場合の通知の定めはないから、同要綱においてすら、市長が「諾『否』の応答」(行手法2条1項3号参照)をすべき仕組みにはなっていない。
 したがって、労災就学援護費事件とは異なり、法11条1項が申請の仕組みを設定していると解釈する余地はない。

2.以上から、Aがした一時保護の申請に対するC市福祉事務所長の不応答は、「行政庁の不作為」(行審法3条)に当たらない。

3.よって、Aがした審査請求は、不適法である。

(引用終わり)

 設問1の配点が20点しかないことにも、合点がいくというものです。

(問題文より引用。太字強調は筆者)

〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕、〔設問2〕、〔設問3〕の配点割合は、20:30:50〕)

(引用終わり)

 ちなみに、ゼミなどでこのテーマを深く扱ったことがあり、たまたま知っていた、という人なら、「老人福祉法11条は職権主義を採用し、申請主義を採用していないが、それは要保護者の請求権を申請権として認めない点に主眼があるのではなく、申請を待たずに直ちに保護措置を開始せよと公権力に義務付ける点に主眼がある。すなわち、同条は申請主義を採用する場合以上に手厚く保護する趣旨であって、申請がない場合ですら直ちに措置を開始すべきである以上、申請があった場合には当然に直ちに応答すべきであるとする『もちろん解釈』が妥当する。したがって、同条は、申請があった場合には当然に諾否の応答をすべき趣旨を包含しており、本件要綱9条の定め方にかかわらず、市町村は諾否の応答をすべき義務を負う。」という解答筋があり得る(学説ではむしろ多数)ということを知っていたかもしれない。それでも、上記の配点を考えれば、参考答案程度にとどめる方が無難でしょう。なお、申請権肯定筋があり得るということは、本件要綱9条が応答義務を定めていないことに気付きすらせずに申請権を肯定しても許される、ということを意味しません。

7.CBT方式になって、事例・会議録・参照条文を同時に見ることができず、いちいち画面をスクロールしないといけなくなりました。これが想像以上に面倒で、条文をきちんと見ない人が増えていそうです。なので、ここに気付かなかった人が結構多そう。そのような人は、敗者復活戦に回ることになります。次回、その点について説明しましょう。

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