令和8年司法試験短答式試験の結果について(3)
~科目別平均点・最低ライン未満者・標準偏差~

1.以下は、直近5年間の科目別の平均点の推移をまとめたものです。憲法、刑法は50点満点ですが、民法は75点満点なので、比較のため、民法の平均点の欄の括弧内に50点満点に換算した数値を示しました。

年 憲法 民法 刑法
令和
4
31.6 47.3
(31.5)
36.8
令和
5
31.4 48.7
(32.4)
38.2
令和
6
28.1 49.0
(32.6)
34.9
令和
7
25.5 44.2
(29.4)
32.4
令和
8
28.8 50.4
(33.6)
38.9

 すべての科目で、平均点が上昇しています。全科目難しかった昨年からの反動といった感じです。昨年の難易度が高すぎたことは、検証担当考査委員からも、指摘のあったところでした。

(司法試験委員会会議(第199回)議事要旨より引用。太字強調は筆者。)

⑴ 令和7年司法試験の検証結果について(報告・協議)

○ 平成30年8月3日付け司法試験委員会決定「司法試験の方式・内容等の在り方について」に基づき選任された検証担当考査委員による令和7年司法試験の検証の方法・過程及び結果について、検証担当考査委員から報告がなされ、これを踏まえて協議を行った。

ア 検証担当考査委員からの報告の概要

○ 検証の方法・過程

 考査委員20名(研究者委員15名、実務家委員5名)が検証担当考査委員として選任され、令和8年1月から同年3月にかけて、必須科目部会と選択科目部会に分かれてそれぞれ検討・協議を行った。
 両部会においては、論文式試験の出題、出題の趣旨及び採点実感等に関する意見交換を行うとともに、必須科目部会においては、短答式試験の出題に関する意見交換を行うのに加え、論文式試験の出題に関し、法科大学院協会及び日本弁護士連合会から9名の研究者・実務家が参加し、法科大学院協会司法試験等検討委員会による「令和7年度司法試験に関するアンケート調査結果に関する報告書」及び日本弁護士連合会法科大学院センターによる司法試験分析資料の二つの外部評価も踏まえ、質疑応答及び意見交換を行った。

○ 検証の結果

・ 短答式試験については、全体の平均点が昨年から10点下がり、それに比例して最低ライン点未満による不合格者の人数も増加していることから、問題の難易度には配慮が必要であるものの、問題文の字数・ページ数等の分量や設問ごとの正答率等は近年の短答式試験とほぼ同水準であり、外部からも相応の評価を得るなど、全体としては、基本的知識を問う出題傾向で安定していることから、問題の難易度に留意しつつ、引き続き、基本的知識を問う出題方針を継続することが望ましいとされた。 

(引用終わり)

 今年、全科目で平均点が上がったのは、上記を踏まえて意図的に難易度を下げた結果である、ということができるでしょう。それでも、憲法は平均点がかなり低めです。最低ラインが20点であるのに、平均点は28.8点。うっかりすると、簡単に最低ラインを割ってしまいそうです。当サイトは、近時の憲法の極端な出題傾向は、意図的である可能性が否定できないと考えています(「憲法考査委員は短答でも「判例無視」を潰しにきている(令和7年司法試験短答憲法)」)。同様の傾向が続いても、最低ライン未満にだけはならない、という程度の準備は必要でしょう。そのための方法は、前回の記事(「令和8年司法試験短答式試験の結果について(2)~合格点・最低ライン未満者・勉強法~」)で説明したとおり、肢別問題集を用いて、全肢確実に切る、ということです。憲法に関しては、それに加えて、過去問で出題された判例の原文を見て、論理構造を確認しておく、ということまでやっておけば、より確実性が増すでしょう(「憲法考査委員は短答でも「判例無視」を潰しにきている(令和7年司法試験短答憲法)」)。
 平均点の上昇が最も大きいのは刑法で、これは、論理問題の影響が大きいと思っています。昨年は、難解な論理問題が多数(9問)出題されました。それに対応して、対策する受験生が増えたことでしょう。論理問題は、適切に対策すれば、解けるようになります。当サイトでも、詳細な解説記事を掲載していました(「刑法穴埋めを最短でやっつける方法その1(令和7年司法試験・予備試験短答刑法)」、「刑法穴埋めを最短でやっつける方法その2(令和7年司法試験・予備試験短答刑法)」、「刑法穴埋めを最短でやっつける方法その3(令和7年司法試験・予備試験短答刑法)」)。今年は、上記検証結果の指摘やCBT方式になったことに配慮してか、論理問題の数が減少(7問)しました。内容的にも、少し易しめになっています。受験生からすれば、対策した上に相手が楽だった。その結果、時間が足りなくて大きく点数を落とす受験生が減ったのでしょう。今後も、今年くらいの数・難易度の論理問題は出題されるでしょう。今年も論理問題でやられてしまった、という人は、本格的に対策すべきです。

2.以下は、令和2年以降の最低ライン未満者割合(短答受験者全体に占めるその科目の最低ライン未満者の割合)の推移をまとめたものです。

年
(令和)
憲法 民法 刑法
2 1.2% 11.7% 10.1%
3 2.1% 5.5% 4.2%
4 3.6% 7.3% 2.1%
5 2.6% 8.4% 0.7%
6 8.3% 5.0% 3.2%
7 15.2% 9.0% 7.9%
8 8.1% 4.7% 1.5%

 全科目で、最低ライン未満者割合が低下しています。これも、検証結果の指摘を踏まえた意図的なものといえます。それでも、憲法は全受験生の約8%が最低ライン未満になってしまっています。判例無視の受験生が減らないようなら、これからもやってやるぞ、という考査委員の意思のようなものが感じられる。憲法だけで1年を無駄にしてしまわないよう、油断のない準備が必要でしょう。
 憲法に次いで要注意なのが民法で、今年はやや大人しめでしたが、過去の数字を見ると、かなり高めの最低ライン未満者割合で推移しています。今後も、5~10%程度の高めの水準となりやすいでしょう。民法は肢の組み合わせで解ける問題が出題されますが、最近の出題傾向では、既知の肢を確実に切らないと、肢の組み合わせを用いても、簡単には答えが出ないようになっています。前回の記事(「令和8年司法試験短答式試験の結果について(2)~合格点・最低ライン未満者・勉強法~」)で説明したとおり、既知の肢はすべて100%に近い精度で切れるようにしておきましょう。肢別ではなく、過去問をそのまま解く場合、肢の組み合わせで解くのではなく、全ての肢の正誤を的中させて初めて、その問題は正解扱いにする。そうでないと、100%に近い精度を実現できません。また、民法は、近時、改正の多い科目です。予備校で模擬試験等を受けた際に、改正関係の問題があったなら、それも過去問と同様に、切れるようにしておくとよいでしょう。

3.以下は、令和2年以降の各科目の標準偏差の推移です。憲法、刑法は50点満点ですが、民法は75点満点なので、比較のため、民法の欄の括弧内に50点満点に換算した数値を示しました。

年
(令和)
憲法 民法 刑法
2 5.7 11.5
(7.6)
7.7
3 6.6 11.3
(7.5)
7.7
4 6.2 11.5
(7.6)
7.1
5 5.6 12.9
(8.6)
6.3
6 6.1 11.2
(7.4)
7.9
7 5.8 10.7
(7.1)
8.5
8 6.3 11.2
(7.4)
7.4

 標準偏差は、得点のバラつきが大きくなれば値が大きくなり、得点のバラつきが小さくなれば値が小さくなります。
 憲法のバラつきが小さく、民法、刑法のバラつきは大きいというのが、安定した傾向です。すなわち、憲法はかなり勉強をしても正誤の判断に迷う問題がある一方で、誰もが取れる易しい問題もある。他方、民法・刑法は、誰もが取れる易しい問題は少ない反面、きちんと勉強していれば正解しやすい問題が多い、ということです。刑法については、論理問題の解法を体得しているか、ということが大きいでしょう。
 憲法に関しては、多くの人が取れる易しめの判例問題を落とすというのが、最低ライン未満になってしまう主要な原因です。例年、「bの見解がaの見解の理由(批判)になっている」式の正答率の低い問題などに注目が集まりがちですが、これを取ろうとして基本書などを読んでも、ほとんど成果は期待できない。そのことが、上記の標準偏差にも表れているといえるでしょう。

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