1.令和8年司法試験論文式公法系第1問。①の応用論点として、「市民会館と違って公園は独占使用を予定しない屋外開放空間なんだから、泉佐野判決の射程は及ばないんじゃないの?」というものがあります。
2.「は?何それ?」という人のために、この点を明示に判示した東京地判平14・8・28を示しておきましょう。下手に基本書や学術論文を読むよりも、これが一番分かりやすい(※1)。
※1 百選解説でも触れられてはいます(金澤孝「集会の自由と市民会館の使用不許可 —泉佐野市民会館事件
—最三小判平成7・3・7」憲法判例百選Ⅰ〔第8版〕166頁、解説5(2))が、これを読んでも何のことか分からないでしょう。学生が読むものだと思って書いてないだろ、と思います。
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(東京地判平14・8・28より引用。太字強調は筆者) 本件各公園は、専ら集会の目的に利用することが予定されている公会堂等とは異なり、不特定多数の近隣住民が、休息、鑑賞、散歩、遊戯、運動等に日常的に随時自由に共同して利用することを目的としている施設であり、出来るだけ多くの一般市民が随時利用できる機会を確保する必要がある。ところで、このような公園を特定の団体等が集会の目的で占用利用した場合、その利用は事実上排他的独占的なものにならざるを得ない結果となることを考えると、不特定多数の近隣住民の随時利用が妨げられ、公園の本来の設置目的との抵触が生ずる結果となることから、公園の管理権者としては、申請者の予定する公園の利用目的、内容、期間、場所・面積等と、一般市民の公園利用上の支障等を総合的に判断し、その調整をして公園の占用利用の許否を決定することができるものというべきである。 (引用終わり) |
これを理解した上で問題文を読み返すと、上記判示は、まさに本問にも当てはまりそうだ、ということが分かるでしょう。本件条例5条3項1号は本件申請不許可の根拠とされていないのに、どうしてわざわざ書いてあるのだろう、と思った人もいたでしょうが、ここで意味を持つのです。
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(問題文より引用。太字強調は筆者) A市立中央公園(以下「本件公園」という。)は、市民の休息、観賞、散歩、遊戯、運動等の利用のため、A市が都市公園法に基づいて設置した60メートル四方の広さの市立公園である。……(略)……本件公園は、一般市民が随時、無料で利用できる公園であるが、その一部又は全部を独占して使用する場合には、A市立公園管理条例(以下「本件条例」という。後掲【資料】を参照。)第5条第 1 項の定める市長の許可を得る必要がある。 (中略) 甲:本件公園は、都市公園法に基づいてA市が設置した市立公園ですので(本件条例第2条第1号)、地方公共団体が設置した「公の施設」(地方自治法第244条)に該当します。本件公園の設置目的は、近隣住民を中心とする一般市民の自由な随時利用にありますが、本件条例第5条所定の市長の許可を得れば、公園の一部又は全部を独占して使用することも可能です。なお、202*年7月1日から同月2日にかけての夜間の独占使用の申請をしているのはXのみで、他団体による申請はありません。 (中略) 【資料】A市立公園管理条例(抜粋) 第1条 この条例は、市立公園の設置、管理等について必要な事項を定め、市立公園の健全な発展と利用の適正化を図り、もって市民福祉の増進に寄与することを目的とする。 (中略)
第5条 独占使用をしようとする者は、市長の許可を得なければならない。 (引用終わり) |
泉佐野基準をそのまま妥当させてしまうと、危険のない集会は全部許可しないといけなくなる。最悪、毎日どっかの団体が集会をやっている、ということにもなりかねません。近くに公園があるから子どもを連れて遊ばせようと思ったのに、いつも集会やってて入れないじゃん。開かずの踏切かよ。さすがにそれはおかしいのではないか、ということですね。
3.上記の問題意識は、答案にどう影響するか。主に3つのポイントに関係します。
(1)1つは、本件公園のパブリック・フォーラム該当性です。泉佐野判決はパブリック・フォーラム論をいうものと評価されているので、本件公園がパブリック・フォーラムでなければ同判決の射程は及ばない。本件公園は市民の休息、観賞、散歩、遊戯、運動等の利用のための場所なんだから、表現のための場所じゃなくねーか、ということですね。これについては、公園は一般に伝統的パブリック・フォーラムと理解されているし、本件公園は60メートル四方の広さがあるので集会の場所としてふさわしく、現に本件条例5条1項の許可を得て、在留外国人との共生を進める国際交流団体の活動紹介を内容とする行事とか、原水爆禁止を訴える趣旨の集会が開催されてたじゃんね、ということを書けばよいでしょう(※2)。
※2 細かいことをいうと、本問では他団体による申請がない(甲の第1発言)とされているので、他の使用希望者との調整を考える必要がない、ということも、指摘してよい要素です。もっとも、本問の場合、この要素はどちらかというと論述の対象を限定する「なお書き」の趣旨で記載されているようにみえるので、答案で明示に指摘する必要はないのかな、と思っています。参考答案で指摘していないのも、そのためです。
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(問題文より引用。太字強調は筆者) A市立中央公園(以下「本件公園」という。)は、市民の休息、観賞、散歩、遊戯、運動等の利用のため、A市が都市公園法に基づいて設置した60メートル四方の広さの市立公園である。……(略)……本件公園は、一般市民が随時、無料で利用できる公園であるが、その一部又は全部を独占して使用する場合には、A市立公園管理条例(以下「本件条例」という。後掲【資料】を参照。)第5条第 1 項の定める市長の許可を得る必要がある。同項所定の許可を得て、在留外国人との共生を進める国際交流団体の活動紹介を内容とする行事のほか、原水爆禁止を訴える趣旨の集会が開催されたことがある。 (引用終わり) (参考答案より引用。太字強調は筆者) 本件公園は、市民の休息、観賞、散歩、遊戯、運動等一般公衆の福祉増進のための利用を目的とし(本件条例1条、5条3項1号参照)、集会を目的としないから、PFでないとの立場も考えられる。しかし、一般に公園は伝統的PFとされ、本件公園は60m四方の集会に適する広さで、現に在留外国人共生国際交流団体活動紹介行事や原水爆禁止集会が開催されてきたから、伝統的PFである。 (引用終わり) |
「集会に適する広さ」という評価文言をさりげなく付すのは、秒でできるようになりたい。「在留外国人との共生を進める国際交流団体の活動紹介を内容とする行事」を、「在留外国人共生国際交流団体活動紹介行事」に、「原水爆禁止を訴える趣旨の集会」を、「原水爆禁止集会」に省略してしまうのも、「ここを省略しても絶対減点とかできないでしょ?」という考査委員の足元を見る細かいテクニックです。もっと省略してもよさそうですが、「意味変わってない?」などと現場で考える時間が無駄なので、この程度にしておくのが無難です。
(2)もう1つは、パブリック・フォーラムの目的外使用との関係です。仮に、本件公園がパブリック・フォーラムだったとしても、目的外使用の場合は泉佐野判決の射程外で、呉市学校施設使用不許可事件判決の法理になるんじゃね?ということですね。これについては、指定的パブリック・フォーラムについては射程外だけど、伝統的パブリック・フォーラムは射程内になる、というのが答えになります。ここは、できれば知っておきたい。当サイト作成の『司法試験定義趣旨論証集(憲法)』でも、重要度はBになっていますが、論証を用意していたところです(『司法試験定義趣旨論証集(憲法)』「伝統的PFの目的外使用にPF論は妥当するか」、「指定的PFの目的外使用にPF論は妥当するか」の各項目を参照)。参考答案の太字強調部分が、その論証に準拠した部分です。
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(参考答案より引用。太字強調は筆者) 独占使用を予定する市民会館等とは異なり、本件公園の独占使用は目的外使用であるから、PF論は妥当しないとの立場も考えられる。しかし、伝統的PFは本来の目的とは別に集会等が認められてきた場所であるから、当然にPF論が妥当する。 (引用終わり) (『司法試験定義趣旨論証集(憲法)』「伝統的PFの目的外使用にPF論は妥当するか」より引用) 伝統的PFの目的外使用にPF論は妥当するか (引用終わり) |
(3)3つ目は、敵対的聴衆の法理の当てはめです。本問では、甲は「警備は無理」と言っています。
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(問題文より引用。太字強調は筆者) 甲:第一に、管理上の支障を根拠として本件申請を不許可にできると考えます。Xの幹部の一人であるBは、過去に政治的に対立する諸団体の関係者との間で暴力事件を起こしており、逮捕されたこともある人物です。Bが幹部の一人であるXによる本件活動のための本件公園の独占使用を認めると、対立する諸団体の関係者との間で暴力沙汰になる危険性があります。Bは本件活動についてSNSで度々発信しているので、その可能性は否定できません。また、夜間に行われる長時間の抗議活動なので、管理上の支障の発生を防ぐのに必要な人数の警察官を配備するのも容易ではありません。 (引用終わり) |
しかし、これは甲が一方的に言い放っているだけなので、答案では問題文にある事実を摘示して当てはめるべきなのでしょう。そのような目で、問題文の事例で使えるものがないかを探していくと、以下の部分に気が付くでしょう。
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(問題文より引用。太字強調は筆者) 条例改正を受けてA市は、本件公園を囲む鉄製の柵(高さ1.5メートル)を設置し、夜間、その出入口を施錠している。 (中略) 本件活動中、Xとしては会員外の一般市民が公園内に立ち入るのは認めないが、数名の報道関係者が取材のために公園内に立ち入る予定である。 (引用終わり) |
知識があれば、「ああこれは実質閉鎖空間だから市民会館と同じように敵対的聴衆の法理が強く妥当する(反対者の存在を理由に集会を制限しにくい。)ってことだよね。」と分かるわけですが、そうでなくても、「鉄柵で囲われてて、出入口も施錠できるんだったら、そんなに警備難しくなくね?」と気付けるかもしれない。参考答案は、そんな感じで書いています。
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(参考答案より引用。太字強調は筆者) 本件公園は高さ1.5mの鉄柵で囲まれた閉鎖空間で、乗り越えられない高さではないが、立入りは容易でない。本件活動中は、数名の報道関係者を除き、会員外の一般市民が公園内に立ち入るのは認めない予定であるから、本件活動中に出入口を施錠することも可能である。他団体と直接の暴力事態に至るおそれは大きくなく、また、出入口等侵入しやすい場所を集中警備でき、警備強化等で対応できないとまではいえない。 (引用終わり) |
上位者は、なぜか知識もないのにこういうのをちゃんと書いてくる。「よく気付いたね?」というと、「だって柵で囲われてるって書いてあるじゃないですか、常識っスよ。」みたいなリアクションが返ってくる。特に憲法の理解が深いわけではない。短期合格者というのは、こんな感じの人達です。このような芸当が先天的にできる人は、早く受かります。できない人は、地道に演習を繰り返して訓練するよりありません。
4.以上の点は、いずれも上位に入るかどうか、という点に関わることで、合否には全然影響しないでしょう。逆にいえば、とりあえず受かればいい、という人は、こんなのスルーしてしまって構いません。ちなみに、基本書を読めば事前準備できるかというと、それは無理です。試しに、手元にある基本書を調べてみましょう。そもそもこの点について記載のある基本書の方が少ないので、「書いてないじゃん。」となるのが普通です。また、簡単な記載はあっても、上記のように答案に書けるほどきちんと説明のあるものは皆無でしょう。安易に「基本書を読め。そこに全部書いてある。」などと言う人がいますが、多くの場合、それは誤っているのです。