①と②の比重
(令和8年司法試験論文式公法系第1問)

1.令和8年司法試験論文式公法系第1問。設問を見れば、①と②の2つについて書くべきことが明らかです。

(問題文より引用。太字強調は筆者)

〔設問〕

 あなたが検討を依頼された乙であるとして、本件申請について、市長が、①本件条例第5条第3項第5号に規定する管理上の支障があることを根拠として不許可処分をすることが憲法上許されるか、②本件条例第8条第2項に規定する特別な理由がないことを根拠として不許可処分をすることが憲法上許されるか、それぞれについて論じなさい。なお、その際には、参考とすべき判例や自己の見解と異なる立場に言及すること。規定の文言の明確性については、論じる必要はない。

(引用終わり)

 両者の比重を、どうみるか。

2.まず、手掛かりになるのは、甲と乙の間でのやり取りです。ここに、①と②のそれぞれについて、何を書けばよいかが書いてある。まず、前半部分を見ると、①は敵対的聴衆の法理だけを書けばよさそう。

(問題文より引用。太字強調は筆者)

甲:第一に、管理上の支障を根拠として本件申請を不許可にできると考えます。Xの幹部の一人であるBは、過去に政治的に対立する諸団体の関係者との間で暴力事件を起こしており、逮捕されたこともある人物です。Bが幹部の一人であるXによる本件活動のための本件公園の独占使用を認めると、対立する諸団体の関係者との間で暴力沙汰になる危険性があります。Bは本件活動についてSNSで度々発信しているので、その可能性は否定できません。また、夜間に行われる長時間の抗議活動なので、管理上の支障の発生を防ぐのに必要な人数の警察官を配備するのも容易ではありません。

乙:なるほど。ただし、管理上の支障を根拠として不許可処分をする場合、関連する判例とそれに対する学説の評価を確認する必要がありますね。

(引用終わり)

 後半部分を見ると、②は、「Xに対して特別に夜間の独占使用を認めるべき憲法上の理由があるか」という点と、「A市の政治的中立性に対する市民の信頼が損なわれる危険性があるか」という点の2点について書くべきことが分かります。

(問題文より引用。太字強調は筆者)

甲:第二に、A市としては、夜間の利用禁止を根拠にして不許可にできるとも考えております。

乙:本件公園は夜間、一般市民の利用が禁止されているとのことですが、本件条例第8条によれば、市長の許可があれば夜間の独占使用も可能とのことですし、過去にも許可した例があるようですね。

甲:はい。星座鑑賞会や盆踊りなど「夜間の独占使用を認めるべき特別な理由」(本件条例第8条第2項)があれば、許可をしてきました。例年10~20件は許可しております。ただし、住宅費高騰問題に関する抗議活動は、本件公園の夜間の独占使用によらずとも、昼間の公園でも行えますし、夜間ならば市立公民館でも行えるので、本件申請については、「夜間の独占使用を認めるべき特別な理由」を認めることはできません。

乙:Xとしては、特定の日時に世界規模で実施が計画されている本件プロジェクトに呼応するためには、本件公園で夜間に本件活動をするのが最適であると考えていることにも留意すべきでしょう。Xに対して特別に夜間の独占使用を認めるべき憲法上の理由があるか否かの検討が必要になりますね。

甲:「夜間の独占使用を認めるべき特別な理由」に関わるもう一つの問題として、夜間の利用は禁止が原則ですので、特定の政治的主張を行うための夜間の独占使用を認めたら、A市の政治的中立性に対する市民の信頼が損なわれる危険性があります。

乙:なるほど。Xの夜間の独占使用を認めると、A市の政治的中立性が損なわれるのではないかという点についても、憲法の観点から検討する必要がありそうです。そこでお尋ねしますが、過去の夜間の独占使用に関して、政治的中立性を理由として抗議等があったケースはあるのでしょうか。

甲:はい。市内の経営者・商店主が組織する「新幹線延長を求める市民の会」から、本件公園で午後7時から午後9時まで無料ビアガーデンを開いて、帰宅途中の市民に新幹線延長の必要性をアピールしたいとの申請があったので、市長が夜間の独占使用を許可したところ、市議会で延長反対派の議員が政治的中立性の観点から問題ではないかと質問しました。市長は「新幹線延長は市長選の際の私の公約であり、A市の基本政策の一つであるから、その御批判は当たらない。」と答弁しました。

(引用終わり)

 この時点で、②の方が書くことが多そうだな、と判断できるでしょう。

3.次に、上記を踏まえて、事例部分を見てみます。すると、①の敵対的聴衆の法理に関係がありそうなのは、主に「ところで」で始まる段落部分だけで、他は主に②で使うのだろう、ということも分かるでしょう。

(問題文より引用。太字強調は筆者)

 ところで、Bは、長年、A市を拠点として外国人との共生を進める運動に関わってきたが、全国各地から外国人排斥を訴える様々な団体がA市に集結して集会やデモ行進を行うようになったため、そのような集会等に対してカウンターデモを行う団体Cを組織して、その代表になった。Xの幹部のうちCの活動に関わっているのはBのみである。同年3月1日、外国人排斥デモの参加者とBらのカウンターデモの参加者との間で小競り合いが生じ、双方の参加者がお互いに暴力を振るう事態となり、20人の逮捕者が出た。なお、Bも逮捕されたが不起訴となった。A市内ではその後も、外国人排斥を訴える諸団体とCとの間で小競り合いが何回か繰り返され、警察官が出動して制圧する事態も起きている。

(引用終わり)

 このことから、当てはめで使う事実も②の方が多いだろう、と判断できます。

4.さらに、憲法論も加味して考えてみましょう。①は、泉佐野市市民会館事件判決の規範を前提に、その中で敵対的聴衆の法理を書くことになるので、それなりに文字数を使うでしょう。他方、②は、基礎となる憲法論がぱっと思い浮かばないのが普通です。②は、「Xに対して特別に夜間の独占使用を認めるべき憲法上の理由があるか」という点と、「A市の政治的中立性に対する市民の信頼が損なわれる危険性があるか」という点の2点について書けばよく、そこの当てはめに使う事実がたくさんあることも分かっているので、分からない憲法論で勝負しない方がよさそう。そう考えると、憲法論は①の方が厚いよね、と判断できます。②は、憲法の問題というより、問題文の事実を組み合わせるパズルと、素早く書き写すタイピングを競う競技、すなわち、大魔神案件である、ということも、ここで判断できるわけですね。

5.以上のことを事前に把握した上で、答案を書き始めたか。CBTになって、後からの訂正が手書きより楽になりましたが、それでも、バランスを考えないで書き始めると、時間を大きくロスしたり、気付いたときには時間切れになっていたりしがちです。①を一生懸命手厚く書いて、②の事実摘示がスッカスカになってしまった人は、反省すべきでしょう。このようなことは、基本書やテキスト、論証集等を読んでいても身に付きません。特に訓練しなくても自然にできる人はよいのですが、そうでない人は、演習を繰り返して、短時間で判断できるよう、訓練する必要があるのです。

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