1.令和8年司法試験論文式公法系第1問。本件条例5条や8条それ自体の違憲、すなわち、法令違憲の検討をした人がいたかもしれません。しかし、本問では、それは問われていないと判断すべきだったでしょう。
2.まず、手掛かりになるのは、設問の問い方です。
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(問題文より引用。太字強調は筆者) 〔設問〕 あなたが検討を依頼された乙であるとして、本件申請について、市長が、①本件条例第5条第3項第5号に規定する管理上の支障があることを根拠として不許可処分をすることが憲法上許されるか、②本件条例第8条第2項に規定する特別な理由がないことを根拠として不許可処分をすることが憲法上許されるか、それぞれについて論じなさい。なお、その際には、参考とすべき判例や自己の見解と異なる立場に言及すること。規定の文言の明確性については、論じる必要はない。 (引用終わり) |
上記の問われ方をして、法令違憲も問われている、と読むのは、素直な読み方とはいえません。とはいえ、理屈だけでいえば、本件条例が違憲なら、それを根拠とする不許可処分も憲法上許されない、といえるから、法令違憲も関係なくはない。また、「規定文言の明確性」は法令違憲に関することだから、「規定の文言の明確性について『は』、論じる必要はない。」と、「は」に着目して読めば、明確性以外の法令違憲は検討すべきなのだ、という理屈も、成り立たないわけではなさそう。設問だけでは、確実な判断にはちょっと躊躇が残ります。
3.そこで、もう1つ、判断の材料になるのが、甲と乙の間でのやり取りです。
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(問題文より引用。太字強調は筆者) 甲:本件公園は、都市公園法に基づいてA市が設置した市立公園ですので(本件条例第2条第1号)、地方公共団体が設置した「公の施設」(地方自治法第244条)に該当します。本件公園の設置目的は、近隣住民を中心とする一般市民の自由な随時利用にありますが、本件条例第5条所定の市長の許可を得れば、公園の一部又は全部を独占して使用することも可能です。なお、202*年7月1日から同月2日にかけての夜間の独占使用の申請をしているのはXのみで、他団体による申請はありません。 乙:承知しました。A市としては、Xによる本件申請を不許可にしたいとのことですが、その根拠と理由を教えてください。 甲:第一に、管理上の支障を根拠として本件申請を不許可にできると考えます。Xの幹部の一人であるBは、過去に政治的に対立する諸団体の関係者との間で暴力事件を起こしており、逮捕されたこともある人物です。Bが幹部の一人であるXによる本件活動のための本件公園の独占使用を認めると、対立する諸団体の関係者との間で暴力沙汰になる危険性があります。Bは本件活動についてSNSで度々発信しているので、その可能性は否定できません。また、夜間に行われる長時間の抗議活動なので、管理上の支障の発生を防ぐのに必要な人数の警察官を配備するのも容易ではありません。 乙:なるほど。ただし、管理上の支障を根拠として不許可処分をする場合、関連する判例とそれに対する学説の評価を確認する必要がありますね。 甲:第二に、A市としては、夜間の利用禁止を根拠にして不許可にできるとも考えております。 乙:本件公園は夜間、一般市民の利用が禁止されているとのことですが、本件条例第8条によれば、市長の許可があれば夜間の独占使用も可能とのことですし、過去にも許可した例があるようですね。 甲:はい。星座鑑賞会や盆踊りなど「夜間の独占使用を認めるべき特別な理由」(本件条例第8条第2項)があれば、許可をしてきました。例年10~20件は許可しております。ただし、住宅費高騰問題に関する抗議活動は、本件公園の夜間の独占使用によらずとも、昼間の公園でも行えますし、夜間ならば市立公民館でも行えるので、本件申請については、「夜間の独占使用を認めるべき特別な理由」を認めることはできません。 乙:Xとしては、特定の日時に世界規模で実施が計画されている本件プロジェクトに呼応するためには、本件公園で夜間に本件活動をするのが最適であると考えていることにも留意すべきでしょう。Xに対して特別に夜間の独占使用を認めるべき憲法上の理由があるか否かの検討が必要になりますね。 甲:「夜間の独占使用を認めるべき特別な理由」に関わるもう一つの問題として、夜間の利用は禁止が原則ですので、特定の政治的主張を行うための夜間の独占使用を認めたら、A市の政治的中立性に対する市民の信頼が損なわれる危険性があります。 乙:なるほど。Xの夜間の独占使用を認めると、A市の政治的中立性が損なわれるのではないかという点についても、憲法の観点から検討する必要がありそうです。そこでお尋ねしますが、過去の夜間の独占使用に関して、政治的中立性を理由として抗議等があったケースはあるのでしょうか。 甲:はい。市内の経営者・商店主が組織する「新幹線延長を求める市民の会」から、本件公園で午後7時から午後9時まで無料ビアガーデンを開いて、帰宅途中の市民に新幹線延長の必要性をアピールしたいとの申請があったので、市長が夜間の独占使用を許可したところ、市議会で延長反対派の議員が政治的中立性の観点から問題ではないかと質問しました。市長は「新幹線延長は市長選の際の私の公約であり、A市の基本政策の一つであるから、その御批判は当たらない。」と答弁しました。 乙:最後に確認しますが、本件申請を許可したら、夜間に騒音が出て近隣住民が迷惑するとは考えていないということですね。 甲:世界各地の抗議活動の様子やXの申請内容から判断して、本件活動自体から騒音の問題が生じるとは考えていません。また、許可の際、例えば午後9時以降の静穏確保の厳守を求める条件を付すことも可能です(本件条例第8条第2項)。ちなみにXの事務局長は、「そのような条件を付した許可で結構です。」と答えています。 乙:承知しました。それでは、憲法上の論点を精査した上で、改めて私見を申し上げます。 (引用終わり) |
本件条例それ自体の立法事実や、その必要性・合理性等に関する記載がほとんどありません。事例部分をみると、わずかに、以下のような記載があるだけです。
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(問題文より引用。太字強調は筆者) 5年ほど前から、夜間に本件公園内で暴走族が集会を行ったり、未成年者が集まり飲酒をして騒ぐなどの行為が繰り返され、治安上の懸念を理由として夜間における公園の閉鎖を求める多くの陳情があったため、A市議会は本件条例を改正して、本件公園については夜間(午後7時から翌日午前7時まで)の利用を禁止した(本件条例第8条第1項)。 (引用終わり) |
この部分は、本件条例8条に関する立法事実といえるでしょう。しかし、その点について、甲と乙の間でのやり取りでは全く触れられていない。こうしたことから、法令違憲は検討しなくてよさそうだ、という判断をすることができたでしょう。
4.法令違憲を書かなくてよいといっても、単に本件条例5条3項5号の「管理上の支障」や同条例8条2項前段の「特別な理由」をいきなり当てはめたのでは、行政法の答案になってしまいます。なので、先に憲法論を書いて、本件条例5条3項5号の「管理上の支障」や同条例8条2項前段の「特別な理由」も同じ意味なのだ、と書く。参考答案は、その方針で書いています。
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(参考答案より引用。太字強調は筆者) 管理上の支障を根拠とする不許可処分の合憲性は、明らかな差し迫った危険の発生が客観的な事実に照らして具体的に予見されるかで判断する(泉佐野市市民会館事件)。判例は、反対者の妨害を理由に平穏な集会を制限できるのは、警備の強化等では対応できないなどの特別な事情がある場合に限られるとする(上尾市福祉会館事件)。学説は、反対者を理由に集会を制限してはならないという敵対的聴衆の法理を定式化したものと評価している。ただし、主催者の暴力的行為によって反対者の妨害が誘発されたときは、敵対的聴衆の法理は適用されない(泉佐野市市民会館事件)。地自法244条2項の「正当な理由」及びこれを具体化した「管理上の支障」(本件条例5条3項5号)も同旨である(憲法適合的解釈)。 (中略) 夜間利用禁止を根拠とする不許可処分の合憲性は、特別に夜間の独占使用を認めるべき憲法上の理由があるか、政治的中立性に対する市民の信頼が損なわれる危険性がないかで判断する。「特別な理由」(本件条例8条2項前段)も同旨である。 (引用終わり) |
本件条例8条2項前段の「特別な理由」の方は、憲法論ですらない感じですが、それは、ここに対応する憲法論が難しすぎるからです。この点については、また別の機会に説明します。