1.最決令7・12・23の解説の続きです。前回は、軽犯罪法1条23号と本条例6条3項2号が同一事項を規制していることを確認しました。今回は、目的との関係をみていきます。
2.改めて、両者の法文を掲載しておきましょう。両者の目的は、同じか、違うのか、ちょっとだけ考えてみるとよいかもしれません。
|
(参照条文) ◯大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例 (卑わいな行為の禁止) (罰則) |
最決令7・12・23は、以下のように判示しました。
|
(最決令7・12・23より引用。太字強調及び※注は筆者。) (2) 軽犯罪法1条23号は、「正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者」を、拘留又は科料に処すると定めている。日常生活における身近な道徳律に違反する比較的軽微な犯罪の処罰を定めるという同法の性格に加え、法定刑が拘留又は科料にとどめられていること等に照らすと、同号は、所定の行為が私生活の秘密を侵害する抽象的危険性を有し、国民の性的風俗にも好ましくない影響を及ぼすおそれがあることに着目して、これを処罰することとしたものと解される。 (引用終わり) |
上記判示のうち、「本件各規定に係る改正の経過」については、三浦守補足意見において説明されています。
|
(最決令7・12・23における三浦守補足意見より引用。太字強調は筆者。) 本条例6条3項2号は、令和3年大阪府条例第37号により改正されたものであるところ、その改正前の規定は、「何人も、みだりに、公衆浴場、公衆便所、公衆が利用することができる更衣室その他公衆が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいる場所における当該状態にある人の姿態を撮影してはならない。」というものであって、上記目的の下に、公衆が利用する場所における上記姿態の撮影行為を禁止するものと解される。そして、上記姿態を撮影する行為は、その影像記録の保持、移転及び拡散の可能性が長期間に及ぶものであって、上記場所をのぞき見る行為よりも、一般的に、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるものであり、ひいては府民等の平穏な生活を害するおそれが強いと考えられることに鑑み、上記目的の下に、禁止の対象を私的な場所における行為にも拡大する改正がされたものと解される。 (引用終わり) |
改正前は、「公衆浴場、公衆便所、公衆が利用することができる更衣室その他公衆が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいる場所」とされていたものが、「住居、浴場、便所、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所」に拡大された。それはなぜかというと、単にのぞき見る行為よりも、姿態の撮影行為の方が府民等の平穏な生活を害するおそれが強い、すなわち、違法性が強いからだ、ということですね。また、公衆に対する風俗犯の側面が後退し、個人的法益に対する罪としての位置付けがより明確になったともいえるでしょう。
以上をまとめると、軽犯罪法はもともと軽微な犯罪を類型化して軽い法定刑で処罰する性格のもので、同法1条23号の保護法益は私生活の秘密及び性的風俗であり、前者に対する違法性も抽象的危険にとどまる。他方、本件各規定の保護法益は府民等の平穏な生活であって、違法性が強い行為態様を対象に重い法定刑をもって規制している。だから、目的が違うだろう。こう言っているわけです。
3.条例と法律が同一事項を異なる目的で規制する場合には、条例の適用によって法律の目的・効果が阻害されるか、という規範によって判断するのでした(『司法試験定義趣旨論証集(憲法)』「条例と法律が同一事項を異なる目的で規制する場合の判断基準」の項目を参照)。最決令7・12・23は、以下のように判示しています。
|
(最決令7・12・23より引用。太字強調は筆者。) そして、本件各規定は、もとより同法1条23号の罪の成立範囲を変更するものではなく、同号とは別の目的からより重い罰則を定めているものであって、同号もこのような罰則を条例によって設けることを禁じたものとは解されず、同号の目的及び効果を阻害するとはいえない。 (引用終わり) |
例えば、「〇〇市のぞき放題条例」などと題して、「〇〇市における軽犯罪法1条23号所定の行為については、同号の規定を適用しない。」などとする条例を定めたとすれば、それは同号の目的・効果を阻害することが明らかです。また、軽犯罪法1条23号が、「のぞきをするのは人の好奇心からしてやむを得ないから特に責任が軽い。」などの理由から、のぞき見る行為全般の刑を一律に軽くする目的によるものであって、規制目的・行為態様のいかんを問わず、およそ同号より重く処罰することを許さない趣旨なら、本件各規定は軽犯罪法1条23号の「のぞきはすべて軽く処罰する。」という目的を阻害する、ということになり得ますが、同号はそんな趣旨・目的ではない。だから、同号に当たる行為のうち、違法性の特に強いものを重く処罰しても、同号の目的・効果が阻害されるとはいえない。そういうことですね。
以上から、結論としては、本件各規定は、軽犯罪法1条23号には違反せず、憲法94条違反はない、ということになるのでした。
|
(最決令7・12・23より引用。太字強調は筆者。) (3) 以上によれば、軽犯罪法1条23号と本件各規定との間に矛盾抵触はなく、本件各規定は同法1条23号に違反しないことが明らかというべきであるから、憲法94条違反をいう所論は前提を欠く。 (引用終わり) |
4.本判例は、判旨を覚えるようなものではありません。また、本判例の事案がそのまま論文に出題される可能性も、高いとはいえないでしょう。もっとも、条例で法律より重い刑罰を定める事例が出題されることは十分あり得ます。その場合に、保護法益や違法性の強さに着目するのだ、という当てはめの視点を知っておくと、要素の抽出を素早く、的確に行いやすくなるでしょう。本判例を学ぶ意味は、この点にあります。