1.当サイトでは、従来、年ごとに、Kindle用の電子書籍として、「最新判例ノート」を公開してきました(当サイト作成の電子書籍一覧)。今年からは、これに代えて、ウェブサイトに解説を掲載することとしました。
2.今回は、憲法94条の「法律の範囲内」の話。具体的には、大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(「本条例」)15条2項、1項1号、6条3項2号の各規定(「本件各規定」)と軽犯罪法1条23号(※1)との間に矛盾抵触がないかについてです。
※1 同号違反の罪は、「窃視罪」と呼ばれることがあります。
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(参照条文) ◯軽犯罪法1条 ◯大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例 (卑わいな行為の禁止) (罰則) |
3.憲法94条の「法律の範囲内」といえるかについては、徳島市公安条例事件大法廷判決の規範があったのでした。これは、当然のように覚えておく必要があります。
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(徳島市公安条例事件大法廷判決より引用。太字強調は筆者。) 条例が国の法令に違反するかどうかは、両者の対象事項と規定文言を対比するのみでなく、それぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾抵触があるかどうかによつてこれを決しなければならない。例えば、ある事項について国の法令中にこれを規律する明文の規定がない場合でも、当該法令全体からみて、右規定の欠如が特に当該事項についていかなる規制をも施すことなく放置すべきものとする趣旨であると解されるときは、これについて規律を設ける条例の規定は国の法令に違反することとなりうるし、逆に、特定事項についてこれを規律する国の法令と条例とが併存する場合でも、後者が前者とは別の目的に基づく規律を意図するものであり、その適用によつて前者の規定の意図する目的と効果をなんら阻害することがないときや、両者が同一の目的に出たものであつても、国の法令が必ずしもその規定によつて全国的に一律に同一内容の規制を施す趣旨ではなく、それぞれの普通地方公共団体において、その地方の実情に応じて、別段の規制を施すことを容認する趣旨であると解されるときは、国の法令と条例との間にはなんらの矛盾抵触はなく、条例が国の法令に違反する問題は生じえないのである。 (引用終わり) |
上記の判旨については、まとめて文章として覚えるのではなく、それぞれの場合に分けて、個別に規範を覚えていくのがコツです(『司法試験定義趣旨論証集(憲法)』「条例の対象事項を規制する法律がない場合の判断基準」、「条例と法律が同一事項を異なる目的で規制する場合の判断基準」、「条例と法律が同一事項を同一目的で規制する場合の判断基準」の各項目を参照)。
4.さて、本件は、どの場合なのか。まず、同一事項を規制しているか、という点から、考えてみましょう。直感的には、「同一事項を規制してるに決まってんじゃん。」というところで、今回はそれでもよいのですが、良い機会なので、ちょっと詰めて法文を比較してみましょう。
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(参照条文) ◯大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例 (罰則) |
場所については、いずれも、「その他」を用いて、並列的に例示する形式(※2)を採用しています。「その他」の後には、読点を打たないのが法令のルールです。そのせいで読みにくいのですが、慎重に見ると、「その他」「人が」という構造になっていることに気が付くでしょう。「その他人(たにん)が」と読まないよう、注意しましょう。例示されている部分を比較すると、「住居、浴場、更衣場、便所」と「住居、浴場、便所、更衣室」は、住居、浴場、便所(※3)が全く同一。「更衣場」と「更衣室」は、前者が古い表現で、後者は現代的表現であるというだけで、同一内容といえるでしょう。「人が通常衣服をつけないでいるような場所」と「人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所」も、後者において一部を着けない場合をも含む趣旨を明瞭とするため「全部又は一部」の文言が付され、後にある「当該状態にある人」と対応させるために「着けない状態でいる」という表現にしている点が異なるだけですから、意味としては同一です。
※2 「A、Bその他C」は並列的例示であって、CにABは含まれません。これに対し、「A、Bその他のC」は包括的例示であり、CにABが含まれます。今回は並列的例示なので、文言上、「住居」は人が通常衣服を着けない場所であるかを問わないのです。
※3 受験対策上はどうでもいいことですが、法令では、設備としてのトイレのことを「便所」、いわゆる個室を「便房」、洋式のことを「座便式」と表記しています。ネット上ですぐ読める簡潔な読み物として、小又祐介「トイレに関する文言」立法と調査447号(2022年 参議院常任委員会調査室・特別調査室)があります。
では、行為態様はどうか。軽犯罪法1条23号では、「正当な理由がなくて」、「ひそかにのぞき見た」となっているのに対し、本条例では、「当該状態にある人に対し」、「みだりに、姿態を撮影する」となっています。のぞき見ないで撮影する、というのは普通に考えて無理なわけで、撮影している時点でのぞき見ているわけですから、人の姿態を撮影する行為は、のぞき見る行為の一態様でしょう。その限度で、両者は同一の行為態様を規制対象にしているといえます。
「正当な理由がなくて」と、「みだりに」は、いずれも違法性を指します。刑法の一般原則として、違法性がなければならないのは当然なのに、どうしてわざわざ書くのか。これには、2つの趣旨があります。1つは、行為それ自体が日常のありふれたものである場合に、違法なものであって初めて処罰対象となることを明確にする趣旨。もう1つは、特に違法性がなければ処罰できないことを示すことで、厳格な解釈・運用を要請する趣旨です。下記は、軽犯罪法制定時の国会答弁です。
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(衆院司法委員会昭23・3・23より引用。太字強調は筆者。) 國宗榮(法務庁事務官)政府委員 (引用終わり) |
刑法130条の「正当な理由がないのに」も、そのような用例の1つです。他方で、刑法199条が、「正当な理由がなくて」とか、「みだりに」の文言を付していないのは、書かなくても通常違法であることが明らかだからです。
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(参照条文)刑法 (殺人) |
ちなみに、「正当な理由がなくて」と「みだりに」は、ほとんど同義といってよいのですが、厳密には、「正当な理由」はより法的なニュアンスが強く、「みだりに」はより社会的なニュアンスが強いとされ(※4)、「正当な理由がなくて」よりも「みだりに」の方がやや広いとされることもあります。ストーカー規制法2条1項1号の解釈に関する警察庁通達を紹介しておきましょう。
※4 田島信威『法令用語ハンドブック《3訂版》』(ぎょうせい 2009年)389頁、吉田利宏『新法令用語の常識[第2版]』(日本評論社 2022年)100頁。
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(参照条文)ストーカー行為等の規制等に関する法律 (「ストーカー行為等の規制等に関する法律等の解釈及び運用上の留意事項について(通達)」(令和3年5月26日付け警察庁丙生企第71号、警察庁生活安全局長から都道府県警察の長宛て)より引用。太字強調は筆者。) 「みだりに」は、「正当な理由なく」という意味よりもやや広く、行為の態様を示す意味も含んでおり、社会的相当性がないような態様によることを意味する。 (引用終わり) |
道路交通法26条の2第1項や76条3項の例は、「みだりに」の社会的なニュアンスを示すものとして、よく挙げられるものです。ここでの「みだりに」は、「違法に」というよりは、「むやみやたらに」、「ところかまわず」、「無茶なやり方で」のようなニュアンスが強いことが分かるでしょう。
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(参照条文)道路交通法 (進路の変更の禁止) (禁止行為) (引用終わり) |
以上の点に着目するなら、「正当な理由がなくて」とする軽犯罪法1条23号と、「みだりに」とする本条例6条3項2号は、微妙に意味が違う、という見方もできるでしょう。とはいえ、この点はあまり重要ではないので、ここでは、ほぼ同一と考えておきましょう。
以上の検討から、軽犯罪法1条23号と本条例6条3項2号は、後者の規制部分の限度で同一事項を規制していることが分かりました。次回、目的との関係をみていきます。