1.当サイトでは、従来、年ごとに、Kindle用の電子書籍として、「最新判例ノート」を公開してきました(当サイト作成の電子書籍一覧)。今年からは、これに代えて、ウェブサイトに解説を掲載することとしました。
2.今回は、刑法の建造物侵入罪(130条)にいう「建造物」該当性の話です。以下の肢の正誤を考えてみましょう。
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土地上に設置されて以降移動されることなく、電気を電柱から電線で引き込んで倉庫として継続的に使用されていた奥行き約1240cm、幅約240cm、高さ約288cmの大きさの鉄製のコンテナ倉庫は、刑法130条にいう「建造物」に当たる。 (参照条文)刑法130条(住居侵入等) |
上記は短答の肢を想定していますが、論文でも出題される可能性が少しあります。論文式試験で建造物侵入罪がメインで問われることはほとんどありませんが、仮に上記のようなコンテナ倉庫に立ち入った事例が出題された場合には、具体的な事実を摘示して、「建造物」に当たるのか、当たらないのかを解答する必要があるでしょう。実戦的には、テキトーに当てはめても合否に影響はないかもしれませんが、視点を知っておくと、安心感があります。
3.上記のようなコンテナ倉庫は、いわば土地の上に「置かれているだけ」であって、支柱などで固定されていないのだから、土地の定着物としての「建造物」とはいえないのではないか。これが、本件の問題の所在です。最決令7・10・21は、以下のように判示して、「建造物」該当性を認めました。ちなみに、「令和4年法律第67号による改正前の刑法」とされていますが、同改正は侮辱罪の法定刑の引上げ及び懲役・禁固に代えて拘禁刑を導入する旨のものですから、下記の判示部分の解釈には全く影響はありません。
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(最決令7・10・21より引用。太字強調は筆者。) 所論は、第1審判決判示第6のコンテナ倉庫(以下「本件コンテナ倉庫」という。)は、土地に定着していないから、令和4年法律第67号による改正前の刑法130条にいう「建造物」に当たらない旨主張する。しかし、原判決の認定及び記録によれば、本件コンテナ倉庫は、奥行き約1240cm、幅約240cm、高さ約288cmの大きさの鉄製のコンテナが土地上に設置されたものであり、設置されて以降3年10か月以上の間、移動されることなく、電気を電柱から電線で引き込んでタイヤ等を保管する倉庫として継続的に使用されていたというものである。以上の事実関係の下では、本件コンテナ倉庫は、移動が容易でなく土地に置かれて継続的に使用される物であり、その形態及び使用の実態に照らし、社会通念上土地に定着しているといえるから、上記改正前の刑法130条にいう「建造物」に当たるというべきである。基礎が打たれていないこと等の所論が指摘する事情は、本件コンテナ倉庫が上記「建造物」に当たることを否定すべきものとは認められない。したがって、被告人について、建造物侵入罪の成立を認めた第1審判決を是認した原判決の判断は正当である。 (引用終わり) |
この判旨に照らせば、冒頭の肢は、「正しい」と判断すべきことになります。
4.論文式試験対策としては、厳密な意味で支柱等で固定されていなくても、「社会通念上土地に定着している」といえればOKという部分は、知っておくと、役に立つことがあるかもしれません。類似の事例が出題されたなら、いつもより、当てはめを少し丁寧にする。「確かに、◯◯は支柱等で土地に固定されておらず、土地の定着物とはいえないとみえる。」などと書いて、「しかし~」として、上記判示のような問題文の要素を列挙して、「社会通念上は土地に定着しているといえる。」として、「建造物」該当性を認めればよいでしょう。
5.刑法130条の「建造物」該当性については、土地に定着しているか、という視点とは別に、人の使用・出入りを本来的に予定しているか、という視点もあります。原爆ドームの「建造物」該当性を否定した広島地決昭51・12・1を紹介しておきましょう。
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(広島地決昭51・12・1より引用。太字強調は筆者。) 第1 検察官は、判示第1の犯行につき、本件「原爆ドーム」は刑法130条所定の「建造物」に該当する旨主張し、建造物侵入罪として公訴提起しているので、先ずこの点につき判断する。 1 右「原爆ドーム」が戦前広島県産業奨励館と称され、昭和20年8月6日広島市に原子爆弾が投下された際、そのほぼ直下において被災したものであることは公知の事実であるところ……(略)……右「原爆ドーム」の現況は、全般的にモルタル煉瓦造りで、直径約9メートル、高さ約25メートルの円筒型部分を中心に、西側に玄関部分、北側に3階建部分(但し各階を区切る天井床壁はなし)、南側に鉄製螺旋階段を含む間仕切り部分更にこれらを東側から「コ」の字型に囲む高さ約3.6メートルの外壁部分(その東北隅には床面積約124平方メートルの元倉庫部分がある。)がつながつて成り立つており、これら一体となるものの周囲には高さ約1.1メートルの鉄柵がめぐらされているところ、屋蓋については、元倉庫部分において内部から多数の鉄パイプ状柱材によつて支えられたコンクリート塗り平板屋根がある以外、中央円筒型部分の頂部に通称の由来とされる半球状鉄骨(ドーム)が露わに冠されているだけでその他の部分には全く屋蓋と目されるものはなく、また、中央円筒型部分、3階建部分及び元倉庫部分に存する牆壁部分はいずれも出入口や窓と覚しき箇所にこれを塞ぐものは何もなく、そしてこれら牆壁内部には何らの什器類は存せず、更に、これら牆壁、外壁、間仕切り壁はところどころ煉瓦が剥離欠損し、その亀裂部分には補強剤が注入されているうえ、辺り一面に被爆時ないしはそれ以降に崩壊剥離したと思われる煉瓦片が無数に足の踏み場もない程累積飛散したままの状態であることが認められる。 2 他方……(略)……右「原爆ドーム」は被爆後相当期間自然風化するまま放置され、現在建物登記や固定資産課税台帳への登載等はなされておらず、また文化財保護法あるいは広島県文化財保護条例に基づく史跡の指定もなされていないが、昭和42年広島市当局において、原爆被災の惨状を後世まで保存する目的でその現状を固定すべく前記のような補強工事を施すとともに、その周囲に鉄柵を設けて、一般人の立ち入りを禁止するなどの措置をとつて管理されるに至つたものであること、そしてその鉄柵北側の記念碑に記銘されているように、右「原爆ドーム」は、それ自体が原爆投下の悲惨な様を後世に伝え人類の戒めとする記念物として保存管理されているものであつて、これを被爆以前に復旧したり、内部を改装して被爆記念物の展示、陳列等の用に供するものではないことが認められるのである。
3 ところで、刑法130条所定の「建造物」とは、同法108条、260条等に規定するそれと共通するものであつて、一般に「屋蓋を有し、牆壁または柱材によつて支持されて土地に定着し、少なくとも人の起居出入りに適する構造を有する工作物」と解されており、当裁判所も基本的にはこれと同一の見解に立つものであるが、今少しそれを敷衍し、特に建造物侵入罪の保護法益等に照らして仔細に考察してみることとする。 4 そこで前記1、2で認定した事実を踏まえ、右見解に照らして本件「原爆ドーム」の「建造物」性について検討してみるに、最も構造的に整つている元倉庫部分においてさえ、牆壁や内部の状態からみて外界から区画されて内部的平穏を設定しうるだけの体裁を有するものとはいいがたいうえ、最も重要な部分と目される中央円筒型部分を始めその他の部分に至つては、屋蓋が全くないかあるいはなきに等しく雨露をしのぐに足りる効用すら有していないことは明白であり、これら一体となる右「原爆ドーム」の全般的構造は、一言にして廃墟の感を免れず、到底人の起居出入りに適するものとは言い難く、また、その存在意義や管理方法などの点も併せて考察すれば、それが人の起居出入りを本来的に予定していないことも明らかであり、結局、本件「原爆ドーム」は刑法130条にいう「建造物」には該当しないと断ぜざるを得ない。 (引用終わり) |
広島地決昭51・12・1は、保護法益論において平穏説を採用し、そこから人の起居出入りを本来的に予定していることを必要とする旨を導いています。この点は、学説でも十分な議論がないところですが、管理権説からは、適正な管理権行使を妨げる限り、建造物侵入罪で保護されるべきだ、という論理から、人の使用・出入りを本来的に予定することまでは要しない、という考え方を採ることもできそうです。原爆ドームについていえば、管理者の定めたルール等を無視して立入禁止の区域等に勝手に立ち入られたのでは、適切な保存等ができず、適正な管理権行使が妨げられる。だから、建造物侵入罪で保護される必要がある、ということですね。仮に、人の使用・出入りが予定されていないけど、誰かの管理下にある構造物が出題された場合には、上記の観点からコンパクトに保護法益論に触れて解答できれば、高い評価になりやすいでしょう。もっとも、建造物侵入罪の配点は一般に低いので、時間の余裕がなければ、簡単に当てはめて逃げることも考えてよいでしょう。
ちなみに、上記裁判例は、建造物侵入罪の成立を否定しつつ、軽犯罪法1条32号の罪の成立を認め、縮小認定によって訴因変更を経ることなく有罪としています。
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(広島地決昭51・12・1より引用。太字強調は筆者。) 5 そうすると、検察官の主張にもかかわらず、被告人が本件「原爆ドーム」区域内に立ち入つた所為は、建造物侵入罪に該当しないことになるが、右区域内が立ち入りを禁じられている場所であることは前記認定のとおりであるから、被告人には軽犯罪法1条32号の罪が成立し、しかも本件検察官主張の訴因と判示認定の罪となるべき事実第1との間には公訴事実の同一性があるうえ、それは「建造物」性を消極に解しただけのいわゆる構成要件縮小認定の関係にあたるので、明示の訴因変更を経ることなく判示のとおり認定したわけである。 (引用終わり) (参照条文)軽犯罪法1条 |
司法試験用法文は軽犯罪法を登載していない(「令和8年司法試験用法文登載法令」参照)ので、この点が問われる可能性はとても低いでしょうが、答案で、「本件のような行為について建造物侵入罪が成立しないと考えると、何らの罪にもならず不当である。」のようなことを不用意に書くと、考査委員から、「いや軽犯罪法の罪になるでしょ。」と消極に評価されるおそれがあります。合否に直結するようなものではありませんが、ちょっとだけ、注意しておきましょう。
6.ちなみに、建築基準法上も、コンテナ倉庫は建築基準法2条1号の「建築物」に該当するものとされています。
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(参照条文)建築基準法2条(用語の定義) 一 建築物 土地に定着する工作物のうち、屋根及び柱若しくは壁を有するもの(これに類する構造のものを含む。)、これに附属する門若しくは塀、観覧のための工作物又は地下若しくは高架の工作物内に設ける事務所、店舗、興行場、倉庫その他これらに類する施設(鉄道及び軌道の線路敷地内の運転保安に関する施設並びに跨線橋、プラットホームの上家、貯蔵槽その他これらに類する施設を除く。)をいい、建築設備を含むものとする。 (「コンテナを利用した建築物の取扱いについて」(国土交通省ウェブサイト)より引用。太字強調は筆者。) 近年、コンテナを倉庫として設置し、継続的に使用する例等が見受けられますが、このような随時かつ任意に移動できないコンテナは、その形態及び使用の実態から建築基準法第2条第1号に規定する建築物に該当します。
(引用終わり) |
ひょっとすると、行政法の個別法解釈問題で出題されるかもしれません。その場合には、建造物侵入罪とは趣旨が異なる点(倒壊による危険の防止等)に留意する必要があるでしょう。