長期間継続的横領と訴因変更(1)
(最決令7・10・20)

1.当サイトでは、従来、年ごとに、Kindle用の電子書籍として、「最新判例ノート」を公開してきました(当サイト作成の電子書籍一覧)。今年からは、これに代えて、ウェブサイトに解説を掲載することとしました。

2.今回は、刑訴の訴因変更の要否の話。以下の事例問題を考えてみましょう。

【事例】

 甲は、Vから、売上金の管理を任されていた。
 甲は、毎月100万円の売上金を、Vの銀行口座に入金するようVから指示されていた。
 ところが、Vの銀行口座の帳簿上、令和元年1月から令和4年12月まで、毎月90万円しか入金されていないことが発覚した。
 検察官は、本来入金すべき金額と帳簿上の入金額の差額から、上記期間の売上金について、4年間毎月末日10万円、合計48回にわたり総額480万円の横領行為があり、その全体が包括一罪となる旨の業務上横領罪の訴因で公訴を提起した。
 審理の結果、裁判所は、以下のような心証を抱いた。

 1.甲は、毎月の売上金100万円のうち10万円を入金せずに事務所の金庫に保管しており、令和元年6月から令和4年12月までの間の複数回にわたり、その保管に係る金銭を甲の自宅に持ち帰り、その後、遊興費として費消したが、Vから指示されてVに直接手渡したものもあった。
 2.甲が保管に係る金銭を自宅に持ち帰ったのは、それぞれ、令和元年6月30日に50万円、令和2年2月28日に130万円、令和3年4月30日に110万円、令和4年12月31日に110万円の4回、総額400万円である。
 3.横領が既遂となるのは、甲が保管に係る金銭を自宅に持ち帰った時点である。

 〔設問〕
 裁判所は、訴因変更手続を経ることなく、上記売上金について、令和元年6月30日に50万円、令和2年2月28日に130万円、令和3年4月30日に110万円、令和4年12月31日に110万円の4回にわたり総額400万円を横領した旨を認定し、その全体を包括一罪として、業務上横領罪で有罪判決をすることができるか。

 上記は、今回紹介する最決令7・10・20の事案をベースにしつつ、論文式試験で出題されそうな事例に改変したものです。

3.まず、前提として、実体法の話をしましょう。上記事例の業務上横領罪が包括一罪となるのは、なぜか。本件のような包括一罪の分類については、学説でもブレがあり、混乱しやすいのですが、ここでは、純粋に実体法の観点からみて包括評価すべき場合を「接続犯」、純粋な実体法の観点からは併合罪になりそうなところ、訴訟法の観点から便宜上包括一罪と処理するもの(街頭募金詐欺事件、大阪連続傷害事件各判例参照)を「連続的包括一罪」と呼びましょう。そのような分類法によれば、本件は「接続犯」として包括一罪になる場合とみることができます。なぜなら、検察官主張の訴因・裁判所の認定のいずれにおいても、横領行為の日時が特定されているからです。この点については、『司法試験定義趣旨論証集刑法総論【第2版】』で詳しく説明しました。その説明の一部を紹介しておきましょう。

(『司法試験定義趣旨論証集刑法総論【第2版】』「連続的包括一罪」の項目より引用)

 ※ 街頭募金詐欺事件は、法益主体が異なるから、被害者を特定して立証できるのであれば、複数の詐欺罪として本来は併合罪となるべき事案である。大阪連続傷害事件は、接続犯要件を充足するほどの犯意の単一性・時間場所の接続性はないから、個別の暴行と傷害結果の対応を特定して立証できるのであれば、複数の傷害罪として本来は併合罪となるべき事案である。このように、本来は併合罪処理が妥当な事案について、検察官が、被害者や行為・結果等の特定・立証の困難性を踏まえて、包括一罪として公訴提起する場合がある。これは、併合罪加重の立証を諦めて包括一罪の限度の認定を求めるものであって、一種の縮小・概括認定である(このことを明示に指摘するものとして、香城敏麿「罪数概論」獨協法学61号(2003年)16、17頁がある。)。このように、連続的包括一罪は、特定・立証の困難という訴訟法的理由に基づくもので、純粋な実体法的観点からの包括一罪ではないことを理解する必要がある。
 ※ 例えば、1月1日にAから1万円、2月1日にBから1万円、3月1日にCから1万円を、それぞれ騙し取ったのであれば、3個の詐欺罪が成立し、併合罪になることに疑いはない。しかし、1月1日から3月1日までの間に、総額3万円を騙し取ったことは間違いないが、Aから3万円を騙し取ったのか、Aから1万円、Bから2万円を騙し取ったのか、ABCからそれぞれ1万円を騙し取ったのか等の内訳が特定・立証できない、という場合には、少なくとも1個の詐欺罪の成立を認めてよいが、併合罪加重を認めるのは「疑わしきは被告人の利益に」の原則(利益原則)に反する。そこで、縮小・概括認定として、1月1日から3月1日までの間に、ABCの3人のいずれか又は複数から、総額3万円を騙し取ったという包括一罪を認めるわけである。同様に、1月1日にVに暴行を加えて右腕を骨折させ、2月1日にVに暴行を加えて左足を骨折させ、3月1日にVに暴行を加えて肋骨を骨折させたのであれば、3個の傷害罪が成立し、併合罪になることに疑いはない。しかし、1月1日の暴行で右腕、左足及び肋骨を骨折させ、2月1日と3月1日の暴行では傷害結果は生じていないとするなら、傷害罪は1個しか成立しない。1月1日から3月1日までの間に、Vに複数の暴行を加え、右腕、左足及び肋骨を骨折させたことは間違いないが、どの暴行から右腕、左足及び肋骨を骨折させたのかが特定・立証できない、という場合には、少なくとも1個の傷害罪の成立を認めてよいが、併合罪加重を認めるのは「疑わしきは被告人の利益に」の原則(利益原則)に反する。そこで、縮小・概括認定として、1月1日から3月1日までの間に複数回の暴行を加え、右腕、左足及び肋骨を骨折させたという包括一罪を認めるわけである。これが、連続的包括一罪の背後にある訴訟法的な論理である。

(引用終わり)

 接続犯となるか否かは、法益・犯意の単一性、時間・場所の接続・連続があるかで判断されるのでした(『司法試験定義趣旨論証集刑法総論【第2版】』「接続犯」の項目も参照)。

最判昭31・8・3より引用。太字強調は筆者。)

 被告人は医師を開業し、麻薬施用者として免許を受けているものであるが、昭和23年6月15日頃より同年9月30日頃までの間54回(以下一の所為という)及び昭和26年8月10日頃より同年10月16日頃までの間35回(以下二の所為という)にわたり、自宅診療所において麻薬中毒患者であるAに対し、その中毒症状を緩和する目的をもつて麻薬である塩酸モルヒネ注射89本(0.692グラム)を施用したというのであつて、右一、二の各所為は、それぞれ各行為の間に時間的連続と認められる関係が存し、同一の場所一人の麻薬中毒患者に対しその中毒症状を緩和するために麻薬を施用するという同一事情の下において行われたものであること原判決が有罪の言渡をした右事実につき挙示している証拠からも窺われ、かつ、いずれも同一の犯罪構成要件に該当し、その向けられている被害法益も同一であるから、単一の犯意にもとづくものと認められるのであつて、右一、二の各所為は、それぞれ包括一罪であると解するのが相当であり、独立した各個の犯罪と認定すべきではない。

(引用終わり)

 本判例も、概ね同様の要素を指摘して、包括一罪となる旨を述べています。

最決令7・10・20より引用。太字強調は筆者。)

 上記罪となるべき事実は、相当長期間にわたるものではあるが、共通の犯意に基づき、同一の被害者に対し、同一の業務上の占有を利用して継続的に行われたものであって、その全体が包括一罪と解される

(引用終わり)

 「接続犯」と「連続的包括一罪」については、上記の分類法とは異なり、時間的接続がある(期間が短い)場合を「接続犯」、時間的接続がない(期間が長い)場合を「連続的包括一罪」とする文献もよくみられます(※)。その整理によれば、本件は時間的接続がない(期間が長い)場合であるとして、「連続的包括一罪」に分類されるでしょう。評釈等を読む際には、論者がどのような整理を前提にしているか、注意が必要です。
 ※ もっとも、期間の長短は、量的な問題であって、質的な問題ではありません。「日時が特定できると併合罪になるはずなのに、不特定であるがゆえに包括一罪になる。」という質的差異があるからこそ、論文で異なる規範を用いるべきことになる。そうしたことから、『司法試験定義趣旨論証集刑法総論【第2版】』では、質的差異に着目した分類に依拠しているのでした。

4.受験対策としては、短答の刑法で罪数を問う肢の1つとして出題される可能性があるでしょうし、論文の刑法で類似事案が出題された場合に、罪数は包括一罪だったよな、と知っておくと、余計な迷いがなく、安心できるでしょう。
 以上の実体法の理解を前提に、次回、訴因変更の要否について考えていきます。

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