令和6年衆院選における一票の格差
(最判令7・9・26)

1.当サイトでは、従来、年ごとに、Kindle用の電子書籍として、「最新判例ノート」を公開してきました(当サイト作成の電子書籍一覧)。今年からは、これに代えて、ウェブサイトに解説を掲載することとしました。

2.今回は、最判令7・9・26を取り上げます。令和6年10月27日衆議院議員総選挙に関する一票の格差訴訟ですね。ポイントは、「新しいことは何も言っていない。」ということです。以下の判旨は、「ふ~ん。」という程度に太字強調部分だけ読み流せばよい。

(最判令7・9・26より引用。太字強調は筆者。)

3(1) 憲法は、選挙権の内容の平等、換言すれば投票価値の平等を要求しているものと解される。他方、投票価値の平等は、選挙制度の仕組みを決定する絶対の基準ではなく、国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであるところ、国会の両議院の議員の選挙については、憲法上、議員の定数、選挙区、投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとされ(43条2項、47条)、選挙制度の仕組みの決定について国会に広範な裁量が認められている。
 衆議院議員の選挙につき全国を多数の選挙区に分けて実施する制度が採用される場合には、選挙制度の仕組みのうち定数配分及び選挙区割りを決定するに際して、憲法上、議員1人当たりの選挙人数ないし人口ができる限り平等に保たれることを最も重要かつ基本的な基準とすることが求められているというべきであるが、それ以外の要素も合理性を有する限り国会において考慮することが許容されているものと解されるのであって、具体的な選挙区を定めるに当たっては、都道府県を細分化した市町村その他の行政区画などを基本的な単位として、地域の面積、人口密度、住民構成、交通事情、地理的状況などの諸要素を考慮しつつ、国政遂行のための民意の的確な反映を実現するとともに、投票価値の平等を確保するという要請との調和を図ることが求められているところである。したがって、このような選挙制度の合憲性は、これらの諸事情を総合的に考慮した上でなお、国会に与えられた裁量権の行使として合理性を有するといえるか否かによって判断されることになり、国会がこのような選挙制度の仕組みについて具体的に定めたところが、上記のような憲法上の要請に反するため、上記の裁量権を考慮してもなおその限界を超えており、これを是認することができない場合に、初めてこれが憲法に違反することになるものと解すべきである。

(2) 上記の見地に立って、本件選挙当時の本件区割規定及びこれに基づく本件選挙区割りの合憲性について検討する。

ア 区画審設置法の定める本件区割制度は、小選挙区選出議員の選挙区(以下単に「選挙区」という。)について、区画審において、10年ごとに行われる大規模国勢調査の結果に基づき、各都道府県への定数配分を人口に比例した方式の一つであるアダムズ方式により行った上、選挙区間の人口の較差が2倍未満となるよう区割りをして、その改定案を作成するものとしつつ、大規模国勢調査が行われた年から5年目に当たる年に行われる国勢調査の結果、選挙区間の人口の最大較差が2倍以上となった場合には、その結果に基づき、各都道府県への定数配分を変更することなくこれが2倍未満となるよう区割りをして改定案を作成し、これを是正することとするものである。このような本件区割制度は、選挙区を改定してもその後の人口異動により選挙区間の投票価値の較差が拡大し得ることを前提に、選挙制度の安定性も考慮しながら、選挙区間の投票価値の較差を相当程度縮小させその状態が安定的に持続するよう設けられたものであるといえ、投票価値の平等を最も重要かつ基本的な基準としつつ、国会において考慮することのできる他の要素をも考慮して選挙区の改定を行う仕組みを定めたものとして、合理性を有するものというべきである。

イ 本件選挙は、令和4年改正法により改正された本件区割規定の定める選挙区割り(本件選挙区割り)の下で行われたものであるところ、前記事実関係等によれば、令和4年改正法は、本件区割制度の下、区画審が、令和2年国勢調査の結果に基づき、区画審設置法3条1項及び2項に定める基準に従い各都道府県への定数配分及び区割りをして作成した改定案のとおり、選挙区を改定するものといえる。
 本件選挙区割りの下においては、令和2年国勢調査の結果による選挙区間の人口の最大較差が1対1.999であったのに対し、本件選挙当日には、選挙区間の選挙人数の最大較差は1対2.059となっており、選挙人数の最も少ない選挙区と比べて較差が2倍以上となっている選挙区は10選挙区となっていたものの、本件区割制度が、選挙区を改定してもその後に選挙区間の投票価値の較差が拡大し得ることを前提とするものであって、このような制度に合理性が認められることは上記のとおりである。そして、本件選挙当時における選挙区間の投票価値の較差が自然的な人口異動以外の要因によって拡大したものというべき事情はうかがわれず、本件選挙区割りの下におけるその拡大の程度が著しいものともいえないから、上記の選挙区間の投票価値の較差の状況をもって、本件選挙区割りが本件選挙当時において憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたということはできないというべきである。

(3) したがって、本件選挙当時において、本件区割規定の定める本件選挙区割りは、憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったということはできず、本件区割規定が憲法14条1項等に違反するものということはできない。
 各論旨は、憲法56条2項、1条、前文第1段等を根拠として、本件選挙は憲法の保障する1人1票の原則による人口比例選挙に反して無効であるなどというが、所論に理由のないことは以上に述べたところから明らかである。

(4) 以上は、最高裁平成11年(行ツ)第7号同年11月10日大法廷判決・民集53巻8号1441頁、最高裁平成11年(行ツ)第35号同年11月10日大法廷判決・民集53巻8号1704頁、最高裁平成18年(行ツ)第176号同19年6月13日大法廷判決・民集61巻4号1617頁、最高裁平成30年(行ツ)第153号同年12月19日大法廷判決・民集72巻6号1240頁及び最高裁令和4年(行ツ)第130号同5年1月25日大法廷判決・民集77巻1号1頁の趣旨に徴して明らかというべきである。

(引用終わり)

3.ただ、上記判示部分のうち、「令和2年国勢調査の結果による選挙区間の人口の最大較差が1対1.999」の部分を目にしたとき、「あまりにもギリギリ過ぎない?」と思った人もいたことでしょう。この点に着目したのが、下記の高須順一意見です。受験対策として重要なことは、「これは多数意見、すなわち、最高裁判所の判例ではない。」と知っておくことです。

(最判令7・9・26における高須順一意見より引用。太字強調は筆者。)

 私は、多数意見とは異なり、令和4年改正法による改正後の区割規定の下での選挙区間の投票価値の不均衡は、本件選挙当時、違憲の問題が生ずる程度の不平等状態(いわゆる違憲状態)にあったと考える。

 (中略)

 本件選挙区割りは、令和4年改正法により新たに定められたものであり、本件では、本件選挙区割りの下で初めて行われた小選挙区選挙が問題となっている。区画審設置法3条1項によれば、選挙区割りの改定に当たり、令和2年国勢調査の結果による人口を基準にして、選挙区間の人口の最大較差(以下、選挙区間の選挙人数の最大較差も併せて単に「最大較差」という。)が2倍以上にならないようすることが求められ、同法の規定内容を遵守することは、憲法上の投票価値の平等を維持する上においても不可欠の要請となる。そして、本件選挙区割りについては、令和2年国勢調査の結果を基準とした場合の最大較差は1.999倍であり、区画審設置法3条1項の規定自体に違反するものとはいえない。
 しかしながら、上記最大較差の数値は限りなく2倍に近く、不断に生ずる人口異動の状況を考慮するならば、後記3のとおり、本件選挙区割りが定められた時点において、その下では改定後短期間で最大較差が2倍以上となることがほぼ確実に見込まれる状況であったというべきである(現に、本件選挙時点では本件選挙区割りの下での最大較差は2.059倍となっており、較差が2倍以上の選挙区の数も10に及んでいる。)。

 (中略)

 私は、国勢調査の結果に基づきその基準時点においてたとえ最大較差が2倍未満となる選挙区割りが定められたとしても、それが短期間で最大較差が2倍以上となることがほぼ確実に見込まれるようなものであった場合には、そのような選挙区割りの下で行われる小選挙区選挙は、本件区割制度によって担保されるべき合理性の前提を欠くこととなり、違憲状態の選挙区割りの下で行われたものとなると考える次第である。

(引用終わり)

 短答式試験において、以下のような肢は、「最高裁判所の判例の趣旨に照らして」解答する場合には、誤りとなります。

 国勢調査の結果に基づきその基準時点においてたとえ最大較差が2倍未満となる選挙区割りが定められたとしても、それが短期間で最大較差が2倍以上となることがほぼ確実に見込まれるようなものであった場合には、そのような選挙区割りの下で行われる小選挙区選挙は、違憲状態の選挙区割りの下で行われたものとなる。

 全く知らないと、「実は俺が知らないうちに、このような新判例が出たのではないか?」と現場で疑心暗鬼になってしまう人もいるかもしれません。事前に知っておくことで、そうならないようにする。これが、本判例を学ぶ意味です。

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