婚姻費用合意無効確認の利益
(最判令7・9・4)

1.当サイトでは、従来、年ごとに、Kindle用の電子書籍として、「最新判例ノート」を公開してきました(当サイト作成の電子書籍一覧)。今年からは、これに代えて、ウェブサイトに解説を掲載することとしました。

2.今回は民訴の話。過去の法律関係の確認の利益に関するものです。以下の事例をみてください。

【事例】

 XとYは婚姻していたが、別居するに至った。
 XとYは、Yが、Xに対し、婚姻費用として月額16万円を支払う旨の合意(以下「本件合意」という。)をした。
 Xは、Yの年収が、本件合意で前提とされた額より実際には高額であり、適切な婚姻費用は月額29万円であったことを知った。
 Xは、本件合意には錯誤があるとして、Yに対し、これを取り消す旨の意思表示をし、月額29万円の支払を求めたが、Bはこれに応じない。
 Xは、本件合意は錯誤取消しによって当初から無効であったとして、本件合意の無効確認の訴えを提起した。

 上記事例は、今回取り上げる最判令7・9・4の事案を簡略にしたものです。同判例は債権法改正前の事案だったため、無効原因は錯誤無効でしたが、上記事例では、債権法改正後の現行法に合わせて、錯誤取消しとしています。

3.本件合意の無効確認の訴えについて、訴えの利益は認められるか。まず、本件合意の無効というのは過去の法律関係なので、「現在の法律上の紛争の直接かつ抜本的な解決のために最も適切かつ必要と認められるか」という基準によって判断される。これは、基本知識として覚えていなければなりません。

(最判令7・9・4より引用。太字強調は筆者。)

 過去の法律関係であっても、それを確定することが現在の法律上の紛争の直接かつ抜本的な解決のために最も適切かつ必要と認められる場合には、その存否の確認を求める訴えは確認の利益があるものとして許容される(最高裁昭和44年(オ)第719号同47年11月9日第一小法廷判決・民集26巻9号1513頁、最高裁平成3年(オ)第252号同7年3月7日第三小法廷判決・民集49巻3号893頁参照)。

(引用終わり)

(最判昭47・11・9より引用。太字強調は筆者。)

 およそ確認の訴におけるいわゆる確認の利益は、判決をもつて法律関係の存否を確定することが、その法律関係に関する法律上の紛争を解決し、当事者の法律上の地位の不安、危険を除去するために必要かつ適切である場合に認められる。このような法律関係の存否の確定は、右の目的のために最も直接的かつ効果的になされることを要し、通常は、紛争の直接の対象である現在の法律関係について個別にその確認を求めるのが適当であるとともに、それをもつて足り、その前提となる法律関係、とくに過去の法律関係に遡つてその存否の確認を求めることは、その利益を欠くものと解される。しかし、ある基本的な法律関係から生じた法律効果につき現在法律上の紛争が存在し、現在の権利または法律関係の個別的な確定が必ずしも紛争の抜本的解決をもたらさず、かえつて、これらの権利または法律関係の基本となる法律関係を確定することが、紛争の直接かつ抜本的な解決のため最も適切かつ必要と認められる場合においては、右の基本的な法律関係の存否の確認を求める訴も、それが現在の法律関係であるか過去のそれであるかを問わず、確認の利益があるものと認めて、これを許容すべきものと解するのが相当である。

(引用終わり)

 ちなみに、処分の無効確認の訴えの原告適格(行訴法36条)は、この過去の法律関係の確認の利益に対応します。処分の無効というのは過去の法律関係だから、現在の法律関係の確認や給付の訴えで実現できないことが必要だ。これを類型化したものが、行訴法36条の要件だ、ということですね。このことを知っておくと、行政訴訟を民事訴訟と接続して理解することができます(『司法試験定義趣旨論証集行政法【第2版】』「補充訴訟に補充性が要求される理由」の項目等を参照)。

(参照条文)行政事件訴訟法36条(無効等確認の訴えの原告適格)

 無効等確認の訴えは、当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないものに限り、提起することができる。

(参院法務委員会昭37・5・7より引用。太字強調は筆者。)

杉本良吉法務省訟務局参事官
 無効確認訴訟につきまして、特にこういう36条のような規定を設けたわけでございますが、これは、権利の救済を狭めたというようなことではないつもりでございます。と申しますのは、36条の後段を見ていただきますと、「当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができないものに限り」無効等確認の訴えを提起することができるということでございまして、農地の買収処分について申し上げますならば、農地の買収処分の無効確認というような、そういう訴訟的に申しますと疑問があるような訴訟を提起しなくても、国なりあるいは売り渡しを受けたその者に対して、普通の民事訴訟と同じ格好の訴訟、つまり所有権確認の訴えであるとか、あるいは登記抹消の請求というような、そういう普通の訴訟を起こして下さいというのでありまして、そういう普通の訴訟で目的を達成することができない場合には、これは無効等確認訴訟というものが認められるというだけでございまして、従来の権利の救済の窓口を狭めるとか何とかということはないつもりでございます。

(引用終わり)

(行政訴訟検討会第13回会合(平15・2・5)議事録より引用。太字強調は筆者。肩書は当時のもの。)

市村陽典(東京地方裁判所判事)委員
 これはやはり、確かに、多数の場合、契約の無効確認をやってしまえば、それが一番端的だという見方もあるんですけど、そうはならない。現在の法律関係の確認ということでやれるのであればそれでやりなさい、やれない場合について、それが適切な方法であれば、そういう形式を許す、ということは民事の一般理論としては定着しているんだろうと思うんです。遺言の無効確認だとか、いくつかのものが、そうして定着したものが、類型的に認められてはきていますけども、逆にある過去の法律行為の、有効無効の確認というのはなんでも認められるわけではない。……(略)……結局最高裁の判例などを、例えばもんじゅの言い方なんかを見てますと、そうしたものが、やはり抜本的な解決として一番有効適切であるとき、というようなメルクマールを立てていると思われます。それは、民訴でいう過去の法律関係についての確認の利益を認める時の理屈と、ほぼ、軌を一にしている。

 (中略)

塩野宏(東亜大学教授)座長
 無効等確認の訴えにつきましては、通常の民事訴訟の訴えの利益より制限されるべきではない。この点では意見は一致しているわけで、無効確認の利益があれば当然にこれは無効確認の訴えが認められるべきである、ということだと思います。

(引用終わり)

 行政法は、民法・民訴の理解があると、それを補助線にして、すっと理解できる場合があるのですが、行政法学者は民法学者・民訴学者ではないため、「民法(民訴)では~で、これと同じです。」のような説明をしてくれない。そのことが、行政法を難解に感じさせているのでした(『司法試験定義趣旨論証集行政法【第2版】』【本書の概要】3項を参照)。

4.さて、過去の法律関係の確認の利益についての判断基準を、本件合意の無効確認の訴えについて当てはめると、どうなるか。前提知識として、婚姻費用とは何か。確認しておきましょう。婚姻費用は、民法760条が夫婦で分担する旨を定め、これは夫婦相互の扶助義務(同法752条)の履行費用としての性質を有するのでした。その程度は、原則として、自己と同一程度の生活保持義務である、とされています。別居するに至った場合でも、回復可能性がある限り、婚姻費用分担義務を免れることはできません。なお、婚姻関係が破綻した場合には、有責配偶者に対する婚姻費用分担義務の程度は、最低生活維持の程度まで軽減されます(以上につき、札幌高決昭50・6・30参照)。異なる裁判例・学説もありますが、受験対策としては、この程度でも知っていれば十分過ぎるくらいです。

(参照条文)民法

752条(同居、協力及び扶助の義務)
 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。

760条(婚姻費用の分担)
 夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。

(札幌高決昭50・6・30より引用。太字強調は筆者。)

 夫婦は、同居し互いに協力し、扶助しなければならない義務を負担し(民法752条)、右扶助義務の履行として相手方の生活に要する費用を婚姻から生ずる費用として各自の資産や収入の程度に応じて分担し、支払うべきである(民法760条)が、右扶助義務の程度は、特段の事情のないかぎり相手方に対し、自己と同一程度の生活を保持させることを要するものであると解するを相当とする。そうだとすれば、たとえ、夫婦が別居していても、相互に信頼関係の回復が期待でき、婚姻生活共同体の回復の可能性が存在するかぎり、夫婦は互いに相手方に対し右と同程度の扶助義務ないし婚姻費用分担義務を負担するものであるといわなければならない。しかして、夫婦が別居して、婚姻生活共同体の回復の可能性が存在しない程に婚姻関係が破綻している場合においても、右破綻に至らしめた主たる原因が夫婦の一方に存在するときは、その者は、自己の責に帰すべき婚姻関係の破綻を理由として相手方に対しその生活程度の切り下げを強いることは妥当でないと考えられる。そうだとすれば、この場合、婚姻関係の破綻につき専ら、若しくは主として責を負うべき者は、相手方に対し依然として前記程度の扶助義務、ないし婚姻費用分担義務を免れないものといわなければならない。ところで、夫婦間の前記扶助義務は、夫婦が互いにその生活全般にわたつて協力義務をつくすことを前提とし、いわば右協力義務と右扶助義務とは不即不離の相関関係にあるものと考えられるところ、婚姻関係の破綻につき専ら、若しくは主として責を負うべき者は、相手方に対し右協力義務をつくしていないものというべきであるから、その者が、右協力義務をつくさずして、相手方に対し、相手方と同一程度の生活を保持できることを内容とする扶助義務、ないし婚姻費用分担の履行を求めることは権利の濫用として許されないものといわなければならない。しかしながら、たとえ前記のとおり婚姻関係が破綻していても、夫婦は、正式に離婚が成立しないかぎり、あくまでも夫婦としての地位を有するものであつて、その間を夫婦でない他人間の関係と同様に律するわけにはいかないのであるから、夫婦であるかぎりその一方が生活に困窮している場合に他方は、いかなる理由があるにせよこれを放置すべきでないというべきである。そうだとすれば、右破綻につき責を有しない者も、夫婦であるかぎり、右破綻につき責を負う者に対し、少くともその者の最低生活を維持させる程度の扶助義務を負うものと解するを相当とする。してみれば、婚姻関係の破綻につき専ら、若しくは主として責を負う者に対する他方の扶助義務ないし婚姻費用分担の程度は、軽減せられ、右破綻につき専ら、若しくは主として責を負う者の最低生活を維持させるに必要な程度をもつて足りるものといわなければならない。

(引用終わり)

 そして、婚姻費用の分担は、夫婦の合意で定めるのが原則ですが、協議が調わない場合は、家事審判により決定されます。

(参照条文)家事事件手続法

(審判事項)
39条 家庭裁判所は、この編に定めるところにより、別表第一及び別表第二に掲げる事項並びに同編に定める事項について、審判をする。
 ※ 別表第二では、2項において、「婚姻費用の分担に関する処分」が掲げられている。

 この婚姻費用分担審判は、家庭裁判所が義務の内容(分担額)を新たに形成するものであることから、非訟事件であるとされます。憲法の裁判の公開のところで学ぶ最大決昭40・6・30が、この点について判示していたのでした。ざっくり言えば、義務の存否は訴訟、内容形成は非訟だということですね。

(最大決昭40・6・30より引用。太字強調及び※注は筆者。)

 憲法は32条において、何人も裁判所において裁判を受ける権利を奪われないと規定し、82条において、裁判の対審及び判決は、公開の法廷でこれを行う旨を定めている。すなわち、憲法は基本的人権として裁判請求権を認めると同時に法律上の実体的権利義務自体を確定する純然たる訴訟事件の裁判については公開の原則の下における対審及び判決によるべき旨を定めたものであつて、これにより近代民主社会における人権の保障が全うされるのである。従つて、性質上純然たる訴訟事件につき当事者の意思いかんに拘らず、終局的に事実を確定し、当事者の主張する実体的権利義務の存否を確定するような裁判が、憲法所定の例外の場合を除き、公開の法廷における対審及び判決によつてなされないとするならば、それは憲法82条に違反すると共に同32条が基本的人権として裁判請求権を認めた趣旨をも没却するものといわねばならない(昭和26年(ク)第109号同35年7月6日大法廷決定民集第14巻第9号1657頁以下参照)。
 しかしながら、家事審判法9条1項乙類3号(※注:現在の家事事件手続法別表第二2項に相当する。)に規定する婚姻費用分担に関する処分は、民法760条を承けて、婚姻から生ずる費用の分担額を具体的に形成決定し、その給付を命ずる裁判であつて、家庭裁判所は夫婦の資産、収入その他一切の事情を考慮して、後見的立場から、合目的の見地に立つて、裁量権を行使して、その具体的分担額を決定するもので、その性質は非訟事件の裁判であり、純然たる訴訟事件の裁判ではない。従つて、公開の法廷における対審及び判決によつてなされる必要はなく、右家事審判法の規定に従つてした本件審判は何ら右憲法の規定に反するものではない。しかして、過去の婚姻費用の分担を命じ得ないとする所論は、原決定の単なる法令違反を主張するにすぎないから、特別抗告の適法な理由とならないのみならず、家庭裁判所が婚姻費用の分担額を決定するに当り、過去に遡つて、その額を形成決定することが許されない理由はなく、所論の如く将来に対する婚姻費用の分担のみを命じ得るに過ぎないと解すべき何らの根拠はない。
 叙上の如く婚姻費用の分担に関する審判は、夫婦の一方が婚姻から生ずる費用を負担すべき義務あることを前提として、その分担額を形成決定するものであるが、右審判はその前提たる費用負担義務の存否を終局的に確定する趣旨のものではない。これを終局的に確定することは正に純然たる訴訟事件であつて、憲法82条による公開法廷における対審及び判決によつて裁判さるべきものである。本件においても、かかる費用負担義務そのものに関する争であるかぎり、別に通常訴訟による途が閉されているわけではない。これを要するに、前記家事審判法の審判は、かかる純然たる訴訟事件に属すべき事項を終局的に確定するものではないから、憲法82条、32条に反するものではない。

(引用終わり)

 行政法的にいえば、婚姻費用分担審判は、夫婦の分担義務の内容を新たに形成する行政処分であって、具体的分担額決定に係る裁量は、内容形成裁量、すなわち、効果裁量である、ということができるでしょう。

5.以上を踏まえて、冒頭の事例を改めて見てみましょう。

【事例】

 XとYは婚姻していたが、別居するに至った。
 XとYは、Yが、Xに対し、婚姻費用として月額16万円を支払う旨の合意(以下「本件合意」という。)をした。
 Xは、Yの年収が、本件合意で前提とされた額より実際には高額であり、適切な婚姻費用は月額29万円であったことを知った。
 Xは、本件合意には錯誤があるとして、Yに対し、これを取り消す旨の意思表示をし、月額29万円の支払を求めたが、Bはこれに応じない。
 Xは、本件合意は錯誤取消しによって当初から無効であったとして、本件合意の無効確認の訴えを提起した。

 「現在の法律上の紛争の直接かつ抜本的な解決のために最も適切かつ必要と認められるか」という基準を、上記事例に当てはめてみましょう。「現在の法律上の紛争」とは、Yが負う分担額が月額16万円か、月額29万円か、ということでしょう。それを直接かつ抜本的に解決するために、本件合意の無効を確認することが、最も適切かつ必要であろうか。前に説明したとおり、夫婦間で協議が調わない場合、家庭裁判所の婚姻費用分担審判によって定めるという方法があったのでした。上記事例では、XYで分担額について意見が分かれており、協議が調わない状態なのだから、婚姻費用分担審判の申立てをすればよいのではないか。これが、ここでの問題意識です。

6.「婚姻費用分担審判の申立てをすればよいのではないか。」という考え方に対しては、「XY間で本件合意が成立し、既に協議によって定まった分担額が形成されている以上、民事訴訟によってその無効が確定されない限り、婚姻費用分担審判によって新たな分担額を形成することはできない。だから、紛争を直接かつ抜本的に解決するためには、本件合意の無効を確認することが、最も適切かつ必要なのだ。」という反論があり得ます。原審は、そのように考えたのでした。

(最判令7・9・4より引用。太字強調は筆者。)

3 原審は、本件訴えが本件合意という過去の法律関係の存否を確定することを求める確認の訴えであるとした上で、要旨次のとおり判断し、本件訴えを不適法として却下した第1審判決を取り消し、本件を第1審に差し戻した。
 夫婦の間に婚姻費用の分担の内容を定める合意(以下「婚姻費用合意」という。)が有効に成立した場合、以後の婚姻費用の分担の内容は婚姻費用合意によることとなり、家庭裁判所は、事情の変更が生じたと認められない限り、婚姻費用分担の審判をすることができず、事情の変更が生じたと認められるとしても、婚姻費用合意がされた時点から事情の変更が生じたと認められる時点までの婚姻費用については、婚姻費用合意に基づく分担額と異なる分担額の支払を命ずる審判をすることができないから、夫婦の一方が婚姻費用分担審判の手続において婚姻費用合意と異なる分担の内容を形成することを求める場合には、これに先立ち、民事訴訟において婚姻費用合意が無効であることを確定することが紛争の直接かつ抜本的な解決のため最も適切かつ必要である。したがって、夫婦間における婚姻費用合意の無効確認を求める訴えは、確認の利益を有するものとして適法である。

(引用終わり)

 しかしながら、最高裁は、そのような考え方は採りませんでした。

(最判令7・9・4より引用。太字強調は筆者。)

4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は次のとおりである。
 過去の法律関係であっても、それを確定することが現在の法律上の紛争の直接かつ抜本的な解決のために最も適切かつ必要と認められる場合には、その存否の確認を求める訴えは確認の利益があるものとして許容される(最高裁昭和44年(オ)第719号同47年11月9日第一小法廷判決・民集26巻9号1513頁、最高裁平成3年(オ)第252号同7年3月7日第三小法廷判決・民集49巻3号893頁参照)。
 そこで検討するに、婚姻費用の分担義務は、夫婦の生活の経済的な安定に関わるものである一方、その時々で変動する夫婦の収入、生活状況等の影響を受け得るものであることに照らすと、婚姻費用の分担の内容は、婚姻費用合意によって、以後、固定されるものではなく、適時に新たな形成があり得るものである。このため、婚姻費用分担審判の手続において、婚姻費用合意が有効に成立したか否かが争われるとともに、婚姻費用合意と異なる分担の内容を形成することを求める旨の主張がされた場合、家庭裁判所は、婚姻費用合意の存否、効力及び内容のみならず、夫婦の収入、生活状況等の一切の事情も踏まえ、婚姻費用の分担額やその支払の始期等を検討し、婚姻費用の分担の内容を新たに形成する審判をすることになる。そうすると、別途民事訴訟で婚姻費用合意が有効に成立したか否かが確定されていないからといって、家庭裁判所が婚姻費用合意と異なる分担の内容を形成することが妨げられるわけではない(なお、上記の場合において、当事者が、婚姻費用合意が有効に成立したとしてもこれと異なる分担額を形成するよう主張しているときは、家庭裁判所は、審理の結果、婚姻費用合意に基づく分担額を改めるべき事情がないとの結論に達したとしても、申立てを不適法却下することなく、当該分担額と同額の分担額を新たに形成する審判をすることができる。)。また、婚姻費用の分担の内容の形成をすることができない民事訴訟で婚姻費用合意が有効に成立したか否かのみ確認することをあえて認めるとすれば、家庭裁判所がその帰すうを待つことになり、夫婦の生活の経済的な安定のため適時に審判によってされるべき婚姻費用の分担の内容の形成が遅滞することになりかねない。したがって、婚姻費用合意が有効に成立したか否かについて別途確認の訴えをもって争うことを認める必要があるとはいえず、これを認めることが適切であるともいえない。
 以上によれば、婚姻費用合意が有効に成立したか否かを民事訴訟で確認することが、婚姻費用の分担の内容に係る紛争の直接かつ抜本的な解決のために最も適切かつ必要であるとはいえない。
 したがって、夫婦間における婚姻費用合意の無効確認を求める訴えは、確認の利益を欠くものとして不適法であるというべきである。

(引用終わり)

 上記判示の理由付けは、主に、①合意の効力等も婚姻費用分担審判の手続で考慮できること、②合意の有効性を訴訟で確定するのを待っていては審判が遅滞すること、の2点です。①は理論的な理由、②は実際上の不都合性ですね。①に関し、上記判示では明示されていませんが、無効確認の訴えの認容判決は飽くまで、「既に無効であることを確認する」もの(確認判決)であって、「それまで有効であったものを判決によって無効にする」もの(形成判決)ではないから、婚姻費用分担審判においても、民事訴訟を待つまでもなく、合意が既に無効であることを考慮することができる、という理解が前提になっているのでしょう。

7.短答式試験では、上記判例の立場を問う肢が出題され得るでしょう。例えば、以下の肢は、本判例の判例集記載の裁判要旨と同じ記述ですから、正しいことが明らかです。

 夫婦間における婚姻費用の分担の内容を定める合意の無効確認を求める訴えは、確認の利益を欠くものとして不適法である。

 この肢を瞬殺できることが、本判例を学ぶ意味です。
 論文式試験で類似事案が出題された場合には、「民事訴訟で合意の無効確認がされなければ、合意の存在(有効)を前提に審判しなければならないのか。」という点についての理解によって結論が分かれるのだ、という論理を示せるかで、評価が分かれるでしょう。これは、現場で考えて対応できなくはないものの、事前に知っておくと、自信を持って対処できることでしょう。

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