還付金詐欺における出し子の共謀
(最判令7・7・11)

1.当サイトでは、従来、年ごとに、Kindle用の電子書籍として、「最新判例ノート」を公開してきました(当サイト作成の電子書籍一覧)。今年からは、これに代えて、ウェブサイトに解説を掲載することとしました。

2.今回は、最判令7・7・11を取り上げます。以下の事例を考えてみましょう。

【事例】

 甲は、乙に対し、甲の指示に従ってATMから現金を引き出す仕事を依頼し、乙は、特殊詐欺等の犯罪行為によって得られた現金を引き出すものである可能性を認識した上で、 これを承諾した。
 甲は、Vに電話し、還付金を受け取ることができる旨の虚偽の事実を伝えた。Vは、その旨誤信し、甲から指示されるままにATMに赴いて操作し、甲の支配する口座に振込みを行った。Vは還付金を受け取るための操作であると思っており、甲の支配する口座に振込みを行う意思はなかった。
 Vからの振込みを確認した甲は、乙に電話し、事前に渡したキャッシュカードと暗証番号を用いて現金を引き出すよう指示した。乙は、その指示に従い、現金を引き出した。

 上記事例は、最判令7・7・11を簡略化したものですが、論文式試験で類似事案がそのまま出題されてもおかしくありません。
 論文式試験で出題された場合、現金を引き出した点については、窃盗罪を検討すべきでしょう。ここで注意したいのは、被害者はVではない、ということです。ATMの現金の占有は、法人占有を肯定するなら銀行に、自然人の占有しか認めない(通説)なら銀行の支店長に、それぞれ帰属するからですね。その上で、答案では、「窃取」の意義を示した後に、「窃取」の当てはめの中で預金の占有を論点として書いて、正当な引出権限がないなどとして「窃取」を認め、窃盗罪の成立を認めることになるでしょう。この点について甲乙間に共謀があることは明らかなので、甲は同罪の(共謀)共同正犯となります。
 それから、Vを騙してATMを操作させ、振込送金させた点については、甲は、Vを道具とする電子計算機使用詐欺罪の間接正犯となります(岐阜地判平24・4・12等)。2項詐欺罪とならないのは、「Vは還付金を受け取るための操作であると思っており、甲の支配する口座に振込みを行う意思はなかった。」という部分から分かるとおり、処分意思を生じさせるものでなく、したがって、そもそも処分行為に向けられた欺く行為がない、となる(大阪高判令4・11・17)からですね。ここは、知らないと気付きにくいところなので、知識として知っておきたい。ここでも、被害者はVではなく、電子計算機を所有ないし管理する銀行(この場合は法人も主体とするのが通例です。)となる点にも、注意が必要です。そして、甲乙間に同罪の共謀があるのであれば、乙も同罪の(共謀)共同正犯となります。なお、上記窃盗罪と電子計算機使用詐欺罪は、別個の法益を侵害するものなので、併合罪となります(前掲大阪高判令4・11・17)。
 以上の点は、本判例でも当然の前提とされています。なお、本判例では、上記事例の甲が「氏名不詳者ら」、乙が「被告人」、Vが「Aら(Aほか7名)」に対応します。

(最判令7・7・11より引用。太字強調は筆者。)

第1 第1審判決及び原判決の要旨

1 第1審判決は、覚醒剤取締法違反の罪(使用・所持)及び令和3年11月10日に氏名不詳者らと共謀して現金自動預払機から現金合計198万3000円を引き出して窃取したという窃盗罪のほか、要旨、次のとおりの各犯罪事実を認定し、被告人を懲役4年に処した。

(1) 被告人は、氏名不詳者らと共謀の上、令和3年10月25日から同年12月1日までの間、9回にわたり、保険料の還付金等を受け取ることができる旨誤信させられていたAほか7名に対し、金融機関の従業員になりすました氏名不詳者が電話で指示して、振込送金の操作であると気付かせないまま、現金自動預払機で被告人らの管理する預貯金口座に振込送金する操作を行わせ、同機を管理する金融機関の事務処理に使用する電子計算機に対し、Aら名義の預貯金口座から被告人らが管理する預貯金口座に合計773万1734円を振込送金したとする虚偽の情報を与え、被告人らが管理する口座の残高を合計773万1734円増加させて財産権の得喪、変更に係る不実の電磁的記録を作り、よって、同額相当の財産上不法の利益を得た(以下「本件各電子計算機使用詐欺」という。)。

(2) 被告人は、氏名不詳者らと共謀の上、正当な払戻権限がない他人名義のキャッシュカードを使用して現金を窃取しようと考え、令和3年10月25日から同年12月1日までの間、26回にわたり、被告人が、被告人らの管理する前記口座のキャッシュカードを使用して、現金自動預払機から現金合計722万9000円を引き出してこれを窃取した(以下「本件各窃盗」という。本件各窃盗は、本件各電子計算機使用詐欺の直後に行われており、被告人が本件各窃盗で引き出した現金の額は、本件各電子計算機使用詐欺により増加した残高に対応するものであった。)。

(引用終わり)

(最判令7・7・11における平木正洋補足意見より引用。太字強調は筆者。)

 本件各電子計算機使用詐欺の行為態様は、実行犯(いわゆる架け子)が、被告人の所持するキャッシュカードに係る預貯金口座に振込送金をしたAら(本件各電子計算機使用詐欺の実質的被害者)を、間接正犯の道具として利用し実行したというやや特殊なものであった。

(引用終わり)

 上記平木正洋補足意見において、Aらが「実質的被害者」と表記されているのは、前に説明したとおり、形式的な被害者は銀行だからです。上記引用の犯罪事実において、「現金自動預払機で被告人らの管理する預貯金口座に振込送金する操作を行わせ、同機を管理する金融機関の事務処理に使用する電子計算機に対し」と記載されていることは、これに対応します。

3.問題となるのは、果たして出し子である被告人(上記2の事例の乙)について、架け子(上記事例の甲)との間に電子計算機使用詐欺罪の共謀があるといえるか、という点です。原審は、共謀を認めませんでした。

(最判令7・7・11より引用。太字強調は筆者。)

2 これに対し、被告人が控訴し、事実誤認、法令適用の誤りを主張した。原判決は、第1審判決が本件各電子計算機使用詐欺の共謀を認めた点には事実誤認があるとして、第1審判決を破棄して自判し、その余の罪について被告人を懲役3年6月に処し、本件各電子計算機使用詐欺について無罪を言い渡した。その理由の要旨は、以下のとおりである。
 第1審判決は、本件各電子計算機使用詐欺の共謀を認めるに当たり、被告人と氏名不詳者らとの間に本件各電子計算機使用詐欺についての意思連絡があったといえるかを十分に検討しておらず、また、被告人が本件各電子計算機使用詐欺の実行行為を何ら分担せず、その内容について全く知らなかったという事案の特質を十分に踏まえておらず、このような判断方法自体不合理である。
 証拠関係を踏まえて検討しても、被告人が本件各電子計算機使用詐欺の行為態様等の本質的な部分を含め、その内容を全く把握しておらず、氏名不詳者らにおいても本件各電子計算機使用詐欺に関する被告人の認識の有無について関心を有していなかったことなどからすれば、被告人と氏名不詳者らとの間に本件各電子計算機使用詐欺についての意思連絡があったとは認められない。さらに、被告人が本件各電子計算機使用詐欺の実行行為を何ら分担していないこと、被告人以外にも振込先口座から現金を引き出す役割を果たす者がいた可能性があり、被告人の存在が必要不可欠であるとはいえないこと、被告人が本件各窃盗の報酬と認識して報酬を受け取っていたことなども踏まえれば、本件各電子計算機使用詐欺の共謀を認めることはできず、第1審判決の結論は是認できない。

(引用終わり)

 原審が示した共謀を否定する理由付けのうち、「被告人が本件各電子計算機使用詐欺の実行行為を何ら分担していないこと、被告人以外にも振込先口座から現金を引き出す役割を果たす者がいた可能性があり、被告人の存在が必要不可欠であるとはいえないこと、被告人が本件各窃盗の報酬と認識して報酬を受け取っていたこと」の部分は、答案では正犯意思を否定する方向の要素として摘示することになるでしょう。
 これに対し、最高裁は、以下のように判示して、黙示の共謀を認めました。

(最判令7・7・11より引用。太字強調は筆者。)

第2 当裁判所の判断

 しかしながら、原判決の前記判断は是認することができない。その理由は、以下のとおりである。

1 第1審判決及び原判決の認定並びに記録によると、本件の事実関係は、次のとおりである。

(1) 被告人は、令和3年10月初旬頃、インターネット上の掲示板で知り合った氏名不詳者らから、現金自動預払機から現金を引き出す「仕事」の依頼を受け、暗証番号が記載された他人名義のキャッシュカード複数枚の交付を受けた。被告人は、氏名不詳者らから、平日午前9時頃から前記キャッシュカードを所持して現金自動預払機付近で待機し、電話の指示で直ちに現金を引き出すこと、報酬は引き出した現金50万円につき1万円であることなどを伝えられた。被告人は、この「仕事」が特殊詐欺等の犯罪行為によって得られた現金を引き出すものである可能性を認識した上で、これを引き受けた。

(2) 被告人は、前記依頼の翌日以降、平日午前9時頃から午後5時頃までの間、現金自動預払機の設置場所付近で待機し、氏名不詳者らから電話で指示があれば直ちに、前記キャッシュカードのうち指示されたものを用いて現金自動預払機から現金を引き出し、氏名不詳者らの指示に従って、引き出した現金から報酬を差し引き、残りを指定されたコインロッカーに入れるなどして回収役の者に交付した。被告人は、暗証番号が記載された他人名義のキャッシュカードを更に受け取るなどしながら、これと同様の流れで、本件各窃盗に及んだ。

2 以上の事実関係は、被告人の引き出す現金が詐欺等の犯罪に基づいて被告人の所持するキャッシュカードに係る預貯金口座に振込送金されたものであることを十分に想起させ、本件のような態様の電子計算機使用詐欺も、被告人が想定し得る詐欺等の犯罪の範囲に含まれていたといえるから、被告人は、そのような電子計算機使用詐欺に関与するものである可能性を認識していたと推認できる。被告人は、この認識の下、本件各電子計算機使用詐欺の当日午前9時頃から現金自動預払機の設置場所付近で待機し、氏名不詳者らにおいても、被告人が待機し現金の引き出しを行うことを前提として、本件各電子計算機使用詐欺に及んだといえるから、本件各電子計算機使用詐欺の初回の犯行までには、氏名不詳者らが行い、被告人が現金の引き出しを担う電子計算機使用詐欺について、暗黙のうちに意思を通じ合ったと評価することができる。そして、被告人は、氏名不詳者らから指示を受けて、Aらが振込送金する操作をしてから短時間のうちに現金を引き出しているところ、被告人が果たした役割は、本件各電子計算機使用詐欺による財産上不法の利益を直ちに現金として引き出して確保するという本件各電子計算機使用詐欺の犯行の目的を達成する上で極めて重要なものということができる。したがって、本件の事実関係の下においては、被告人と氏名不詳者らとの間で、本件各電子計算機使用詐欺の共謀が認められる。
 原判決は、被告人が本件各電子計算機使用詐欺の行為態様等を全く把握しておらず、氏名不詳者らにおいても被告人の認識の有無について関心を有していなかったことを重視するが、そのような事情は意思連絡を認める妨げとはならない上、被告人の認識内容を具体的に検討することなく、本件各電子計算機使用詐欺についての意思連絡を否定しており、不合理といわざるを得ない。また、原判決は、被告人が本件各電子計算機使用詐欺の実行行為を何ら分担していないこと、被告人以外にも振込先口座から現金を引き出す役割を果たす者がいた可能性があり、被告人の存在が必要不可欠であるとはいえないこと、被告人が本件各窃盗の報酬と認識して報酬を受け取っていたことなどを指摘して、共謀が認められないともいう。しかし、それらの事情は、被告人が氏名不詳者らと意思を通じ合って本件各電子計算機使用詐欺による財産上不法の利益を確保するという極めて重要な役割を担ったことに鑑みれば、共謀を否定する事情となり得ない。

(引用終わり)

 上記は共謀に関する判示ですが、「被告人の引き出す現金が詐欺等の犯罪に基づいて被告人の所持するキャッシュカードに係る預貯金口座に振込送金されたものであることを十分に想起させ、本件のような態様の電子計算機使用詐欺も、被告人が想定し得る詐欺等の犯罪の範囲に含まれていたといえる」の部分は、故意の認定にも用いることができるでしょう(『司法試験定義趣旨論証集刑法総論【第2版】』「規範的構成要件要素に関する故意の認定」の項目を参照)。
  「暗黙のうちに意思を相通じて」や「暗黙のうちに意思を通じ合い」などの表現は、黙示の共謀を認定する際の決まり文句です。上記判示中、「被告人が果たした役割は、本件各電子計算機使用詐欺による財産上不法の利益を直ちに現金として引き出して確保するという本件各電子計算機使用詐欺の犯行の目的を達成する上で極めて重要なものということができる。」、「被告人が……本件各電子計算機使用詐欺による財産上不法の利益を確保するという極めて重要な役割を担った」の部分は、答案では正犯意思を肯定する方向の要素として摘示することになるでしょう。本判例が、「正犯意思」という表現を用いず、「被告人が果たした役割は……極めて重要なもの」、「極めて重要な役割を担った」という表現を用いた点は、地味ながら重要です。現在、答案で、共同正犯の要件として、「正犯意思」という表現を用いるのは、判例・実務において、「正犯意思」が要件であり、その有無を重要な役割を担ったか等で判断すると説明されているからです(司法研修所編『難解な法律概念と裁判員裁判』(法曹会 2009年)58頁。司法研修所検察教官室『検察 終局処分起案の考え方』(令和元年版)26頁。『司法試験定義趣旨論証集刑法総論【第2版】』「正犯意思の判断基準」の項目も参照。) 。今後、実務書等でも、共同正犯の要件について「正犯意思」ではなく、「重要な役割」のような表現を用いるようになれば、答案で用いる表現も、そのようになるでしょう。

4.本判例に類似した事案は、論文式試験でそのまま出題される可能性があります。その場合、共謀・正犯意思の当てはめが雑だと、評価を落としやすいでしょう。問題文の事情を拾って、丁寧に当てはめをする必要がある。本判例から学ぶべきは、その点であり、原審や最高裁の示した要素は、肯定・否定の事情を拾うヒントになるでしょう。

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