1.最判令7・6・30の解説の続きです。前回の記事(「契約関係にない別荘地所有者に対する管理業務費用請求の肯否(1)(最判令7・6・30)」)では、判示の前提となる法律関係を確認しました。今回は、不当利得返還請求の肯否に関する最高裁の判断をみていきます。
2.まず1つ、重要なことは、703条の要件に沿った判示をしている、ということです。
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(参照条文)民法703条(不当利得の返還義務) 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。 (最判令7・6・30より引用。太字強調及び一部表記変更は筆者。)
4 上記事実関係によれば、本件土地は本件別荘地内の土地の1区画であるところ、本件別荘地は多数の土地及び道路等の施設から成る大規模な別荘地として開発され、現在も別荘地として利用されていることが明らかである。そして、Xは、本件別荘地所有者との間で個別に本件管理契約を締結し、本件別荘地において継続的に本件管理業務を提供しているところ、その内容は、本件別荘地を支える基盤となる施設を本件別荘地所有者による利用が可能な状態に保全及び維持管理し、本件別荘地内の土地や上記施設に対する犯罪や災害による被害の発生等を予防し、本件別荘地の環境や景観を別荘地としてふさわしい良好な状態に保つものである。これらによれば、本件管理業務は、本件別荘地が別荘地として存続する限り、その基本的な機能や質を確保するために必要なものであり、また、本件管理業務は、本件別荘地の全体を管理の対象とし、全ての本件別荘地所有者に対して利益を及ぼすものであって、本件管理契約を締結していない一部の本件別荘地所有者のみを本件管理業務による利益の享受から排除することは困難な性質のものであるということができる。そうすると、Xの本件管理業務という労務は、本件別荘地内の土地に建物を建築してその土地を利用しているか否かにかかわらず、本件別荘地所有者に利益を生じさせるものであるというべきである。そして、本件管理業務に要する費用は、本件別荘地所有者から本件管理業務に対する管理費を収受することによって賄うことが予定されているといえるから、亡Aらからその支払を受けていないXには損失があるというべきである。 (引用終わり) |
答案で不当利得返還請求の要件を検討するに当たっては、どの類型の不当利得であるのかを考えておく必要があります。どの類型であるかによって、適用条文や検討の視点が変わるからです。受験対策としては、下記の表のように整理しておけば十分です(※)。どのような事例がどの類型に当たるか、ということについては、厳密には学説でもブレがあるので、受験対策としては、下記表中の具体例のうちどれに近いか、それぞれの視点のうちがどれが最も妥当するか、という感じで考えていけば、とりあえず適切に解答できることが多いでしょう。なお、契約解除の場合は545条がありますね。
※ 厳密には、支出利得には求償利得と費用利得がありますが、ここでは費用利得を念頭に置いています。括弧書で「費用利得」と付記しているのは、その趣旨です。
| 類型 | 具体例 | 適用条文 | 視点 |
| 給付利得 | 無効な売買契約に基づいて 支払った代金の返還を求める。 |
121条の2 | 契約関係の 巻き戻し |
| 侵害利得 | 無断で使用された 土地の使用料を請求する。 |
703条 | 帰属の割当て |
| 支出利得 (費用利得) |
他人の自動車を勝手に修理して 修理代金を請求する。 |
703条 | 利得の押し付け |
上記の類型のうち、侵害利得の視点(「帰属の割当て」)や、支出利得の類型については、予備校本をメインで学習していると、全然知らない、という感じかもしれません。それは、多くの予備校が、いまだに衡平説をベースにしており、類型論に対応できていないためです。しかし、債権法改正で121条の2が新設され、給付利得類型では703条の適用がないことが明確にされたことによって、もはや類型論を無視できなくなりました(野澤正充『セカンドステージ債権法Ⅲ 事務管理・不当利得・不法行為[第4版]』(日本評論社 2024年)15、16頁)。
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(参照条文)民法121条の2(原状回復の義務) 無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う。 (引用終わり) |
現在では、学生向けの教科書でも、当たり前のように上記の類型に着目した説明がされています(橋本佳幸ほか『民法Ⅴ
事務管理・不当利得・不法行為〔第2版〕(LEGAL
QUEST)』(有斐閣 2020年)18頁、根本尚徳ほか『事務管理・不当利得・不法行為(日評ベーシック・シリーズ)』(日本評論社 2021年)229頁、松尾弘『民法』(慶應義塾大学出版会 2023年)703頁、滝沢昌彦ほか『新ハイブリッド民法4
債権各論』(法律文化社 2020年)178~180頁。)。予備校本をメインで学習している人は、注意が必要です。
さて、適用条文という点でいえば、給付利得か、それ以外か、ということが決定的に重要です。受験対策としては、給付の基礎になった契約等があって、その契約等が無効だったり、取り消されたりした場合は121条の2、それ以外は703条の要件を当てはめればいいんだ、と覚えておけばよいでしょう。その観点でみると、本件は当初から契約関係がないので、121条の2ではなく、703条の要件を当てはめる場合である。上記判例は、これに沿っているといえるでしょう。
3.本件は給付利得の場合ではないので、703条を適用すべき場合だ、ということが分かりました。次に考えるべきは、侵害利得か支出利得か、という点です。上記の具体例と本件を比較すると、所有者が望んでいないのに勝手に管理業務を行って管理費用を請求する場面なので、侵害利得の「無断で使用された土地の使用料を請求する。」というよりは、支出利得の「他人の自動車を勝手に修理して修理代金を請求する。」に近いことが分かるでしょう。より理論的にいえば、侵害利得は、利得を受ける者が原因行為を行う場合であり、支出利得は、損失を受ける者が原因行為を行う場合です。本件は、損失を受ける管理業者の側が本件管理業務という原因行為を行っているので、支出利得に分類されるのです。
ここまで理解すれば、本件で特に意識すべき検討の視点は、「利得の押し付け」である、ということが分かるでしょう。そうすると、Y側が主張していた反論の意味が、より明瞭になります。
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(最判令7・6・30より引用。太字強調及び一部表記変更は筆者。) 3 所論は、本件管理業務は本件土地の経済的価値を維持又は向上させるものではなく、また、本件管理業務の提供を望んでいない亡Aらに対して費用を負担させることは契約自由の原則に反するから、亡Aらは被上告人に対し本件管理業務について不当利得返還義務を負わないというべきであるのに、当該義務を負うとした原審の判断には法令の解釈適用の誤りがあるという。 (引用終わり) |
「本件管理業務は本件土地の経済的価値を維持又は向上させるものではなく」の部分は、そもそも「利得」がない、という主張です。そして、「本件管理業務の提供を望んでいない亡Aらに対して費用を負担させることは契約自由の原則に反する」の部分は、「仮に703条の要件を形式的には満たすとしても、それは『利得の押し付け』であるから、不当利得返還請求は認められない。」という主張です。
これを踏まえて、最高裁の当てはめをみてみましょう。みえ方が少し変わるはずです。
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(最判令7・6・30より引用。太字強調及び一部表記変更は筆者。)
4 上記事実関係によれば、本件土地は本件別荘地内の土地の1区画であるところ、本件別荘地は多数の土地及び道路等の施設から成る大規模な別荘地として開発され、現在も別荘地として利用されていることが明らかである。そして、Xは、本件別荘地所有者との間で個別に本件管理契約を締結し、本件別荘地において継続的に本件管理業務を提供しているところ、その内容は、本件別荘地を支える基盤となる施設を本件別荘地所有者による利用が可能な状態に保全及び維持管理し、本件別荘地内の土地や上記施設に対する犯罪や災害による被害の発生等を予防し、本件別荘地の環境や景観を別荘地としてふさわしい良好な状態に保つものである。これらによれば、本件管理業務は、本件別荘地が別荘地として存続する限り、その基本的な機能や質を確保するために必要なものであり、また、本件管理業務は、本件別荘地の全体を管理の対象とし、全ての本件別荘地所有者に対して利益を及ぼすものであって、本件管理契約を締結していない一部の本件別荘地所有者のみを本件管理業務による利益の享受から排除することは困難な性質のものであるということができる。そうすると、Xの本件管理業務という労務は、本件別荘地内の土地に建物を建築してその土地を利用しているか否かにかかわらず、本件別荘地所有者に利益を生じさせるものであるというべきである。そして、本件管理業務に要する費用は、本件別荘地所有者から本件管理業務に対する管理費を収受することによって賄うことが予定されているといえるから、亡Aらからその支払を受けていないXには損失があるというべきである。 (引用終わり) |
前半部分は、受験対策上は、「利得」があるだろ、という趣旨だと思っておけばよい。「利用が可能な状態に保全及び維持管理」、「ふさわしい良好な状態に保つ」、「存続する限り、その基本的な機能や質を確保するために必要」、「全体を管理の対象とし、全ての本件別荘地所有者に対して利益を及ぼす」、「契約を締結していない一部の本件別荘地所有者のみを本件管理業務による利益の享受から排除することは困難」、「利用しているか否かにかかわらず……利益を生じさせる」等の表現は、一度意味を理解して読んでおくと、答案で、どの事実を書き写せばよいか、一言評価を付す際にどのような文言を用いたらよいか、という点で、大いに参考になるでしょう。とりわけ、「全体を管理の対象とし、全ての本件別荘地所有者に対して利益を及ぼす」、「契約を締結していない一部の本件別荘地所有者のみを本件管理業務による利益の享受から排除することは困難」の部分は、「全体管理の特殊性」のようなキーワードで表現されることもある重要な要素です(瀧久範「別荘地の管理と費用利得」ジュリスト1617号(2025年)106頁。共有の場合の253条1項と趣旨は似ています。)。論文式試験では、この点を指摘できると評価が高まりやすいでしょう。
後半部分は、「『利得の押し付け』であるから、不当利得返還請求は認められない。」ということはない、という趣旨。一般に、「利得の押し付け」によって不当利得返還請求が否定されるか否かは、「受益者の財産計画に反するか。」という判断基準によるというのが、従来の教科書的な説明です(橋本佳幸ほか『民法Ⅴ
事務管理・不当利得・不法行為〔第2版〕(LEGAL
QUEST)』(有斐閣 2020年)32頁、根本尚徳ほか『事務管理・不当利得・不法行為(日評ベーシック・シリーズ)』(日本評論社 2021年)251頁、松尾弘『民法』(慶應義塾大学出版会 2023年)711頁、滝沢昌彦ほか『新ハイブリッド民法4
債権各論』(法律文化社 2020年)215頁。)。その観点でいえば、「別荘地であることを認識して……本件土地を取得した」、「契約を締結していない本件別荘地所有者が……管理費を負担しないとすると、これを支払っている本件別荘地所有者との間で不公平」、「費用を賄うための原資が減少して、本件管理業務の提供に支障が生じ、別荘地の基本的な機能や質の確保に悪影響が生ずる」、「本件別荘地所有者が個別になし得るものではなく、地方自治体による提供も期待できない」、「X以外に本件管理業務を提供することができる者がいることはうかがわれない」等の判例が指摘する諸要素は、「別荘地内の土地には、その性質上、別荘地全体の管理負担が内在しているのだから、別荘地と認識して本件土地を取得した以上は、たとえ本人が望んでいなかったとしても、管理費を負担するのは当然のことであり、財産計画に含まれている。」というような当てはめに結び付く要素と捉えることができるでしょう(瀧久範「別荘地の管理と費用利得」ジュリスト1617号(2025年)106頁)。論文式試験対策としては、まずは、「受益者の財産計画に反するか。」という判断基準を規範として覚えるのが最優先で、上記判示は、本件のような特殊な事例における当てはめの参考として考えておけばよいと思います。
4.なお、本件のような事例では、別荘地内の土地所有者が個別に管理契約を任意解除(656条、651条)できるか、という点も、下級審でよく問題になっています(ネット上で読める解説として、熊代拓馬「別荘地管理契約の法的問題――解除を中心に」月報司法書士623号44~52頁。ほとんどの裁判例は債権法改正施行前のもので、同改正前の判例法理に依拠しているため、現在もそのまま妥当するかについては疑問の余地がある点に注意を要します。)。これ、いきなり問われたら、ほとんどの受験生が、「そんなん知らねーよ。」となって、思いつきで信義則とか権利濫用とかで書きたくなるところでしょう。それでも、ある程度は評価されるでしょうが、正解筋ではない。
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(参照条文)民法 651条(委任の解除) 656条(準委任) (引用終わり) |
条文上は、任意解除を制限する事由はありません。651条2項各号の場合であっても、損害賠償義務を負うだけで、解除はできるのです。もっとも、解除権を放棄する意思表示があれば、解除はできない、と考えられています。当たり前といえば、当たり前ですね。そして、本件のように、全体を一括して管理するような契約の場合、一部の土地所有者だけが個別に契約を解除してしまうことは想定されていない、と考えると、黙示の解除権放棄の意思表示がある、とみる余地が生じる。仮に、本件類似の事案が出題され、任意解除の可否が問われた場合には、黙示の解除権放棄の意思表示があるか、という問題意識で解答するのだ、ということだけでも知っておけば、後は、問題文の事実を拾ってなんとか解答できるでしょう。本判例が摘示した要素は、黙示の解除権放棄の意思表示を認める方向の要素として、参考にすることができます。この程度でも知っていれば、「何を書いていいか分からず、頭が真っ白になった。」という事態は避けられるでしょう。