1.当サイトでは、従来、年ごとに、Kindle用の電子書籍として、「最新判例ノート」を公開してきました(当サイト作成の電子書籍一覧)。今年からは、これに代えて、ウェブサイトに解説を掲載することとしました。
2.今回は、民法の話。下記は、今回紹介する最判令7・6・30から事案部分を抜粋したものです。この事案において、XのYらに対する管理費相当額の請求は認められるか、どのような根拠によるかも含めて、考えてみましょう。なお、「被上告人」を「X」、「上告人」を「Y」のように、一部表記を変更しています。
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(最判令7・6・30より引用。太字強調及び一部表記変更は筆者。) 1 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。 (1) Xは、不動産の管理業等を目的とする株式会社である。 (2) 本件別荘地は、栃木県那須塩原市に所在する多数の土地及び道路等の施設から成る別荘地である。 (3) Xは、本件別荘地内に土地を所有する者(以下「本件別荘地所有者」という。)との間において、個別に共益管理契約(以下「本件管理契約」という。)を締結し、本件別荘地において、本件管理契約に基づく管理業務(以下「本件管理業務」という。)を行っている。その内容は、①道路、側溝及びマンホール等の雨水排水設備、街路灯、消火栓、ゴミ集積所等の保全及び維持管理、②毎日2回のパトロール実施、道路ゲートの開閉管理、関係者以外の立入り防止、天災地変時の見回り点検、③道路両脇の雑草の刈込み作業、U字溝内部の清掃作業である。本件管理契約によれば、本件別荘地所有者は、本件管理業務に対し、本件別荘地内の土地1区画当たり年額3万6000円(消費税別。ただし、1区画の面積が350㎡を超える場合は年額102円/㎡(消費税別)を加算する。)の管理費を支払うものとされている。 (4) 亡Aは、昭和52年、本件別荘地内にある本件土地を取得したところ、令和元年に死亡し、本件土地はY1が相続し、亡Aの債務はYらが法定相続分に従い相続した。亡A及びY1(以下「亡Aら」という。)は、本件土地上に建物を建築しておらず、本件土地を利用していない。また、亡Aらは、Xとの間において本件管理契約を締結したことはなく、上記管理費を支払ったこともない。 (引用終わり) |
2.本件管理契約(準委任)に基づく請求(656条、648条1項、650条1項)を簡単に認めた人は、論文式試験であればとても低く評価されるでしょう。Xと亡Aらの間には、直接の契約関係がないからです。
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(参照条文)民法 648条(受任者の報酬) 650条(受任者による費用等の償還請求等) 656条(準委任) |
次に、事務管理に基づく費用償還請求(702条1項)を考えた人もいるでしょう。これは、法律構成としては考えられるところで、類似事案が出題された際には、答案でも検討すべきことになるでしょう。もっとも、結論としては否定するのが筋です。なぜか。
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(参照条文)民法 697条(事務管理) 700条(管理者による事務管理の継続) 702条(管理者による費用の償還請求等) |
本件管理業務は、本件管理契約を締結した本件別荘地所有者との関係で負う債務の履行そのものです。なので、「義務なく」(697条1項)の要件を欠くというのが素直でしょう。また、697条1項は直接には規律していませんが、697条2項、700条の趣旨から、当初から本人の意思に反することが明らかなときは、事務管理は成立しないとされます。判文中では必ずしも明らかではありませんが、亡Aが生前に本件管理契約の締結を拒絶していた等の事情があれば、本件管理業務を望んでいなかったことが明らかである(ないしは、推知できた)と認めることができ、この観点からも事務管理は成立しないといえるでしょう。仮に、亡Aらの意思には反していたが事務管理の成立自体は認められる、と考えたとしても、702条3項によれば、現存利益の限度でしか請求できません。亡Aらは本件土地を全く利用しておらず、また、本件管理業務は、本件土地自体を造成してその価値を増加させるようなものではないので、現存利益を認めることは難しいでしょう。仮に、論文式試験で類似事案が出題された場合、事務管理による費用償還請求を肯定する答案は、これらの点についてすべて適切に理由を付さなければ、十分な評価は得られないでしょう(本件における事務管理の成否について解説するものとして、瀧久範「別荘地の管理と費用利得」ジュリスト1617号(2025年)106頁)。
3.そんなわけで、本筋の請求根拠は、不当利得返還請求だ、ということになる。本件でも、不当利得返還請求権に基づく請求がされています。
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(最判令7・6・30より引用。太字強調及び一部表記変更は筆者。) 2 本件は、Xが、Yらに対し、本件管理業務という労務により亡Aらは法律上の原因なく利益を受け、Xは損失を被ったとして、不当利得返還請求権に基づき、平成28年7月から令和4年6月までの間における上記管理費と同額の支払を求める事案である。 (引用終わり) |
これに対し、Yらは、本件土地の増価はないこと、契約自由の原則に反することを反論として主張しています。
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(最判令7・6・30より引用。太字強調及び一部表記変更は筆者。) 3 所論は、本件管理業務は本件土地の経済的価値を維持又は向上させるものではなく、また、本件管理業務の提供を望んでいない亡Aらに対して費用を負担させることは契約自由の原則に反するから、亡Aらは被上告人に対し本件管理業務について不当利得返還義務を負わないというべきであるのに、当該義務を負うとした原審の判断には法令の解釈適用の誤りがあるという。 (引用終わり) |
論文式試験で類似事案が出題されるときは、問題文に上記反論が明示され、下線が付されるなどして、下線部の反論を踏まえつつ論じなさい、などとされる可能性が高いでしょう。さて、最高裁はどのように判断したのか。それは次回、詳しく説明します。