1.当サイトでは、従来、年ごとに、Kindle用の電子書籍として、「最新判例ノート」を公開してきました(当サイト作成の電子書籍一覧)。今年からは、これに代えて、ウェブサイトに解説を掲載することとしました。
2.今回は、最判令7・6・27を取り上げます。事案は、生活保護基準の改定によって支給額が減ったので、これを争ったというものです。
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(最判令7・6・27より引用。太字強調は筆者。)
1 大阪府内に居住して生活保護法に基づく生活扶助を受給していた上告人ら(上告人X3らについてはその各夫)は、平成25年から平成27年にかけて行われた、厚生労働大臣による「生活保護法による保護の基準」(昭和38年厚生省告示第158号。以下「保護基準」という。)中の生活扶助基準(別表第1)の改定(以下「本件改定」という。)を理由として、所轄の福祉事務所長らから、それぞれ、生活扶助の支給額を変更する旨の保護変更決定を受けた。 (引用終わり) |
受験対策としては、老齢加算廃止事件判決(最判平24・2・28、最判平24・4・2)と同じようなもんだ、と考えておいて差し支えありません。判断枠組みも、同判決と同様のものが用いられています。
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(最判令7・6・27より引用。太字強調及び※注は筆者。)
生活保護法3条によれば、同法により保障される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならないところ、同法8条2項によれば、保護基準は、要保護者(同法による保護を必要とする者をいう。)の年齢別、性別、世帯構成別、所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって、かつ、これを超えないものでなければならない。これらの規定にいう最低限度の生活は、抽象的かつ相対的な概念であって、その具体的な内容は、その時々における経済的・社会的条件、一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであり、同条1項の委任を受けた厚生労働大臣がこれを保護基準において具体化するに当たっては、国の財政事情を含めた多方面にわたる複雑多様な、しかも高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするものである。
(引用終わり) |
このような判断枠組みは、答案に当然書けるようになっておくべきで、余裕があれば理由も付すことができるように、覚えておいた方がよいでしょう(『司法試験定義趣旨論証集(憲法)』「保護基準改定の生活保護法3条、8条2項違反の審査基準」、「保護基準改定の判断に裁量が認められる理由」、「著しい不合理や明白性が要求されない理由」の各項目を参照)。理由付けについては、答案に書く余裕がない場合でも、判例の射程を考える際のヒントになるので、一字一句覚える必要はないけれど、理解はしておくべきです(当サイトの論証集でCランクになっているのは、「覚える必要はないですよ。」という趣旨であって、およそ理解する必要がない、という意味ではありません。およそ理解する必要すらないものは、そもそも掲載しません。)。基本は立法裁量に関する堀木訴訟の理由付けが妥当するんだよね、だけど、行政裁量には立法の趣旨による枠付けがあるのだから、「著しく不合理明らか」というほどにはユルユルでもない。行政法における諮問機関を経た場合の判断過程統制(『司法試験定義趣旨論証集行政法【第2版】』「諮問機関の判断に依拠した場合の裁量逸脱の判断基準」の項目を参照)と同様なんだよね、という理解をしておけば、覚えやすいでしょう。
3.本判例が触れていない前提として、保護基準の改定自体について生活保護法56条違反の問題を生じない、ということがあります。これは、老齢加算廃止事件判決が明示するところでした。
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(参照条文)生活保護法56条(不利益変更の禁止) 被保護者は、正当な理由がなければ、既に決定された保護を、不利益に変更されることがない。 (最判平24・2・28より引用。太字強調及び※注は筆者。) 生活保護法56条は,保護の実施機関が被保護者に対する保護を一旦決定した場合には,当該被保護者について,同法の定める変更の事由が生じ,保護の実施機関が同法の定める変更の手続を正規に執るまでは,その決定された内容の保護の実施を受ける法的地位を保障する趣旨の規定であると解される。また,同条の規定は,同法において,既に保護の決定を受けた個々の被保護者の権利及び義務について定める第8章の中に置かれている。上記のような同条の規定の趣旨や同法の構成上の位置付けに照らすと,同条にいう正当な理由がある場合とは,既に決定された保護の内容に係る不利益な変更が,同法及びこれに基づく保護基準が定めている変更,停止又は廃止の要件に適合する場合を指すものと解するのが相当である。したがって,保護基準自体が減額改定されることに基づいて保護の内容が減額決定される本件のような場合については,同条が規律するところではないというべきである。 (引用終わり) |
これは、生活保護の支給減額に関する出題がされた場合一般に妥当する法理なので、論証として用意しておいてもよいところです(『司法試験定義趣旨論証集(憲法)』「改定された保護基準に基づく減額決定がされた場合に保護基準の改定自体について生活保護法56条違反の問題は生じるか」の項目を参照)。
4.もう1つ、本判例が前提とするものとして、制度後退禁止原則のようなものは採用しない、という点があります。このことは、被保護者の期待的利益は裁量統制における考慮要素となるにとどまる、という形で、本判例の判示中でも明示されています。
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(最判令7・6・27より引用。太字強調及び※注は筆者。)
生活保護法3条によれば、同法により保障される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならないところ、同法8条2項によれば、保護基準は、要保護者(同法による保護を必要とする者をいう。)の年齢別、性別、世帯構成別、所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって、かつ、これを超えないものでなければならない。これらの規定にいう最低限度の生活は、抽象的かつ相対的な概念であって、その具体的な内容は、その時々における経済的・社会的条件、一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであり、同条1項の委任を受けた厚生労働大臣がこれを保護基準において具体化するに当たっては、国の財政事情を含めた多方面にわたる複雑多様な、しかも高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするものである。
(引用終わり) |
これも、老齢加算廃止事件判決と同旨です。
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(最判平24・2・28より引用。太字強調は筆者。) 老齢加算の全部についてその支給の根拠となる上記の特別な需要が認められない場合であっても,老齢加算は,一定の年齢に達すれば自動的に受給資格が生じ,老齢のため他に生計の資が得られない高齢者への生活扶助の一部として相当期間にわたり支給される性格のものであることに鑑みると,その加算の廃止は,これを含めた生活扶助が支給されることを前提として現に生活設計を立てていた被保護者に関しては,保護基準によって具体化されていたその期待的利益の喪失を来すものであることも否定し得ないところである。そうすると,上記のような場合においても,厚生労働大臣は,老齢加算の支給を受けていない者との公平や国の財政事情といった見地に基づく加算の廃止の必要性を踏まえつつ,被保護者のこのような期待的利益についても可及的に配慮する必要があるところ,その廃止の具体的な方法等について,激変緩和措置を講ずることなどを含め,上記のような専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権を有しているものというべきである。 (引用終わり) |
これは、社会保障給付の支給減額に関する出題がされた場合一般に妥当し得る法理なので、いちいち現場で考えなくても答案に書けるように、論証として用意しておくべきでしょう(『司法試験定義趣旨論証集(憲法)』「保護基準減額改定における激変緩和措置の採否に係る考慮要素」、「制度後退禁止原則の意義」、「制度後退禁止原則を採用しない理由」、「財産権の不利益変更に関する判例法理は社会保障給付の制度後退に妥当するか」の各項目を参照)。
ちなみに、立法裁量との関係では、最判令5・12・15(老齢年金における特例水準解消措置を定める国民年金法等を改正する法律の合憲性について判示したもの)が制度制度禁止原則について触れずに合憲判断を行い、同判決における尾島明補足意見において、否定的な意見をが示されていたのでした。
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(最判令5・12・15における尾島明補足意見より引用。太字強調及び※注は筆者。) 上告人らは、憲法25条2項が、「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」と規定していることから、一旦具体化した国民の生活水準を低下・後退させる場合には、裁量の幅は狭まり、相応の正当化が要求されるという制度後退禁止原則を定めており、これは立法による不利益変更にも妥当する旨主張する。しかしながら、何をもって制度が後退したと評価するのか、法律によって作られた制度の保護水準がその後の改正法によって引き下げられると憲法に違反することになるというとき、憲法と法律の各規範の相互関係をどのように考えているのかなど曖昧な点が多く、法律の憲法25条適合性の審査に際して参照するのに適切な成熟した法理ないし基準であるとはいい難いように思われる。本件において、そのような制度後退禁止原則の存在を前提に、年金給付額の引下げがされたことが直ちに制度の後退に当たるとして、本件部分が厳格な審査に服し、憲法25条に違反することとなるとの主張が採用し難いことは明らかである。 (引用終わり) |
現在のところ、制度後退禁止原則をそのまま採用したとみえる判例は存在しません。短答式試験で、「判例は、社会保障の給付減額の合憲性が問題になった事案において、制度後退禁止原則を採用した。」のような肢が出題されたときは、即座に誤りと判断できなければならないのです。
5.本判例の当てはめ部分については、受験対策として敢えて覚えるようなものはありません。「ゆがみ調整」、「2分の1処理」、「デフレ調整」のような、細かいことを理解しようとする必要はない。ただ、2つだけ、知っておきたいポイントがあります。それは、「諮問機関からの意見聴取をしなかったとしても、直ちに裁量逸脱濫用にはならない。」という点です。下記はゆがみ調整に関する判示ですが、細かいことは気にせず、太字強調部分だけに注目しましょう。
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(最判令7・6・27より引用。太字強調は筆者。)
そこで、まず、ゆがみ調整に係る厚生労働大臣の判断についてみると、本件において、平成25年検証の結果に統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性に欠けるところがあるというべき事情は見当たらない。そして、上記事実関係等によれば、平成25年報告書においては、平成25年検証の結果をそのまま生活扶助基準に反映させると、児童のいる世帯への減額の影響が大きくなることが見込まれており、生活扶助基準の見直しを具体的に検討する際には児童のいる世帯への影響に配慮する必要があるともされていたというのであるから、このような観点から、その反映に当たり減額率を限定することには合理性があるということができる。また、ゆがみ調整が、生活保護受給世帯間の公平を図るため、生活扶助基準における展開のための指数を適正化することを目的とするものであることに照らせば、減額率に合わせて増額率を限定することにも一定の合理性があるということができる。そして、平成25年報告書において、平成25年検証の手法に係る統計上の限界も指摘されていたほか、生活扶助基準については基準部会による5年ごとの検証が行われるため、改定による影響については、将来的に検証することが可能であったといえることなども踏まえると、ゆがみ調整における改定率を平成25年検証の結果をそのまま生活扶助基準に反映する場合の2分の1に限定したことが不合理であるともいえない。 (引用終わり) |
本試験で裁量統制を問う出題がされた場合、法令において意見聴取が義務付けられておらず、諮問内容の法的拘束力が定められていないにも関わらず、「意見聴取をしなかったから考慮不尽で裁量逸脱濫用だ。」とか、「諮問内容を無視したから考慮不尽で裁量逸脱濫用だ。」などとして簡単に違法にする答案が続出します。こうしたものは低く評価されやすい、ということを知っておきましょう。本判例には宇賀克也反対意見が付されていますが、厳しいことで有名な宇賀克也裁判官ですら、それだけでは違法にならないと言っているのです。
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(最判令7・6・27における宇賀克也反対意見より引用。太字強調は筆者。) 保護基準の改定は、専門技術的な検討を要することから、従来、専門機関の検討を経たうえで、その結果に基づき行われてきた。しかし、本件では、ゆがみ調整の2分の1処理及びデフレ調整を行うことについて、基準部会の意見を聴取しておらず、厚生労働省内部で判断がされており、事前に社会保障審議会にも知らされていなかった(むしろ部外秘扱いとされ秘匿されていた。)。この点については、保護基準の改定に当たり、社会保障審議会(基準部会)の意見聴取を義務付ける明文の規定は存在しないので、基準部会の意見を聴取しなかったことが、直ちに、本件改定の違法性につながるとまではいえないと考えられる。もっとも、基準部会の検討結果に基づく改定の場合には、基準部会における判断過程を審査し、そこに合理性が認められれば、その検討結果を尊重して行った厚生労働大臣の改定の合理性も基本的には肯定されることになると思われるが、他方、ゆがみ調整の2分の1処理及びデフレ調整について外部有識者による専門機関の関与がない本件の場合には、厚生労働省内部において、いかなる資料に基づき、いかなる判断過程を経て、そのような処理がされたのかについて、被上告人らには、統計等の客観的な数値との合理的関連性や専門的知見との整合性等について主張立証する必要が生ずることになり、判断過程審査においては、この点について十分な審査が行われる必要がある。 (引用終わり) |
では、意見聴取をしなかった場合に裁量逸脱濫用となるのは、どのような場合か。下記は、物価変動率のみを直接の指標として基準生活費を一律に減額した点(デフレ調整)に関する判示ですが、細かいことは気にせず、太字強調部分だけに注目して読んでください。
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(最判令7・6・27より引用。太字強調は筆者。)
被上告人らは、現時点において、厚生労働大臣が物価変動率のみを直接の指標として基準生活費を一律に減ずることとした理由について、平成15年中間取りまとめにおいて消費者物価指数の伸びも改定の指標の一つとして用いることも考えられるとされていたこと等を踏まえ、消費そのものではなく、物価変動率を指標として用いた旨説明しているところ、生活扶助基準の改定方式につき、生活保護法その他の法令には何らの定めもなく、同大臣に専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権が認められることからすれば、生活扶助基準の改定の際にどのような指標を用いるかについても、同大臣の裁量判断に委ねられているものということができる。 (中略) 以上によれば、本件改定は、物価変動率のみを直接の指標としてデフレ調整をすることとした点において、その厚生労働大臣の判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があり、生活保護法3条、8条2項に違反して違法というべきである。 (引用終わり) |
要するに、従来の指標に代えて新たな指標を用いる場合に、新たに用いる指標が、法の趣旨に照らして要求される給付水準を適切に反映させるには限界のある指標であると認められる場合には、諮問機関による意見聴取をするなどしてその合理性を基礎付けるに足りる専門的知見を調達する必要がある。それにもかかわらず、意見聴取をしないで、その指標のみをそのまま用いたのであれば、それは裁量逸脱濫用になりますよ、ということですね。これを、もっとざっくり抽象化するならば、一般に合理性に疑いを挟む余地のある判断をする場合には、より実質的な合理性の基礎付けが必要になることから、諮問機関の意見聴取などの手続が必要的になり得る、ということになるでしょう。このことは、薬事法事件大法廷判決において実質的関連性(確実な根拠によって基礎付けられた関連性)が要求されたことと相似形といえます(『司法試験定義趣旨論証集(憲法)』「実質的関連性が要求される場合」、「実質的関連性が要求される場合の理由」の各項目を参照)。
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(薬事法事件大法廷判決より引用。太字強調は筆者。) 許可条件に関する基準をみると、薬事法6条……(略)……は、1項1号において薬局の構造設備につき、1号の2において薬局において薬事業務に従事すべき薬剤師の数につき、2号において許可申請者の人的欠格事由につき、それぞれ許可の条件を定め、2項においては、設置場所の配置の適正の観点から許可をしないことができる場合を認め、4項においてその具体的内容の規定を都道府県の条例に譲つている。これらの許可条件に関する基準のうち、同条1項各号に定めるものは、いずれも不良医薬品の供給の防止の目的に直結する事項であり、比較的容易にその必要性と合理性を肯定しうるものである(前掲各最高裁大法廷判決参照)のに対し、2項に定めるものは、このような直接の関連性をもつておらず、本件において上告人が指摘し、その合憲性を争つているのも、専らこの点に関するものである。それ故、以下において適正配置上の観点から不許可の道を開くこととした趣旨、目的を明らかにし、このような許可条件の設定とその目的との関連性、及びこのような目的を達成する手段としての必要性と合理性を検討し、この点に関する立法府の判断がその合理的裁量の範囲を超えないかどうかを判断することとする。 (中略) 競争の激化―経営の不安定―法規違反という因果関係に立つ不良医薬品の供給の危険が、薬局等の段階において、相当程度の規模で発生する可能性があるとすることは、単なる観念上の想定にすぎず、確実な根拠に基づく合理的な判断とは認めがたいといわなければならない。 (引用終わり) |
論文式試験で、上記のような一般には合理性・関連性に疑いがある旨の記載があり、その上で、専門的知見を調達するような手続を経ていない旨の記載がある場合には、後者だけを指摘するのではなく、上記のように、2段階(①手続が必要的となる事情の指摘、②そのような手続がとられていないことの指摘)で書く。これだけで、評価は大きく変わることでしょう。時間内にこのような丁寧な書き方ができるようにするために、タイピング力も鍛えておく。本判例から学ぶべきことは、このようなことです。