1.当サイトでは、従来、年ごとに、Kindle用の電子書籍として、「最新判例ノート」を公開してきました(当サイト作成の電子書籍一覧)。今年からは、これに代えて、ウェブサイトに解説を掲載することとしました。
2.今回は、最判令7・6・16を取り上げます。事案は、ざっくり言えば、コロナ禍に中小企業等に支給された給付金(持続化給付金)の支給対象から無店舗型性風俗特殊営業(デリヘル等)の事業者を除外したことの合憲性が争われたものです。
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(最判令7・6・16より引用。太字強調は筆者。) 1 本件は、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風営法」という。)2条7項1号所定の無店舗型性風俗特殊営業(以下「本件特殊営業」という。)を行う事業者である上告人が、新型コロナウイルス感染症の拡大等を受けて被上告人国が策定した持続化給付金給付規程(中小法人等向け)(令和2年8月1日付けのもの。以下「持続化給付金規程」という。)及び家賃支援給付金給付規程(中小法人等向け)(同年10月29日改正前のもの。以下「家賃支援給付金規程」という。)に定める各給付金(以下「本件各給付金」という。)につき、本件特殊営業を行う事業者には給付しないこととされていることが、憲法14条1項、22条1項に違反するなどと主張して、被上告人らに対し、本件各給付金の支払等を求める事案である。 (引用終わり) |
この事件は、SNS等でも話題にされ、著名ではあるのですが、司法試験対策という観点からは、そこで話題にされた性産業に関するテーマについての重要度は低いと思います。受験生の多くを占める若者には、「デリヘル」が何か知らない人もいるでしょうし、かといって、詳細な説明を問題文でするのも適切とはいえない。しかも、問われる論述内容が憲法論というよりジェンダー論のようになりがちで、それも適切でない。というわけで、仮に事業者に対する給付金に関する出題がされるとしても、本判例のような性産業を対象とするものとはならない可能性が高いでしょう(※)。本判例から学ぶべきは、性産業に関わらない部分です。
※ 予備校答練や演習書等では、判例そのままの事案を出題するものがあるでしょうが、それは事案を改変するのが面倒だからそのまま出しているだけで、本試験の傾向を反映したものではありません。
3.まず、判例が示した憲法14条1項の判断枠組みをみてみましょう。
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(最判令7・6・16より引用。太字強調及び※注は筆者。) 2 憲法14条1項は、法の下の平等を定めており、この規定は、事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取扱いを禁止する趣旨のものであると解すべきであって(最高裁昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁等(※注:高齢公務員待命処分事件大法廷判決を指す。)参照)、本件各取扱いについては、本件各給付金が一定の政策目的をもって公費により給付されるものであることを踏まえた上で、給付対象となる事業者と本件特殊営業を行う事業者を区別することが不合理であるといえない限り、同項に違反するものではないというべきである。 (引用終わり) |
大枠は高齢公務員待命処分事件大法廷判決の枠組みと変わりませんが、考慮要素が追加されていることに気が付くでしょう。「一定の政策目的をもって公費により給付されるものであることを踏まえた上で」という文言が付け加わっている。この文言は、給付対象を絞り込むことを正当化しやすい要素として作用します。
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(最判令7・6・16より引用。太字強調は筆者。) 3(1) 本件各給付金は、新型コロナウイルス感染症の拡大の影響等により売上げが減少するなどした中小法人等の事業の継続を支えるとの政策目的を実現するため公費により給付されるものであって、給付対象とされない者の権利の制約を伴うものでもないことからすると、被上告人国において本件各給付金に係る制度を設けるに当たっては、政策的な見地から種々の考慮要素を勘案して給付対象者の範囲を画することが許されるというべきである。 (中略) (3) 本件各取扱いは、本件特殊営業の事業内容に着目し、その事業者を給付対象から除外するものであるが、本件特殊営業についての上記のような現行法上の位置付けや、本件特殊営業においては、接客従業者が顧客の指定する場所に出向いて上記のような役務を提供するという業務態様であることから、接客従業者の尊厳を害するおそれがあることを否定し難いものであることに照らせば、被上告人国において本件各給付金に係る制度を設けるに当たり、本件特殊営業を行う事業者に対しては、公費を支出してまでその事業の継続を支えることは相当でないと判断し、給付対象から除外して区別することが不合理であるということはできない。 4 以上によれば、本件各取扱いは、憲法14条1項に違反するものとはいえない。このことは、上記大法廷判決の趣旨に徴して明らかである。原審の判断は、以上の趣旨をいうものとして是認することができる。論旨は採用することができない。 (引用終わり) |
上記の太字強調部分は、「一定の政策目的をもって公費により給付されるもの」について広く妥当する考え方ですから、そのような仮想的な制度の合憲性を問う事案が出題された場合に、答案でもそのまま用いることができる表現です。知っておいて損はない表現でしょう。
4.上記3で引用した判示において、「給付対象とされない者の権利の制約を伴うものでもない」とされているとおり、憲法22条1項との関係では、そもそも制約がない、と考えるのが筋です。もっとも、判例は、一応は実質審査をするかのような判示を行っています。
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(最判令7・6・16より引用。太字強調及び※注は筆者。) 本件各取扱いは、本件特殊営業を行う事業者に対し、一定額の給付をしないというものにとどまるところ、これが同事業者の職業活動に影響する面があるとしても、上記第2で説示したところによれば、憲法22条1項に違反するものとはいえない。このことは、最高裁昭和45年(あ)第23号同47年11月22日大法廷判決・刑集26巻9号586頁(※注:小売市場事件大法廷判決を指す。)の趣旨に徴して明らかである。これと同旨の原審の判断は是認することができる。論旨は採用することができない。 (引用終わり) |
「上記第2で説示したところによれば」とは、平等原則との関係で不合理でない、とした判示部分を指しています。逆にいえば、職業活動に事実上の影響が生じるに過ぎない場合であっても、不合理な内容であれば憲法22条1項に違反し得る、とも読める。論文式試験において、職業の自由の制約がなさそうな事案であっても、直ちに「制約がないから合憲」とするのではなく、違憲審査をする余地があることを示唆するものとして、一応知っておいてもよいでしょう。なお、精神的自由権との関係では、事実上の支障に過ぎないレベルでも違憲審査をする、というのが、オウム真理教解散命令事件決定以来の判例の立場でした(『司法試験定義趣旨論証集(憲法)』「事実上の支障であっても人権の制約と評価すべき場合」の項目を参照。大阪市ヘイトスピーチ条例事件判決も、その例です。)。
5.他に、受験対策として知っておきたい考え方として、宮川美津子反対意見が指摘するスティグマ(烙印)の要素があります。
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(最判令7・6・16における宮川美津子反対意見より引用。太字強調は筆者。) 本件各取扱いは、本件特殊営業の事業内容に着目し、給付対象から本件特殊営業を行う事業者を特に除外するというものであり、本件特殊営業を行う事業者及びその派遣する接客従業者が、あたかも社会的に見て劣位に置かれているという評価・印象を与え、あるいはそれらの固定化につながりかねない効果をもたらすおそれがあることからすれば、本件各取扱いの合理性判断においては、上記の本件各給付金の趣旨及び目的を重視すべきであり、本件各取扱いが本件特殊営業の事業者及び接客従業者の社会的評価に与える影響も考慮して、合理性の有無を慎重に検討すべきであると考える。 (引用終わり) |
上記の考え方は、性産業に限らず、事業内容に着目して給付対象から除外する場合に広く妥当し得る考え方ですから、そのような仮想的な制度の合憲性を問う事案が出題された場合に、答案でそのまま用いることができます。これも、知っておいて損はないでしょう。