1.最決令7・2・26の解説の続きです。前回は、タクシー事業者の営業上の利益の保護の観点から個別事情を考慮すべきとする原審の考え方を確認したところまででした。今回は、最高裁の多数意見の立場をみていきます。
2.最高裁の多数意見は、原審の判断を是認できないとする立場から、まず、公定幅運賃制度の趣旨を示します。
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(最決令7・2・26より引用。太字強調は筆者。) 4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
(1)ア タクシー事業者は、所定の基準に適合するものとして国土交通大臣等の認可を受ける必要があるものの、原則として自ら定めた運賃でタクシー事業を行うことができるところ(道路運送法9条の3第1項、2項、附則2項)、特措法は、特定地域及び準特定地域における運賃の特例として、これらの地域に営業所を有するタクシー事業者は、公定幅運賃内で運賃を定めなければならないとしている(第8章。同特例を「公定幅運賃制度」という。)。
(引用終わり) |
判例が摘示する関係条文を確認しましょう。
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(参照条文)特定地域及び準特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法 8条 特定地域及び準特定地域において、関係地方公共団体の長、一般乗用旅客自動車運送事業者等、一般乗用旅客自動車運送事業の事業用自動車の運転者の組織する団体及び地域住民は、次条第1項に規定する特定地域計画の作成及び当該特定地域計画の実施に係る連絡調整並びに第9条第1項に規定する準特定地域計画の作成及び当該準特定地域計画の実施に係る連絡調整その他当該特定地域及び準特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化の推進に関し必要な協議を行うための協議会(以下単に「協議会」という。)を組織することができる。 (特定地域計画の認可) (認可特定地域計画に定められた事項の実施) (事業者計画の認可) 第8条の10 一の特定地域に係る全ての合意事業者が第8条の7第1項の認可を受けた場合において、当該特定地域に係る認可協議会から申出があったときは、国土交通大臣は、当該特定地域において、合意事業者以外の当該特定地域内に営業所を有する一般乗用旅客自動車運送事業者の事業活動により、当該特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化の推進が阻害されている事態が存し、かつ、このような事態を放置しては当該一般乗用旅客自動車運送事業の健全な経営を維持し、並びに輸送の安全及び利用者の利便を確保することにより、その地域公共交通としての機能を十分に発揮することに支障が生ずると認めるときは、国土交通省令の定めるところにより、当該一般乗用旅客自動車運送事業者に対し、当該特定地域に係る認可特定地域計画の内容を参酌して、営業方法の制限による一般乗用旅客自動車運送事業の供給輸送力の削減を行うよう勧告することができる。 第8条の11 一の特定地域に係る全ての合意事業者が第8条の7第1項の認可を受けた場合において、当該特定地域に係る認可協議会から申出があったときは、国土交通大臣は、当該特定地域において、次の各号のいずれかに該当する事態が存し、かつ、このような事態を放置しては当該特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の健全な経営を維持し、並びに輸送の安全及び利用者の利便を確保することにより、その地域公共交通としての機能を十分に発揮することに著しい支障が生ずると認めるときに限り、当該特定地域に係る認可特定地域計画の内容を参酌して、国土交通省令をもって、営業方法の制限による一般乗用旅客自動車運送事業の供給輸送力の削減について定め、当該特定地域内に営業所を有する一般乗用旅客自動車運送事業者の全てに対し、これに従うべきことを命ずることができる。この場合において、国土交通大臣は、その事業活動がこの条に定める事態の生じたことについて関係がないと認める一般乗用旅客自動車運送事業者については、その者に限り、当該営業方法の制限に関する命令の全部又は一部の適用を受けないものとすることができる。 (準特定地域計画) (準特定地域計画に定められた事業の実施) |
ざっくり言えば、特定地域は既に供給過剰でヤバい地域なので供給削減(適正化)に主眼が置かれ、準特定地域はまだ供給過剰が現実化していない地域なので活性化に主眼が置かれている、という感じになっています。条文を読んだだけで、そんな程度は読み取れるとよいでしょう。
そして、過度な運賃値下げ競争が行われると、上記各規定等が定める取組が阻害されるから、そうならないように、公定幅運賃制度があるのだ。それが、公定幅運賃制度の趣旨なんだ。上記判示は、そのような意味と理解できます。本件に限らず、論文式試験で、ある制度の趣旨を現場で考える際に、このような説明の仕方がある、ということを知っておくと、役に立つ場合があるでしょう。
3.その上で、公定幅運賃の指定・変更に係る判断の裁量について、以下のように判示しています。
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(最決令7・2・26より引用。太字強調は筆者。) イ.特措法16条2項は、公定幅運賃の基準として、能率的な経営を行う標準的なタクシー事業者が行うタクシー事業に係る適正な原価に適正な利潤を加えた運賃を標準とすること(1号)、特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものでないこと(2号)及び道路運送法9条6項3号に規定する一般旅客自動車運送事業者の間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること(3号)を定めているところ、これらの基準に従って公定幅運賃を指定し又は変更するに当たっては、当該特定地域又は準特定地域におけるタクシー事業に係る専門技術的な知見を踏まえた公益的見地からする判断が必要不可欠であるから、公定幅運賃の指定又は変更に係る判断は国土交通大臣等の裁量に委ねられるものと解される。 (引用終わり) |
専門技術・公益判断が必要、というのは、裁量を認める際の定番の言い回しですね。論文式試験との関係でいえば、ここはもう少し理由付けが欲しいところ。答案では、専門技術・公益判断が必要な理由をより具体的に説明した方が望ましいでしょう。例えば、タクシーの供給輸送力や輸送需要量の正確な把握は専門技術的知見がなければ難しいとか、タクシー運転者の労働条件、タクシー事業のサービス・安全性等は公益に関わる、といったことですね。また、他の要素についても指摘すべきでしょう。例えば、一方で事業者の営業の自由(憲法22条1項)を制限するものだ、という裁量を制限する要素を示しつつ、特措法16条2項1号が「適正な原価」や「適正な利潤」の具体的な算定基準を示していないこと、協議会が組織されているときにその意見聴取をすれば足りること等も指摘するのが望ましいでしょう。これらの考慮要素は頻出ですから、覚えておくべきです。当サイトの定義趣旨論証集でも、数少ないAAランクに指定しています(『司法試験定義趣旨論証集行政法【第2版】』「裁量範囲の判断に係る考慮要素」の項目を参照)。
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(参照条文)特定地域及び準特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法 (運賃の範囲の指定) |
この点に関しては、第1審である東京地決令5・2・28の判示が参考になるでしょう。
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(東京地決令5・2・28より引用。太字強調は筆者。)
特措法16条1項は、国土交通大臣は、特定地域又は準特定地域を指定した場合には、協議会の意見を聴いて公定幅運賃を指定しなければならず、これを変更しようとするときも同様とする旨を規定し、同条2項は、同条1項により指定する公定幅運賃につき、能率的な経営を行う標準的な一般乗用旅客自動車運送事業者が行う一般乗用旅客自動車運送事業に係る適正な原価に適正な利潤を加えた運賃を標準とすることや一般旅客自動車運送事業者の間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであるなどの基準に適合するものでなければならない旨を規定しているが、特措法等は、公定幅運賃に関して上記以外に具体的に規定していない。 (引用終わり) |
もっとも、上記第1審及び原審は、当該変更によるタクシー事業者への影響の程度等をも考慮すべきであるとしましたが、最高裁の多数意見は、特措法の規定からはそのような趣旨は読み取れないと言います。
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(最決令7・2・26より引用。太字強調は筆者。) しかるところ、上記アの公定幅運賃制度の趣旨に鑑みると、特措法は、特定地域又は準特定地域に営業所を有するタクシー事業者が、運賃の設定につき一定の制約を受けることを当然に予定しているものというべきであり、上記公定幅運賃の基準の内容に照らしても、同法が、国土交通大臣等に対し、公定幅運賃の指定又は変更に係る裁量権を行使するに当たり、当該地域において現にタクシー事業を営む個々のタクシー事業者の営業上の利益を保護する観点から、原審が指摘するような諸般の事情を考慮することまで求めているものとは解されない。 (引用終わり) |
「上記アの公定幅運賃制度の趣旨」を確認しましょう。
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(最決令7・2・26より引用。太字強調は筆者。)
(1)ア タクシー事業者は、所定の基準に適合するものとして国土交通大臣等の認可を受ける必要があるものの、原則として自ら定めた運賃でタクシー事業を行うことができるところ(道路運送法9条の3第1項、2項、附則2項)、特措法は、特定地域及び準特定地域における運賃の特例として、これらの地域に営業所を有するタクシー事業者は、公定幅運賃内で運賃を定めなければならないとしている(第8章。同特例を「公定幅運賃制度」という。)。
(引用終わり) |
公定幅運賃制度は、供給過剰→労働条件悪化→サービス・安全性低下という前提の下に、その解消・予防の取組が阻害されないように、運賃値下げ競争を一時的に制限する趣旨の制度である。換言すれば、労働条件悪化やサービス・安全性低下のためであれば、運賃設定の自由を制約することも正当化される、という理解の下に立法されたのだから、タクシー事業者の運賃設定の自由が制約されるのは当然だよね。公定幅運賃制度がタクシー事業者の営業の自由を侵害して憲法22条1項に反する、というならともかく、同制度が合憲であることを前提にする限り、「タクシー事業者の営業の自由を制約するような公定幅運賃は設定できない。」という命題は成立しない。上記判示中の「上記アの公定幅運賃制度の趣旨に鑑みると、特措法は、特定地域又は準特定地域に営業所を有するタクシー事業者が、運賃の設定につき一定の制約を受けることを当然に予定している」とは、概ねそういうことです。
次に、「上記公定幅運賃の基準の内容に照らしても」という部分を確認しましょう。特措法の定める公定幅運賃の基準とは、同法16条2項が定めているのでした。
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(参照条文)特定地域及び準特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法 (運賃の範囲の指定) |
標準とするのは、能率的な経営を行う「標準的な」一般乗用旅客自動車運送事業者が行う一般乗用旅客自動車運送事業に係る適正な原価に適正な利潤を加えた運賃ですから、変更によって特に不利益を受ける例外的な事業者のことは考えなくてよい、と読むのが素直だよね。これが、上記判示中の「上記公定幅運賃の基準の内容に照らしても、同法が、国土交通大臣等に対し、公定幅運賃の指定又は変更に係る裁量権を行使するに当たり、当該地域において現にタクシー事業を営む個々のタクシー事業者の営業上の利益を保護する観点から、原審が指摘するような諸般の事情を考慮することまで求めているものとは解されない。」の部分の大雑把な意味です。本試験でいきなり出題されたとしても、最低限、このような文言に着目して結論を導くことができるようになりたいものです。
4.さらに、多数意見は、以下のように判示します。
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(最決令7・2・26より引用。太字強調は筆者。) そして、本件総括原価方式は、前記のとおり、当該地域に営業所を有する能率的な経営を行う標準的なタクシー事業者の中から抽出した原価計算対象事業者のタクシー事業に係る費用及び適正な利潤を算出し、これと運送収入が相償う運賃水準を基本として公定幅運賃を定めるものである。このような公定幅運賃の設定方法は、当該地域に営業所を有するタクシー事業者一般の営業上の利益を踏まえたものであり、特措法16条2項各号の規定に照らし、不合理なものとはいえないというべきである。 (引用終わり) |
本件総括原価方式というのは、本件における裁量基準(審査基準)として定められていたもののことでした。
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(最決令7・2・26より引用。太字強調は筆者。) (4)ア.関東運輸局長は、「公定幅運賃の範囲の指定方法等について」(平成26年1月27日付け関東運輸局長公示)において、特定地域又は準特定地域における公定幅運賃の設定方法を、概要、次のとおり定めている(以下、この設定方法を「本件総括原価方式」という。)。 (ア) 公定幅運賃の上限は、当該地域に営業所を有するタクシー事業者のうち、小規模事業者、事故を多発している事業者、実働率の低い事業者等を除外して選定した「能率的な経営を行う標準的な一般乗用旅客自動車運送事業者」の中から、所定の基準に従い抽出したタクシー事業者(以下「原価計算対象事業者」という。)のタクシー事業に係る費用及び適正な利潤を算出し、これと同事業に係る運送収入が相償う運賃水準とする。 (イ) 公定幅運賃の下限は、原価計算対象事業者が特に効率的な経営を行った場合に収支が相償う運賃水準とするとの考え方に基づき、基本的には上記(ア)と同様の方法により算定するが、上記のタクシー事業に係る費用の算出に当たり、燃料油脂費、車両償却費、役員報酬等の特定の費用項目については、各原価計算対象事業者が要した費用のうち、最も低い水準のものを用いる。 イ.関東運輸局長は、本件総括原価方式により、本件公定幅運賃を定めたものであるところ、その計算過程に明らかな過誤又は欠落があるとは認められない。 (引用終わり) |
なので、受験対策上は、上記判示は「裁量基準(審査基準)の合理性」に相当するものと理解できるでしょう(『司法試験定義趣旨論証集行政法【第2版】』「異なる取扱いをすべき特段の事情の判断基準」の項目を参照)。
ここで注意すべきは、「当該地域に営業所を有するタクシー事業者『一般の』営業上の利益を踏まえたものであり」と判示している点です。前の判示で、特に不利益を受ける例外的な事業者のことなんて考えなくていい、という前提に立っているので、ここでは、タクシー事業者「一般の」営業の利益さえ踏まえていればオッケー、となっているのでした。
5.以上のとおり、裁量基準(審査基準)は不合理とはいえないし、個別事情を考慮して裁量基準(審査基準)と異なる取扱いをすべき場合でもない。となれば、裁量基準(審査基準)をそのまま適用して何の問題もない。適法だ、という結論になるでしょう。多数意見も、そのように結論付けています。
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(最決令7・2・26より引用。太字強調は筆者。) (2) 関東運輸局長は、本件変更において、本件総括原価方式により本件公定幅運賃を定めたものであるところ、上記(1)で述べたところに照らせば、これを超えて、原審が指摘するような諸般の事情を考慮しなければならないものということはできない。 (引用終わり) |
以上が、多数意見の論理でした。次回は、宇賀克也反対意見についてみていきます。