組合員らの威力妨害行為に係る執行委員長の共謀の成否
(最決令7・1・27)

1.当サイトでは、従来、年ごとに、Kindle用の電子書籍として、「最新判例ノート」を公開してきました(当サイト作成の電子書籍一覧)。今年からは、これに代えて、ウェブサイトに解説を掲載することとしました。

2.今回は、最決令7・1・27を取り上げます。労働組合の活動に参加した組合員らが行った威力業務妨害行為(輸送業務を停止させるための手段として、輸送車両の前面に立ちはだかるなどの行為)について、労働組合の執行委員長に共謀が成立するかが問題となった事案に関するものです。最高裁は、以下のように判示して、共謀の成立を認めました。

(最決令7・1・27より引用。太字強調は筆者。)

 所論に鑑み、第1審判決判示第2ないし第5の各威力業務妨害行為(以下「本件各行為」という。)に係る共謀の成否について、職権で判断する。
 原判決が是認する第1審判決の認定及び記録によれば、本件各行為は、被告人が執行委員長であったA労働組合B支部(以下「B支部」という。)が、バラセメント等の輸送運賃を引き上げることにより輸送業務に従事する運転手らの労働条件の改善を図るとの目的の下、近畿地方におけるバラセメント等の輸送業者の輸送業務を一斉に停止させること等を意図して、多数の組合員を動員して組織的に行った活動(以下「本件活動」という。)の一環であるところ、本件活動前の時点で、それまで連携関係にあった他の労働組合の一部が本件活動に参加しない方針であり、また、輸送業者の中には本件活動に非協力的で輸送業務を停止しないものがあるなどの事情が判明していたこと、B支部内の下部組織の会議においては、「意思統一」と称して、上記のような関係者の動向が共有された上でなお全ての輸送業務を停止させるという執行部の方針が徹底され、特に非協力的な輸送業者が出入りするサービスステーションにおける輸送車両の排除の重要性が強調されていたこと、被告人は、本件活動後、本件活動に参加した組合員らをねぎらったこと等が認められる。
 以上のような本件活動をめぐる関係者の動向やこれを踏まえたB支部内の対応、被告人の言動等に鑑みれば、本件活動に当たり、輸送業務を停止させるための手段として、輸送車両の前面に立ちはだかるなど本件各行為のような違法な実力行使を伴う行為に及ぶことがあり得ること等について、被告人もこれを認識して認容し、共犯者らもこれを承知していたものと認められ、被告人と共犯者らとの間には本件各行為につき意思の連絡があり、被告人が共犯者らを通じてこれらを実行したものと評価することができる。したがって、被告人には本件各行為について共犯者らとの間に共謀が成立するとした第1審判決を維持した原判断の結論は是認できる。

(引用終わり)

 典型的な事例判断なので、覚えたりするようなものではありません。論文式試験での当てはめの参考、という感じですね。受験対策上は、3つの点に留意が必要です。

(1)1つは、共同正犯の成立要件との関係です。かつては、共謀共同正犯否定説が学説上多数であったこともあって、実行共同正犯と共謀共同正犯とで、成立要件を分けて説明するのが主流でした。共謀共同正犯は特殊・例外的なものなので、特別な要件が必要だ、という発想ですね。しかし、実務は昔から両者を分けない立場でしたし、現在では、学説も共謀共同正犯を特別視しない立場が主流になっているので、受験対策上も、両者を敢えて分ける必要はないでしょう。「共同正犯の成立要件」として、一般化して覚えてしまえばよい。その際に、共謀、正犯意思、基づく実行の3要件とするか、共謀、基づく実行の2要件とするか、という問題があります。純粋に理論の面から考えると、共謀と正犯意思は、関与者の正犯性を基礎付ける要素として分かちがたいところがあり、全く別個の要件とするのは変だよね、ということがいえます。すなわち、「共謀とは、犯罪の『共同』遂行の合意をいうのであって、『共同』遂行という以上は正犯と評価するに足りるような意思連絡でなければならないんだ。」と考えるとするなら、「共謀がある。」と認定するときは、「正犯と評価するに足りる」との評価が伴ってくるのであって、「共謀はあるが正犯意思がない。」なんてことはあり得ないともいえる。すなわち、共謀には、正犯意思の要素が既に含まれているというわけです。これを純粋に別個独立のものとして、「共謀はあるか。」、「正犯意思はあるか。」と順に検討するのは、理論的とはいえないのではないか。このような考え方には一理あり、学説でもそのように説明するものが多数とみえます。しかし、答案で書く、ということになると、少し別の観点が必要になる。上記のとおり、2要件で整理する要諦は、意思連絡ないし正犯意思を分離せず一体的に検討することにあるので、当てはめをするに当たっては、両者の相関関係を踏まえた上で、まとめて検討しなければなりません(※)。これは、なかなかに難易度の高いことです。うっかりすると、意思連絡の部分だけ書いて、多くの人が書く正犯意思の要素を落としてしまいかねない。平成24年司法試験の出題趣旨でも、「いわゆる共謀共同正犯の成否が問題となるが、検討を行う際には、問題文中に現れている具体的な事実を丁寧に拾い上げて、共謀の成否(特に犯罪を行う意思の相互認識、相互利用補充意思)及び乙の正犯性を論じる必要がある。」と指摘されていて、共謀と正犯性(正犯意思)を区別しています。そうしたこともあって、当サイトの定義趣旨論証集では、共謀、正犯意思、基づく実行の3要件とする立場を採用しているのでした(当サイト作成の『司法試験定義趣旨論証集刑法総論【第2版】』「「共同して犯罪を実行」(60条)の意義(共同正犯の成立要件)」の項目を参照。なお、 「共謀に基づく実行」の要件について」の記事も参照)。この立場からは、共謀の検討では意思連絡の要素を中心に摘示し、正犯意思では、意思連絡以外の要素を中心に摘示する。分離しがたい要素については、両者に重複する要素としてそれぞれの要件で摘示することもあり得る、ということになります。その観点で上記判示をみると、「被告人が共犯者らを通じてこれらを実行したものと評価することができる。」の部分は、共謀の要素として摘示されているものの、3要件の整理からは、正犯意思(正犯性)に対応するものだ、ということが分かるでしょう。
 ※ 「共謀・基づく実行」の2要件と整理しつつ、「共謀は①意思連絡、及び、②正犯意思です。」と説明するものがあります。しかし、このように意思連絡と正犯意思を別個独立のものとして検討するのでは、両者を分かちがたいがゆえに2要件に整理した意味がありません。2要件で整理する意味を理解していない、と思われても仕方がないでしょう。

(2)もう1つは、「意思の連絡があり、被告人が共犯者らを通じてこれらを実行したものと評価することができる。」との評価を基礎付ける事実として、「被告人もこれを認識して認容し、共犯者らもこれを承知していた」ことのみを摘示している点です。これは、共謀について主観面を重視する立場(主観的謀議説)と親和的です。もっとも、練馬事件大法廷判決とスワット事件決定を対照すれば、背後者が現場にいない類型の共謀共同正犯については、客観的な謀議に参加していることを認定すべきであるとの立場も成立し得るところです(『司法試験定義趣旨論証集刑法総論【第2版】』「共謀は黙示で足りるか」の項目も参照)。

(練馬事件大法廷判決より引用。太字強調は筆者。)

 共謀共同正犯が成立するには、二人以上の者が、特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となつで互に他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をなし、よつて犯罪を実行した事実が認められなければならない。したがつて右のような関係において共謀に参加した事実が認められる以上、直接実行行為に関与しない者でも、他人の行為をいわば自己の手段として犯罪を行つたという意味において、その間刑責の成立に差異を生ずると解すべき理由はない。さればこの関係において実行行為に直接関与したかどうか、その分担または役割のいかんは右共犯の刑責じたいの成立を左右するものではないと解するを相当とする。他面ここにいう「共謀」または「謀議」は、共謀共同正犯における「罪となるべき事実」にほかならないから、これを認めるためには厳格な証明によらなければならないこというまでもない。しかし「共謀」の事実が厳格な証明によつて認められ、その証拠が判決に挙示されている以上、共謀の判示は、前示の趣旨において成立したことが明らかにされれば足り、さらに進んで、謀議の行われた日時、場所またはその内容の詳細、すなわち実行の方法、各人の行為の分担役割等についていちいち具体的に判示することを要するものではない。

(引用終わり)

(スワット事件決定における深澤武久補足意見より引用。太字強調及び※注は筆者。)

 本件は、被告人を組長とするA組の組員3100名余の中から被告人の警護のために選ばれた精鋭の者が、けん銃等を所持して被告人を警護するために行われたものであって、被告人はA組の組長としてこれら実行行為者に対し圧倒的に優位な支配的立場にあり、実行行為者はその強い影響の下に犯行に至ったものであり、被告人は、その結果、自己の身辺の安全が確保されるという直接的な利益を得ていたものである。
 本件犯行について、具体的な日時、場所を特定した謀議行為を認めることはできないが、組長を警護するために、けん銃等を所持するという犯罪行為を共同して実行する意思は、組織の中で徐々に醸成され、本件犯行当時は、被告人も警護の対象者として、実行行為者らが被告人警護のために、けん銃等を携行していることを概括的にではあるが確定的に認識して犯行場所ないしその付近に臨んでいたものである。
 被告人と実行行為者間に、上記のような関係がある場合、具体的な謀議行為が認められないとしても、犯罪を共同して遂行することについての合意が認められ、一部の者において実行行為が行われたときは、実行行為に直接関与しなかった被告人についても、他人の行為を自己の手段として犯罪を行ったものとして、そこに正犯意思が認められる本件のような場合には、共謀共同正犯が成立するというべきである。
 所論引用の最高裁判所昭和29年(あ)第1056号同33年5月28日大法廷判決・刑集12巻8号1718頁(※注:練馬事件大法廷判決を指す。)は、犯罪の謀議にのみ参加し、実行行為の現場に赴かなかった者の共同正犯性を判示したものであって、被告人を警護するため、その身辺で組員がけん銃を所持していた本件とは、事案を異にするものである。

(引用終わり)

 この立場からは、被告人が執行委員長として参加した具体的な謀議行為(執行部の意思決定に係る会合での言動等)についての判示があってもよかったのではないか、という疑問を呈する余地がありそうです。論文式試験では、背後者が現場にいない類型の共謀共同正犯の場合は、この点を意識した当てはめをすることが望ましいでしょう。

(3)最後に、共謀成立後の事情を使う際の書き方です。共謀の成立を基礎付ける事実は、共謀が成立する時に存在しなければなりません。なので、犯罪終了後の事情が共謀の成否を直接基礎付けることはない。ところが、上記判示では、「被告人は、本件活動後、本件活動に参加した組合員らをねぎらった」こと、すなわち、犯罪終了後の事情をも考慮しています。冒頭の判旨を読んだときに、ここで「あれっ」と思ったなら、よい感覚です。これは、共謀成立時の事実を推認させる間接事実として考慮されているのです。すなわち、「事後に参加者をねぎらったという事実があるのだから、共謀成立時において意思連絡等があったのだろう。」、「事後に参加者をねぎらったということは、共謀成立時において主導的立場にあったのだろう。」という推認過程が想定されている、ということですね。答案で当てはめをする際に、共謀成立時以降の事実を摘示する際には、その推認過程を明確にするのが望ましいでしょう。

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