非監護者による監護者性交等罪への加功(2)
(最決令7・1・27)

1.最決令7・1・27に関する解説記事の続きです。判旨を確認しておきましょう。

(最決令7・1・27より引用。太字強調は筆者。)

 18歳未満の者を現に監護する者(以下「監護者」という。)の身分のない者が、監護者と共謀して、監護者であることによる影響力があることに乗じて当該18歳未満の者に対し性交等をした場合、監護者の身分のない者には刑法65条1項の適用により監護者性交等罪(令和5年法律第66号による改正前の刑法179条2項)の共同正犯が成立すると解するのが相当である。被告人は、当時16歳であった本件児童の監護者ではないが、監護者である同児童の実母と意思を通じ、被告人との性交に応じるよう同実母から説得等された同児童と性交をしたというのであるから、被告人に監護者性交等罪の共同正犯が成立することは明らかである。

(引用終わり)

 身分の意義・65条1項と共同正犯に関する従来の判例法理などをそのまま書いて当てはめれば、上記の結論に至る。短答対策だけでなく、論文対策としても、基本的にはそれで十分だろう。前回は、そんな話をしました(「非監護者による監護者性交等罪への加功(1)(最決令7・1・27)」)。今回は、近時の論文式試験の傾向を踏まえた、より突っ込んだ理論的な話です。

2.近時の論文式試験の傾向として、反対の見解などを想定させて、理論的な側面からの説明を求めてくることがあります。現在のところ、このような設問には上位者でも的確に答えることができていません。また、長々と答えようとすると、より配点の高い事実摘示・評価が薄くなるので、かえって評価を落としがち。触れるとしても簡潔に済ますのが、ベストな対応です。仮にそのような設問として問われた場合、簡潔に指摘すべきは、以下の2つの点です。

3.1つは、実行正犯者が非身分者である、ということです。これを理解するために、以下の事例を考えましょう。

【事例】

 甲は、V(当時16歳)の監護者である。甲は、Vの監護者でない乙と共謀の上、自ら監護者であることによる影響力があることに乗じてVと性交した。乙は、計画を主導するなど、重要な役割を果たしていた。

 この場合には、甲が監護者で、自ら監護者であることによる影響力があることに乗じてVと性交しているので、甲に監護者性交等罪が成立することは明らか。そして、乙は監護者ではないけれども、監護者の身分を有する甲の行為を利用して法益を侵害しているといえることが明らかなので、65条1項の適用によって乙に(共謀)共同正犯が成立することの説明が容易です。

(最決昭40・3・30より引用。太字強調は筆者。)

 強姦罪(※注:現在の不同意性交等罪に相当するが、当時は被害者を「婦女」と規定しており、解釈上、主体は男性に限られるものとされていた。)は、その行為の主体が男性に限られるから、刑法65条1項にいわゆる犯人の身分に因り構成すべき犯罪に該当するものであるが、身分のない者も、身分のある者の行為を利用することによつて、強姦罪の保護法益を侵害することができるから、身分のない者が、身分のある者と共謀して、その犯罪行為に加功すれば、同法65条1項により、強姦罪の共同正犯が成立すると解すべきである。

(引用終わり)

 しかしながら、本判例の事案は、そうではない。再掲しましょう。

【事例】

 甲は、V(当時16歳)の監護者ではないが、監護者であるVの実母乙と意思を通じ、乙から甲との性交に応じるよう説得されたVと性交した。

 身分者である乙は、直接には何もしていない。そうすると、「非身分者である甲が、身分者である乙の行為を利用して法益を侵害している。」とはいえないのではないか。ちなみに、「現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて」の文言は、監護者による具体的な利用行為を要しないという趣旨を表しています。

(参照条文)刑法

(監護者わいせつ及び監護者性交等)
179条 (略)
2 18歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交等をした者は、第177条第1項の例による。

(法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会第7回会議議事録より引用。太字強調は筆者。)

加藤俊治(法務省刑事局刑事法制管理官)幹事
 第5回の会議において,事務当局から要綱(骨子)第三の罪の「影響力を利用して」という文言の意義につき,「18歳未満の者に対する監護者の影響力が一般的に存在し,かつ,その影響力が遮断されていない状況で,性交等を行ったことをいう」旨の考え方を説明いたしましたところ,複数の委員から,「影響力を利用して」という表現では,被害者に向けられた具体的な利用行為が必要であるようにも読めるため,文言を工夫した方がよいのではないかとの御指摘を頂いていました。
 そこで,事務当局において検討しましたところ,要綱(骨子)修正案第三のとおり,「現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて」と修正するのが適切であると考えるに至ったものです。

(引用終わり)

 そうすると、65条1項と共同正犯に関する判例法理は、その射程が及ばないことになってしまわないか。このような問題意識が生じる、ということですね。これに対しては、厳密には「乙の行為」を利用してはいないけれども、「乙の監護者としての影響力」を利用して性交に至り、Vの性的自由という法益を侵害したといえるから、なお判例の理由付けは妥当するんだ、とでも書いておけば、論文式試験の答案としては十分過ぎるくらいでしょう。

4.もう1つは、「監護者の身分を有するものが性交等をした」というような単純な構成要件の定め方にはなっていない、ということです。改めて構成要件を確認しましょう。

(参照条文)刑法

(監護者わいせつ及び監護者性交等)
179条 (略)
2 18歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交等をした者は、第177条第1項の例による。

 「現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交等をした者」という文言からは、「現に監護する者」と「性交等をした者」は同一人物であると読むのが自然です。すなわち、同罪の構成要件該当行為とは、「自分が監護者であることによる影響力に乗じて性交等をする」ということではないか。そうすると、監護者の地位が身分であったとしても、監護者でない甲は、「現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交等をした」とはいえず、構成要件に該当する行為を行っていない。65条1項の適用以前に、誰も構成要件該当行為をしていない以上、共同正犯になり得ないのではないか。こうした問題が生じるということです(※)。
 ※ より理論的な説明として、同罪の保護法益を性的自己決定だけでなく、児童の性的な健全育成にもあると捉え、「監護者と児童との関係を性的関係に転化させない」ことに主眼を置いて、そこから監護者自身が性交等をした場合に限るなどとする深町晋也説があります(深町晋也「家庭内における児童に対する性的虐待の刑法的規律--監護者性交等・わいせつ罪(刑法179条)を中心に--」立教法学第97号(2018年)108~110頁)。

 これに対しては、179条は、監護者の影響力がある場合には類型的に被害者は自由な意思決定ができない状態であることから、そのような場合には176条1項の事由がなくても、誰かと性交等をすれば被害者の性的自由は侵害されたといえる。なので、不同意性交等罪と同様に処罰すべきである。このような考え方に基づいて新設された規定なのだから、「現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて」とは、被害者が監護者の影響力によって自由な意思決定ができない状態にあることを意味する要件にとどまり、監護者自ら性交等をする意味を含んでいない。したがって、非監護者が性交等をした場合にも監護者性交等罪が成立するのだ、という反論が可能です。

(法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会第5回会議議事録より引用。太字強調及び※注は筆者。)

中村功一(法務省刑事局刑事法制企画官)幹事
 一般に,18歳未満の者は,精神的に未熟である上,生活全般にわたって自己を監督し保護している監護者に,精神的・経済的に依存しております。そのような依存・被依存ないし保護・被保護の関係にある監護者の影響力がある状況下で性交等が行われた場合,18歳未満の者が監護者との性交等に応じたとしても,その意思決定は,そもそも精神的に未熟で判断能力に乏しい18歳未満の者に対して監護者の影響力が作用してなされたものであって,自由な意思決定ということはできないものと考えられます。
 したがいまして,監護者がその影響力を利用して,18歳未満の者と性交等をすることは,強姦罪や強制わいせつ罪などと同じく,18歳未満の者の性的自由ないし性的自己決定権を侵害するものであるということができ,強姦罪などと同等の悪質性・当罰性が認められると考えたものです。
 そして,このようなことから,要綱(骨子)第三の罪は要綱(骨子)第一の罪(※注:不同意性交等罪を指す。)や強制わいせつ罪と同じ法定刑としているものです。

(引用終わり)

 答案では、「現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて」の文言から監護者が性交等を行うことが予定されているのではないか、と問題提起ないし反対の見解の提示を行った上で、その文言は被害者が監護者の影響力によって自由な意思決定ができない状態にあることを意味する要件にとどまり、監護者自ら性交等をする意味を含んでいないと考えられるのだ、と簡潔に言い放てば足ります。予備知識なく、現場で考えてこれに気が付く人なんてほとんどいないでしょうから、これだけでも十分に評価されるでしょう。

5.司法試験で通常は検討する必要のない問題として、児童福祉法34条1項6号、60条1項の児童淫行罪が成立するので監護者性交等としての処罰は予定されていないとか、監護者の地位は児童淫行罪との関係で不真正(加減的)身分だから65条2項を適用すべきだ、というものがあります。

(参照条文)児童福祉法
34条 何人も、次に掲げる行為をしてはならない。
 一~五 (略)
 六 児童に淫行をさせる行為
 七~九 (略)
2 (略)

60条 第34条第1項第6号の規定に違反したときは、当該違反行為をした者は、10年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
2~5 (略)

 論文式試験では、通常、特別法は考慮しないので、この点が問われることはないでしょう。万が一問われたとしても、児童の健全育成と性的自由で保護法益が違うだろ、と言い放って、簡単に否定すれば十分です。これを問う場合には、問題文に参照条文として上記に引用した児童福祉法の規定が記載されるはずなので、それで問われているかを判断することができます。

6.以上のように説明してきましたが、正直なところ、論文式試験での出題可能性は、それほど高くないと思っています。というのも、現行の(新)司法試験になって以降、司法試験・予備試験のいずれでも、論文では性犯罪は問われていないからです。当サイトは、それには理由があると思っています。ドイツの実情に関する以下の論考を読むと、理解できるでしょう。

(井田良「ドイツにおけるセクシャル・ハラスメント罪の新設について」比較法雑誌第53巻第1号(2019年)2、3頁より引用。太字強調は筆者。)

 ドイツでは,この領域における刑法的規制のことを指して性刑法(Sexualstrafrecht)と呼ぶのが普通である。そして,ドイツの法学部教育について見ると,性刑法は,事実上,教育対象から除外されていると言えよう。定評のある(相当に詳細な)刑法各論の教科書を見ても,性犯罪に関する説明は含まれておらず,司法試験(第1次法律学国家試験)はもちろん,法学部で行われる筆記試験等でも性犯罪の事例が出題されることはないとされる。それは,学生の中に含まれている被害者が被害体験を想起してショックを受けることを避けるためなのである。このことは,ドイツにおいて性犯罪の被害が広がっているという実態にも関係するであろうが,何よりそれだけ被害者への配慮が徹底していることを意味するものであろう。

(引用終わり)

 もちろん、日本では、ここまで徹底されているわけではありません。短答式試験では、直近でも普通に性犯罪が出題されています。

(令和6年司法試験短答式試験刑法第13問)

 次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合、正しいものを2個選びなさい。(解答欄は、[No.24]、[No.25]順不同)

1.甲は、繁華街の通行人の面前で酒に酔い潰れて同意しない意思を表明することが困難な状態となっているAの衣類を剝ぎ取り全裸にした。この場合、甲に不同意わいせつ罪が成立するが、公然わいせつ罪は成立しない。

2.甲は、人通りの多い路上で自己の性器を露出させたが、通行人は誰もそれに気付かなかった。この場合、甲に公然わいせつ罪は成立しない。

3.甲は、わいせつな動画が収録されたDVDのレンタル業者乙に対し、同DVDを借りたい旨申し込み、乙から同DVDを借り受けた。この場合、甲にわいせつ電磁的記録記録媒体頒布罪の教唆犯は成立しない。

4.動画配信サイトを運営していた甲は、同サイト上でわいせつな動画を不特定多数の者に閲覧させて利益を得ようと考え、わいせつな動画の投稿者を広く勧誘し、その勧誘を受けた乙が同サイトにわいせつな動画を投稿して不特定多数の者が認識できる状態にした。この場合、上記サイトを運営していた甲は、わいせつな動画を自ら投稿しておらず、甲にわいせつ電磁的記録記録媒体陳列罪の共同正犯が成立することはない。

5.甲は、インターネットを介した不特定多数の者に対するわいせつな動画の販売業を始めたが、その購入を申し込んできた客は一人のみであった。甲は、その客のパーソナルコンピュータに対し、インターネットを介してわいせつな動画データを送信し、同コンピュータに同データを受信させて保存させた。この場合、甲にわいせつ電磁的記録等送信頒布罪が成立する。

 短答対策という観点から、令和5年改正に関しては、法務省が公表している資料に記載された程度の知識は、知っておいてもよいと思います。なお、同改正のうち、性的姿態撮影等処罰法に関する部分は、特別法なので知らなくても問題ないでしょう。
 上記のように短答で出ていることを考えると、論文でも出題される可能性がないとはいえません。とはいえ、性犯罪について詳細な事実に基づいて当てはめさせるような問題は、やっぱり出しにくいんじゃないか。当サイトは、そう思っています。

7.受験対策としては、以上の点を理解しておけば十分過ぎるくらいです。判例評釈等を読むと、これを超えるレベルの話がたくさん書いてあるでしょう。興味がある人は、趣味と割り切って読めばよいと思います。ネットですぐ読めるものとして、松宮孝明「監護者でない者が監護者と共謀して被監護者と性交した場合の監護者性交等罪の成否」立命館法学414号(2024年)、前田雅英「監護者と非監護者による刑法179条の共同正犯~最高裁第一小法廷令和7年1月27日決定~」《WLJ 判例コラム 臨時号》第339号(2025年)、平山幹子「非監護者による性交と監護者性交等罪の共同正犯」新・判例解説 Watch 刑法 No.217(2025年)があります。ちなみに、重判では、既に令和6年版に収録されています。

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