非監護者による監護者性交等罪への加功(1)
(最決令7・1・27)

1.当サイトでは、従来、年ごとに、Kindle用の電子書籍として、「最新判例ノート」を公開してきました(当サイト作成の電子書籍一覧)。今年からは、これに代えて、ウェブサイトに解説を掲載することとしました。

2.今回は刑法の話。以下の事例を考えてみましょう。

【事例】

 甲は、V(当時16歳)の監護者ではないが、監護者であるVの実母乙と意思を通じ、乙から甲との性交に応じるよう説得されたVと性交した。

 このような事例では、まず、性交を行った甲について、不同意性交等罪(177条)が成立するかを考えるのが筋です。甲について同罪が成立すれば、乙が同罪の(共謀)共同正犯となるかを検討すればよい。同罪は、令和5年法律第66号による改正(令和5年7月13日施行)によって、構成要件の規定ぶりが大きく変わったのでした。ついでに言っておくと、懲役・禁錮に代えて拘禁刑とする改正(令和4年法律第67号)は、昨年(令和7年)の6月1日に施行されたので、今年の司法試験から適用対象となります。

(参照条文)刑法

(不同意わいせつ)
176条 次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、6月以上10年以下の拘禁刑に処する。
 一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
 二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
 三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
 四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
 五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
 六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕がくさせること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
 七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
 八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
2、3 (略)

(不同意性交等)
177条 前条第1項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交、肛門性交、口腔性交又は膣若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(以下この条及び第179条第2項において「性交等」という。)をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、5年以上の有期拘禁刑に処する。
2 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、性交等をした者も、前項と同様とする。
3 16歳未満の者に対し、性交等をした者(当該16歳未満の者が13歳以上である場合については、その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第1項と同様とする。

 Vは、監護者である実母乙の影響力によって受ける不利益を憂慮して性交に応じたのではないか、と考えれば、176条1項8号又はそれに類する事由がある、ともいえそうです。論文式試験で出題された場合には、具体的な事実が問題文に記載されているので、それを基礎に検討することになるでしょう。ここでは、それらの事由には当たらないことを前提とします。次に、177条2項を見ると、人違いはないので、これに当たらないことは明らか。3項についても、16歳は、「16歳未満」ではないので、これに当たらない。甲について、不同意性交等罪は成立しないことが分かりました。

3.そこで、問題となるのが、監護者性交等罪(179条2項)です(※)。構成要件を確認しておきましょう。
 ※ 実体法上、不同意性交等罪が成立するときは監護者性交等罪は成立しないが、訴訟法上、監護者性交等罪で公判請求された場合には、不同意性交等罪の成立を主張・立証して監護者性交等罪の成立を免れることはできないとされています(浅沼雄介ほか「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律について」法曹時報76巻1号(2024年)82、83、103、104頁)。刑法の問題として出題された場合は、実体法の観点から、まず不同意性交等罪を検討し、これが成立しない場合に、監護者性交等罪を検討するという順序になります。

(参照条文)刑法

(監護者わいせつ及び監護者性交等)
179条 (略)
2 18歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交等をした者は、第177条第1項の例による。
 ※注:「第177条第1項の例による」とは、177条1項の「5年以上の有期拘禁刑に処する。」に対応する。

 Vは16歳なので、「18歳未満の者」は問題ない。性交をした甲は、「性交等をした者」とはいえるだろう。でも、「監護する者であることによる影響力があることに乗じて」といえるかというと、監護者でない甲は、「監護する者であることによる影響力がある」とはいえないでしょうから、これに当たらない。他方で、乙はどうかというと、Vの実母として監護者の地位にあるので、「監護する者であることによる影響力がある」とはいえそうですが、「性交等をした者」ではない。いずれも、単独犯としては監護者性交等罪の構成要件を満たさないことが分かりました。
 では、両者を合わせて共同正犯にすればいけるのか。監護者の地位を真正(構成的)身分と考え、65条1項が共同正犯にも適用されると単純に考えるなら、非身分者である甲も身分者である乙とともに共同正犯になる、と考えることができそうです。今回紹介する最決令7・1・27は、そのように考えたのでした。

(最決令7・1・27より引用。太字強調は筆者。)

 18歳未満の者を現に監護する者(以下「監護者」という。)の身分のない者が、監護者と共謀して、監護者であることによる影響力があることに乗じて当該18歳未満の者に対し性交等をした場合、監護者の身分のない者には刑法65条1項の適用により監護者性交等罪(令和5年法律第66号による改正前の刑法179条2項)の共同正犯が成立すると解するのが相当である。被告人は、当時16歳であった本件児童の監護者ではないが、監護者である同児童の実母と意思を通じ、被告人との性交に応じるよう同実母から説得等された同児童と性交をしたというのであるから、被告人に監護者性交等罪の共同正犯が成立することは明らかである。

(引用終わり)

 これは、立案担当者の立場でもあります(松田哲也=今井將人「刑法の一部を改正する法律について」法曹時報69巻11号(2017年)250頁)。短答対策としては、これで肢を切れれば十分です。

4.論文対策としても、基本的には、上記の判例にそのまま依拠しておけば、普通に合格レベルでしょう。答案では、身分の意義を書いて監護者の地位が身分に当たることを書き、65条1項と2項の関係、共同正犯にも同条1項が適用されるか、という例の論証(『司法試験定義趣旨論証集刑法総論【第2版】』「「身分」(65条)の意義」、「65条1項2項の関係(共犯と身分)」、「共同正犯に65条の適用があるか」の各項目を参照)を書いて、普通に当てはめれば終わりです。論文で合否を分けるのは、ここの理論的な説明ではなく、乙の監護者該当性、甲乙の共謀、正犯意思、「現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて」等の部分について、どれだけ問題文の事実を摘示して当てはめができるかでしょう。本判例の立場を支持する評釈等でも、これらの要件を慎重に吟味することにより、処罰範囲を妥当なものとすべき旨の指摘がされています。

5.もっとも、学説は、単純に65条1項を適用することに批判的です。受験対策としては、論文式試験でその点を問う設問が出たときの対応という意味において、考えておく必要がある。その点については、次回説明します。

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