令和7年予備試験論文式刑事実務基礎参考答案

【答案のコンセプト等について】

1.近年の刑事実務基礎は、民事と同様に、規範→当てはめの連続で処理できる事例処理型ではなく、多数の設問を一問一答式で問うような形式になっています。そのうちの一部が事実認定問題となっており、そこに高い配点があるというのが、再現答案等から読み取れる経験則です。それを意識して、手続系の問題はコンパクトにまとめるのがセオリーになっています。来年以降、CBT実施となることに伴い、1行30文字、1頁23行、4頁という制限が厳格になる見通しで、これまでのように、字を小さくしたり、1行に無理やり2行分を書き込む、ということはできなくなりそうです。句読点、数字、アルファベット、括弧等もすべて全角でしか入力できないようであり、想像よりも文字数制限は厳しくなるでしょう。参考答案では、このような点を踏まえ、無駄のない端的な解答を心掛けました。

2.刑事実務基礎も、民事実務基礎ほどではありませんが、近年、難易度が高めになっています。それに伴って、民事と同様、ボロボロの答案なのにA評価、ということが、普通に起こるでしょう。「自分はこう書いてA評価だった。だからこれで正解だ。」などという言説には、注意を要します。昨年はその傾向が顕著で、設問1(1)を逮捕に伴う無令状の検証・押収で書いてもA評価になった答案が普通にありました(「「逮捕に伴う」は無理(令和6年予備試験刑事実務基礎)」)。また、設問3では、ほとんどの人が、相反供述であるとして相対的特信情況を書き、予備校等も、それが正解であるかのように解説しています。ところが、これは供述不能が正解だったのでした(「供述不能と相反供述の区別(令和6年予備試験刑事実務基礎)」)。今年も、難易度がそれなりに高く、上位者でもボロボロの答案が続出するでしょう。「上位者がこれを書いたからこれが正解だろう。」ということで、安易な解説が出回るおそれがあり、注意を要します。
 今年の問題は、全体的に何をどの程度答えていいかが分かりにくく、それが難易度をさらに上げています。配点が明示されていればヒントになるのですが、それもない。実戦的には、多くの人が厚く書いてきそうな部分をきちんと拾っていったか、というところで、合否が分かれそうです。その観点でいうと、設問2が最も合否を分けそうです。全般的に、「~した理由」を問う設問が多く、無駄のない書き方を決めておきたい。1文で解答できる場合は、「~からである。」と書けばコンパクトで問題ありません。問題は、複数の文章になる場合で、「以上の理由により、~したと考えられる。」のように書けば無難です。ただ、それでは1行を丸々使ってしまう。仮に、「請求できるか。」という設問なら、「請求できる。」、「請求できない。」という結論を最後に示さなければダメですが、「~した理由」を問う設問の場合は、答案に書いたものが「~した理由」であることは当然です。なので、「以上の理由により、~したと考えられる。」は省略してよいだろう。これで、1行分を省略できます。参考答案は、そのような書き方を用いています。
 設問1は、単に「A1の移動状況を解明するため」とだけ解答した人が一定数いるでしょう。間違ってはないけれど、下線部①にモロに書いてあるのを書き写しただけなので、それだけじゃダメに決まっている。「その時点における証拠関係を踏まえて」とされているので、それ以降に明らかになった事実・証拠は使ってはいけません。下線部①以前に書いてある事実を、ひたすら拾っていく。参考答案に記載されている要素をどれだけ拾えるかで、差が付くでしょう。
 設問2は、おそらく最も差が付くところで、合否を分けるでしょう。まず、概括的故意で足りる旨の判例(最決平2・2・9最判平30・12・11最判平30・12・14最判令元・9・27)の判断枠組みを明示したい。「本件において立証が求められる詐欺の故意の具体的内容」は、これに対応します。ここは、刑法総論の論証として規範を用意していれば、それを貼るだけです(『司法試験定義趣旨論証集刑法総論【第2版】』「規範的構成要件要素に関する故意の認定」)。知らない場合には、積極方向と消極方向を羅列する感じになっても、やむを得ないでしょう。事実をきっちり拾っていれば、それで十分にA評価になると思います。下線部②には、「前記1及び3の各事実が判明したことを踏まえ」とあるので、【事例】1~3の事実を見て、積極・消極を全部拾い上げて書き写す。逆にいえば、【事例】1~3の事実以外は使ってはいけません。参考答案に記載されている要素をどれだけ拾えるかで、差が付くでしょう。ここがスカスカだった人は、明らかに大局観がおかしいので、反省すべきです。
 設問3は、 「それぞれ答えなさい。」とされているので、2つの回答の理由を分けてそれぞれ解答すべきでしょう。まとめて答えてしまった人は、普段から問題文の読み方が適切か、演習の際に意識すべきです。「必要はない」と「べきではない」を使い分けているので、後者は任意に応じるべきでもないこと(否認事件なので捜査機関に協力すべき場面でない。)も含めて答える。起訴後の取調べであることに気付くことができれば、後は刑訴で覚えた論証を貼り付けて終わりです(『司法試験定義趣旨論証集刑訴法』「勾留中の被告人に対する余罪取調べの可否(余罪につき身柄拘束がない場合)」、「被告人取調べの可否」)。ここは、刑事訴訟法の問題であれば絶対に書いた人でも、刑事実務基礎だったから思い付かなかった、という人が一定数出てくるでしょう。「実務」という意識が強すぎると、このようなつまらない論点問題を落としてしまいやすくなるので、注意が必要です。
 設問4は、伝聞法則を問うだけの刑訴の問題ですが、小問(1)の難易度が高め。小問(1)は、弁護人Bの言ってる意味が分からないと、適切な解答をすることができません。解法としては、まず、「写真撮影報告書は、本件DM履歴を機械的に撮影した写真を内容とする」と書いてあるのだから、本件DM履歴が何かを確認する。【事例】5を見ると、「前記1に記載した各DM(以下「本件DM履歴」という。)」と書いてあるので、【事例】1の各DMを見る。仮に、刑法の問題であれば、このやり取りが詐欺罪の意思連絡と評価できるかは1つの問題であり、とりわけA1が詐欺罪を行うことへの承諾を氏名不詳者に伝達したといえるかは丁寧に当てはめることになりそうだよね、と思うでしょう。そこに気が付いたなら、「弁護人Bは、このDMのやり取りがされたことは争いようがないけど、これが共謀に当たるかどうかは争いたいのかな。」と気付くことができるかもしれません。そこまで気付けば、これは「立証趣旨による限定」の問題だ、と気付けるかもしれない。すなわち、「Bは、写真撮影報告書から本件DM履歴のやり取りがされたことを認定される限度では同意するけれど、共謀があったことまで認定する証拠とすることには同意する気はないよね。だから、裁判官Jとしては、「本件DM履歴の存在」とかに立証趣旨を限定して、その限度で証拠採用する感じでいいか求釈明しましょうね。」というわけですね。「いやー無理でしょ。」と思う人の方が多そうで、ここは、白紙でもA評価になるでしょう。学術的には、共謀を客観的に捉えるか、主観的に捉えるか、という実体法の問題と、本件DM履歴の要証事実の把握(A1の発言内容どおりの内心を推認させるものか)、本件DM履歴を精神状態供述と捉えた場合の伝聞性等の訴訟法の問題とが交錯する興味深いテーマなのですが、そんなの考えていたら合格は遠のいていくでしょう。小問2は、添付写真部分、本件DM履歴中の通信部分、写真撮影報告書全体についてそれぞれ検討して、K1の証人尋問請求を答えれば終わり。この場合の証人請求は、書証の取調べに代えて供述者の証人尋問をする場合ではなく、刑訴法321条3項の真正作成供述のためなので、書証の撤回ではなく、法的根拠の変更となる点が、合否を分けないマニア向けのポイントです。
 設問5は、普通に考えてA1が本件封筒を受領した時点とは詐欺の既遂時期なんだろう、と誰もが思うでしょうし、公訴事実にも「その頃、同所において、Vから現金200万円の交付を受け」と記載されていて、V方でのA1封筒受領時を既遂時期として公訴提起されていることが確認できる。なので、「既遂前なら詐欺罪の共同正犯だけど、既遂後なら盗品等運搬罪ってことでしょ。」というのは、直感ですぐ思い付くでしょう。でも、その意味するところを誤解していた人が結構いたのではないかと思います。詐欺既遂後の被害品の運搬行為が盗品等運搬罪の構成要件に該当する行為となることは、共謀が詐欺既遂前であるか、詐欺既遂後であるかによって変わることはありません。したがって、「本件封筒を受領した時点より前にA2が氏名不詳者から指示を受けていた場合には、その指示は詐欺罪の共謀となるから、コインロッカーから本件封筒を取り出す行為は共謀に基づく詐欺罪の実行行為となる。」などと書くのは誤りです。この誤りは結構致命的で、受領行為によって詐欺の実行行為が終了すると考えているからこそ、そこで既遂になると言っているのに、「コインロッカーから本件封筒を取り出す行為は詐欺罪の実行行為となる。」なんて書いたら、既遂時期はコインロッカーから取り出した時点になってしまう。1つの答案で実行行為・既遂時期の認定が矛盾してしまうので、評価を落とすでしょう。だから、コインロッカーから取り出す行為が詐欺罪を構成すると書いてはいけないのです。「じゃあ、なんで詐欺罪の共同正犯になるの?」と思うかもしれません。それは、A1の受領行為に加功したことによって、「A2は受領行為を直接分担していないけれども、A1の受領行為に重要な因果的寄与を及ぼし、規範的にはA1を介して本件封筒を受け取った。」と評価できる余地があるからです。だから、A2は、受領行為について共謀共同正犯となる、というのが、正しい理解です。Vに対する欺く行為の開始前であれば、欺く行為にも加功したことになるでしょう。もっとも、だまされたふり作戦事件があるので、欺く行為への加功は必須ではありません。A2が詐欺罪の正犯になれば、その後の盗品等運搬行為は不可罰的事後行為になりますから、A2に盗品等運搬罪は成立しない。同じように、「既遂前なら詐欺罪の共同正犯、既遂後なら盗品等運搬罪」と書いていても、上記の法律構成を正しく理解していることが答案上表れているかで、評価が分かれるでしょう。理論的には、本問のような場合、仮に詐欺既遂前に指示を受けていたとしても、A2がA1に何か因果的寄与をしたかといえば疑問であって、このような包括的共謀事案では、因果的共犯論からは共謀共同正犯を認めることができないのではないか、という批判が、全体行為説の論者からなされています。これに対しては、重畳的因果関係と同様に考える等の反論があったのでした((『司法試験定義趣旨論証集刑法総論【第2版】』「承継的共犯の理由」の項目を参照)。しかし当然ながら、答案でそんなもん書いちゃいけません。

3.参考答案中の太字強調部分は、『司法試験定義趣旨論証集刑法総論【第2版】』、『司法試験定義趣旨論証集刑訴法』に準拠した部分です。

 

【参考答案】

第1.設問1

 犯人性について、A1は弁録時も「V方に行ったことはない。」旨の供述を維持しており、本件封筒を渡した相手とよく似ていると思う旨のV供述だけでは必ずしも十分でない。A1がV方を訪れた事実を立証し得る証拠を収集する必要がある。A1が発見された丙駅からV方まで約1.5kmで、交通系ICカード、タクシーの領収証は、犯行から1時間後の所持品検査でA1上着ポケットからV方住所記載のメモとともに発見されており、犯行に係る移動に用いられた可能性が高い。交通系ICカード改札入出場履歴から上降車駅・時刻を、タクシー領収書から乗降車時及び担当運転手を特定でき、担当運転手からの聴取、ドライブレコーダー映像等から、A乗車の事実及び目的地を確認できる。

第2.設問2

1.本件において立証が求められる詐欺の故意の具体的内容は、「A1の行為が詐欺罪に該当する可能性の認識」であり、該当可能性の認識を基礎付ける事実がある場合には、その可能性の認識を排除する特段の事情がない限り、故意は否定されない(判例)

2.公式の求人サイトでなく、不特定多数の者が投稿できるSNS上の求人であること、募集者の氏名が不詳であること、「1回につき10万円の報酬を渡す。」という通常のアルバイトでは考えられない高額報酬を提示されたこと、A1は、相手方に「逮捕されることはないか。」と尋ねており、何らかの違法な行為ではないか、という疑念を持っていたことがうかがわれること、Vの息子Wの部下を名のるよう指示されており、A1はWと面識がなかったから、虚偽の身分を名乗ることの認識はあった。これらの事実は、A1において、「詐欺かもしれない。」との認識があったことを推認させ、A1の行為が詐欺罪に該当する可能性の認識を基礎付ける。

3.氏名不詳者からのDMで、「心配ない。」「違法ではない。」と返信があった。しかし、その返信の真実性は何ら担保されていない。自らが詐欺に加担しているとの認識があれば、検挙を免れるため偽名を用いるのが自然であるところ、A1はVからの名前を問われた際、A1自身の名字を答えている。しかし、詐欺罪に該当するか半信半疑で、事前の指示にもなかったため、とっさに本名を答えたにすぎないとも評価できる。本件封筒は「B銀行」と表面に大きく印字されただけで、外見上は詐欺を疑わせるものではない。しかし、銀行の封筒に入った現金をだまし取る詐欺と考えても矛盾しない。いずれも、詐欺罪に該当することを積極に否定する要素とはいえない。
 以上から、A1の行為が詐欺罪に該当する可能性の認識を排除する特段の事情は認められない。

第3.設問3

1.「余罪の取調べに応じる必要はない。」と回答したのは、刑訴法198条1項ただし書は身柄拘束中の被疑者にのみ取調受忍義務を課しており、余罪につき身柄拘束がない場合には、取調受忍義務を課さない任意の取調べとしてのみ、余罪取調べが許されるからである。

2.「起訴された事件に関する取調べに応じるべきではない。」と回答したのは、同法197条1項本文は任意捜査について何ら制限しておらず、198条の「被疑者」という文言にかかわりなく、任意の取調べをすることができるものの、被告人の当事者としての地位にかんがみ、公判中心主義の観点から、なるべく避けなければならないとされる(秋田スリ事件決定)以上、応じる必要はなく、また、否認事件である以上、捜査機関の取調べに応じるべきでもないからである。

第4.設問4

1.(1)

 B意見は、本件DM履歴の存在は認めるが、それが詐欺の意思連絡となる点は争うつもりであり、本件DM履歴の存在を認定し得る限度に立証趣旨を限定すれば同意する余地を含ませている。したがって、Jは、Pに「本件DM履歴の存在」等の共謀の意味付けを伴わない立証趣旨への変更について釈明を求め、これを促した上で、その立証趣旨の限度で同意するかについてBに釈明を求めることが考えられる(刑訴規則208条1項)。

2.(2)

 写真は、撮影者の供述を証拠とするものではなく、機械的に撮影された画像の存在又は状態が証拠となるから、非供述証拠(証拠物)である(現場写真につき新宿騒乱事件決定参照)。添付写真は、それ自体として伝聞証拠(刑訴法320条1項)でない。
 添付写真中の本件DM履歴におけるA1及び氏名不詳者の通信は、その内容どおりの事実を推認させる趣旨ではなく、そのような通信の存在からA1及び氏名不詳者の意思連絡を推認させる趣旨である。上記A1及び氏名不詳者の通信部分も、伝聞証拠でない。
 下線部④記載の写真撮影報告書は、その全体において、捜査機関が任意処分として行う検証の結果を内容とするものといえる。したがって、Pは、証拠請求の根拠を同法326条1項から同法321条3項に変更した上で、作成者であるK1の証人尋問を請求すべきである。

第5.設問5

 本件封筒受領時に公訴事実に係る詐欺罪は既遂に達する。
 本件封筒受領以前にA2が氏名不詳者から指示を受けていれば、A1の本件封筒受領行為に加功した点について詐欺罪の共謀共同正犯が成立し、盗品等運搬罪(刑法256条2項)は不可罰的事後行為として成立しない余地がある。
 本件封筒受領より後にA2が氏名不詳者から指示を受けていれば、詐欺罪の共同正犯が成立する余地はなく、盗品等運搬罪の成立余地があるにとどまる。

以上

 

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