抽象論ではなく具体論で理解を示す
(令和7年予備試験憲法)

1.令和7年予備論文憲法。当サイトでは、内容規制・内容中立規制二分論のような抽象論を展開すべきではない、と説明しています(「令和7年予備試験論文式憲法参考答案」)。このことは、「内容規制の問題意識に一切触れるべきでない。」ということを意味しない。当サイト作成の参考答案には、ちゃんと内容規制のことが書いてあります。「えっ?読んだけど、どこにも書いてなかったよ。」と思う人もいるでしょう。良い機会なので、抽象論ではなく具体的な検討の中で理解を示す方法論の一例として、説明をしておきましょう。

2.そもそも、内容規制が問題とされるのは、なぜか。伝統的には、①狙い撃ちで規制されるという恣意性、②特定の内容の表現が時・場所・方法を問わず丸ごと規制されるという広範性にあるとされます。学生向け教科書では、今でもこのような理解がそのまま記載されています(新井誠ほか『憲法Ⅱ 人権[第2版](日評ベーシック・シリーズ)』(日本評論社 2021年)126頁)。受験レベルでは、これで考えておいて構いません(※1)。
 ※1 ただし、市川正人教授による著名な批判が登場して以降、学術論文レベルでは、このような伝統的な理解はそのまま受け入れられていません(木下智史「表現内容規制・表現内容中立規制二分論の現在」立命館法学393・394号(2020年)255、256頁)。また、「判例法理と乖離している」とも指摘されています(同273頁)。このことは、抽象論として論述するのでなく、具体的な検討における視点の1つとして位置付けることの方が適切である理論的な理由といえるでしょう。

 本問では、青少年への図書の販売について規制しようとするものなので、時・場所・方法を問わず丸ごと規制するものではなく、②の広範性は当てはまりません(※2)。なので、問題になるのは、①の恣意性の方になる。本問で恣意性が主に問題になるのは、審査会の意見を聞く必要のない包括指定の方でしょう。だから、それを規制構造に即して具体的に書く。その観点を意識した上で問題文の記載をみると、「青少年保護育成審査会の意見を聞くことなく」の部分が恣意性の問題を意識させる違憲方向の要素、 「ヘイトスピーチのうち典型的……な表現(以下「典型的表現」という。)」、「限定列挙」、「過去に各地方自治体でヘイトスピーチと認められた表現を参考にして特定された表現」、「指定取消の申出があった場合、所管大臣が青少年保護育成審査会の意見を聞き」の部分が、恣意性を低下させる合憲方向の要素であることが読み取れるでしょう。
 ※2 その意味では、答案で、「内容規制である。」と断定すること自体に疑義があるともいえるでしょう。そもそも、学説においても、現在は「芦部の提唱した「二分論」において,表現内容規制の対象が明確さを欠いている」(前掲木下270頁)、「厳格審査の対象となる表現内容規制の具体例は不明なまま」(同273頁)と評されているのです。

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

 包括指定は、「〇〇人は日本から出ていけ」といった表現や、上記の個人又は集団を差別的な意味合いで昆虫や動物に例える表現など、ヘイトスピーチのうち典型的かつ悪質な表現(以下「典型的表現」という。)を含むページの数がページ総数の10分の1以上を占める図書(電子書籍の場合の分量は別途定めをおく。)については、所管大臣は個別指定に代えて、青少年保護育成審査会の意見を聞くことなく、有害差別図書として指定することができるというものである。対象となる典型的表現は新法に限定列挙して定められる。列挙されているのは、過去に各地方自治体でヘイトスピーチと認められた表現を参考にして特定された表現である。ただし、包括指定を受けた図書について当該図書の著者又は出版者から指定取消の申出があった場合、所管大臣が青少年保護育成審査会の意見を聞き、個別指定の対象に該当しないと判断したときには、包括指定は取り消される。

(引用終わり)

 だから、最低限、それを答案に書く。

(当サイトの参考答案より引用)

イ.審査会の意見を聞くことなく所管大臣が包括指定できるのは、恣意を許しかねず、審査会の意見を聞いて指定するというより制限的でない手段があるとして、必要な限度を超えているとの立場があり得る。
 しかし、あらゆる図書について個別指定の方法によることは、審議会に過度な負担となるし、脱法のおそれもあり現実的でない。典型的表現は、HSのうち典型的な表現で、個別指定要件に該当する図書とは異なり、政治的主張を伴うとは考えにくい。対象となる典型的表現は新法に限定列挙して定められており、列挙されているのは、過去に各地方自治体でHSと認められた表現を参考にして特定された表現である。類型的・形式的判断が可能で恣意の危険は小さいから、審査会の意見を聞く必要に乏しい。加えて、包括指定を受けた図書について当該図書の著者・出版者から指定取消の申出があった場合、所管大臣が審査会の意見を聞き、個別指定の対象に該当しないと判断したときには、包括指定は取り消されるという事後の是正手続があり、審査会が全く関与しないわけではない。

(引用終わり)

 そして、時間・紙幅の余裕があれば、評価を加える。

(当サイトの参考答案より引用)

イ.審査会の意見を聞くことなく所管大臣が包括指定できるのは、恣意を許しかねず、審査会の意見を聞いて指定するというより制限的でない手段があるとして、必要な限度を超えているとの立場があり得る。
 しかし、あらゆる図書について個別指定の方法によることは、審議会に過度な負担となるし、脱法のおそれもあり現実的でない。典型的表現は、HSのうち典型的な表現で、個別指定要件に該当する図書とは異なり、政治的主張を伴うとは考えにくい。対象となる典型的表現は新法に限定列挙して定められており、列挙されているのは、過去に各地方自治体でHSと認められた表現を参考にして特定された表現である。類型的・形式的判断が可能で恣意の危険は小さいから、審査会の意見を聞く必要に乏しい。加えて、包括指定を受けた図書について当該図書の著者・出版者から指定取消の申出があった場合、所管大臣が審査会の意見を聞き、個別指定の対象に該当しないと判断したときには、包括指定は取り消されるという事後の是正手続があり、審査会が全く関与しないわけではない。

(引用終わり)

 答案上で、このように規制構造に着目した記載がされていれば、考査委員の目から見て、「内容規制の問題意識が分かってるね。」という評価になる。これに対し、抽象論としては内容規制の一般論を延々と書いているのに、では本問でどうか、という具体的な検討で、内容規制の問題意識に対応する問題文の要素が全く抽出・整理すらされていない答案は、「暗記はしているけど、理解はしてないね。」という評価になるのです。実際に書ける文字数を考慮すると、抽象論も具体論も両方しっかり書く、ということはできない。だから、抽象論を書いていたら、必然的に具体的な検討がスカスカになってしまうわけですね。典型的な「受かりにくい人」の答案です。よく、ローの教官や元考査委員の発言として、「抽象論を書いていなくても、当てはめを見れば理解しているかが分かる。」などというものに接することがあると思いますが、その具体的な意味は、このようなことなのです。

3.本問に関しては、「内容規制であり規制態様は強度であるが、青少年は未成熟でパターナリスティックな規制の必要性が高く、ヘイトスピーチであるから低価値表現であり権利の重要性が低い。したがって、中間審査基準が妥当であり、実質的関連性があれば合憲である。」と書く答案が相当数出るでしょう。このような答案を書く人は、「俺は内容規制もパターナリスティックな制約もヘイトスピーチも書いたぞ。」と思っているかもしれません。しかし、このような論述をしたからといって高く評価されるわけではない、というのが、これまでの採点傾向です。評価は、具体的な規制構造の分析で決まる。このことは、最下位層の再現答案と成績の対応を見れば分かります。現在はまだ合格発表前ですが、今後、合格発表がされ、成績通知が送られてきます。そこで、E・Fレベルの下位の評価を受けた再現答案を入手できれば、それを見てみましょう。かなり下位の答案でも、「内容規制であり規制態様は強度であるが、青少年は未成熟で規制の必要性が高く、ヘイトスピーチであるから低価値表現であり権利の重要性が低い。したがって、中間審査基準が妥当であり、実質的関連性があれば合憲である。」のような論述をしていることを、確認できるはずです。予備校がそのように指導しているので、ほぼ判で押したように書いてくる。この論述によって相応の配点を取ることができているのなら、これを書いている答案は上位に、これを書かない答案は下位になる、という答案分布になるはずです。しかし、これまでの採点傾向を見る限り、そうはなっていない。上記のような論述は、上位者も下位者も、書く人は書いていますし、書いていない人は書いていない。それで差は付かない。上位か下位かは、問題文に示された規制構造をどれだけ答案で指摘し、具体的に検討しているか。これによって分かれているのです。「お前はなんでそんなことが分かるんだ。」と言いたくなるかもしれません。それは、当サイトが、再現答案と成績の対応をずっとみてきているからです。当サイトは旧司法試験時代からそのような活動をしており、記録上確認できる限りでも、新司法試験が始まった平成18年には既に活動しているので、もう20年近い蓄積があることになります。他に、このような作業を地道にやっている人を見たことがない。どのような仮説を立て、その検証にはどうしたらいいか。そんなノウハウもある。だから、当サイトには、上記のようなことが分かるのです。

戻る