1.今回は、論文の合格点を考えます。司法試験の合否は、短答と論文の総合評価で決まりますから、論文単独の合格点は存在しません。もっとも、短答の影響を排除した論文の合格点の目安を考えることは可能です。
今年の合格者数は、1581人でした。これは、論文で1581位以内に入れば、短答で逆転されない限り、合格できることを意味しています。そこで、論文で1581位以内になるには、何点が必要か。法務省の公表した司法試験論文式試験得点別人員調(合計得点)によれば、論文の合計得点が379点だと1569位、378点だと1592位となっています。したがって、1581位以内の順位になるためには、379点が必要だったといえる。ここでは、このように定まる得点を便宜上、「論文の合格点」と表記します。
2.令和2年以降の司法試験における論文の全科目平均点、論文の合格点、全科目平均点と合格点の差をまとめたのが、以下の表です。なお、全科目平均点は、最低ライン未満者を含み、小数点以下を切り捨てています。
| 年 (令和) |
全科目 平均点 |
論文の 合格点 |
平均点と 合格点の差 |
| 2 | 382 | 381 | -1 |
| 3 | 367 | 361 | -6 |
| 4 | 371 | 361 | -10 |
| 5 | 379 | 370 | -9 |
| 6 | 375 | 374 | -1 |
| 7 | 383 | 379 | -4 |
令和2年以降、一貫して、平均点より少し下の水準が合格点になっています。平均点を取れば、合格できる。「みんなが普通に書くようなことを書いてさえいれば合格できる。」という格言は、かつての旧司法試験時代には、「しかし、普通の答案を全科目揃えるのは実はとても難しい(だから合格率はとても低い。)。」という含意がありましたが、現在は、これを額面どおり捉えてよい状況になっています。
3.以前の記事で説明したとおり、令和5年以降、合否の判定は、総合得点770点が一応の基準とされているとみえます(「令和7年司法試験の結果について(1)~合格者数の決定基準~」)。総合得点は短答と論文を総合したものですから、一定の総合得点が合否判定の基準とされる場合には、論文の合格点は、短答の難易度によって影響を受ける。すなわち、短答が難しければ、その分、論文で高い点を取る必要があり、短答が易しければ、その分、論文で高い点を取る必要がなくなる、という関係にある、というわけです。
このことを、実際の数字で確認しましょう。論文の1点は総合評価で1.75点に相当する(「令和7年司法試験短答式試験の結果について(4)」)ので、今年の論文の合格点である379点は、総合評価で379×1.75=663.25点になる。そうすると、770-663.25=106.75となって、論文が合格圏ギリギリの人は、短答では107点以上を取っている必要があるよね、ということが分かります。こうして、令和5年以降の論文の合格点と、これに対応する短答の得点の対応をまとめたのが、以下の表です。
| 年 (令和) |
論文の 合格点 |
短答の 得点 |
| 5 | 370 | 123 |
| 6 | 374 | 116 |
| 7 | 379 | 107 |
これを見ると、令和5年以降、論文の合格点が高くなる一方で、短答の得点は下がっていることが分かります。これを短答の合格点、合格者平均点と比較してみましょう。
| 年 (令和) |
短答 合格点 |
短答 合格者 平均点 |
論文の合格点 に対応する 短答の得点 |
| 5 | 99 | 126.1 | 123 |
| 6 | 93 | 120.3 | 116 |
| 7 | 81 | 110.6 | 107 |
直近3年では、年を追うごとに短答の難易度が上がっていて、特に令和7年は異常な難しさでした(「令和7年予備試験短答式試験の結果について(1)」)。それが、合格点・平均点に反映されていて、いずれも令和5年→令和6年で概ね6点、令和6年→令和7年で概ね10点くらいの影響が出ています。そして、上記でみた論文の合格点に対応する短答の得点も、同様の推移であることが確認できるでしょう。このように、令和5年以降の論文の合格点の推移は、短答の難易度を反映したものといえるのです。
4.別の見方をしてみましょう。上記1でも説明したとおり、論文の合格点とは、短答で逆転されない限り、合格できる水準を意味するのでした。このことから考えれば、論文の合格点に対応する短答の得点は、「このくらいの点数を短答で取らないと、論文が合格圏内でも逆転されやすくなる水準」を表しているとも理解できるでしょう。そのような目で見ると、論文の合格点に対応する短答の得点は、短答合格者平均点の概ね3点くらい下であることも分かる。すなわち、短答で合格者平均点の概ね3点下くらいは取っておかないと、論文が合格圏内でも逆転されやすくなる、ということができるわけです。これを下回る点数しか取れないようなら、もっと短答に力を入れておいた方がよい、といえるでしょう。論文の合格点に対応する短答の得点が、短答合格者平均より低めの水準になることに不思議さを感じる人もいるかもしれませんが、これは、「短答が得意で高得点を取る人の一定数は、論文が極端に苦手な、『受かりにくい人』である。」ということに対応しているのだろうと思います。