【答案のコンセプト等について】
1.現在の論文式試験においては、基本論点についての規範の明示と事実の摘示に極めて大きな配点がある。①基本論点について、②規範を明示し、③事実を摘示すること。これが、合格するための基本要件であり、合格答案の骨格をなす構成要素といえます。従来、当サイトでは、この①~③に特化した「参考答案(その1)」と、規範の理由付け、事実の評価、応用論点等の肉付けを行うとともに、より正確かつ緻密な論述をした「参考答案(その2)」を示してきました。両者を示すことにより、「規範と事実」で書く答案がどのようなものか、規範の理由付け、事実の評価、応用論点等を書くとすればどうなるか、というイメージが具体化されるとともに、理想を追い求めて、規範の理由付け、事実の評価、応用論点等を書きに行くと、現実には絶対に書けない答案になる、ということも、実感できたのではないかと思います。
当サイトとしては、上記のいわば両極ともいえる答案のイメージを具体化することについては、もう十分に達成できたと考えています。次の段階は、両者の中間に位置する現実的でリーズナブルな合格答案として、どのようなものをイメージすればよいのか。これを具体化することにある。そこで、今回からは、上記①~③をベースとしつつ、無理なく書ける範囲の現実的でリーズナブルな合格答案を示すこととしました。このことは、来年以降、CBT方式による実施となることで、「文字を小さくして、たくさんの文字を書く。」とか、「1行に無理やり2行の文章を書き込む。」というようなテクニックが使えなくなるため、文字数の制限をより意識しなければならなくなることからも、意味のあることだろうと思っています。
2.今年の商法は、基本的な内容である設問1を当たり前のように解けているか、設問2で206条の2に気が付いたかで、合否が分かれやすいでしょう。書くべき事項が多いので、時間・紙幅を考慮した取捨選択の判断も重要になります。配点がありそうなものを全部書きにいって時間切れになったり、メイン論点が雑になった人は、反省すべきでしょう。問題提起や論点間のつなぎの文章を一生懸命書いている間に肝心な中身の論述をする余裕がなくなってしまった人も同様です。
設問1は、演習を普通にこなしていれば一度は類似の事例問題を解くはずで、その際に覚えるべき論述などを覚えるリストなどに入れて覚えておけば(「ガチ暗記する方法」)、それを貼り付けるだけの話です。ここを現場思考で対応しているようでは、時間がいくらあっても足りませんし、論述の精度という点でも合格レベルに達しないでしょう。小問(1)は、Aの特別利害関係取締役該当性が決議の成否そのものを左右するので、その観点から論じれば足ります。取締役会決議の瑕疵の一般論に触れる必要はない。緊急動議のところは、招集通知にない議題を決議できるか、という論点が含まれているものの、正面からは問われていないので優先順位が落ちると判断したい。参考答案でも、触れていません。問題文に招集通知の記載内容が明示されていて、Aが「招集通知に書いていないから議題にならないはずだ。」などと抗議していれば別ですが、そんな記載は問題文にない、ということから、読み取るべきだったと思います。ちなみに、設問1には応用論点が隠れていて、小問(1)では「代表取締役の解職に解職事由を要するか。」、小問(2)では、「339条2項類推適用ないし民法651条2項によって代表取締役の報酬相当額の損害賠償請求をなし得るか。」が問われています。解職に至る経緯が詳しめに書いてあるのは、ここで使うためなのですね。しかし、現場で思い付いても、こんなもん書きにいってはいけません。これを書きにいった人は、高確率で他のより配点の高い事項が不十分になるので、全体でみると評価を落としやすいでしょう。上記各点については富山地高岡支判平31・4・17があり、その評釈である鈴木千佳子「判批」法学研究94巻12号(2021年)121~134頁がネット上ですぐ読めます。
設問2は、Bがおかしなことをしているという感覚を誰もが持つでしょうから、それが決議の瑕疵になって新株発行無効事由になる、というようなことを書けばよさそうだ、というところまでは容易に想起できる。厳密には、ここは有利発行や組織再編のところの吸収説の議論を応用することになるわけですが、時間・紙幅を考えるとそれは難しい。なので、206条の2の趣旨を適当に考えて、その趣旨から決議取消事由が新株発行無効事由になるんだ、ということを言い放っていくスタイルで対処したい。吸収説の議論をごちゃごちゃ書くよりも、その方がかえって評価されそう。参考答案は、その筋で書いています。206条の2の趣旨は事前準備できなくはありませんが、覚えていなくても似たようなことを現場で思い付くのは不可能ではないはず。このようなとっさの現場対応も、論証集グルグルだけでは体得が難しいので、演習の際に意識して訓練しましょう。現場で126条を引けるかどうかはポイントの1つですが、招集通知に関する299条の周辺を見ても見付からないので、難易度は高め。引けなくても、合否に大きく影響するというわけではなさそうです。決議の瑕疵としては、招集通知の趣旨から考えて法令違反と構成する方法と、法令違反はないが著しく不公正と構成する方法の2つがあり、どちらでも評価されるでしょう。参考答案は、著しく不公正の筋で書いています。法令違反構成なら裁量棄却(厳密には無効事由該当性の阻却)の検討が必要になるが、著しく不公正と構成するなら裁量棄却の余地がない点には、注意が必要です。参考答案は時間・紙幅を考慮して最低限の事実摘示にとどめていますが、本件通知①は新住所宛だったこと、Bが一応口頭でAに雑な告知をした点も、可能なら拾いたいところです。ちなみに、決議取消事由を新株発行無効事由とする場合には、その主張適格として、決議取消しの訴えの原告適格・出訴期間の充足を要する、という議論がありますが、本問は結論を左右しないので優先順位が下がります。本問でこれを書いている余裕はないのが普通でしょうから、書かない方が受かりやすいでしょう。
3.参考答案中の太字強調部分は、『司法試験定義趣旨論証集会社法【第2版】』に準拠した部分です。
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【参考答案】 第1.設問1(1) (1)「特別の利害関係」(369条2項)とは、忠実義務を誠実に履行することが定型的に困難と認められる個人的又は会社外の利害関係をいう(裁判例)。解職議案が提出される場面では、対象者と会社の対立が表面化しているのが通常であり、定型的な対立関係がある。代表取締役は強大な権限・支配力を有し(349条4項)、解職により意思に反してその地位から排除されることを考慮すると、公正な議決権行使は期待しがたい。したがって、解職対象者は、忠実義務を誠実に履行することが定型的に困難と認められる個人的利害関係を有し、特別利害関係取締役に当たる(日東でん粉化学事件判例参照)。 (2)本件解職に係る決議は、「議決に加わることができる取締役」であるBCE全員が出席し、その過半数であるBCの賛成をもって行われたから、有効に成立した(同条1項)。 (3)よって、本件解職は、有効である。 第2.設問1(2) 1.361条1項の趣旨はお手盛りの防止にあるから、株主総会決議で取締役全員の報酬総額を定めれば、具体的配分は取締役会の決定に委ねることができる(シチズン時計事件判例参照)。 2.具体的報酬額は取締役会決議によって確定するから、具体的報酬請求権は、取締役会において各取締役の配分を決議したときに発生する(協立倉庫事件判例参照)。 3(1)具体的に定められた報酬額は、会社と取締役間の契約内容となり、契約当事者である会社と取締役の双方を拘束するから、取締役の同意がない限り、取締役会決議によっても減額できない(上記判例参照)。 (2)もっとも、Aは代表取締役を解職されたから、それに伴う減額として許される余地はないか。 (3)以上から、本件決議のうち、月額70万円に減額する部分は有効であるが、それを超える減額部分は無効である。Aは、令和6年11月分及び同年12月分について、月額70万円の具体的報酬請求権を有していた。 4.よって、Aは、甲社に対し、上記報酬請求権に基づき、同年11月分及び同年12月分の報酬について、本来支払われるべき報酬額と実際に支払われた報酬額の差額である月額20万円を合計した40万円の支払を請求することが考えられる。 第3.設問2
1.本件発行により乙社が総議決権数1400個のうち800個の議決権を有することとなり、Aは、250個の議決権を有し、本件通知①受領日に本件発行に反対する旨の本件通知②をしたから、甲社は、本件発行について株主総会の承認を受けなければならない(206条の2第4項)。本件総会は、その承認を目的とする。
2.確かに、Aは、新住居への転居を甲社に通知しておらず、甲社の株主名簿上のA住所記載は、旧住所のままとなっていた。甲社は、旧住所に宛てて招集通知を発すれば足りる(126条1項)。法令違反はない。 3.よって、Aの主張は、正当である。 以上 |