令和7年司法試験論文式刑事系第2問参考答案

【答案のコンセプト等について】

1.現在の論文式試験においては、基本論点についての規範の明示と事実の摘示に極めて大きな配点があります。したがって、①基本論点について、②規範を明示し、③事実を摘示することが、合格するための基本要件であり、合格答案の骨格をなす構成要素といえます。下記に掲載した参考答案(その1)は、この①~③に特化して作成したものです。規範と事実を答案に書き写しただけのくだらない答案にみえるかもしれませんが、実際の試験現場では、このレベルの答案すら書けない人が相当数いるというのが現実です。まずは、参考答案(その1)の水準の答案を時間内に確実に書けるようにすることが、合格に向けた最優先課題です。
 参考答案(その2)は、参考答案(その1)に規範の理由付け、事実の評価、応用論点等の肉付けを行うとともに、より正確かつ緻密な論述をしたものです。参考答案(その2)をみると、「こんなの書けないよ。」と思うでしょう。現場で、全てにおいてこのとおりに書くのは、物理的にも不可能だと思います。もっとも、部分的にみれば、書けるところもあるはずです。参考答案(その1)を確実に書けるようにした上で、時間・紙幅に余裕がある範囲で、できる限り参考答案(その2)に近付けていく。そんなイメージで学習すると、よいだろうと思います。

2.参考答案(その1)の水準で、実際に合格答案になるか否かは、その年の問題の内容、受験生全体の水準によります。令和7年刑事系第1問についていえば、概ね基本論点の組み合わせ問題であり、事案も複雑ではないことから、規範の明示と事実の摘示だけならほとんどの人がこなせると思われ、事実の評価が合否を分けそうにみえる一方で、設問2の理由2に関し、証拠の必要性に全く言及しない答案が相当数ありそうなこと、規範の明示をしない答案や抽象論を長々と論じて事実摘示を怠る答案が今でも一定数存在することから、参考答案(その1)でも、かなり際どいものの、ギリギリ合格答案にはなるのではないかと思います。

3.参考答案中の太字強調部分は、『司法試験定義趣旨論証集刑訴法』に準拠した部分です。 

【参考答案(その1)】

第1.設問1

1.①

(1)「逮捕する場合」(220条1項柱書)というためには、逮捕との時間的接着性を要するが、逮捕着手の前後を問わない(西成ヘロイン所持事件判例参照)。
 Pは、令和7年1月20日午後6時5分頃、甲を通常逮捕した。①は同日午後6時10分頃に実施された。逮捕との時間的接着性があり、「逮捕する場合」に当たる。

(2)「逮捕の現場」(同項2号)とは、逮捕の着手又は完遂に至った場所と同一の住居権又は管理権に属する場所的範囲をいう。

ア.Pは、リビングにおいて、甲を通常逮捕した。リビングはX方内にある。Xは、「甲には、食事や雑談をするときにはリビングを使用することを許可しているが、基本的に、甲は和室のみを使用している。」と説明した。逮捕完遂に至ったX方リビングは、Xの住居権に属する。

イ.確かに、甲はX方に居候し、Xは、「甲は…和室に寝泊まりしている。」と説明した。和室とリビングの間には扉が設置されていた。PらがX方に入った際、リビングと和室の間の扉は閉まっていた。和室には家具や寝具のほか、甲のものと認められるスーツケースがあった。
 しかし、甲が居候を始めたのは同月15日からである。X方はアパート1階101号室で、X方内は、8畳のリビングに6畳洋室及び6畳和室が隣接している。Xは甲の友人である。Xは、「無償で」と説明した。捜索場所である和室は、Xの住居権に属する。

ウ.以上から、逮捕完遂に至った場所と同一の住居権に属し、「逮捕の現場」に当たる。

(3)被疑事実はV方に男性3名が侵入して現金500万円を窃取するという住居侵入・窃盗事件で、H県I市内では、令和6年12月以降、複数人で民家に侵入して金品を窃取するという事件が連続して発生していた。V方及びその周辺に設置された防犯カメラの映像には、甲乙が、本件住居侵入・窃盗事件の直前に、それぞれの携帯電話で、何者かと通話している様子が記録されていた。令和7年1月20日午後6時頃、甲とXが、X方から路上に出てきた。その際、Pは、甲が携帯電話を手に持っていることを確認した。Pは、リビングにおいて、甲の身体着衣について、逮捕に伴う捜索を実施したが、甲の携帯電話を発見できなかったため、甲に携帯電話の在りかを尋ねたところ、甲は何も答えなかった。Xは、「甲は…スーツケースを持ってやって来て」と説明した。和室には甲のものと認められるスーツケースが存在した。Pは、和室内には、甲の携帯電話のほか本件住居侵入・窃盗事件に関係する証拠物が存在する可能性が高いと考えた。「必要があるとき」(同項柱書)、「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況」(222条1項本文、102条2項)に当たる。

(4)よって、適法である。

2.②

(1)Xは、「今日の午前中から甲の交際相手であるYが甲に会うために来ているが、私の家にYが来たのは今日が初めてである。」と説明した。
 逮捕の現場に居合わせた第三者の身体捜索の可否については、捜索差押許可状が発付された場合の効力の問題と同様に考えるべきである。場所に対する捜索差押許可状の効力は、捜索すべき場所に現在する者が差押対象物件をその身体に隠匿所持していると疑うに足りる相当な理由があり、許可状の目的とする差押えを有効に実現するためにその者の身体を捜索する必要が認められる具体的な状況の下においては、その者の身体にも及ぶ(高裁判例)。
 Pは、リビング内捜索中、甲のすぐ近くにいたYに対し、甲の携帯電話の在りかを知っているか尋ねた。すると、Yは、甲のことを一べつしてからうつむき、何も答えないまま、自身の上着のポケット内に手を入れ、中を探るような動きをした。Pは、Yの態度を見て、Yが同ポケット内に甲の携帯電話を隠していて、同携帯電話を操作してデータを消去する可能性があると考えた。逮捕の現場に現在する者が差押対象物件をその身体に隠匿所持していると疑うに足りる相当な理由があり、差押えを有効に実現するためにその者の身体を捜索する必要が認められる具体的な状況がある。

(2)Pは、同日午後6時5分頃、甲を通常逮捕した。②は同日午後6時20分頃にされた。逮捕との時間的接着性があり、「逮捕する場合」に当たる。

(3)被疑事実はV方に男性3名が侵入して現金500万円を窃取するという住居侵入・窃盗事件で、H県I市内では、令和6年12月以降、複数人で民家に侵入して金品を窃取するという事件が連続して発生していた。V方及びその周辺に設置された防犯カメラの映像には、甲乙が、本件住居侵入・窃盗事件の直前に、それぞれの携帯電話で、何者かと通話している様子が記録されていた。加えて、上記(1)の状況がある。「必要があるとき」(同項柱書)、「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況」(222条1項本文、102条2項)に当たる。

(4)よって、適法である。

3.③

(1)逮捕した場所で直ちに捜索差押えを実施することが適当でなかったため、できる限り速やかに被疑者を適当な最寄りの場所まで連行した上で行われた場合には、「逮捕の現場」(220条1項2号)における捜索差押えと同視することができる(和光大学内ゲバ事件判例参照)。
 Pらは、路上で乙を通常逮捕した。Pは、乙の着衣内に携帯電話が存在すると考え、これを差し押さえるため、同路上で、乙の身体着衣について、逮捕に伴う捜索を実施しようとした。すると、乙は、暴れて抵抗し、叫んだ。合計5名の通行人が集まってきてPらを取り囲み、そのうち1名の通行人が携帯電話のカメラ機能を使ってPら及び乙の動向を録画し始めた。逮捕した場所で直ちに捜索を実施することが適当でなかったといえる。
 確かに、Pらは、警察車両を停めていた駐車場まで乙を連れて行った。上記通行人らがPらに付いてくることはなく、乙は、同駐車場に着いたときには落ち着きを取り戻した。同駐車場には誰もいなかった。
 しかし、同路上は、人通りが多い繁華街に位置し、周囲に複数の飲食店があった。同路上から同駐車場までの距離は約50mであった。同駐車場から最も近い警察施設は、同駐車場から約1km離れたJ交番であった。Pは、警察車両に乗るよう促すと、乙は、素直に同車両に乗り込んだ。車内において、乙は、無言のままうつむいており、抵抗する素振りを見せなかった。乙を逮捕したのは午後9時頃で、J交番に到着し③を実施したのは午後9時20分頃であった。できる限り速やかに被疑者を適当な最寄りの場所まで連行した上で行われたといえる。
 以上から、「逮捕の現場」における捜索と同視できる。

(2)乙を逮捕したのは午後9時頃で、③は午後9時20分頃であった。逮捕との時間的接着性があり、「逮捕する場合」に当たる。

(3)被疑事実はV方に男性3名が侵入して現金500万円を窃取するという住居侵入・窃盗事件で、H県I市内では、令和6年12月以降、複数人で民家に侵入して金品を窃取するという事件が連続して発生していた。V方及びその周辺に設置された防犯カメラの映像には、甲乙が、本件住居侵入・窃盗事件の直前に、それぞれの携帯電話で、何者かと通話している様子が記録されていた。Pは、乙の着衣内に携帯電話が存在すると考えた。「必要があるとき」(同項柱書)に当たる。

(4)よって、適法である。

第2.設問2

1.理由1

(1)328条により許容される証拠は、信用性を争う供述をした者のそれと矛盾する内容の供述が、同人の供述書、刑訴法の要件を満たす供述録取書面、同人の供述を聞いたとする者の公判期日の供述又はこれらと同視し得る証拠の中に現れている部分に限られる(東住吉事件判例参照)。
 証拠1は、甲がV方に侵入して盗みをしたか、犯行を計画したかという点で、丙証言と矛盾する内容の供述録取書であるが、その供述者は乙であり、丙ではない。328条により許容される証拠に当たらない。

(2)よって、正当である。

2.理由2

(1)弾劾証拠については、公判前整理手続の時点においては、いまだ弾劾の対象となる公判供述が存在しない以上、328条の要件該当性を判断することはできない。したがって、その取調請求を当事者に要求することは相当ではないと認められるから、「やむを得ない事由」(316条の32第1項)がある(福井強盗致傷事件参照)。もっとも、その場合であっても、公判前整理手続の趣旨に反することのないよう、証拠としての必要性については、慎重に判断すべきである。

(2)確かに、公判前整理手続でSは、証拠2、証拠3をTに対し開示し、証拠3について、立証趣旨を「本件犯行状況、共謀状況等」として、取調べを請求した。これに対し、Tは、同手続において、「甲は、事件には一切関与しておらず、乙及び丙が住居侵入や窃盗をしたのかどうかも知らない。」旨の予定主張を明らかにして、共謀の事実等を否認し、証拠3について不同意との証拠意見を述べた。そこで、Sは、立証趣旨を「本件犯行状況、共謀状況等」として、丙の証人尋問を請求し、H地裁は、これを実施する旨の決定をした。その後、H地裁は、S及びTとの間で争点及び証拠の整理結果を確認した上で、公判前整理手続を終了した。
 しかし、Sは、甲ら3名について、共謀の上、V方に侵入して現金500万円を窃取したとの事実で、H地裁に公判請求した。証拠2は、甲は事件には関係ないとする丙の供述である。第2回公判期日において、丙の証人尋問が実施された。丙は、主尋問において、「甲が犯行を計画し、自分、甲、乙の3人で、V方に侵入して盗みを行った。」などと証言した。そして、丙は、反対尋問において、Tから、「甲は事件に関与していないのではないか。」との質問を受けると、これを否定し、主尋問でしたのと同様の証言をした。さらに、丙は、Tから、「捜査段階で、『自分と乙の2人でV方に侵入して盗みをした。甲は事件には関係ない。』と話したことがあったのではないか。」などと証拠2の内容やその作成過程に関する質問を繰り返し受けたが、「そのような供述をした記憶はない。覚えていない。」などとの証言に終始した。証拠としての必要性がある。

(3)以上から、証拠2は、公判前整理手続において証拠調べ請求がされていない証拠ではあるが、公判期日において、証拠調べ請求をすることができない証拠とはいえない。

(4)よって、正当でない。

以上

【参考答案(その2)】

第1.設問1

1.下線部①の行為の適法性

 下線部①の行為は、逮捕に伴う無令状捜索(220条1項2号、3項)として適法か。

(1)「逮捕する場合」(220条1項柱書)というためには、逮捕との時間的接着性を要するが、逮捕着手の前後を問わない(西成ヘロイン所持事件判例参照)。
 Pは、令和7年1月20日午後6時5分頃、甲を通常逮捕した。下線部①の捜索は、そのわずか約5分後である同日午後6時10分頃に実施された。逮捕との時間的接着性があり、「逮捕する場合」に当たる。

(2)220条は、逮捕の現場を捜索場所とする捜索差押許可状の請求手続の省略を認める趣旨の規定であり、同許可状が発付された場合と同様に考えるべきであるから、「逮捕の現場」(同条1項2号)とは、逮捕の着手又は完遂に至った場所と同一の住居権又は管理権に属する場所的範囲をいう。
 これに対し、一般論としては上記の法理が妥当するとしても、本件のように、路上で逮捕に着手したところ、被疑者が第三者の管理権に属する場所に逃走して、その場所で逮捕されるに至った場合(220条1項1号参照)には、路上で逮捕を完遂していればできなかったはずの捜索差押えを許容することになること、たまたま逃げ込んだ場所であり、その場所を捜索場所とする捜索差押許可状が当然に発付される状況とはいえず、不当な一般探索的捜索の許容に繋がりかねないこと等を理由に、このような場合には上記の法理は妥当せず、証拠隠滅防止等の緊急処分といえる範囲に限定すべきとする説(2分説)もある。しかし、無関係の第三者の管理権に属する場所であっても、被疑者が逃げ込んだ場所である以上、令状裁判官にあっては、類型的にみて証拠物等を被疑者が遺留・隠匿した蓋然性が高いとして捜索差押許可状の発付を認めると考えられるし、第三者の管理権に属する場所の捜索である以上、222条1項本文によって102条2項が準用され、「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合」でなければ捜索は事後の司法審査において違法とされるから、一般探索的捜索を許容するともいえない。2分説によれば、逃走中に遺留・隠匿された証拠物の捜索差押えであっても、逮捕時に被疑者の直接支配下に属しない範囲については改めて令状請求の手続を要することになりかねないが、上記のとおり、類型的に捜索差押許可状が発付される状況にあるにもかかわらず、令状請求の手続を求めることは無駄であって、かえって被疑者や第三者に無用の負担を課す結果となる。2分説の狙いは本件のような場合に捜索差押えの範囲を限定・明確化する点にあると考えられるが、証拠隠滅等の危険がある場合に限るといっても、その範囲は必ずしも明確でなく、本件のように、第三者方ではあるが被疑者の居住の用に供されていたり、逃走から逮捕完遂までの間に捜索対象場所に立ち入ったかが不明であったり、被疑者の友人等が存在したり、捜査機関が敢えて手錠をかけなかったりした場合にどの範囲で証拠隠滅等の危険があるといえるかの判断が困難で、結局は証拠存在の蓋然性等を考慮して捜索差押えの許否を判断せざるを得ない場面が残る。2分説は採用できない。

ア.Pは、リビングにおいて、甲を通常逮捕した。リビングはX方内にあるから、基本的にXの住居権に属する。Xは、「甲には、食事や雑談をするときにはリビングを使用することを許可しているが、基本的に、甲は和室のみを使用している。」と説明しており、甲にリビングの住居権・管理権を認めていない。逮捕完遂に至ったX方リビングは、専らXの住居権に属する。

イ.捜索場所である和室は、X方内にある。X方はアパートの1室である。一般に、アパートの1室は全体として1個の住居権に属し、借主があるときは借主の住居権に属するのが通例である。リビングと各部屋の住居権が分離・独立することは、特段の事情のない限り認められない。
 甲はX方に居候し、Xは、「甲は…和室に寝泊まりしている。」と説明した。和室には、家具や寝具のほか甲のものと認められるスーツケースがあった。Xが甲に寝泊まりのための利用を許諾し、甲はスーツケースを置いて現に起居の場所として利用していたと認められる。和室とリビングの間には扉が設置されて区画されており、PらがX方に入った際、リビングと和室の間の扉は閉まっていたから、一定の独立性がある。しかし、和室の内側から施錠でき、かつ、これをXが許容していたなどの事実は認められない。寝泊まりのための利用許諾はX甲間の友人関係に基づいて無償でされたもので、和室をリビングから分離・独立させて甲に独自の住居権を付与したと評価するには足りない。X方について、X方の属するアパートの所有者(貸主)から、賃貸借契約に基づいてXに住居権が付与され、同所有者といえどもX方にXの許可なく立ち入ることが許されない関係にあることとは、趣を異にする。甲が居候を始めたのは同月15日で、下線部①の捜索がされるわずか5日前であり、甲の利用が既成事実化して独立の住居権を観念し得るに至っているともいえない。上記特段の事情はなく、捜索場所である和室はX方全体の一部として、Xの住居権に属すると認められる。

ウ.以上から、逮捕完遂に至った場所と同一の住居権に属し、「逮捕の現場」に当たる。

(3)被疑事実はV方に男性3名が侵入して現金500万円を窃取するという住居侵入・窃盗事件で軽微とはいえず、H県I市内では、令和6年12月以降、複数人で民家に侵入して金品を窃取するという事件が連続して発生しており、検挙の必要性が高いだけでなく、ターゲット先のリストなど上記他事件との関連性を示す物や背景立証に用い得る物も、本件住居侵入・窃盗事件に関係する証拠物となり得る。V方及びその周辺に設置された防犯カメラの映像には、甲乙が、甲逮捕に係る被疑事実である本件住居侵入・窃盗事件の直前に、それぞれの携帯電話で、何者かと通話している様子が記録されていた。携帯電話が被疑事実に係る犯行に用いられた蓋然性が高い。逮捕着手直前である令和7年1月20日午後6時頃、甲とXがX方から路上に出てきた際、Pは、甲が携帯電話を手に持っていることを確認した。Pは、リビングにおいて、甲の身体着衣について、逮捕に伴う捜索を実施したが、甲の携帯電話を発見できなかったため、甲に携帯電話の在りかを尋ねたところ、甲は何も答えなかった。和室内には、甲のものと認められるスーツケースがあった。和室内に甲の携帯電話のほか本件住居侵入・窃盗事件に関係する証拠物が存在する可能性が高いと考えたPの判断には合理性がある。「必要があるとき」(同項柱書)及び「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合」(222条1項本文、102条2項)に当たる。

(4)よって、下線部①の行為は、適法である。

2.下線部②の行為の適法性

 下線部②の行為は、逮捕に伴う無令状捜索として適法か。

(1)Xは、「今日の午前中から甲の交際相手であるYが甲に会うために来ているが、私の家にYが来たのは今日が初めてである。」と説明していることから、Yは同居人でなく、たまたま居合わせた第三者と認められる。
 逮捕の現場に居合わせた第三者の身体捜索の可否について、220条は、逮捕の現場を捜索場所とする捜索差押許可状の請求手続の省略を認める趣旨の規定であるから、同許可状が発付された場合の効力の問題と同様に考えるべきである。そこで、捜索差押許可状による捜索差押えについて考えると、刑訴法上、場所と身体は異なる保護法益として区別されている(222条1項、102条1項)から、場所に対する捜索差押許可状の効力は、原則として人の身体に及ばない。もっとも、捜索すべき場所に現在する者が差押対象物件を隠匿した場合にまで、その者の身体の捜索が許されないのでは、捜索差押許可状の実効性が損なわれるから、捜索すべき場所に現在する者が差押対象物件をその身体に隠匿所持していると疑うに足りる相当な理由があり、許可状の目的とする差押えを有効に実現するためにその者の身体を捜索する必要が認められる具体的な状況の下においては、その者の身体にも及ぶ(高裁判例)。これと同様に考えれば、上記の要件を満たすときは、「逮捕の現場」(220条1項2号)における捜索差押えの範囲に含まれる作用として、その者の身体捜索が許される。
 Pは、リビング内捜索中、甲のすぐ近くにいたYに対し、甲の携帯電話の在りかを知っているか尋ねた。すると、Yは、甲のことを一べつしてからうつむき、何も答えないまま、自身の上着のポケット内に手を入れ、中を探るような動きをした。何も知らないのであれば、その旨を答えるのが自然であるし、自らは所持していないのであれば、その旨を答えるのが自然であるから、何も答えなかったことは、やや不自然といえる。もっとも、とっさに何を答えてよいか分からず口ごもることはあり得る。捜査機関に対し不用意に何かを答えると不利になるおそれがあると考えるなどして、何も答えないこともあり得る。また、上記の動作をしたことは、同ポケット内に甲の携帯電話を所持しており、甲にデータ消去操作をするべきかアイコンタクトで確認した後、消去操作をしようとしたものと考えて矛盾がないとはいえる。しかし、上着のポケットに手を入れる動作自体は特別に不審な行動とまでいえない以上、甲の携帯電話所持・データ消去を疑うに足りる相当な理由があるとまではいえない。確かに、万が一にもデータを消去されることは防止しなければならないから、そのための緊急の必要性は認められるが、それはYの手をポケットから出させれば達し得るのであって、ポケット内にまで手を入れる必要はない。身体捜索というプライバシー制約の大きい手段であることを考慮すると、少なくとも、Yがポケット内に手を入れて操作することを制止した上で、なぜそのような動作をしたのか、ポケットに何が入っているかを質問する等の、段階的措置をとることが必要であり、これらが功を奏さない場合に初めて、それまでのYの反応をも踏まえて、Yが甲の携帯電話を隠匿所持していると疑うに足りる相当な理由があり、同携帯電話の差押えを有効に実現するためにYの身体を捜索する必要が認められる具体的な状況があるといえるかを改めて判断すべきであったと考えられる。
 それにもかかわらず、Pは、直ちに下線部②の行為に及んだ。上記のとおり、その時には、いまだ逮捕の現場に現在する者が差押対象物件をその身体に隠匿所持していると疑うに足りる相当な理由があるとはいえず、差押えを有効に実現するためにその者の身体を捜索する必要が認められる具体的な状況があるともいえない。

(2)よって、下線部②の行為は、違法である。

3.下線部③の行為の適法性

 下線部③の行為は、逮捕に伴う無令状捜索として適法か。

(1)Pらは、路上で乙を通常逮捕したが、下線部③の捜索はJ交番内でされた。
 逮捕した場所で直ちに捜索差押えを実施することが適当でなかったため、できる限り速やかに被疑者を適当な最寄りの場所まで連行した上で行われた場合には、「逮捕の現場」(220条1項2号)における捜索差押えと同視することができる(和光大学内ゲバ事件判例参照)。被疑者の身体については、直ちに捜索をすることによって被疑者の名誉・プライバシーが害される場合がある一方で、性質上移動による管理権の変動がなく、逮捕との時間的接着性がある限り証拠物が存在する蓋然性にも違いがないといえるからである。

ア.Pは、乙の着衣内に携帯電話が存在すると考え、これを差し押さえるため、同路上で、乙の身体着衣について、逮捕に伴う捜索を実施しようとした。すると、乙は、暴れて抵抗し、叫んだ。合計5名の通行人が集まってきてPらを取り囲み、そのうち1名の通行人が携帯電話のカメラ機能を使ってPら及び乙の動向を録画し始めた。そのまま捜索を実施すると、逮捕され、捜索を受けている乙の映像がSNS上にアップロードされて拡散するなどして、乙の名誉・プライバシーが回復困難なまでに害されるおそれがある。逮捕した場所で直ちに捜索を実施することが適当でなかったといえる。

イ.Pらは、警察車両を停めていた駐車場まで乙を連れて行った。上記通行人らがPらに付いてくることはなく、乙は、同駐車場に着いたときには落ち着きを取り戻した。同駐車場には誰もいなかった。これらの事情からすれば、同駐車場が捜索に適当な最寄りの場所といえ、そこから約1km離れたJ交番まで連行する必要はなかったともみえる。しかし、乙は、路上での捜索を中止したことから一度は落ち着きを取り戻しているものの、捜索を再開しようとすれば、再び抵抗し、暴れて叫びだす可能性は否定できない。同路上から同駐車場までの距離はわずか約50mであり、同路上は人通りが多い繁華街に位置し、周囲に複数の飲食店があったことから、乙が大声をあげれば、再び通行人らが集まってくる可能性が高い。同駐車場は、捜索に適当な最寄りの場所とはいえない。
 また、乙は、素直に警察車両に乗り込み、車内で抵抗する素振りを見せなかったから、車内で捜索をすることも考えられなくはないが、捜索を再開しようとすれば、再び抵抗し、暴れる可能性は否定できず、車内は狭く、乙が激しく暴れるのを制圧等する際に乙が負傷するなど、乙の身体の安全を確保できない可能性がある。車内においても、捜索を実施することは適当でなかったといえる。
 J交番は同駐車場から最も近い警察施設で、同駐車場から約1km、移動時間にして10分程度しか離れておらず、同交番に到着して捜索を実施するまでに、逮捕から20分程度しか経過していない。下線部③の捜索は、できる限り速やかに乙を適当な最寄りの場所まで連行した上で行われたといえる。
 以上から、「逮捕の現場」における捜索と同視できる。

(2)逮捕から捜索までは20分程度で時間的接着性があり、「逮捕する場合」に当たる。

(3)前記1(3)のとおり、本件住居侵入・窃盗事件は軽微でなく、類似事件が連続発生しており検挙の必要性が高く、防犯カメラの映像から携帯電話が犯行に用いられた蓋然性が高い。加えて、携帯電話は飲食店を出入りする際も着衣のポケット等に入れて所持するのが通常であり、Pが乙の着衣内に携帯電話が存在すると考えたことに合理性がある。「必要があるとき」(同項柱書)に当たる。

(4)よって、下線部③の行為は、適法である。

第2.設問2

1.理由1の当否

(1)証拠1は、証明力を争うための証拠(328条)として許容されるか。
 328条の趣旨は、自己矛盾供述の存在を立証することにより、公判廷供述の信用性の減殺を図ることを許容するとともに、自己矛盾供述の存在の立証については、厳格な証明を要するとする点にある(東住吉事件判例参照)。すなわち、同条は、非伝聞の場合を例示した注意規定である。したがって、同条により許容される証拠は、信用性を争う供述をした者のそれと矛盾する内容の供述が、同人の供述書、刑訴法の要件を満たす供述録取書面、同人の供述を聞いたとする者の公判期日の供述又はこれらと同視し得る証拠の中に現れている部分に限られる(東住吉事件判例参照)。
 証拠1は、甲がV方に侵入して盗みをしたか、犯行を計画したかという点で、丙証言と矛盾する内容の供述者の署名押印のある供述録取書であるが、その供述者は乙であり、丙ではない。328条により許容される証拠に当たらない。

(2)よって、理由1は、正当である。

2.理由2の当否

(1)証拠2は、公判前整理手続において証拠請求されていないから、「やむを得ない事由」がなければ証拠請求できない(316条の32第1項)。
 弾劾証拠については、公判前整理手続の時点においては、いまだ弾劾の対象となる公判供述が存在しない以上、328条の要件該当性を判断することはできない。したがって、その取調べ請求を当事者に要求することは相当ではないと認められるから、「やむを得ない事由」がある。もっとも、その場合であっても、公判前整理手続の趣旨に反することのないよう、証拠としての必要性(規則189条の2参照)については、慎重に判断すべきである。公判前整理手続終了後に請求された弾劾証拠の必要性を判断するに当たっては、その供述者の立場、供述の重要性、弾劾事項の範囲、供述の矛盾の程度、変遷の経緯、矛盾点に対する供述者の説明の程度等を考慮すべきである(以上につき、福井強盗致傷事件参照)。

(2)そこで、証拠としての必要性を検討する。
 確かに、公判前整理手続において、既に証拠2及び証拠3がTに開示されていた。証拠3の取調べ請求に対し、Tが不同意としたため、丙の証人尋問が実施されることになったのであるから、Tにおいて、丙が公判において証拠3と同旨の供述をすることは当然に想定できた。第2回公判期日における丙の証人尋問において、Tは、証拠2の内容やその作成過程に関する質問を繰り返し行った。そうである以上、もはや改めて証拠2を書証として取り調べる必要性はないともみえる。
 しかし、手続は分離されているものの、丙は共犯者として公判請求されており、丙証言は、甲が犯行を計画した事実、V方侵入窃盗の実行にも参加した事実を内容とするもので、甲の犯罪事実を直接基礎付ける重要な証拠である。証拠2は、上記各事実を明確に否定する内容で、丙証言の中核部分について全く逆の認定を導くものである。丙は、「そのような供述をした記憶はない。覚えていない。」などと、証拠2に係る供述の存在そのものを否定する証言に終始し、両者の矛盾がどのようにして生じたかについての説明を全くしていない。証人尋問では十分な信用性の吟味のための材料が顕出されたとはいえないから、証拠2を取り調べた上で、上記各事実の存否について、公判廷における丙証言の信用性を検討する必要がある。証拠2を取り調べることで、公判廷において丙が存在を否定した供述が存在することが明らかとなり、一般的な丙の記憶の正確性ないし供述態度の真摯性を疑わせるという意味もある。
 以上から、証拠としての必要がある。

(3)よって、証拠2は、公判前整理手続において証拠調べ請求がされていない証拠ではあるが、公判期日において証拠調べ請求をすることができない証拠とはいえないから、その点において理由2は正当でない。

以上

 

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